不条理と条理の日常~少年~寒気進行3
森討伐から目まぐるしく時間は過ぎ去っていき亡くなったか無くなった者達の葬儀や手続きを終えてからは平凡な時間が流れていた。
季節はまだまだ冬の最中である。
次の季節までは遠いのだが、数日前から掛けてはこれまでよりも激しい吹雪に見舞われていた。
自分の伸ばした腕さえ見えない程の吹雪に校外授業等の外での授業は全べて取り止めとなった。
取り止めとなっただけでそれ以外は通常通りに行われる。
その1つが庭木の手入れ草むしり。除雪。猛威を振るう吹雪の中での除雪は一種の罰則のようであるがその者には慣れた事である。現に幾つかの場所には吹雪であっても阻まれるように途中で溶けて蒸発している。
さて、それでもその勢いは連日続いていたために不具合が発生し補修や改造まで様々な仕事が暇なく用意されているのだ。
その向こう数日分の仕事リストをどうにか伝えて管理人室で一服している。と爆発が連発した。
慌てて監視用の石を装置に設置して起動させるが変わらずの乱雑に降りしきる雪。
角度を変えても変化はなく仕方なく外へ出る準備をして管理人室を出ていった。
吹雪に世界は薄灰一色。
白は背景と同化し交ざりて灰となる。
現在地を確認しようにも目印となるものなど度を越えた雪に覆われて見えるはずもなく、しかし自分達で進言して解決すると言い切ってしまった手前このまま帰るわけにも行かず。
でも、このまま進むと命に関わりそうで足が様々な意味で動かない。
困り果てる前に力を行使して直線を吹き飛ばすが瞬時に雪に埋もれてしまうし服に付着した雪を払っても意味を成さないので早々に諦めた。
悩みぬいて雪をかき集めて家を造った。
簡単な構造であるが外に居るよりましでというか快適だった。
一息付きながら事の発端を思い出す。
溜め息ばかりが出てしまう。
外は変わらずの吹雪。
希に見る吹雪で凍らないはずの物まで瞬間凍結される程の気温で各自が自室での自習を余儀なくされた。
のは数日前で中央区画には暇をもて余している生徒達が何もせずに寛いでいた。
必要な課題が殆ど終ってしまったためであるが、出来る範囲はやり尽くしてしまい何も出来なくなっていた。
四季が崩壊している現在。
豪雪は日常に成りつつあるがこれまでより異常ともいえる吹雪に危機感を覚えたのは二人だけである。
二人のこれまでの功績は大きいのだが、学園長に直訴するもその原因すら判らない状態では行動を起こすこと自体が自殺行為であると諌められた。
だが何もせずにじっとしているというのは性に合わず、二人で学園長室へと赴いたのだ。
長い話し合いは平行線を辿り続け言葉も最早出てこなかった。
と教頭が焦りながら入ってきて報告してきた。
その内容が。
庭園管理人が変わり果てた姿で入ってきたと。そして有り得ない。と言いながら事切れた。
そのまま救護に回して直ぐにこの場所に来たという。
事の重大さを詳細に説明している最中での乱入は持ち込んだ情報の信憑性と信頼を確実なものとしていたが、学園長の目は冷淡で二人は諦めて書類を持って出て行こうとして呼び止められ、振り返るとその表情は何か遠くを見るような諦めた表情で、仕方無い。書類へ判を押してあげよう。と言って書類を受け取り判を押して突き返すと、直ぐに出ていくよう言い放ち退室させられた。
中央区画から一番に離れている部屋に二人が膝を付き合わせて悩んでいた。
先程、学園長から受け取った書類を確認している。
「確かに判は押されてるがサインがないぞ。」
「いえ、判だけで十分でしょ。」
「いや直筆のサインがないと学園長が押したという証明にならないぞ。」
「んん、それじゃあ事後承諾と云うことにして後で貰いましょうか。」
戻った後でまた迷惑をかけることに躊躇したからこその事後承諾である。
しかし、それでは後々の面倒が予見できるので仕方なしにもう一度、学園長に会いに行った。
反論した。
その本論に正当をしていたが。
更なる正論を畳られ言葉に詰まるが解を示した。
結論は学園長に会って判を貰うことで二人は納得した。
完全防寒までは良かったのだが、想定以上の吹雪により目的とした場所までの道を見失い、方向感覚も狂ってしまった。
なので一時休息として簡単ではあるのだが雪の家を造って避難したまではいい。
「完全に迷ったな。」
「無言です。」
「言ってるだろうが。」
短い笑いが聞こえたが、それ以上は何も喋らず、無駄に時間が過ぎていく。
時間的には夜。
しかし二人は眠ることをせず起きていた。
外の吹雪が更に激しくそして異様なまでに吹き荒れていた。
だが二人はまるで聞こえていないかのように足元。正確には二人の間に広げられた地図を無言で眺めていた。
と。
