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片倉トーリの日常なる非日常  作者: 十ノ口八幸
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不条理と条理の日常~少年~寒気進行1

(ほぼ)三ヶ月後。

季節は移り変わり寒さが厳しくなる時期。

生徒達は厚手の衣服に身を包み足早に校舎へと入っていく。

空は僅かに曇っていて氷雪が地面へ刺さっていく。


この世界に秋季はなく、三季で順繰りする。

春から始まり夏で終わる。

春は短く冬は長く夏は一月もない。

補足しておくと、冬も現在の世界的な気温上昇の影響で将来的には消滅するであろうと試算されている。

季節進行は緩やかに移りかわるのではなく突然であり、反転するように変わるのだ。

数百年前まではこの変わり目に戦々恐々していたが後に確立された三季節変動装置なる術式が構築され、時期による誤差はあるが制度は高く、移り変わりの時期には装置が算出した基準を元に各国が発令する。


生徒の居なくなった中庭には三人の生徒が一人は震えながら、一人は呆れながら、一人は何処を見ているのか判らないが地面に寝転がっていた。

そして現在、季節は冬季の入り口を過ぎた頃。

他の生徒は授業に身を入れ暖房の効いた教室で勉強中である。

では中庭の三人は管理人だろうかいや、先の通り生徒である。が、その身には片腕に鉄輪を首にネックレスを装着している。そのネックレスには小さな文字が刻まれ簡単には読めないよう多重に細工されている。

何ゆえ三人が中庭に居るのか。それは時間を遡ること前日。


Sクラスにて。

この日、通常は教室での授業なのだが、この時は森に入っての実地訓練を兼ねた授業が行われていた。

森、といってもレクリエーション時の森とは別の規模の比較的大きな森での訓練である。

さて、この訓練には自身の能力の把握と限界や方向性の確認等々を探るためであるが。

二人は除外されていた。

入学時に騒動を起こした二人である。

それだけではない。二人は訓練とは別に行動を許可され別々に森を探索していた。目的は授業の前。

呼ばれた訓練場(大)で数日ぶりに会った森の管理者達。

身構えるが制された。

「此度の謁見にヨク来てくれた。時間もないのでサッソク本題に入ろう。二人にはノーウレリアでの調査ヲ依頼する。例にヨリ拒絶権利は無い。罰権限の一つと考えヨ。」

疲れたようにというか実際に疲れていた二人は無理矢理に了承し肩を落としながら質問した。

「何かな」

「いえ、喋り方が随分と流暢になったな。と。」

「ふむ、隠す必要もなイ。答えよう。簡単だ。人を喰った。それだけだ。」

「ああ、誤解を解くように説明するとな、この方は何も人のそれを食べたのではない。正確には人の血を取り込んだ。のだ。血は知とも取れるのでな。まあ精神論だが、危険ではない。」

「いや、我は久方ぶりに人を喰らったはずだ。たしかに人との疎通に支障があると考えていたが簡単には喰らう訳にはいかぬ。だからこそ慎重に行動していたが。三日ほど前になるか、一人の幼き人が我の森に入ってきた。幼き故にその純粋な悪なき蹂躙にどうしたものかと手を混まねえていたところ、一人のこの学園の生徒だろう者が現れその、幼子を一太刀で切り伏せた。驚きに満ちた眼で静かに見ていると、気がつくと我の前に血の溜まりができており、口内に得もいわれぬ多幸感が広がっていた。誤解するでない、ここからが本題だ。我は何時、喰らったのだ。記憶にない。それと幼子ですあるならなぜ、人の親が側に居なかった、更にあの生徒は何者か。それらを二人への依頼とスル。」

