いい……の?
「あたし、……志乃先輩のこと、好きです」
「うちだって、有里紗ちゃんのこと好きだよ。でも、……その『好き』とは違うの」
多分、有里紗ちゃんも、顔が真っ赤になってるんだろうな。こんなに恥ずかしさの入る声なんて初めてで。……でも、見てみたいなんて思う資格は、もう失ってしまってる。
あのときみたいに、ずっと真っ直ぐな『好き』のままでいたかった。でも、もう、心のなかにある『好き』は、ドロドロとした気持ちで汚れてしまったものになってしまった。
「ねえ、この寮って長期休みの間は二人の部屋割りの変更を受け付けてもらえるの。有里紗ちゃんがそうしたいなら変えよ?このままじゃ、きっと、有里紗ちゃんにもっとひどいことしちゃうかもしれないし……、そしたら、もっと傷つけるだけだから」
好きって言ってもらえても、うちが有里紗ちゃんを好きでも、……離れたくないけど、離れないといけない。この関係を壊してしまった自分の、精一杯のできること。痛いよ、苦しいよ。……止まったはずの涙が、またポロポロと零れてく。
「そんなの、嫌です」
「うちだってイヤだけど……もう、こうしなきゃダメなの……っ」
涙声になったうちのことを、ぎゅうって、抱きしめられる体、……あったかい、ほっとする。体の線はすらりとしてるのに、私と同じ女の子の体とは思えないくらい柔らかい。
「離れたくないです、……あたしだって、先輩とおんなじです。……だって、……志乃先輩にキスされたとき、嬉しかったから」
ずっと、傷つけてしまったと思ってたことに、嬉しいって言われて、頭の中でぐるぐると回る。
「嘘……」
「あたしが、嘘つくわけないじゃないですか、先輩のこと、傷つけるようなこと」
分かってるよ、有里紗ちゃんが真っ直ぐで、誰にでも優しい子だってことも。でも、今は罪悪感とか自己嫌悪とかでもやもやしてて、その言葉も信じられなくなる。
「あたしだって、……志乃先輩ともっと繋がりたくて……恋人になりたいし、そういうことだってしたいです、……だから、あたしも、先輩とおんなじです」
「有里紗、ちゃん……?」
抱きしめられた、触れたとこから伝わる熱がいつもより熱い気がする。『恋人』ってと言葉に、うちのほうまで体が熱くなりそうで。
期待と不安が半分こになって、……それだけ、有里紗ちゃんの言葉に振り回されてる。
「いいの?……有里紗ちゃんと、一緒にいて」
「いいですよ、……だからもう、離れるなんて、言わないでください……っ」
嗚咽の混じった声。……うちが泣かせたのに。まだ一緒にいていいって言ってくれて、おんなじ『好き』だって言ってくれる。
どうしよう、……好き。好きすぎて、壊れちゃいそう。
また、胸の中の衝動がむくりと顔を出しかけて。……そんなのダメだよ。有里紗ちゃんのこと、壊しちゃうから。
「……わかった、もう、言わないから」
その気持ちをずっと抑え込むのでいっぱいで、これくらいの言葉しか返せなかった。