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輝く星に伸ばす手を。  作者: しっちぃ


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ほぐれてく。

「いいよ、でも急にどうしたの?」

「いや、今日疲れてるなら、ゆっくり休んでほしいなって」

「そう?ありがとね」


 有里紗ちゃんの歯切れの悪い言葉に、違和感が湧き上がる。どうしたんだろう。そんなに、恥ずかしそうに言っちゃって。

 もやもやした気持ちが、また頭に浮かぶ。考えるのは向いてないけど、どうしても考えたくて仕方がなくなる。だって、……好きなんだもん、考えるだけでドキドキして、ふんわりと甘いような。スキップでもしたくなっちゃうくらい、足元が浮つく感じ。ずっと、様子が変って言われるのも、このせいなのかな。


「もー、先輩?早く支度して寝ましょうよ」

「うん、わかったよ、じゃあ先に有里紗ちゃんやっていいよ」

「あ、じゃあお先失礼しますね?」


 重い脚を上げて、その勢いで身を起こす。このままだと、眠気に身を任せてしまいそう。有里紗ちゃんの立てる音を耳の端にとらえながら、スマホの未読通知を端から読んでいく。りんりん学校ももうすぐだし、文化祭の準備もうちが関わってない間にだって進んでる。風を切って走ってる間に過ぎている時間に置いてかれないようにするだけで精一杯。うちのほうが、いっぱい走ってるのに、なんだか不思議な感じ。

 

「先輩、洗面台空きましたよ?」

「ありがと、うちのベッド座ってていいから、ちょっと待っててね?」

「わかりましたよ、今日は、志乃先輩からしてくれませんか?」

「うん、わかったよ」


 ちょうど全部通知を追っかけたところで、ベッドの間にあるローテーブルにスマホを置く。洗面台に向かって歯磨きをしてる間も、やっぱりどうしたって有里紗ちゃんでいっぱいになる。……どうしたんだろう、まだ、わかんないや。恋人同士になってからの有里紗ちゃんは、ずっと何か隠してるみたいにしてるのは、何でだろうって。

 不自然にならないように切り上げて、うがいも済ませてからベッドに戻る。


「じゃあ、お願いしますね?」

「わかった、任せて?」


 もううつ伏せに寝転がって、マッサージされるのを待っている有里紗ちゃん。そういう無防備なとこ見ると、あの時みたいなよこしまな気持ちが、混じってしまいそう。うちが、初めて心の中にあった想いに気づいたときと、おんなじなんだ。

 少し張りのある脚を、丁寧に揉んでいく。筋肉の柔らかい感触と、ほうっとついた息の音に、なんだかほっとする。


「どう?気持ちいい?」

「はい、志乃先輩、こういうの上手いんですねぇ……」

「へへへっ、うちって体ちっちゃいから無理しすぎってコーチに言われるんだよね、それで怪我しないようにってよくやっててもらってたんだ」


 背が高ければ高いほど有利な短距離走の世界で、人よりちっちゃいうちは人よりも足をがむしゃらに動かして、ようやく人並みになる。そういうとこで、気がついたら無理してるんだろうな。加代先生が気にかけてくれるのも、きっとそういうせい。……走ることしか頭にないのに、壊れやすくなってるんだるから。

 

「先輩、走るとき、なんか体全部使って思いっきり突っ込んでますもんね」

「えー?そうかなぁ……」

「そうですよ、志乃先輩が走ってるとこ、すっごくかっこいいんですから」


 そう言われると、照れちゃうな。大好きな人に、好きなものを認めてもらえるなんて。ほっぺたが緩むの、もう止められないや。


「ありがと、有里紗ちゃん大好きっ」

「もう、志乃先輩ってば……っ」


 足先から体の隅々まで、有里紗ちゃんの身体をほぐしていって、いつの間にか、心もほぐれてく。今は、なんだか愛しい。なんだか、二人で、一つになれちゃいそうな感じで、それでもいいって思えちゃうような。

 

「終わったよー、どうだった?」

「なんかすっごく体が軽くなったみたいっすよ、ありがとうございます、先輩」

「いいのいいの、じゃあ今度は有里紗ちゃんからお願いね?」

「分かりましたよ、……いっぱい、お返ししますから」


 起き上がるのを待ってから、今度はうちがベッドにうつ伏せになる。柔らかい手がどこに触れるか考えると、鼓動が、自然と早くなっていく。


「お返しって、そんな大げさにしなくてもいいのに」

「いいじゃないっすか、……それじゃ、行きますよ」


 自然なことなのに、どうしてこんなにドキドキするんだろう。その答えにたどり着くには、時間も、頭も足りそうにないや。

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