あからさまな表情と落胆を継続させる姿勢を其々表してから拝命した。

「さて、君たちにはもう一つ担ってもらう。おい。」

反応無し。

「どうした。速く入って来なさい。」

無反応。

「何をしている。」

応答なく。

「はあ、またか。」

会場から姿を消し。

「この無能がっ、呼ばれたら速く来いと何度も言わせるな。私には貴様のような者にかまけてる時間すら無いというに。」

鈍い音と共に会場に現れたのは。

「お前は。」

「へえ、まだ居たんだ。」

現れた者に二人は少し驚いた。あの入学式以来、姿を見たことがないのである。

しかし、その姿はいくら罰則とはいえ余りにも異常である。

何をどうするとこの様な姿に成るのだろうか。


三人が説明を受け森を調べている。だけどその説明が可笑しいことに二人は憤慨する。

一人は別の行動を許可され直後に姿を消した。

二人は付かず離れずを基本として行動を共にしていた。

その理由は後で知ることになる。


散策は支障なく遂行され二人は目的の場所へと辿り着いた。

補食したと聞かされていた地点である。

「何もないな。地面も木々も何も。」

「それでも何か手掛かりを見つけないと主は納得しないでしょう。」

「そうだな、期待はしてないが最悪、あっちに掛けるしかないか。」

「まあなんとかなるでしょう。では少し進みますか。この先は何が在りましたっけ。」

「確認する。」

森林地図を出して現在位置を確認。先に何があるかを表示させると。

『大きな窪みの中央になだらかな丘あり社が鎮座している……。』とでた。

「社だとよ。どうする行くのか。」

「そうですね。この場合は行った方が良いのでしょう。ですが、敢えて行きません。なぜなら。ほら窪地それも大きなと前置きしてますでしょ。相当深いと考えられます。行ったら、命の保証は出来ませんね。」

「囲まれたらそれで終わり。か。じゃあどうする。手掛かりらしい手掛かりといえばこの社しかないとおもうぞ。」

「ええ。ですから僕らは行きません、代わりを行かせるんです。」

「どうやって。」

「簡単には行かないでしょうけど、手を出さず森の入り口で待っていましょう。」


授業終了ギリギリで森から一人出てきた。

背には大きな物を背負う。

二人は何も言わずに荷物を奪うように手に入れそのまま学園へと戻る。

授業は免除されていた。


翌日。独居房にて一人の生徒が満身創痍で放置されていた。腕にはこの世界で最も硬く重いとされる鉱石を加工して製作された拘束具。

口には自死を防ぐための簡単に壊すことも燃やすことも溶かすことも消すこともできない轡。

眼には力を削り取る効果を付与させた布。

格子を挟んだ先には番人が欠伸をしながら監視していた。

一人の監視だけで十分なのかと聞かれるだろうが十分だろう。

その目に生気はなくぶつぶつと永遠に繰り返し言っているだけで動こうともしない。

前日に三人で挑んだ依頼は一人を除いて成功となり、なりはしたが結局は手掛かりらしい手掛かりを手に入れてもその先へは進む事はなく唯一手にした物は厳重に証拠として学園の武器庫へと封印され管理下に置かれることとなった。

だが二人の功績は多少あり幾つかの褒美を与えられたが、一人はなんの収穫もなく二人の後から随分と遅れて到着した時には何もなく、悲壮な表情を携えて倒れた。さらに二人は妨害を申告して地下牢への隔離を進言し、その場で受諾され気絶していてもその身体に杭を打ち込み地面ごと指定の牢へと放り込まれた。

現在。拘束具による制限により動きはできない。

河喜多音を鳴らしながら一人の老人が現れる。

寝こけていた番人は置かされて驚き何かを言われて離れていった。

番人が座っていた椅子に老人は座り冷めた視線を向ける。

「さて、残念な知らせだ。君は主の依頼を完遂できなかった、事になっている。ゆえに君には数日に主達の贄と決定した。覆る方法はなく、また反論も無かったことで速やかに受諾された。本当に残念だと思うよ。昔馴染みの紹介で特別に入学を許可したが、半分も経たずにこの様な事になるとは。さて反論は無いかな。」

ぶつぶつと言っている。

「紹介元に確認したが好きにしろ。ということだ。庇う気もないということだろう。反論はあるかな。」

言い続けている。

「では反論もないので明日。早朝に向こうへ引き渡す。手続きは終わっているのでそれまで眠っているといい。明日以降の君の人生にはまあ、お悔やみだ。では二度と会わないだろう。さらばだ。」

大仰に出ていった。

入れ替わりに先ほどの番人が戻ってきて、椅子に腰かけると嫌な笑みを浮かべて見続ける。

音は殆どなければ発狂する。

番人は何かを聞かれても無視するという上からの命令で喋ることはない。

まあ彼に言葉は通じないのだが。


数日後。全身を拘束された人形が磔にされ森の中心へ運ばれ置き去りにされた。

刑罰としての贄。

鼻の部分だけは息が出きるように空いていたが、それ以外は全て塞がれ身動き一つとれない状態だ。

呼吸は不思議と穏やかで無理に脱出しようという素振りもない。

しかし現在、季節は冬。鼻以外を覆っているがその下は裸同然であり身を切り刻む極寒状況。

暫くして周囲に人外の気配がぼとぼつぼすと増えてきた。

威嚇される覚えはないのに威嚇されて尚も空腹か近づいてきた。

が、ある一定の距離を境に全てが止まり、しかし鼻息は荒く合図を待っているかのように座していた。

と大きな金の音が響くと一斉に襲い掛かり貪り食らい鮮血に染まった雪原さえも埋もれた地面ごと食らっていった。

後に残るは抉れた地面と踏み荒らされた雪原のみ。

ただただ静かに何も残らず時は過ぎていく。

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