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幼馴染はツッコミ待ち  作者: けいぞう
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 翌日の昼休み。

 屋上に三人の人影があった。

 決闘のように正面から向き合う二人は、累と涼子。

 そして図らずもその勝負の審判のような位置に、居心地悪そうに佇んでいるのが正和だった。

 

「呼び出しなんて、穏やかじゃないじゃない?」


 茶化すような言葉も、何故か少し刺々しさを孕んでいた。

 球技大会のどさくさで和解したはずの二人の間に、再び何とも剣呑な雰囲気が漂っている。


「……でも好都合だったかもね。今日は私の方からも、言わなきゃいけないことがあるの」

「何かしら?」


 空を覆い尽くす鈍色の雨雲。

 生ぬるい風が、二人のスカートを揺らした。


「……別に、アンタに断る必要はないと思うんだけど……」


 少し言いよどんだが、すぐに真正面から累を見据えて、涼子は姿勢を正した。

 松葉杖をつきながらも、その姿は堂々と直立不動だった。


「……私、杉田のこと、好きだから」


 涼子を二度見する正和。


「な、ちょっ……」


 あまりに突然のことに、二の句を継げない。

 少し照れくさそうに頬を染めて、それでも決然とした表情で正和に微笑む涼子。


「急でゴメン、杉田。……でも、そういうことだから」


 一昨日の時点ですでに好意は伝えていたようなものだったし、正和もそれを拒まなかった。

 実質リーチはかかっていたようなものといえるかもしれない。

 とはいえ、涼子の口から先に言葉にされたことに、正和は少なからず狼狽えた。

 正和の中にある前時代的なイメージの世界では、そういうことは男から切り出すべきものということになっていた。

 

 しかし、物怖じせずに言い切った涼子の潔さが、妙に心地良かった。

 彼女らしい実直な告白に、正和はまた少し彼女に惹きつけられた気がした。


「知っているわ」


 首を痛めそうな勢いで、今度は累を見る正和。

 反射的に喉元までツッコミの言葉が上がってきていたが、流石に空気を読んで飲み下した。

 

 ツッコミたかった内容は、『何故知っているのか』。

 そして、『どうしてそんなに平然としているのか』。


 別にお互いに異性としての好意があるわけではない。

 どちらかに恋人が出来たとしても、口出しできる間柄ではない。

 しかし、いざそうなりかけて平静を保っていられるかと問われれば、正和には断言する自信がなかった。

 立場が逆になったとしたら、きっと少なからず驚くだろう。

 相手が累であるだけに、色々な意味で。

 

「……後になって揉めるのは嫌だから、はっきり聞いておくわね。累。アンタは、杉田のことどう思ってるの?」


 まるで、正和の心の奥底に蟠る疑問を代弁するかのように、涼子が質問を突き付ける。


「…………」


 初めて、累の返答が遅延する。

 表情を仮面のように凍りつかせたまま、口を噤む。


「……言えない?らしくないわね」


 軽くジャブを放つように、涼子の言葉に挑発の色が浮かぶ。

 その沈黙を、どこか覚悟していたような反応だった。

 

「…………恋敵としては、最悪の強敵よね。よりにもよって、って感じ」


 ボヤく涼子の顔は、冷や汗を浮かべた笑顔。


「でも、だからって引き下がる訳にはいかないのよね」


 決意に拳を固めて、累を睨みつける涼子。

 バドミントンでの惨敗の記憶は、まだそう古いものではないはずだ。

 もし正和をめぐって対立することになるなら、また同じような辛酸を舐めさせられないとも限らない。


「……誤解しないで。別に私は、正くんのことが好きだなんて一言も言っていないわ」

『え?』


 正和と涼子の声が重なる。

 意味深な沈黙は意味合いを翻して、混乱が訪れる。


「私はね、ただ、正くんに幸せであってほしいだけ」


 静かな口調は、穏やかな偏執の響き。

 正和に対する好意を告白した涼子を目の前にして、またいつかと同じ言葉を口にする累。

 正和は無意識に固唾を飲み込んでいた。


「……幸せに、って、なにそれ?」


 案の定、涼子も理解に苦しんでいるようだった。

 

「言葉通りの意味よ。そして、それが貴女を呼び出した理由」


 累の目が、すうっと細められた。


「……涼子。貴女が正くんを幸せに出来る器かどうか、試させてもらうわよ」

「……なんだかよくわからないけど、要するに結局アンタを納得させなきゃ、杉田は手に入らないってことね」

「理解が早くて助かるわ」


 視線の火花がぶつかった。気がした。

 この二人が対峙するとやはりバトル物っぽさが漂って正和は居場所を見失う。


「で、何で勝負すればいいわけ?こっちの都合で悪いけど、運動系だったら一ヶ月後くらいにしてほしいわね」

「安心して。体は使わないわ」


 いつの間にか、累の手には二本のペンと二枚の板が握られていた。


「今更説明するまでもないと思うけど、正くんの趣味・特技はツッコミよ」

「いや、勝手に断言すんなよ」

「ご覧の通り、もはや条件反射レベルよ」


 しまった、と思ったときにはもう遅い。

 無意識に累の言葉の裏付けをしてしまう結果になった。


「仮に涼子。貴女が正くんと付き合うことになったとして、彼を満足させることが出来る?」

「……というと?」

「正くんが気持ちよくツッコめるようなボケを提供することができるか、ということよ」

「……ちょ、ちょっと待って」


 論理の飛躍っぷりに置いて行かれた涼子は、額を指先で抑えて眉をしかめる。


「……それって、必須なの?杉田は、定期的にツッコミを入れないと、何か困ったことになるの?」

「愚問ね、涼子。貴女ともあろう人が、今更そんなつまらない質問をするとは思わなかったわ」


 ため息と同時に首を振る累。


「男の子が出したいものを溜め込むとどういう結果になるか、想像くらいはできるんじゃない?」

「そ、それは……」


 分かり易く動揺してしまう涼子は、またしても累の術中にはまりつつあった。


「さあ、貴女の想いが本物だというなら、私を唸らせてみせなさい」


 差し出されたペンと板を、戸惑いながらも受け取る涼子。

 それは黒の水性マーカーと、小さなホワイトボードだった。

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