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ごめんね。

 気まずい空気のまま、過ぎていく時間。

 お茶がコップの中からなくなってしまって、手持無沙汰になってもカップを置くことができない。そうしたら、何かしないとどうしようもないし。

 そんなことを考えてるだけで、時間はずっと引き延ばされているような。


「ごめんね、有里紗ちゃん……いきなり、ちゅーなんてしちゃって」


 そのあまりにも静かな空間に、先に我慢できなくなったのはうちの方だった。

 まだ黙ったままの有里紗ちゃんにいたたまれなくなって、言葉をつっかえつっかえになりながらも、頑張って頭の中に浮かぶ言葉を拾って、繋げて。


「有里紗ちゃんのこと、……好きなの。今までだって大好きだったのに、ちゅーしたいとか、ぎゅってしてほしいとか、今までそんなこと思ったことなんてなかったのに、急に頭の中に浮かんじゃって」


 私の気持ち、全部伝えたら、どうなるんだろう。失望する?嫌いになる?それとも、……真っ暗な中では、顔色なんて読めなくて、言葉だって一言も言ってくれなくて。

 伝えるのは怖いはずなのに、言葉を紡ぐ唇は止まんない。これも、ただ、自分の心を楽にしたいだけ。

 ごめんね、でも止められないよ。どうしようもないくらい、有里紗ちゃんが好きだから。


「どうしても止まらなかったの、ごめんね……? 寝てるからって、傷つけるようなことしたら、嫌うのも当たり前だよねぇ……っ」


 もう駄目、瞼の奥から零れた涙が止まんない。うちがしたことなのに、それで有里紗ちゃんを傷つけて、嫌いになったって、全部自分のせいなのに。


「志乃先輩、……あたし、一言も、先輩のこと嫌いなんて言ってないっすよ」


 足音と一緒に、有里紗ちゃんが近づく気配、隣で、ベッドがきしむ音と、背中をぽんぽんと、やわらかい手があやしてくれる感触。


「でも、嫌いになったよね、こんなことするような人と、一緒にいたくないでしょ?」


 こんなになるから、最初から出会わなきゃよかったのに、……なんて考えて、サイテーだ、うち。

 こんな気持ちを抱くまでは、幸せでいられたんだ。それを勝手に壊して、勝手に傷ついて、有里紗ちゃんまで傷つけて。

 それなのに、どうしてこんなに優しくしてくれるの?優しい子なのは分かってる、分かってるけど、……合わせる顔なんてないんだから、もう嫌いになってよ、このままだと、私も有里紗ちゃんも苦しいだけだから。


「……志乃先輩」


 その重い、空気を凍らせるような声に、思わず涙が止まる。

 確か、双方の同意があれば桜花は部屋を変えることができて、夏休みにも申請期間はあったはずで。……もしかして、そのこと?


「あたし、志乃先輩のこと、嫌いになったことなんか一度もないですよ?」

「えぇ……っ?」

 

 その言葉に、意表を突かれて思わず声が出た。……どうして。

 どうして、そんなに優しいの、凍ったように動かない体に、有里紗ちゃんの口はまだ止まらなかった。

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