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片倉トーリの日常なる非日常  作者: 十ノ口八幸
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日常・予想通りに大変な事にはなった。

トーリが門を通り抜け音のする方角へ歩いていくと、眼前に広がる慌ただしさ。

何かを捕まえようとしているのか。

いや、違った。そう見えているだけでそれは殺し合いだった。

日も沈みかけていて光源は屋敷の窓から漏れる明かりと等間隔で設置されている外灯のみ。それだけでは全てを把握することは出来ない。最初にそう思ってしまったのは皆が手にしている物を視認して錯覚しただけで、目を凝らしてみると血が付着していた。

その中で祭林の姿が見当たらない。

「なんだ、これは」

そう普通にその光景に疑問の言葉を紡ぐと何かそれが合図だったかのようにその場全員の動きがまるで電池が切れた玩具のように一斉に、同時に止まり、次の瞬間には全てがトーリに向かってきていた。

「おう。傍迷惑甚だしいな」

考えではこの場から飛び退き撤退をしようとしていたのに、相手が上手だったのか、退路を断たれてしまっていた。

「あららぁ。どうしよ。少しは何とかなるかな。と思ってたけどそう上手くは行かないか」

全周を囲む者共の其々の眼には正気がなく血走り息荒く。そうとうな興奮状態なのだと理解して。

「ああ。やだやだ。なんで普通に終われないかな俺は。」

持っていた荷物を地面に置こうとすると何か全身を蝕む悪意がトーリを襲う。

嘆息して荷物を持ちながら息を吸い、吐く。

「一々メンドクサイからさあ一回で終わらせるわ」

聞こえてないと分かっているが一応言っておいた。

で、 どうしたのか。

「お前ら感謝しろよ、主さんに、な」

足元には何人か倒れていたが、気にせず片足を上げて呼吸を整え全身の力を集約させ、地面に打ち込む。


2、3回の爆発音が窓向こうから響くと静寂が支配した。

優雅に自室でコーヒーを飲んでいる祭林は口端に笑みを含ませると皿に盛り付けられている近いお菓子を取り口に含ませる。

甘味が口の中一杯に広がりミルクたっぷり砂糖適量のコーヒーを二三口飲む。

「はああぁ。最っっっ高。」

至福の一時。

続けざまに同じ事を何度か繰り返す。

『おおい。その辺に誰もいないな。うし、確認終わり、セイッ』

言い終わると軽い音が窓から響き、次に盛大に窓が破壊された。

「おし、完了。後は、全部まとめて、と」

壊れた窓から幾つもの物体が部屋に投げ込まれていく。それら全ては床についても壊れたり崩れたりせず静かに着地し、積み上げられていく。

祭林は慌てて窓に寄るとトーリが満足げな顔をして見ていた。

「なあ、もう今日は帰っていいか、ていうか帰る。」

そのまま振り替えると門へと歩いていこうとする。

「ちょ、とょっと待ってよ。待ちなさい」

「何、この倒した人達を、とかなら断るぞ。」

トーリを中心に襲っていた者共は残らず地に伏して気を手放されていた。

「違う、あのねそこの人達は後で回収させるから、その、えと、ねえ」

モジモジしだして。

トーリはクシャクシャと髪を掻きむしると欠伸をして。手を突きだして、

「断る。お前のせいで俺の今日の予定が潰れたわけで、これから帰って寝直す」

「そ、そんな、えとね、もおおお。」

手を打ち鳴らすと何処に潜んでいたのか、ガタイのいい人が背後から羽交い締めにしてそのままの勢いで大回転させ、祭林の部屋の窓に放り投げた。

「ぐあは。」

一瞬のことに朝と同じように受け身をできず顔面から床に強打してしまった。

「あ、あれえ。だ、大丈夫。ごゴメンね。上手く着地してくれると思ったんだけど。」

手を合わせて謝る、が。

トーリは静かに起き上がり埃を叩くと近くの椅子に座る。

「あ、あのゴメンねホントに。」

「で、俺にまだ何か用があるってか」

「う、うんその、ね。」

