むねのたかなり。
「やっぱり、めちゃくちゃ疲れたねぇ……」
「そうっすね、あたし先にお風呂入りたいですよ……」
タオルを絞ったら汗が染みだしそうなくらい汗だくになって、お腹が空かないほど疲れちゃった。
「先お風呂にしちゃおっか、お腹空かないくらい、疲れたでしょ?」
「そうっすね、なんだか不思議ですね」
気力だけで部屋にたどり着いて、お風呂道具と着替えを取る。まだ人の少ない浴場の、隣り合わせに脱衣籠とロッカーがある所に並べて入れる。
着替えるの、なんかドキドキしちゃうな。今までは、そんなことなんて全然なかったのに。有里紗ちゃんと『恋人同士』になったことしか、変わらないのに。
「脚パンパンだね、今日はゆっくり浸かろ?」
「そう言って、いっつも寝ちゃうじゃないですか、起こすの大変なんですよ、もう……」
「大丈夫だって、うちだっていつも寝てるわけじゃないんだよ!?」
「でも聞きましたよ?授業中いっつも寝てるって」
「いっつもじゃないよぉ!」
わいわいとした話も、前と同じみたい。
……でも、もう、今までとは違うんだよね、うちと有里紗ちゃんの関係は。
「もう、そんなん言ってないでお風呂入ろ?」
「そうっすね、汗だくですし」
二人でお風呂場に入って、隣り合わせでシャワーを浴びる。今日はいっぱい汗をかいたから、念入りに洗わなきゃ。
そういえば、『特別な気持ち』を意識しだしたのは、お風呂のときだったはずで、……相変わらず、綺麗な体に見とれてしまう。
「やっぱり、脚きれいだよね、有里紗ちゃん」
「そりゃまあ、鍛えてますから。……それなら、志乃先輩だって」
「うちもトレーニングしてるからね、でも、ありがと」
好きな人から、そう言ってくれるのは嬉しい。有里紗ちゃんが、お世辞が好きじゃない人だと分かってるから、もっと。
もう、……恥ずかしいよ。そんな風にまじまじと見られたら。でも、心が近づいてくのは、すっごく嬉しい。
「有里紗ちゃん、髪長いからお手入れ大変でしょ?……うちが、洗おっか?」
「いいんですか!?そ、その、お願いします……っ」
「ありがと、それじゃあいくよ?」
有里紗ちゃんがいつも使ってるシャンプーは、うちのと一緒なのに、なんでこんなに髪質は違うんだろうな、そんなことを思うくらいにきれいで。
汗のむわんとしたにおいとは別の、くらくらするような甘い香りがする。ああ、これが有里紗ちゃんの匂いなんだ。この前一緒に寝たときに感じた、あの匂いと一緒だ。
「……先輩?」
「ああ、ごめんごめん!今やるから!」
慌てて、でもできるだけ丁寧に、有里紗ちゃんの髪を洗う。
……濡れてるのに、するすると指が通って、ちゃんとお手入れされてるんだなって。そのつややかな黒髪に、見惚れちゃいそうになる。うちのは、ちょっと茶色がかってて、ちょっとぼさぼさになっちゃうのに。
「有里紗ちゃんの髪、きれいだね、……ちょっと、羨ましいくらい」
「もう、志乃先輩だってちゃんと手入れすればきれいになりますよ?普段タオルで拭くだけじゃないですか」
「いろいろやってるのは知ってたけど……そんなに変わるんだ」
「そうですよ?先輩だっていいシャンプー使ってるのにもったいないですよ」
そういうの、ちゃんと気にしてるんだ。自分の髪を洗うよりも丁寧に髪を洗う。まるで、宝物でも扱ってるみたいに。
「終わったから、流してもいい?」
「あっはい、リンスは自分でやるからいいっすよ、……ありがとうございます、志乃先輩」
「ううん、いいよ?」
そう言って、こっちを向く顔は照れくさく笑ってて。
そんな顔で笑わないでよ、……うちも、なんだか照れくさくなっちゃうから。