だいすきだから。
「それじゃ、いっただっきまーす!」
「いただきますっ、……もう、さすがにもうちょっと静かにしてくださいね?」
「ごめんごめん、ごはん食べると元気出るでしょ?」
有里紗ちゃんといるだけで、元気になれるような気がする。なんでかな?って考えるには、今はお腹が空きすぎてる。
「それはわかりますけど、まだ食べてないじゃないですか……」
「ははっ、そうだったね、早く食べよっ」
「そ、そうですね」
もう、我慢できないや。ほとんどがっつくようにお肉を食べていく。いつも食べるのは早いほうではあるけれど、有里紗ちゃんの箸が全然動かないのが気になる。
喉が詰まりかけて、お水を飲んだタイミングで、ちょこっと聞いてみる。食欲がないわけじゃないはずなんだけど、……苦手なもの食べるの、まだためらってるのかな。
「あれ?食べないの?」
「うぅ……、やっぱり苦手なもの食べるのってためらいませんか?」
「わかるなぁそれ、うちも納豆がある時は迷うからなぁ、最悪別のにするけど」
「でしょ?今そんな感じなんですってぇ……」
お腹はぺこぺこなのに、お皿の上の生姜焼きとにらめっこしてる。なんだか、えさが目の前にあるのに待てをされてるわんこみたい。
「食べないなら、うちが食べちゃおって思ってたんだけどなぁー」
「や、やめてくださいよ!?」
「冗談だよ、早くしないと冷めちゃうよ?」
「わ、わかってますよ、それくらい」
有里紗ちゃんが思い切ったように目をつぶって、箸につまんだ生姜焼きを口に入れる有里紗ちゃん。ぷるぷる震えてるの、かわいいな。うちのほうが先輩なのを忘れちゃいそうになるくらい、普段はしっかりしてるのに。
しばらく口に含めて、我慢できなくなったようにご飯をほおばる。
「どう?大丈夫そう?」
「ちょこっとずつなら、大丈夫そうっす、……お腹空いてると、何だっておいしく思えるって言いますし」
「それならよかったね、これ食べられなかったらお腹空きすぎて倒れちゃうんじゃないかって思ったよー」
「もー、先輩ってば大げさなんですからー」
けらけらと笑う有里紗ちゃんに、つられてうちも笑顔になる。一緒にいるだけで、楽しくなれるなんて、なんだか嬉しいな、これだけ幸せを分かち合える人と一緒にいられて、『恋人』になれて。
「全然大げさじゃないよ、へとへとでご飯も食べてなくて明日起きてこなかったら泣いちゃうもん」
「そんなわけないじゃないですか、……そういえば、由輝先輩にちゃんと返事返したんですか?」
「ああっ、忘れてた!」
「相変わらず、志乃先輩はうっかり屋さんですね」
大事なこともついすっぽ抜けちゃうくらい、有里紗ちゃんのことばっかりで満たされる。屈託のない笑顔に、なぜだか頬を膨らませていた。
「有里紗ちゃんのことしか、考えられないせいだもん」
「し、……志乃先輩!?ななな何言ってるんですか!?」
さくらんぼみたいに真っ赤になったのを両手で隠す有里紗ちゃんの顔を見て、自分が何て言ったのか思い出す。ほっぺの奥が、焼かれたみたいに熱くなるのを抑えられない。……うち、すっごく恥ずかしいこと言っちゃったよ。きっと真っ赤になっちゃってる顔は、両手で隠せてるかな。
「ご、ごめん、何でもない……」
「……べ、別に怒ったわけじゃないですよ。……ただ、こんなとこで、こ、告白みたいなことされちゃうなんて……っ」
「うぅ……、やめてよ、うちまで恥ずかしくなっちゃうもん……っ」
ぽろっと零れた言葉は、紛れもない本当の気持ち。もう、ご飯も食べられないよ。きっと、うちのせいなんだろうな。大好きなのに、変な雰囲気になっちゃったのは。
「ホントにごめんね、うちが変なこと言っちゃったから」
「もう、志乃先輩は……、でも、う、嬉しかったです」
「えっ、ホントに!?」
思わず立ち上がって、ざわざわとしてた食堂が一気に静かになる。周りがみんな、うちのほうを見て、……さっきより、ずっと恥ずかしいよ。
何でもないよって軽く会釈して、席に戻る。ざわめきも、また元みたいに溢れてくる。
「むぅ……、志乃先輩ってばぁ……っ」
「本当にごめんって、有里紗ちゃん……」
一瞬で舞い上がって、落ち込んで、……こんなにテンションなんて、変わるものじゃないのに。
好きすぎて、他のこともう何もできなくなっちゃいそう。




