あなたのひかり。
まだ夜というより夕方に近い時間だからか、ほとんど貸し切りの大浴場で、一緒に体を洗う。
「はぁ~、シャワー気持ちい~っ」
「いっぱい汗かいたっすもんねぇ~」
ぬるくしたシャワーは、汗でべたべたになった体にはちょうどいい。疲れてたからだが、心ごと充電されたみたいに元気になる。
備え付けられたシャンプーで、髪を洗う。リンスも入ってるから、わざわざ二回も洗わなくていいのはうれしい。
「そういえば先輩、ずっと髪伸ばしてるっすね」
春までは肩にもうなじがギリギリで隠れるくらいになってたけど、今はたまに肩甲骨のあたりにたまに毛先が当たるくらい。高校に入ったときから伸ばしてる後ろ髪は、意外と伸びないものだ。
「インターハイに出るって願掛けなんだ、今年ももうちょっとのとこで駄目だったし」
「そうだったっすねぇ……」
上位六人までがインターハイに出られる地区大会の決勝で、うちは七位だった。六位までの差は、ほんのあとほんのちょっと、まばたきするよりも短い時間だったのに。
新人戦には全国大会はないから、高校で全国に出るチャンスはあと来年の一回だけ。来年は出るって意気込みで、今までの練習が全部つくようにって髪を伸ばしてるとこ。
「でも、このまま伸ばしてたら、来年には地面に着いちゃいそうかな」
「さすがにそれはないっすよーっ」
「へへ、そうだよね」
自然に笑い声が漏れて、ぱあって周りの空気も明るくなる。有里紗ちゃんといる時間は、楽しくて落ち着く。
泡と一緒に、思い出してしまった嫌なこともシャワーで流して、今度は体を洗う。背中とかは、汗をそのままにしてると吹き出物が出ちゃうから丁寧に。
足まで丁寧に洗って、ついでに軽くマッサージもしておく。明日も練習があるし、筋肉痛になんてなったら大変だ。
隣の有里紗ちゃんもおんなじことをしていて、……なんていうか、きれいだな。
生れたままみたいな白さを残した、よく締まった体に、スラリと伸びた、健康的に焼けた手足も綺麗で、うちよりも年下のはずなのに頭半分くらい背が高いし、きっと胸も、うちよりおっきくて。
「何見てるんすか? 先輩」
そんなことしてると、有里紗ちゃんに気付かれてしまったみたいで、頭のなかで、とうすればいいか慌てる。
「え、えと……、有里紗ちゃんも、足パンパンになっちゃってる?」
「まあ、最近練習キツイっすもん」
「そうだよねぇ」
ふう、何とかごまかせたかな、有里紗ちゃんの体に見とれかけてたこと。なぜか、ちょっと心臓が高鳴ってることも。
「お風呂上がったら、マッサージしてあげよっか?」
「ええ!?いいんすか!?……じゃあ、……お願いするっす、先輩」
「へへ、ありがとー」
泡を落とすタイミングも、なぜか二人でぴったりになっていて、また、胸の奥が痛む。
体がほぐれるまでお風呂に浸かる間、とりとめのないことを二人で話す。
「そういえば秋の駅伝でメンバー募集してるんすよねー、先輩もやりません?」
「えー?秋だとこっちも新人戦あるし、それにうちトラック一周超えるとバテちゃうんだよね」
「冗談っすよ先輩、そっちで頑張ってくださいね?」
「もー、わかってるって、有里紗ちゃんも、ね?」
そんな声が、まだ誰も来ない浴室に響く。横にいる有里紗ちゃんと、体が触れそうで触れない距離。
有里紗ちゃんが体をこっちに向けてくれるせいで、顔も近くて。
こんなに早くのぼせるわけないのに、思いっきり走った後よりも熱くなって。
この気持ちは、なんだろう。答えなんて、まだ頭の中に入っていない。