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片倉トーリの日常なる非日常  作者: 十ノ口八幸
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不条理と条理の日常~少年~終ー民主主義国家ソフィラリウリス

暫く歩いた先に何も無かったので膝を着いて祈りを捧げる。

敬愛する神々に捧げる願いの等価は数千の時間を捻出する儀式。

しかし何も起こらず溜息しか結果は得られず。諦めて目的の場所へと向かうこととした。

数日後。

遠目で見えていた建物の近くへ到着して最初の感想が。

先が見えない。

正確に述べるのであれば天辺が見えない。

噂以上に大きな建物であった事に感嘆たる感情をもって素直に受け入れていた。

その建物は遠目で在っても天辺を見ることが出来なかったが。

空の先へと続いているとの噂がある程に巨大で長い建造物。

確かに空を貫く程に大きく高く。一種の畏怖を感じずにはいられなかった。

建造物の正式な名前は誰も知らず。只々。そう《塔》と呼ばれていた。

この世界に於いて塔は数あれ《塔》を固有名詞とする場合はこの建物を意味する。

何時、誰が、目的は。と全てが不明で歴史的には突如現れたとして発見当時は相当に騒動が在ったのだろうと想像に難くない。

それも当時の一帯を治めていた人に取っては厄介極まりなく。調査すれども不明として最終的に破壊という最も分かりやすい終わり方を選択したのだが、翌日には一帯全てが焦土と洪水に見舞われ幾つかの街と村が世界から確実に消滅してしまった。

歴史史上最悪の災害と認定されている。

原因がこの《塔》である事は誰が見なくても認識していた。

当時の資料によると、その建物が現状。劣化が一切見られず。

「今完成したんです。」と言われてしまえば信じるだろう、それ程の綺麗さに一種の恐怖を思い出しながらも更に近づいていった。


塔の足元に到着して、その大きさに目を見張りながら上を眺めていた。

して何も考えず、取り敢えずとして向った先に遠目から見えていたこの塔が鎮座していたがこれからどうしようかと悩もうとして見計らったかの様に持っていた物が光を放ち塔を指し示した。

