不条理と条理の日常~少年~オリエンテーション
この学園の名前には一部生徒からの不満が燻っていた。
そういった生徒は不満を現すように啓蒙活動を行う者もいる。
名の変更を要求していたるのだが悲しいかなそれは叶わず。
虚しい歴史を学園に刻むだけであった。
さてそれは現状おいとくとして。
二つの問題と入学式での事案から7日後。一年生には学園に馴染んでもらうためのオリエンテーションが用意されていた。これは一種の一年生にとっては上級生との繋がりを作る機会であり。在校生には将来有望な戦力確保という側面がある。
なぜならこれは。
学内抗争と言ってしまうと暴力的なニュアンスが含まれるが自身に合う趣味嗜好やはたまた技術や能力の向上を目的とした授業外交流である。
それはこれより先への布石となっているが、それはまだ別にしよう。
で一年生全員が集められた場所は何もない果てしなく続く草原である。
事前に決められた位置での待機を指示された見目初々しい一年生は様々な表情と態度で開始を待っていた。
その中でSクラスは飛び抜けて畏怖と羨望を向けられ、反対にークラスには侮蔑と憐憫と冷笑が向けられていた。
この両極端な二クラスは遠くから見ていても異質すぎる程に極端すぎていた。
クラス全員揃っての班ー少数だからこそだがー。に対して孤立無援に孤独を併せもった班としてもましてやクラスとして機能していないたった一人。その周囲に一定の距離が空いていたことが全てを物語っている。
片や監視下とはいえ生徒会に与する事は一種の誉れでありその上、選ばれた者のみが入ることを許された教室。片や奇妙な行動や冒涜と行っても差し支えない直近の行動等を除外してもクラスの称号さえ付されない在って無き存在。現在の位置を見ていても誰もお近づきになろうとは考えないだろう。一度繋がったなら、それはもう排除の対象でしかない。故に誰も関わろうとしないのだ。
時間が来た。
生徒会直轄ではないがオリエンテーション時に限っては生徒会から全権を委譲されている遊戯委員会という一つの集団というか集まり。
この者達は遊びに対しての追随を赦さないほどの熱を燃やしている。他を排しても。
その鬼気迫る雰囲気は誰も邪魔できない。
「こほ。声を張り上げる。」
『んん。お集まりの新入生よ飽きさせないよう我らに一時の権限を与えくださった方々に謝辞を。んん。新入生諸君お初にお目にかかる。遊戯群群長です。細々した僕の事は別の機会にでも。今回の説明をしよう。』
草を数本毟り力を流しながら蒔いて言葉を放つ。
全員に見えるように大きな表示が複数。
群長の顔が表示され次に主旨を説明しながらルールとルートを
表示していく。
現在位置である草原から山の中腹へと向かうルートが表示され幾つかの関門が設けられている。さらに先着順で豪華な景品も用意されているとのこと。
『そして、ルールは厳守だけどルートは決まっているようで別に外れても咎めない。好きにするといい。示したルートは基本だからね。』
そして遊戯群含めて全員に配られた布を巻くよう指示され。
『もし棄権するならこれを外すといい。直後に学園の中庭に転送されるようになってるから。では後一分で始めようか。』
クラス内で分けられたといえそれは通常不利なように見えるクラス。
少数といえSクラスは9人しか居ない上に連携は全くとれていない。個々が強すぎるのだ。
Sとー以外の各クラスではこのオリエンテーションに備え短期間であるが連携の訓練や情報の収拾に勤しんでおり、その甲斐あって上手く連携はとれていた。
幾つかの班は正規のルートを選び確実に着実にゴールへ向かっていたし他の班は外れていても収拾した情報を元に進んでいた。
だがスタート地点ではSクラス班が罵り相いを繰り広げては誰も退こうという気概はなく平行線を続け無為に時間を浪費していたのだ。
一番の問題は誰がリーダーを勤めるのかという事に終始争っている。
静止させようにも争うSクラスをどうにか出来る者達はこの場にいるわけではなく、だからと言ってこのままにすることも出来ないのでどうにか諌めようとするのだが近づくことすら出来ず事態が明後日の方向へと向かっていく。
