ふたりのじかん。
有里紗ちゃんの息が、だんだんゆったりしてきて、このまま寝ちゃいそうなくらい。
「まだ寝ちゃだめだよ、これからご飯なんだから」
「もう、寝てるわけないっすよ……」
ゆったりしたけど、気持ちは落ち着いたみたい。照れ屋さんだからあんまり伝えられなくて、溜まっちゃったのが爆発しちゃったんだよね。それの気持ちは、痛いくらいわかる。
「そろそろ落ち着いた?」
「あ、はい、……ご飯、食べにいきましょっか」
ようやく上がった有里紗ちゃんの顔は、目の周りが赤くなっていて、いっぱい泣いちゃったんだなって、かわいく思える。
「泣き腫らしてるの、収まってからね?目のあたり、すっごく赤くなってるよ?」
「うわぁっ、……ちょっと待っててください、頑張って治しますから!!」
ドタドタと大きな足音を立てて、クローゼットまで駆けてくのを呆然と眺める、慌ててタオルをひっつかむと、洗面台で濡らして、ごしごしと目元を拭う。
「もう、そんなに焦らなくていいのに」
「だって、先輩もお腹空いたでしょ!?」
「うちはそんなでもないけど……、有里紗ちゃんのほうが限界なんだね」
「うぅ……、何故バレたんすか……?」
そんなに急いでるの、うちを待たせたくないにしてはあまりにも焦ってて、偶然鳴ったお腹の音に、思わず笑ってしまう。
「もー、そんな音出してたら誰だってわかるよーっ」
「い、今のは関係ないじゃないですかっ!」
「へへへっ、冗談冗談、やっと笑ってくれたね、有里紗ちゃん」
「あんまり、からかわないでくださいよ、もう……っ」
やっぱり、笑ってる有里紗ちゃんが一番好き。自然と笑いあって、胸の奥があったかくなる。
「もう、大丈夫ですよ、志乃先輩だってお腹空いたでしょ?」
「えー?まだ大丈夫だよ、あっ……」
もうちょっと待つよ、なんて言おうとして、うちのお腹も大きくぐうぅっと鳴る。途端に有里紗ちゃんが吹き出して、必死で笑うのをこらえようとしてる。
「先輩だってお腹空いちゃってるじゃないですか、もう……っ、ふふっ」
「笑わないでよぉっ、有里紗ちゃんのこと泣かせたって言われたくなかったんだもんっ!」
「今笑いすぎて涙出てきちゃったからそれも意味無いっすよ、もう!」
「えーっ!?ひっどーい!」
でも、なんだか楽しいな。恋人になる前と、全然変わらないようなやり取り。うちと有里紗ちゃんは、やっぱりこういう感じなんだなって。騒がしいのに落ち着くし、嬉しい、なんて。
「もう、そんなこと言う元気あるならご飯行っちゃおっ」
「ああ、もう待ってくださいよー!」
財布を取って、廊下をダッシュする、もちろん軽くだけど、それでも有里紗ちゃんは慌てたように追いかけてくるのを見て、足を止める。
ただでさえあったかいのに、もっと胸があったかくなる。外は暑いのに、このあったかさは心地いい。ようやく追いついて、抱きつくようにうちの体にしがみつく。
「もう、置いてくわけないでしょ?」
「それでも心配しますよ、先輩ってばいろんなこと忘れるし、プリントとか」
「さすがに有里紗ちゃんのことは忘れないよっ!」
恋人なんだから、って言おうとして、口が開かなくなる。やっぱり、まだ恥ずかしいな。進みたいけど、このままでいたい。恋人同士っていうのを意識しちゃうとドキドキしておかしくなりそうなのに、それでも心のどこかが心地いいって思ってる。
「ご飯食べるんじゃなかったんですか、志乃先輩?」
「うん、行くってばっ!」
難しいこと、考えられないよ、だけど、……二人でこうやって、ずっと嬉しいって気持ちで満たせたらいいな。