「在った。やっぱり中心に在ったぞ。推測どおり坩堝が形成されていた。だが。」
「うん。簡単に処理できる位置にはないね。多方向から見て誤差的には小さいけどこの吹雪だし、失敗したら命がない。」
「だが、時間的に猶予はない。行軍突破しか無いだろう。」
「そうですね。ならこれを使いましょう。目的地までギリギリで届くでしょう。」
二人の中央に置かれたのは石。
力を込められた特別な石でこの世界では希な品物である。
「良いですか。この一回を逃せば吹雪が止むまで動くことは出来ませんから。合図で行きますよ。」
深呼吸して。カウントして起動させると、思っていた想定以上の力が放出され直径数百の範囲が吹き飛び勿論、中心にいた二人は甚大な被害を被り吹雪く中へと弾き飛ばされた。正反対に。
二人其々は短時間だが気絶していた。視界は白。全身が雪に覆われ動かすことが出来ない。軽い凍傷になっていた。
一人は叫び一人は現状把握に勤め内部で力を練り上げ覆い被さっている雪を瞬間で溶かした。
飛ばされた距離は判らないが大規模な力溜まりのお陰で方向が判った。
短時間とはいえ外気に晒され体温が下がっていた。力の放出により瞬間的な上昇があったが、吹雪によって直ぐに下がる。
危険信号が身体から出ていたが其どころではなく起き上がり、直ぐに力溜まりへと歩いていった。
どうにか力溜まりへ近づいて指し示された方を見ると遠いが微かに感じる坩堝を認識した。
もう1つは相方。
発見時には何とか命を保っていた。
即席の建物を再度創造して吹雪から守り相方の治療を施す。
相談してこの先を決める。
時間は在るようでない。なので行軍する。
吹雪は止みそうにないがあの石はないのでどうするか。
ならばこの雪を使って道を。トンネルを形成して進むことにした。
最初からその手を使っていたならと口論しそうになるが二人は止めた。無駄だと認識していたから。
交互にトンネルを作成していく。
力を行使するには体力が必要だが何故か消耗はなく目的地まで余裕で到着した。
後、嫌に打突音が響いていたが無視したり
目的地にはあの社と似たような構造物が在った。
相違を指摘するなら社は破壊され空間が歪むほどの力を持った奇跡の石から膨大な吹雪が渦巻いて放出されていた。
元凶だと判るが、この状況を見ると、
「元々は封印されていた。と見るべきですかね。」
「そうだな。でだ、この社は、まだ新しく見えるが補強された痕跡もある。推測するに向こう百年単位は傷すら付かないだろう。」
「君がそう言うならそうなんだろうね。さて犯人を探すかい。それとも石をどうにかして犯人捜しは諦めるか。まあ贅沢を言ってしまえば、両方かな。探すのは大変だけど。」
「そうだな。俺としては、この事を完全に解決したいと思っている。お前は嫌なのだろう。』
「正直にいうなら面倒だから一方に、目の前の此を破壊か封印できたらそれ以降は知らないようにしたいかな。」
と吹雪の中でも異質な何かが形を成していた。
なっ。という驚きに発現させた相手は笑うを張り付ける。
個人での発現は命を終らせるに等しいより当たり前である。だからこそである。その行為は称賛に値する。
吹雪の中で与えられた意識は石の破壊を最優先。何が在ろうとそして有ろうと優先される。破壊。
存在となっている全てを破壊という事象ではなく元から無いという消し去るというレベルでない。
繋がる全てを消し去る。
そうだな。始まりまでも。
結果。
二人の前で吹雪は、呑み込まれ呑み穿たれ呑み削られ呑み潰され呑み滅ぼされ呑み降されて。
だが、尚もその存在は消えない。
消え過ぎる事もない。
二人は、その一人は驚愕した。
意識に存在する力を持ってして全ての切るを与え尽くされず存在し続けるのは、本来ならあり得ない。
二人は迷うことなく逃げを選択した。
存在は背後で崩壊していた。
崩壊なら二人にとっては選択的に良好であったが為らず、その力は取り込んで自身の力として発現させた。
世界の混沌をもたらす存在として二人は自然に自分の命を優先した。同然だと誰もが誉めるかというと。そんな事はない。
このままであるなら。
二人は様々な言葉。悪意を籠った言葉を浴びせ続けられている。
が二人は世界に愛されていたのだろうか。
追ってくる暴走したと想像する石の変貌した姿は二人を追い詰めるように楽しむように一撃を掠り傷で済ませていた。
二人は戦慄した。
あの石に意志が存在していると。
慌てるように二人は逃げに徹した。何をしてもあの存在は滅ぼすこと以前に止める事もできないと。
二人に在るのはもう1つの感情しかない。
拒絶。
現実の逃避。
二人は逃げを選択した。
したが無駄と悟って攻撃に転じた。
がただ遅くてこの空間が全て敵となる。