物怖じしながら小さな鍵を出してきた。

「これは、重要な物なのか。俺にとってのではなく、お前かそれに連なる何か、か。」

「うん。そうなの。これをね暫くの間、預かってほしいの。」

「なあ、これを頼むようにした奴を殴りに行って」

「それは無理でございます。」

「あ、どう皆は収容できた」

「はい。お嬢様。完了してございます。今は彼女が率先して事の収拾にあたっております。ご心配なさらずに」

「ええ。そうね。でも大丈夫なの。」

「それも抜かりなく、襲来したときの手筈は完璧に整っておりますので」

「そう、ではこの人を帰してあげてね」

「御意に」

祭林がトーリの肩を叩き、帰るように促す。

やれやれというように立ちながら窓の方を不意に見るとその表情は豹変した。

この言葉も無意識だった。

「来るかよこの場で」


庭に轟音が鳴り響くと金属を擦ったような音が響き。窓に寄りかかって下を見れば和装に身を纏った人達が今だ止まない砂煙に向かって走っていった。

「うそ、まだ随分先のはずなのに。お祖父様のお力が外れたというの」

「お嬢様、来てしまったのなら仕方がありません。直ぐにご支度を」

「そんな、これは何かの間違いよ」

「お嬢様。ご支度を」

「それにこんなの考えられない。いくら上位でも此処の結界を簡単に破るなんて」

「お嬢様っ、お気を確かに」

「あ、ええ。そうね先ずは着替えないと。あ、トーリ君は隠れててね。今表に行くのは危ないから」

確かに表は悲鳴や爆発音。さらには砂が尽きることなく舞っている。

「ん、んん。そうだなあ、判ったあ。何処かに隠れておくよぉぉぉ。」

「じゃあ彼を御願いね木長さん」

「仰せつかりましたお嬢様」

祭林は急いで部屋を出ていった。

部屋に残ったトーリと木長は無言でその場に止まっている。

「で、では案内してもらいましょうか、ねえ。」

まるでその場を早く立ち去りたいかのように急いで部屋から出ていこうとするトーリ。

対して、

「待ちなさい。」

「ふあえ、な、何ですかね」

「案内することはお嬢様のお言いつけ故に断ることはしないが1つ聞かせてもらえないか片倉殿」

「え、ええ。何をですか。」

「ご心配なさらず。私と片倉殿の間柄ですので」

「そ、そうなんですか。ならどうぞ」

「では、単刀直入にお聞きします。あれに心当たりがお有りなのでは」

「ん、んん。んん。そうですね。と、その前に」

近づいて手首を掴むと物理的な力を込めずに力を込める。

これを機転に部屋の至る場所から小さな爆発が起こる。

一部からは火が一瞬だけ点いていた。

「そうですね。貴方を含めてですか。あれに関しては実は今日この屋敷に連れてこられる祭林。萌香に一応の警告はしたんですけどね」

「そうですか。君はそれを回避しようと努力したのかね。」

「おや、貴方は知っているでしょ。俺の事を」

「そうですね。無駄と知った相手に無謀な事はしない。それが片倉殿のスタンス。ならどうするのですか。あれを討伐しますか。それとも君が(にえ)になりますか。」

「ああ。木長さん貴方は1つ勘違いをしている。訂正させてもらいたい」

「何かな」

「アイツの目的は俺ですけどね。殺しに来たんじゃ無いんですよ」

「なんですと」

まあ、見ててください。と言うと自分で壊した窓めがけて床に置いてあった荷物の1つを拾い上げ、そのまま外へと飛び出した。

部屋に残る木長は楽しむかのように口に笑みを浮かべ、深くお辞儀をしてスーツを正して出ていった。

「やはり片倉殿、君は怖い人だ。ふふ。」


トーリは歩いていた。たしかに勢いよく窓から飛び出したが急ぐ必要はないと考えていた。

音は徐々に近づいてきている。

「押されてるな」

その言葉は真実で音は大きくなってきている。

「ああ。だから早く帰りたかったんだけどな。あ、」

木々の間から見える空を見上げると、一つの影が急ぐように飛び越えていく。

「ああらら。着替えるの早いねえ」

その影が祭林だと知っていても気にせず、速度を変えずに歩く。

