ありがとう。
一緒にいてもいいって言われても、有里紗ちゃんに許されても、まだ、心のもやもやは消えない。
大好きなのに、優しい子だって分かってるし……この言葉が、嘘でもお世辞でも何でもないのだって分かってるのに。
ごめんね、心はまだ、私のこと許してくれない。
「……志乃先輩」
「……何?」
おそるおそるほっぺに触れた、柔らかい感触、
そっちを向くと、オレンジの薄明りの中でも、有里紗ちゃんが俯いて、赤くなってるのがわかる。
そっか、……今、有里紗ちゃんが、ほっぺにちゅーしてくれたんだ。私まで、顔赤くなるのうつっちゃいそう。
「先輩は、……これであたしのこと、嫌いになりますか?」
「そんなことないよ、……有里紗ちゃんのこと、大好きだから」
「あたしも、おんなじです。……もう、何回も言わせないでください」
胸の奥が、苦しいくらい高く鳴る。自分からちゅーしたときよりもずっと、ドキドキする。
いくらうちがバカだって分かる。有里紗ちゃんが、私のこと好きでいてくれるって。
「有里紗ちゃん……私のこと、好き?」
「さっき、言ったじゃないですかぁ……」
あれ、……もしかして泣いちゃってる?だとしたら、うちがあまりにも鈍感で、自分の理屈に閉じこもってたせい。
「ごめんね、有里紗ちゃん」
「そんなの、別にいいっすよ……」
振り向いて、思い切り有里紗ちゃんの体を抱きしめる。頭半分くらい高いはずの頭は、今はちょうど同じ高さ。
「ねえ、……ちゅーしても、いい?」
「……嫌なわけ、ないじゃないですか……っ」
目を閉じたのも、緊張してるのも、あんまり顔なんて見えないのにわかる。あれだけ好きってわかったのに、ちゅーしていいって言われたのに、いざするとなると、心臓が飛び出そうになる。くちびるとくちびるでするのは、これが初めてだし、……その意味が、どういうのなのかも、分かってるから。
「それじゃあ、いくよ?」
「は、はい……っ」
有里紗ちゃんの肌から香る匂いに導かれて、ゆっくりと、顔を近づける。息遣いも、唾をのむ音も、はっきり聞こえて。
「ありがと、……大好きだよ、有里紗ちゃん」
……ちゅっ。
くちびる同士の重なる、柔らかい温もり。こんなにあったかくて、ドキドキするなんて聞いてないよ。一瞬で、体がアラームを鳴らす。
「ふぅ……、すっごく、ドキドキしちゃった……」
「あたしもです……」
でも、頭から溶けちゃいそうなくらい、ほっとする。有里紗ちゃんの『好き』って気持ちも、伝わってきたような気がして。……もう、友達同士って関係じゃないんだ。
「これで、『恋人同士』なのかな……」
「……そうですね、志乃先輩」
思わず抱き合う体は、柔らかくて優しい。今までだって、こうしたことはあるけど。
「何でだろ、ずっごくあったかい」
「私もですよ、先輩……っ」
心から、ぽうっとあっためられてくような感じ。お母さんに包まれてるみたいで、なんか安心する。
そのまま、こてんと二人ごと倒れる。今まで掻き消えてた眠気が、いきなり全部頭の中に戻ってくる。
……ありがと、……大好きだよ、有里紗ちゃん。
有里紗ちゃんの性格キャラシート通りのへたれにできなくて申し訳ないです、そうしないとくっつかなかった。