特別編:ファーストコンタクト(寄稿作品)
今回はゆきのののやべーやつこと木綿稀さんに頂いたものです。
有里紗ちゃんかわいい。
………………うう、緊張する…………。
私―――長木屋 有里紗はドアの前で立ち尽くしていた。
…………ついさっき寮監さんから部屋の鍵を受け取って、ここに来たはいいけど………………。なんとこの部屋には先に先輩が住んでて、相部屋になると言われた。………………い、いや、相部屋なのは別に嫌じゃないし、同性愛バンザーイな私からしたらむしろ歓迎………………って、私は何考えてるんだろ………………/////
………………中学の時も桜花だったからもちろんルームメイトはいたけど、何考えてるかわかんないような奴で、しかも高校は別のとこに行ったし。あいつの場合は同級生だったから別に気にはしなかったけど、今回はよりにもよって上級生と相部屋かよ………………。い、いい人だといいな………………。
何回か深呼吸して、思い切ってドアをノックする。………………けど、中からは返事がない。………………い、いないのかな?そっとノブを回すと、鍵はかかってなくて………………思い切ってドアを押すと、私の目に飛び込んできたのは。
「な、なに、これ………………」
部屋一面に散乱する、プリントや洋服、小物。………………要するに、色んなものが散らかってるわけで。
「きゃあっ!?………………だ、誰?」
部屋の中央でプリントをかき分けていた人が、私の方を見て悲鳴を上げる。
「………………あ、あのっ、あたし………………今日からこの部屋で暮らさせてもらう、長木屋って言います!!…………も、もしかして…………お部屋間違えてましたか!?」
慌ててドアについている番号と、鍵の番号を照らし合わせる。………………うん、合ってる。ってことは…………
「あ、あなたが新しい人…………?ごめん驚かせちゃって。…………あ、うちは二年の犬飼 志乃って言います。」
先輩は床にへたりこんだまま、ぺこりと頭を下げる。その後、慌てて周りを片付け始める。
「ご、ごめんね散らかってて……………………ちょっと探し物してて………………」
………………た、ただの探し物でこんなに散らかるのかな?
「あ、そうだっ。ごめん、探し物手伝ってくれない?」
目の前で手を合わせてお願いしてくる。…………ま、まあ、これから一緒に生活するんだし………………仲良くなっておいて損は無いか。
「わかりました、…………で、何を探してるんですか?」
背負っていたリュックを下ろして、一緒に床に手をつく。
「う、うん………………ノートと教科書なんどけど…………もう使わないと思ってその辺にぽいって置いといたんだけど、まだ使うって言われて…………」
ぐすんと涙ぐむ先輩。………………だ、大丈夫かなこの人。
「んーとね………………背表紙が黒で、数学の問題集なの。ノートは緑の。」
「なるほど、わかりましたっ。」
私もプリントの山をかき分ける。………………うーん、見当たらないな。
「こっちには無さそうですね。」
そう言って振り返ると、先輩は机の下に潜り込んでてお尻だけが揺れていた。
(……………………これ、ほんとに見つかるのかなぁ?)
その時、ふと手をついたとこに違和感を覚えてそっちを見ると…………
「えーと、これですかね?」
ヒョイっと持ち上げると、こっちを向いた先輩の顔がぱぁっと明るくなる。
「そう、それ!!ありがとっ♪」
そしていきなり抱きしめられる。私の発展途上な胸に、モニュっとしたものが押し付けられる。
「わっ!?………………ちょ、ちょっと、せんぱ…………」
「あっ、ご、ごめんね…………」
慌てて先輩が離れると、私はやっと一息つく。………………はぁ、び、びっくりした……………………。
「あ、そうだっ………………ごめんね、あなたのスペースまで散らかしちゃって。今片付けるからっ。」
そう言って散らかったプリント達を、適当にまとめては机の引き出しとかに押し込んでいく。………………あ、これいつかまた「〇〇がないよ~…………」って大騒ぎになる奴だ………………。
「あ、そっちのベッド使って。………………そっちは前の人が綺麗にしてったし、シーツとかも新しいのにしてもらったから。」
「あ、失礼します………………。」
指さされた方のベッドにリュックを置くと、とりあえず身の回りのものを並べ始める。………………んーと、コールドスプレーに、痛み止めにっと………………
その時、視線を感じて振り向くと、私のことをしげしげと眺める先輩の姿。
「………………あの、何か御用ですか?」
「………………いや、すらっとしてて綺麗な足だなって。………………あ、ごめん。別にいやらしい意味はないの。ただ…………入ってる部活の影響で人の足を見る癖がついちゃって。」
「………………一体何部なんですか。」
「ふふーん、当ててみて?」
「えぇ………………うーんと………………」
………………いきなり無茶なこと言うなぁこの先輩。…………足、脚…………
「………………水泳部?」
「ぶぶーっ、残念でしたっ。ヒントはね、こう、風になるっていうか…………。」
そのワードにピンとくる。
「…………陸上、それも短距離っすね?」
「わわっ、すごーい!!あったり~。」
先輩はぱちぱちと拍手する。
「あ、ちなみに私は長距離っす。………………何て言うか、…………短距離ってあっという間に終わっちゃって物足りなくないですか?」
「ええっ!?あなた陸上部だったのっ!?………………長距離かー、私からしたらずっと走ってるの疲れちゃうから短距離が好きなの。…………それにね、長い距離走ってるとお腹痛くなってきやすくて………………」
「あっそれわかりますっ。でもそれを乗り越えるのが楽しいんですよっ。」
思わず身を乗り出す。………………まさか、同じ部屋の先輩と陸上の話ができるなんて。
急に身を乗り出したあたしに先輩は少しぽかんとしてたけど、すぐにまた笑いだす。
「ふふっ、あなたも走るの好きなんだね。」
「もちろんです。………………こう、景色が少しずつ変わってくのが好きで、いつまででも何かを追っかけてたいっす。」
手を伸ばして何かを掴む真似をすると、先輩がその手を握る。
「あっ、そういえばまだちゃんとした自己紹介してなかったね。私は犬飼 志乃。トマト大嫌い焼肉大好きな今度二年生。よろしくね。」
「あ、あたしは………………長木屋 有里紗っていいます。…………嫌いなものは生姜と納豆、………………ざ、座右の銘は『焼肉定食』っす!!」
思い切って答えると、先輩は笑ってくれた。
「や、焼肉定食っ………………おいしいよねお肉っ………………」
………………むー、そこまで笑われるとなんか腹立つなぁ………………
「と、とにかくよろしくね。有里紗ちゃんっ。」
「………………こちらこそ、志乃先輩。」
これが、私たちのスタート。