委員一人が近づく。
「おう。初年度で大変元気なことは結構だが良いのかよSクラスの低能餓鬼共。他はとっくに先を行ってるてのに。このままだとお前ら、降格か退学処分が確実だろうぜ。」
これが効いたのかそれまでの雰囲気は何処かへ霧散し全員の視線が鋭く抉るように目的地を見ていた。
AからGクラスは基本的に最高50人を定員としているがSクラスを除きAクラスのみ定員は実質10から多くて20である。
クラス内の班分けは入学試験実技と試験筆記の総合点を元にして分けられている。
クラス分けも似たようなものであるのだが、ここは割愛する。
Aクラスは少数だが個々の能力は高く、その潜在的な可能性に学園側は期待している。
B以下はAクラスに届かないもののその力の底には期待が込められている。
だが例外のクラス。ークラスは学園から期待すらされておらず更にはその対処に困惑していたのだが自身でその道を示してしまう愚かな行為をこれ幸いと先のような処分を課したのだ。
先行するは意外にもGクラスの班。
なんと人数に物を言わせてクラス一丸となって突き進んでいたのだ。
功を奏しトップを走っている。
それを追いかけるはDクラス。
クラス一丸は同じだが三つに分けて別々のルートから進んでいた。
その次がBクラス。
班を合流させずそのまま班毎に進んでいた。
続くはCクラスそして並走するFクラス。離れた位置にEクラス。最後にAクラス。
目的地は遠くに見える稜線の向こうに広がる森林地帯。
その入口がこの日の終着地点。
先は長くて短い。
夕刻。
大きな焚き火の周りで生徒達が談笑に花を咲かせていた。
「声を届けよ。」
『一年生諸君。今日はお疲れ様と言っておく。花も咲いている所に水を指すようだが明日の日程を報告させてもらう。』
『その前に。今日の順位を発表する。中間なので景品も何もないですが。』
本来各クラスに6つの班もしく5つの班を編成させて進行していこうとしていたが、一つのクラス。Gクラスが始めたことだが最後は一クラスでの軍団規模になりクラス対抗戦へと変貌している。
が想定していたとはいえそれまで気を回す気はなく、班毎での集計を表示する。
『班別の得点はこのようになっている。』
表示された画面には現時点での順位が記されており、暫定一位にはAクラス次点でSクラス。そして最下位がGクラス。ークラスは論外として記載されてない。
『さて明日の日程だけど。この夜営地から離れた場所に転移陣を構築している。その転移先から最終地点まで向かってもらうことになるが、一つ問題が発生してね。まあ少し弄れば解決するだろうけど、何かの拍子に事故を起こしても問題だから近づかないように。では明日も早いので出来るだけ早く寝るように。以上。』
解散だが皆は寝床に戻ることはせず明日への準備などのため班毎に分かれ話し合っていた。
二人を除いて。
森林浴には些か場違いな場所にて一人で歩いている。
その随分と離れた位置からもう一人が後を着いていく。その距離は着かず離れずを保ちながら一定の速度。
明かりさえ届かない鬱蒼とした闇夜の森を進んでいく。
聞こえるは葉が擦れる音と二人が触れる周囲の音。
唐突に前を歩くものが何かに木にあたってしまう。
「・ー-〜〜〜〜※ー」
方向をずらして少し歩く。
「〜¨… ̄|ー」
一歩ずらして歩き。
「〜・・¨」
ずらして歩いて。
「+≦⊃」
何度も繰り返したどりついた先。
一層密集した場所で止まり腰を屈めて何かをしてからその場を離れた。
十分な距離を確保してから向かうと。
「何もない。でもこれは、石。とか、じゃない。」
周囲には何もなかったが足元にはそう石。にしては掴んでも地面から抜けない。
「ま関係ないけど、ね。」
地面に力を流し腕を一気に引く。
抜けたのは石だった。
石であるのに何故、引き抜けなかったのか。
よく確認すると。
「消滅の印か、な。でも稚拙で大きな力はない。とこれに構ってる暇はなかった。追いかけないと。」