悲鳴は常時で一人は動くことを剥奪された。
一人は何とか逃げたが機敏に動くことは出来ない。
だが力は何とか温存していたが全周囲からの無限の様な粒は二人の行動を観測させていた。
予測予知。
確定した行動であるが、一人の想定の落ちた行動に怯んだかのように自然の現象が緩んだ。
頷く二人で合わせ現象を空間ごと消滅させた。
これは二人が死亡した後に想像を絶対たる影響を与えてしまったが二人が知ることはない。
時間にして2日。二人は生きていた。
学園長からの契約は忘れていたが生きていた。
其々の身体は欠損していても命は世界に留めていた。消える寸前の灯だが。
続く吹雪の空間は二人を閉じ込めていた。一定の空間を。
1つの国。
1つの大陸。
1つの世界。
1つの次元。
1つの何か。
知るよしもない二人には知らないが全身を覆うほどの寒波は時間をもって力を増していた。
気づくには年単位。
真実は永遠。
時間は超えて翌日。吹雪は一層増して二人の命を蝕んでいた。
限界。
力は底をついて体力も限界を越えていた。限界を越えても二人はどうにか生きていた。
死にかけであるが。
何度も二人は眠ることを許諾されず世界から強襲されていた。
休まることはない。
体力より精神が削られ限界。
発狂には必然で二人とも吹雪を相手に無謀な行動をして命の灯を消していく。
意識は残して視界に吹雪の中で巨駆を認めて拒絶して爆発させて。相対的力場によって防御が形成され逃げていった。
半日も満たないようにして危険な状況。
しかし逃げる術はもう無くなっていた。
僅かな希望も願いも奇跡もない。
二人の命は吹雪の中で誰にも知られることなく埋もれていった。
「という展開を夢で見たんですけど。どう思いますか。」
「夢、て。それは壮大で嫌な終りかただな。それで何が言いたい。」
「嫌に生々しくて。今でも悪寒がしますよ。という愚痴を聞いてほしくてですね。」
「そうかい。なら気が済んだだろ。行動しようか。先ずはその夢に出ていた石は在るのかよ。」
「ええ。在りますよ。有りますけど、少しは。ふんっ。まあ、もし夢が予知とするなら未来は覆そうと思いますけどねっ。」
二人の間に投げ捨てるように石を置く。
「何を怒ってるんだ。」
「怒ってませんよ。切れてますけど。」
「はあ、それを怒ってるというのだろうか。たく、でその夢では一人で起動させたのか。」
「ええ。一人です。僕が発動させました。そして説明した通り失敗しましたよ。だからこそ二人で発動するか君が発動するかですね。」
「失敗は命を失うか。なら俺がサポートする。お前がメインで注げ。」
何故か馬鹿にしたような顔をして力を石に注いでいく。
注がれた石は発光して二人の間を浮かんである方向を光が示した。
だが問題がある。
吹雪の中を強行するのは命の危険を伴う。
「でもよ、止む気配無いよな。」
吹雪く勢いは収まることを忘れたのか、更に増して見える範囲も狭まっていた。
「仕方ないな。」
「何をする気だ。」
「一時的に操作します。良いですか、発動と同時に走ってください。」
力が流れる。肉体にではなく周囲に。
「今です走ってください。」
同時に二人は指し示す方向へと全速力で走った。
吹雪く景色は一定の距離で霧散していた。
これは範疇を越えている。人としての範疇を。
「お前。これは」
指を唇に宛て口止めを示す。
「い、いいです、か。これ、がひっ、知られた、らひは、大変な、事に、巻き込まれ、てはっ、はっはっ。」
「着いてからで良い。」
「んく。わ、わかりまし、た。」
更に加速させ吹雪の穴を走り抜けていく。
近づく程にその力が強く感じる。
二人は本能の部分で逃げを選択したいが理性が勝り、抑えながら影響の及ばないはずのギリギリの場所まで到着した。
及ばないギリギリとはいえ、その影響は拡大していく。
どうしようかと悩んでいると、ある事を思いだし小さなガラスのビンを出した。
二度目に判を押して貰うため学園長室へ訪れて判を押してもらった後。退室しようとしてからこのビンを投げて渡された。
突然投げ寄越されて落としかけた。
学園長はもう手元を見ていたが一言だけ。
何かの役に立つだろう。と。
この瞬間だと二人は頷いてビンをその力の中心へ全力で投げた。
と極寒であるため瓶が液体と同時に瞬間凍結してそのまま坩堝の核へ吸い込まれていった。
だが何も起こらない。
失敗したと落胆して諦めたものの力が一気に膨れ上がり瞬き1つで世界が変わった。
いや元に戻ったと言うべきだろうか。
あれ程に、あれほど吹雪いていた天候は夢幻のように晴れて数ヵ月ぶりの太陽が世界を照らしていた。
間の快晴である。
しかし冬を脱するのはまだ先のこと。