その光に呼応して外壁の一部が奥へと引いて入口が現れた。

意味があってこの場所まで来たのだからこの扉の向こうへ行け。という事なんだろうと考えて。考えを止めて。塔へと入って行った。


何も無いと思い込んでいたわけでは無かったが。

何も無かった。

上には何処までも続く吹き抜け。

足下には何かの装置かそれに近しい何かが在るだろう。とも考えていたのにだ。

手を伸ばせば届く天井。

吹き抜け以外は迫り出すような天井だった。

壁も届く範囲。

簡単に言ってしまえば。

狭い。

吹き抜け自体も狭く細く。子供でも幼い。幼すぎる赤子であろうと抜け出せないだろう。

足下の床には平で罅も欠けも無く真っ平ら。

だが塔を出るという選択肢は除外されていた。

入りきると同時に出口は閉じられ壁へと変貌していたのだから。

もう残されたのは塔を破壊か。現実ではないけど。

何かをして次へと進む事。

そんな二者択一を思考していたら再び光が放たれ塔に備わっていたと思われる機能が起動して防御と上昇が同時に始まって気付く前に到着していた。

後で知ると思うかもしれない。

民主主義国家。

名前は最後まで知らない。

知りたくも無い。

その場所である目的の地へと足を踏み入れたのだ。

何をするのかは知らないが。


仰々しい歓迎か迎撃されると軽く考えていたが想定外に誰も関心を示すことはなく。

この国の日常が流れていた。

肩を通過して遥かな遠方へ行った自分の気持ちは何に対して向ければ良いのか迷った。

その結果。


観光してみた。


目についた店から入って物色し何も買わずに出ていく。

それを繰り返して二桁中盤で店主に呼び止められた。

「金はあるのかい。冷やかしなら。出ていってくれ。」

と言われてしまえば気になっていたので持っていた貨幣を見せると呆れられ。

この国の貨幣しか使えないと言われてしまった。

どうすれば良いのか尋ねると。交換条件で教えてもらい。

店を出て道なりに向かっていくと大きな二重の門が現れた。

その根本にある詰所に事情を説明して貨幣を替えてもらい、再び店へ戻って何かを適当に買って店主の依頼を受けてまた出ていった。


道を少し外れると表とは違う面を見てしまう。

暗部と言っても差し支えない。

暗い場所。 

濃い陰影。

何もかもが押し込められた掃き溜めのような歪んで澱んで通るには危険な場所だった。

鼻が抉られる程の臭いと汚物に塗れた全ての空間は表の幻想を打ち砕くには十分である。

歴史が全てを物語。とは考えていないが。

これ程何気に酷いと感じても何かをするという気持ちにはならなかった。

国に関わる事を背負うという気概は持ち合わせていない。それも一つの理由であるが重要な事を優先しているので積極的に関わろうとは思っていない。

それに店主の依頼は別としてこの国に来た主目的が何かである。

その何かは知り得ていないが行動すれば何かは自ずと判明するだろう。

そう考えてこの国の暗部を無視して表へと戻る。


歩くこと数刻。店主の依頼である目的達成の為に到着したのは寂れた。

いや、この場合は廃屋と言っても言い過ぎでは無いだろう。

元は何かの店だったんだろうが無惨にも破壊された跡がある。

これへ近付くには気を引き締めていないと危険だろう。

そしてその判断は間違いなく。一歩で全身に嫌な感じを理解して飛び進んだ。

それと同時に駆けて廃屋へ飛び込んだ。

破壊される音と数カ所に当たる痛みを覚悟していたがそれは全てをキャンセルされ無傷で廃屋の床を抜き落ちて隠し空間へと到着してしまった。

店主との契約は目的地に花束を添えて戻ってくること。

単純な頼みであるのに簡単な事には成らなかったと吐き出したい悪意を腹に溜めて把握していった。

言葉は不要。

無駄に時間を浪費したく無かったので忍ばせていた物を取り出すと。

想定通りに光を放って道を示してくれた。


光が示した先には面白い空間が存在していた。

それは本当の意味でのこの国の暗部。

空に浮かぶ理由。

納得して物が示した更なる先を目指す。

耳に届く全部を無視して進み続けていく。


最終到達地点に来た。

筈なのにその場所は本当の意味での真実が存在していた。

吐き気は在ったが我慢してまだ指し示していた更に先へ歩いていく。

しかし、それは途中で阻止されてしまう。

この国の最終的な防衛システム。

番人であり始まりとされる一つの意識。

実体を失って尚も国を守るために存在している。

初代の主。

その自我を全て複写した存在。

誰が何の目的を持ってこの酷い所業をやらかしたのか。

答えを知る方法はない。

眼前のシステムは誰が見ても判る。

そう。憎み恨み妬んで涙を流して空間を繋げて沢山の武器を取り出し、全ての先を侵入者に向けていた。

口は動いているが言葉は聞こえない。

音声を切っているのだろうか。

そういう風に認識した。

何故だろうか。

