こころのなか。
「ふぅ~、やっぱり汗かいたらお風呂っすねぇ~」
「そうだねぇ~、ちょこっとぬるめで気持ちいいよぉ~」
二人してふぬけた声がこぼれる。体中の疲れがほぐれてくような、そんなゆったりと流れてきそうな時間。でも、ふと隣を見ると、私も有里紗ちゃんも、顔が赤くなってしょうがなくなる。
いくら外で走ってても、背中とかお腹とか、服で隠れるとこは真っ白だし、透き通ったお湯はそんなのを惜しげもなく晒させてくれる。なんだか、ゾクゾクしちゃうな、好きな人の、そういうところ見ちゃうと。
まじまじと見てると、有里紗ちゃんと目が合って、思わず目をそらしてしまう。視界の端に見えた有里紗ちゃんのちょっと焼けた顔も、鏡でも見てるみたいに同じ動きをしてる。
「……なんか、ごめんね?」
「べ、別に、いいっすよ……」
ふらふらになった言葉の筋も、一緒になっちゃってる。本当に似た者同士だな、うちと有里紗ちゃんは。でも、全部が全部一緒ってわけじゃなくて、それも、なんか心がくすぐったくなる。
このまま二人きりだと、なんか変になっちゃいそう。そんなときに、ふと隣に人影が写る。
「あら、長木屋さんじゃない」
「あ、雪乃さん」
誰かわからないけど、見知った顔なんだろうな、うちどころか、有里紗ちゃんよりも背が高くて、むっちりしてる人。でも、どこかでその面影は見たことあるような。
「有里紗ちゃん、知ってる人?」
「ああ、クラスメイトの雪乃さんですよ、この前校内新聞にもインタビュー出てたじゃないですか」
「ああっ、そういえば!」
バレー部のエースとして活躍してたからって、インタビュー受けてたんだったな。体もがっちりしてるし、脚も太いけど、筋肉でよく締まってて綺麗だなって思う。何ていうか、ものすごくクールな人なんだろうなって、見た目でなんとなくわかる。
「こちらの人は?」
「同じ部屋の犬飼志乃先輩っすよ、今高二なんでしたよね?」
「もう、さすがに覚えてるよねっ!?」
「はは、冗談っすよぉ……」
普段の有里紗ちゃんも、うちが見てるときとあんまり変わらないんだ。なんだか、くすぐったいな、普段知らないとこ知っちゃうと。
「あの、その、よろしく、お願いします……っ」
「いいよいいよ、雪乃ちゃん」
「ゆ、ゆきのちゃ……っ、」
なんだか、それだけで真っ赤になってるの、イメージには合わないような気がする。大きな手で、必死で顔を隠してるの、なんかかわいいな。
そんなことを思ってたら、不意にお湯の中で手を繋がれる。こんなことするのは有里紗ちゃんしかいないけど、どうしてなのか想像できない。だって、あんなに照れ屋さんで、恋人って関係になっても、顔を真っ赤にして、まともにいられてないのに。
「ごめんね、ついからかっちゃった」
「べ、別にいいですよ、……それにしても、長木屋さんと、仲いいですね」
「へへへ~、似た者同士だから、けっこう気があるんだ~っ」
「そうみたい、……です、ね」
ちょっとだけ、寂しそうな顔をする雪乃ちゃん、もしかして、友達より先に行っちゃってるの、気づかれちゃったのかな、握ってくる有里紗ちゃんの手も、もっときつくなる。
「そろそろ出るから、またね」
「おやすみなさい、雪乃さん」
「そうですね、失礼しました、おやすみなさい」
立ち上がった途端に、有里紗ちゃんが手を離す。何だかんだいって、恥ずかしいのは変わらないんだな。のぼせるような時間でもないのに、まだ、顔が赤いままだし。
どうして、あんなことしたんだろう。本人に直接訊いたって教えてくれそうになくて、必死で頭を回す。
もしかして、嫉妬しちゃったとか……?でも、あんな明るい有里紗ちゃんがそんなこと、するのかなぁ……。
「どうしたんすか、先輩」
「ううん、ちょっと考え事」
その声も、なんだかトゲがあるみたいで、……教えてよ、手を握ってた意味を。もしかしたら、今、有里紗ちゃんが不機嫌な理由も、わかるかもしれないから。
今回は3期キャラの雪乃さんに来ていただきました。
うちが作ったから多少の無茶と3期以前の時間軸だからまだ本編の前というのはご了承願いたい。