鼻唄まで歌っている。

近づいてくる。


「くっ。こいつは何だ。あり得ない。聞いていた事とは違うじゃないか」

「そんなもの仕方ないと言える。それでも対処するのが我々の仕事だろうが口を動かす前に力の行使に努めろ」

「ぎゃあ。いっ痛い。そんな痛覚を無いに等しくしているのに何故。」

「ぐっ。負傷者は後方へ下がらせろ。封術隊、前へ。」

負傷者が引きずられながら、担がれながら下がっていくのと同じに獲物を囲むように円陣を組むと祝詞を紡いで力を押さえる。

だが、

「ぎ、ぎゃあああああぁ。カシャカシャ」

と鳴くと、張られた力を砕き、行使した者を全員吹き飛ばす。

「そ、そんな上位術だぞ。神をも封じる。」

「ぎぎゃぎぎ」

獲物が視界から消える。

「な、消え、たが」

彼には理解が出来なかった。


初見で見たあの途方もない巨体である獲物が消えたと思えば自らの肉体が負傷している。周囲を見れば自分と同じように負傷し地に伏している者達が目に入る。

どうして、何故。という思いを無視して獲物は叩き潰している。

それは遊んでいるかのような光景に恐怖しかなく。戦意は完全に失せていた。

あとは自分の番が回ってくるのを待つだけだろう。

悲鳴は全て途中で途切れ、一体は獲物が蠢く音と潰れる音と鳴き声のみ。死が、少しずつ、確実に、近づいていく。


自分の番が来ると一気に叩き潰されるのかと思っていたが、視線を合わせるように頭を下げ、長い舌で味わうように全身を舐め回している。

「ひっ」

その短い悲鳴を最後に、体が宙を飛び全身を何処かの木に打ち付け、気絶してしまう。

勝利の雄叫びと云わんばかりに空に向かって叫ぶ獲物。

その場に一つの影が静かに舞い降りる。

「其処までにしてください。」

祭林が儀式用の衣装で現れると手に持った錫杖を構える。

「やはりお祖父様の言葉はまごう事なき真実。でもこれ程のお力とは」

獲物はその存在にこれ迄のクズとは別格だと気づいて距離を取るために後ろへ跳躍する。

「神様。貴方はこの世界に迷い混んで混乱しているのでしょう。ですが心配しないで下さい。私がお帰し差し上げます。」

頭を下げて舞をする。

本来なら複数で動きを止め、その間に返還儀式を行う手はずだった。

今の現状ではそれは不可能。長い祝詞と舞では間に合わず簡略式でするしかない。

それでも獲物の動きを把握しながら避けて踊りをしなければならず、結局は追い詰められてしまった。

「う、どうしよう、あと一小節なのに。もう体力が」

それに、完全に避けられず、大小の傷から血が滴って地面を濡らす。

「く。こんな時に二人は居ないし。も、もうダメ。」

ニタリとする神に絶望を抱いて、その一撃を甘んじて受けようと木にもたれる。

笑いの鳴き声を轟かせ太い得物を祭林に突き立てようと襲い掛かる。

『御免なさいお父様、お母様。巴。鏡。そしてトーリ君』

体が締め付けられる感覚。

『あ、少しずつ絞め殺すのね。それはそうか、だって神様に障ってしまったんだから』

諦めは思考を殺す。

『もう、私には何も残らないのかな。神様の封印なんてそんな大それた事をするのも本当は嫌だった。でも、それだけじゃなくて本当はお役目もいやだった。あのことも逃げ出したくて始めただけだし、あんなに人気が出るのは想定外だったけど。今では大切な仕事。これからも大事にしたい。あ、出来ないんだった。はは。未練だな私。でも、叶うならトーリ君に会いたい。会いたいよ。』

「・・・・」

「あ、れ」

何で、と言う前に目の前の神が止まっている。

「ど、どうして、なの」

耳に届く何かが近づく足音。

「え、何で、なの」

祭林の視線の先には今会いたい人。

トーリが面倒くさそうな態度で近づいてきている。

不味いと誰でも思う。だから、

「に、逃げてトーリ、とっちん。お願い。この方は危険なの。ねえ。逃げて。私を心配して来てくれたなんて思ってないけど。それでも、勝てないの絶対に、だから逃げてえぇぇぇぇ。」

