ふたりのえがお。
いつもは早めにご飯を食べてるせいか、普段より混んでいる食堂にちょっとだけ身が引ける。でも、お腹の中が早く食べ物が欲しいってうなってる。
「先にご飯食べちゃえばよかったかなぁ……」
「あれは先輩だってお腹空いてないって言ってたじゃないですかぁ……」
「そうだけどさ、こんなに混んでるなんて思わなかったもん……」
変な雰囲気になっちゃったのを治してたのもあるけど、こんなに時間が取られちゃうなんて思わなかった。でも、お互いの気持ちが伝わり合って、幸せな時間だったような気がする。
「うぅ~……、お腹空いたってわかるとすぐに来ちゃうよね……」
「その気持ちわかるっす……、あたしももう限界……」
ようやく食券売り場まで着いて、ようやくっていう感じで一番ボリュームのありそうなのを半分無意識で選ぶ。それを有里紗ちゃんも選んでて、見たメニューを見て首を傾げる。
「有里紗ちゃん、それ生姜焼きみたいなんだけど大丈夫?」
「えぇ!?うっそ……、で、でもお腹空いたら何でも大体おいしいって言いますし……」
確か、生姜はあんまり好きじゃなかったんだよね。まだ半年しかなんかものすごく慌ててるのがかわいいな、なんて、病気みたいだな。
「そんなに生姜駄目なんだ、ホントに駄目ならお菓子あるけど」
「いえ、大丈夫っすよ、基本肉ですし、そもそもそんなんで避けてたら死にそうっす……」
「あはは、お腹空いちゃうともうしょうがないよねぇ」
「笑いごとじゃないっすよぉ……」
背に腹は代えられない、と言っているようなやたらと真剣な顔で、食券を睨むように見つめる。悩んで頭を抱えるなんて、初めて見たな。……そんなことより、さっき部屋で思いっきり鳴ったお腹が、また悲鳴を上げだして。
「ご飯大盛りにすればなんとか大丈夫かもしれないっすねぇ……」
「最初から大盛りになってるよ、それ」
「そ、それもそうでしたね……」
「有里紗ちゃんもう頭働かなくなっちゃってるの?なら、急いでご飯食べよっか」
食券を渡して、ゆっくりと横に進みながら、漂ってくる匂いでくらくらと来ちゃう。いつも食べてるのより、何倍もおいしそうに感じてしまう。
「うぅ……もう限界……」
「もうそろそろなんですから我慢してくださいよ……」
「わかってるって、でも、意識飛びそう……」
「ちょっと、さすがに理性飛ばしたら駄目っすよ!?」
慌てたように体をゆするのを、笑って両手を伸ばして止める。さすがに、お腹ぺこぺこだけど、そこまではしちゃいけないことくらいはわかってる。
「さすがにしないよ!?ていうかもうご飯来ちゃったよ?」
「そ、そうっすね、後ろつっかえちゃったら迷惑ですし、早く行きますよ?」
「わ、わかってるよ、それくらい、行こ?」
くすぐったくて、時間を忘れちゃいそうなくらい楽しくて、ずっと、続くんじゃないかって思えるくらい、有里紗ちゃんといるのは、楽しい。
自然と頬が緩んで、笑いあって、……こんな風に、いつまでも続いたらいいのに。