その答えを知る方法も同様に無いのだが。

と言って体を反転させて帰るという選択も無い。

持っていた物が光りながら更に振るえていたのだから。

指し示したのは番人の背後。

壁を示している。

目的までは近く遠く。それでも遣り切ってしまわないと後で面倒だろうと。

だからこそ番人に構っている暇はなかった。

考える時間も惜しい。

決意して近づいて何とかする。

そんな決意は何の意味も無かった。

宝石の光が番人に触れる。

すると突如狂い涙し叫んで霧散し吸収されていった。

瞬間の出来事で呆気に取られて勢いのままに足が縺れて壁へ近づき手で触れる。

持っていた宝石から出ていた光の効力が最大となり壁に一瞬で扉を造り出して何もしていないのに内側に開放されていく。

固唾を飲み慎重に扉の先へと入っていく。


扉は勝手に背後で閉まり、鍵も固く締められた。

振り返らないし振り返れない。

目に入ったのは淡く光る正方形の何かが八方を円柱に囲まれ浮いている。

しかし、それは生きているように脈打っていた。

小さく。

何かを問いたいけど答える存在は居ない。

この空間に居るのは自分一人だから。

だがそれに反して答えが返ってきた。

「『これはな。酷い仕打ちの成れ果てた姿の一部。無限に近く途方もない数に裂かれた大いなる存在の一つ。いゃ違うな一部という方が正確か。』」

周囲には誰も居ないはずで声の元を探ると。

持っていた宝石からだった。

《「やぁご苦労さま。というても大きな苦労は無かっただろう。さて。目の前にあるもの。それが何かを知りたいかい。残念ながらその資格を有していないものに聞かせる気はない。最初に言ったのが今は全てだ。なので早々に仕事をしてもらおうかね。なに、渡したものを近づけるだけで構わない。それで後は勝手に手続きが完了する。そう組み立てたからな。ほら依頼を完遂してもらいおうか後が詰まってるんだよ。」》

言い方に腹がたち。持っていた宝石を壊そうかと姿勢を変えると。

「壊しても良いがな。それが後先考えての行動と思いたい。」

体が硬直して辞めた。

「そうだ報酬を言ってたかな。未だなら報酬を言っておこう。」

その報酬を聞いて驚いている。

「声を察するに想定外か想定内を考える。笑いが含めても良いかね。では健闘することを願いたいねっ。」

歯ぎしりして前を向く。

正方形の何かが最初に見た時より脈動が速くなっている。

危険信号が脳内に許容以上を発信して飛び退いた。

直後に爆散して鎖の光が砕けた景色が見えた。

正方形は歪み澱み捻れて肥大して収縮して淡く輝き炸裂していった。

そしてこれがこの国で見た最後の光景。

『それじゃ。最後の仕上げとしようか。予定の外側だけどもな。』

それと言葉。


時が少し戻って複数の門がある先の建物。その中間地点にこの国の最高者が居る。

常であるなら多忙であり僅かな時間さえ惜しむ。

が、今は危機に直面していた。

数刻前に来た者。

複数の障壁を通過したもの。

いや、通過は出来るが簡単ではなく、数々の手続きをもって時間を掛けて辿り着くのだが全ての障壁を手続き無しに通過していた。

何者なのかを調べる時間が無かった。

気づいたら足元に辿り着いていたのだ。

過去の映像でそれが歩いて来ていた事に驚き一つ段階を上げて警戒しそしてそれが門柱の足元へ来ていた事に更に警戒を2つ上げたのだ。

しかし不可解極まりない。

何もしていないのに合わせないと開かない扉が勝手に開いて中へ通り惑わす機能さえ効いてないのか装置を起動させて昇ってきた。

入国当初は警戒して監視対象としていたが何をするでもなく観光を初めていた。

そして幾つもの店などを回りながらとある店で何かを話しそして足下まで来て更に警戒したが理由は分かった。この国の通貨と交換していただけのようであり、そして最後には店へ戻って何かを再び話しながら買い物をして店を出ていった。

本当に観光に訪れてきただけだと安心していた矢先に。

禁止領地へと足を踏み入れていた。

恐怖。

いや。一つの違和感が心に楔となって刺さっていく。

この心を否定すれば何を信じるのか。

それゆえに。

資格ある者を放ったが。これは幾つもの偶然か。

躱されてからその禁止領地で最も触れてはならない物体に突っ込んで床を着地と同時に踏み抜き落ちてしまった。

焦燥。

何があろうと優先事項として放ったが全てが無駄になった。

不可解に傷すら無く進んだその先にはこの国の中枢たる核を内包した空間。

へと続く魂門。

そう魂という不確かな存在を鑑定する装置が設置されていたはずである。

終端には。

異なる次元の小さな存在の一部。

それを無理やりにて格納した永久装置。

根源機関と呼べるものが設置されている。

だがその手前には初代と言われている意識をもった仮想自我の番人が現れ侵入者を駆除する筈だったが何が起こったのか。侵入者から光が放たれ次に見えたのは侵入者のみ。番人は完全に消えていた。

