あまいきもち。
目覚ましのアラームの音に、夢から現実に引き戻される。
ちょっと狭いと思ったベッドの上には、有里紗ちゃんもいて。
……昨日の夜、ちゅーした後、そのまま一緒に寝ちゃったんだ。高鳴る胸を抑えて、軽く体を揺すぶる。
「有里紗ちゃん、起きて、もう朝だよ?」
アラームも鳴りっぱなしにしてるのに、起きる気配もない。……昨日、夜遅くまで起きてたもんね。うちも、まだちょっと眠いや。
それにしても、……有里紗ちゃんの寝顔は、やっぱりかわいい。二重の瞼に、すらりとした顔立ちだから、綺麗のほうが近いのに、無防備な姿と、緩みきった顔が、たまらなく好きで。……でも、その瞼は震えてる。
「んぅ……?、しの、せんぱい……?」
「おはよう、そっちも練習でしょ?」
「あ、はい……」
ほんのり、その顔が赤くなってる気がして、やっぱり、昨日のは、夢じゃなかったんだ。
くすり、と思わず笑顔がこぼれて、きゅうって胸の奥が熱くなるし、うちも、ちょっと照れくさいや。
「おはようございます、志乃先輩」
「おはよ、有里紗ちゃん」
いつもとおんなじような挨拶、違うのは、同じベッドにいることだけ。身を起こし合って、その相手も照れ笑い。
「とりあえず、ご飯食べよっか」
「そうっすね、これで明日は休みですよね?」
「うんっ、あ、そっちもなんだ」
激しい練習の日の後は、毎回休みを取られてる。コーチがみんな陸上をやっていたから、怪我の怖さも知ってるからなのかもしれない。実際、短距離部門のコーチである加代先生だって、怪我のせいで陸上をやめたって言っていたし。……でも、それだけ、今日の練習がきついってことなのは、げんなりする。
「そっちのメニュー何? 明日休みになるって事は相当なんでしょ?」
「うぅ……言ったら胃が重くなるんでやめときます……」
「そっか、じゃあとりあえずご飯食べよ?腹が減ってはなんとやらって言うし」
「戦じゃなくて、練習ですけどね」
くすくすと笑いあって、眠い目をこすりながら食堂に向かう。他の運動部の子たちでにぎわってるけど、普通にご飯を取ってからでも並んで席を取れるくらいには空いている。
二人で同じものを頼んでるのも、隣に座るのも一緒なのに、何故か、今は胸の奥がくすぐったくなる。有里紗ちゃんのことばかり考えてるのはおんなじなのに、それが全然苦しくなくなって、それどころか甘い。
有里紗ちゃんと、『恋人同士』になったからかな。昨日まで全然味がわからなかったご飯が、急にものすごくおいしくていつの間にかお皿の中は空っぽになっていた。隣を見ると、有里紗ちゃんも。
「今日はあっという間だったねぇ」
「そうっすね、早く着替えましょっか」
部屋に戻ってから、不意に沸いてしまう気持ち。
「ねえ、……本当にうちら、『恋人同士』になったのかな……?」
「そ、そうですね……」
ぽうっと、ほっぺを赤くする有里紗ちゃんが、たまらなくかわいくて。……もう、我慢しなくてもいい?有里紗ちゃんの体を、軽く抱いて。
「じゃあ、……試しても、いい?」
「……はい」
もう、これだけでわかってるみたいに、有里紗ちゃんがうつむく。
顔を軽く上げると、ちょうど目が合って。
……ちゅっ。
一瞬のことなのに、頭にはずっとその感触が残りそうなくらい、甘い。
「本当に、……なっちゃったんだね」
「そう、ですね」
そのまましばらく抱き合ったままになって、お互いの気持ちも温もりも感じあって。
それじゃ、そろそろ着替えないとね、って声で離すのが、ちょっと寂しいような気がした。