相手が向かった方向へ行くも姿が見当たらず、だが同じような石が地面に埋まっていて引き抜くと同じような印が刻まれていた。
夜の森で二人の静かな何かが進行していく。
早朝。
静かな目覚めから遠い悲鳴で1日が始まった。
現れたのは力を限界以上に取り込み暴走し変異した存在。
所謂、魔獸と呼ばれている。
寝込みを襲われ数名の生徒が負傷したが命までは取られていない事が幸いだろう。
遊戯のメンバーも応戦するが彼らの極致は遊びに割り振られ攻撃力は無いに等しい。
「く、全員、今すぐ布を切りなさい。学園には。」
「連絡は届けますが間に合いません。確実に。」
「ぐうぇ。結界は張ってたよな。」
「はい。顧問謹製の結界を張ってもらいました。何時もより強力に。」
「じゃあ、何で。」
「判りません。ですが顧問が失敗と言うことは有り得ないので、外的要因としか。」
「ぐ仕方ない。それじゃあ散会して誘導。出来るだけバラけるようにして適当な頃合いで学園まで転移してくれ。」
「ですけど負傷した生徒が居るので簡単には。」
どうするかを悩んでいたが魔獸の前に二人が立ちはだかる。
止めるよう走る前に魔獸の一撃が襲いきていた。
目を反らし現実逃避の行動をしても嫌な斬激音が聞こえない。
閉じた目を開くと魔獸を一刀の下に伏させていた。
「ぶふっうぅ。なぁんだよ。こんなもんか魔獸てのは。聞いてたより呆気なさすぎるぜ。」
「油断は禁物だ。これで終わるとは思えないし続きがあるだろうから確実に。」
言葉通り、別方面から木々を薙ぎ倒し森林の奥から現れた魔獸は先ほどより幾周りも大きく二人の方へと向かってくる。
「これはおもしれぇ。あれは俺の獲物だ。邪魔するんじゃねえぞ。」
「ん。なら拝見しよう。もし勝てたならSクラスのリーダーは君だ。」
「へ、その言葉を忘れるなよっ。」
終わるより速くに巨獸へと向かっていく。
「も、戻りなさい。あれは、君の。」
「大丈夫ですよ。あれならそう潰される心配は無いですから。見たところ巨体を生かした攻撃が主体。なら懐に入ってしまえば後は一撃で仕留められます。」
「ば、そんな事を言ってるんじゃない。あれは。森獸の長。ヴァニエイド。この森の管理者です。殺してはいけない。」
「え、でもこのままだと僕達皆死んじゃいますよ。止めようは無いですね。ほらあの目を見てください。自我はなく完全に暴走した状態です。あれを殺さずに止めようなんて簡単には無理ですよ。こちらも命を賭けてますからね。もし命を奪わず逃げに徹したなら確実に学園へ被害が出ますよね。なら諦めてください。」
「そうじゃない。あれを殺してしまったら。」
「お、終わりましたね。約束通り君がクラスのリーダーだ。素直に従うとするよ。」
戻ってきたその表情は冴えない。
「どうしましたか。嬉しそうにすると思ってましたけど。」
「なあ、あれって森の主か。」
「いえ、長らしいです。」
「おいおい。なら不味いぞ。」
「何を焦ってるんですか。危険を排除したそれだけです。まあ暫くこの森は危険地帯になるでしょうけど。仕方ないですよ。さて群長。戻りましょう。事の詳細を説明しないといけないですから。」
「おま、えら。やはり問題を起こすのか。聴いていたのに。判っているのか。あれを殺すという意味を。」
「だから言ったでしょ。森が危険地帯になると。」
「そうじゃないっ。不味いぞ。速く戻って指示を仰がないと。くそ。今年は何て最悪な。」
「取り敢えずこの場を離れないと。危険です。行きましょう。」
「そ、そうだな。ぐ。くそおぉ。責任は君達が払うんだな。弁明は聞かれるだろうけど絶対に受け入れられない。覚悟しておきたまえ。」
困惑した空気だったが何とかその場を離れ学園まで最短ルートを走っていった。
一人は理解できず。
一人は頭を振りながら汗を流して後方を少し見ていた。
目端に何かが走ってくる。
誰かが布の事を言って全員が千切ると姿がその場から消えた。
オリエンテーションは強制的に終わることとなった。