手元の操作をしても大元さえ消えていた。復元不可能となった。

しかし、最後の壁は厚い。

そう物理的に厚く隔てている。

その距離は大人数十人分にもなるだろう。

壁を調べた所で普通の壁と認識して引き返すのだ。

その認識は間違いでないが。

何もしていないのに扉が形成され意図も簡単に真実の中枢へ入っていってしまった。

これで完全に阻む事は出来なくなり、見ているしか無かった。

もう今からでは全てが間に合わないだろう。


それにしても理解できない。侵入者は立ち止まっていた。そして何もしていなかった。視線は核を見ていた。なのに。番人は消え。厚い壁に扉が造られその向こう側へと阻まれる事なく踏み入れた。

そして今は。

国の本当の中枢へと近づき。

何の目的かは想像出来ないのだが一つ言えるのは。

この国が理由もなく終わってしまうだろう。

という不可思議な確信があった。

更には動くこともなかった物が動きそして消えると同時に国全体を揺るがす振動が走っていた。

有り得ないし在ってはならない。

この国が存在するのは地より遥かな上。

何の影響も受けないよう防護もしてある。

それが何故。揺れているのか。

怖い。

そんな感情が久しく昇る。


と何処かしら不似合いな拍手が鳴る。

何処なのか特定する必要はなく。

何時。如何にして。目の前で存在していたのか。

『やあやあ。神と呼ばれる存在達の下僕よ。お、もしかして全てを察してくれたかな。なら話は早いし速く済ませたい。なので奪ったのを素直に返却してくれないだろうか。それに見合った対価は用意しているし、一部を見せよう。』

また前触れ無く現れたのは輝く巨岩。

『これを向こう数千単位で供給するが。どうする。』

答えは決まってる。

問答無用に捕縛し全てを吐かせ全てを奪い絶望を好きなだけ与えてから後に核の餌とする。

そうして全ては元に戻る。

という未来を見えていて動かなかった。

『そうか。こう乗るのか。そうだな。それじゃあ。滅ぼうか。』

見えないが笑っている。下卑た笑い。

直後に先ほどより大きな揺れがあり轟く音が肉体だけでなく魂まで響いた。

『賢明判断を微妙に期待していたが。仕方ないか。ふ、一帯を消す。この世界から。なので解錠解放そして覚醒。』

揺れは限界を超え国が崩壊していく。

総崩れ下へと堕ちていく。

物も人も全てが平等に。

堕ちていく。

悲鳴も悲嘆も悲運も混ぜ捏ねて。


大きな揺れは未来読みに習い全身に瓦礫が飛散するが避けることは容易で、しかし完全無視されたものの一撃は何も出来ず貫かれ致命傷に。

睨んだ。

何も出来ない自分に対しての悔しさを含めて睨んだ。

姿を現した存在に一撃での致命傷。

助からないだろう。

「っっ。こ、この様な事をすれば、何れあなた様に天罰が下るでしょう。そして世界は一つとなり、あなた様を殺しに掛かるでしょう。」

息も絶える寸前ながら瞳に宿る力は衰えを知らず。

だがしかし彼の者の装着している仮面の向こう側を見たとき、全てを悟ったように瞳孔を開き小さく笑うように全身の力が抜けていった。

仮面を着け直し隠る音で手にしていた彼女に掛けた手を振り払い闇底へと落としていった。

『これで終わりか、一応は。音が響くならさて移動させておくか。』

仮面を外して別の仮面を着ける。

「目標設定。座標指定。強制転送。」

崩れていく国を見守る事はせず冷徹な視線を向けて姿を消した。

直後に凝縮され弾け飛んだ存在が瓦礫を含んだ全てを呑み込んで光の柱を上下に形成していった。


光が収まり目を開ける。

荒野というか岩石の上に立っていて知らない場所だった。

判るのは岩石群と低い木々。

そして目を凝らさないと見えない擬態している生物。

心が素直に踊っている。

岩石から飛び降りて近づいて取ろうとし邪魔が入った。

誰かが来ていたのだ。

振り向いて見た場所には。

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