その瞬間全身に纏わり付く寒気が思考を汚染していく。

全身が意志と関係なく振るえる。

止まらない。抑えようとしてもより振るえてしまう。歯が鳴ってしまう。みっともないと思っても涙が、涎が出てしまう。

『何で、まさかこの神様の逆鱗に触れたから、それでも、嫌だ、ねえ。お願い、します。神様。私は、どうなっても良いですからあの人、だけは助けて、下さい。』

そう願って目を開けると、有り得ない姿が目に入った。

あの、神様が祭林ではなく別の方を見ていた。

嫌、それだけならまだ分かる。それは新な獲物を見つけた狩人の行動と思っていた。

でも、その暗くて見えにくいけど、

「お、怯え、てる。」

その方向は、確か。

そう、その方向には彼が居た。

トーリが、居た。

そのトーリを、見ると。

「なあ、俺をどうしたいのかは知らんけどな。あまりにも面白くもない状況はどうよ。」

「あ、あのゴメンねそ」

「あとな、別にそんな事をする必要は無いよな。そんな事をすればどうなるか。知ってるよな。」

「え、でも、それは」

「これだけの事をしてさあ。全部の責任は俺に成るて理解できる。出来てるなら俺の今の心情と状態を理解できるよな。」

「え、それ」

祭林はこの時、始めて自分とトーリとの会話が噛み合ってないことに思い至る。

それは久しぶりに感じる、トーリから発露されている雰囲気に漸く気づいてからであった。

それは最初、自分に向けられているものと思っていたけど。

『ち、違う、よね』

その発露されたものは単純な感情。

何処までも、何処までも寒く冷たい。

[殺意]

「なあ、聞こえてるよなぁ。俺の声が。お前は俺の方を見て、俺と視線を合わせているんだ。それで聞こえてないと云ったら。ふふ。ふははははははははっ。」

自分の心を抑えるかのように息を吐く。

「で、答えろ。お前は、さ。何のために、さ。俺に付いて、さ。来たんだ。なあ。応えろよ」

地面を踏み込むと陥没し亀裂が走り抉れ突き出し吹き飛び、一部が神と祭林の側まで転がってくる。

「蛇」

その言葉を最後に目の前の神は、これ迄聴いたことのない声を叫ぶとトーリに向かって飛び込んでいった。

「あ、危、ない、え。」

信じられなかった。

あり得なかった。

考えられなかった。

「だ、だって。ええぇ。」

と云わんばかりに鳴きながら嫌、哭きながら飛び込んでいく。

目の前の光景が信じられなかった。

あの巨体が可愛らしい音をさせて煙に身を包まれると、次に現れたその姿はあの姿とは似ても似つかない姿。

一言で表すなら。

「ろ、ロープ」

それしか言い表せない。

それは正にロープ。違うとすれば勝手に動く不思議なロープ。

それが、トーリの足元に摺りようように近づいている。そのロープを躊躇なく容赦なく踏んだ。地面が陥没するほどに。短い悲鳴だろう声が聞こえてそれ以上は動かなくなった。

「ああ。もう、来るとしてももう少し穏便に済ませるとかしろよ。なあ、蛇」

足の下敷きになった神様を無造作に持ち上げ力なくぶら下がるロープ。それを、今度は何度も叩いている。

どうやら起こしているらしい。

「おい。こら、だれが気絶して良いと言った。説明出来るまで楽が出きると思うなよ」

尚も叩き続ける。

その光景に呆気に取られている祭林はやっと自分の状況に気がついて、気を取り直して聞いてみる。

「あ、あのトーリ君。」

叩きながら、返事をする。

「あ、あのその、その方を」

「あ、方、てそんな高尚な存在かこいつは」

「い、いえ、あのね知ってる、の」

「あ、知ってるもなにもこいつは俺の、ん。なんだろうな」

「キシャッ、キシャーッ」

「起きたか蛇」

舌を出してトーリになつくように手から腕に絡まり頬を舐める。

だか、

「キモイ」

腕を振って地面に叩きつける。

「そんな媚びてもこの状況の説明を無かったことにはさせないからな。解ってるよな」

ロープから目がないのに水が飛び散る。

「で、蛇。説明、しろよ。」

「あ、あのね。トーリ君。私から説明させてくれる。かな。」

「んん。そうだな。」

ロープを見て、祭林を見てすり寄っているロープ、いや、神を見て事の説明を祭林に求めた。

「あのね。話すね。何でこんな事になったのかの経緯はね」

それから事の詳細を時間を掛けて説明していき、終わる頃には夜も深くなった時間だった。

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