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片倉トーリの日常なる非日常  作者: 十ノ口八幸
27/49

高レベル

麗らかな日射しの下。男女が川辺を歩いていた。

男性は女性を気遣うように注意を払い側を歩き女性も速度は遅いが慈しむような眼差しで歩いていた。

数日の内に子が産まれるだろうと予想はできる程に大きい。

だがずっと部屋で引きこもっていても胎教に悪くこうして短時間だけ散歩に出ていたのだがそれは普通に現れた。

通常であれば悲鳴を上げる余裕すら与えられることなく地面へ横たわるのだが。

二人を襲おうとしていたその魔獣は前触れなく吹き荒れた風に切り裂かれ逆に地面へ肉の塊を落とすことになった。

事態が飲み込めない二人を他所に風は止んでいた。


これはほんの些細な出来事だった。

だがこれは世界の後に名声を轟かせるための前準備。

二人は祝福だと考えた。

二人はこの光景を忘れないだろう。

差し込む日射しと異様を放つ魔獣の残骸が何かを暗示するようなこの光景を。


数日後に女性は元気で元気すぎる赤子を産んだ。


主治医の悲鳴と男女の悲鳴が丁度共鳴した時に入ってきた女性の父親は何事かと思ったが、その光景に納得した。

しかし父親は。

いや、この時点で祖父となっているか。

「おぉ、これは正に僥倖だ。世界に祝福された神子であろう。間違いない。くく、あの先読み師め本当に当てよったわ。ふがはははははっ。さあ良く儂に見せてくれ。」

頬を撫でる風が吹くと床が血に染められていく。

「むおっ、これは、」

「お、お父様。」

「狼狽えるな愚か者。この程度で狼狽えるは滑稽。ふはは。撫でられただけでこの威力。面白い実に。明日、鑑定師を呼べ。信頼するあの者をだ。」


翌日に手ぶらの若者が屋敷へ到着した。

「おお待っていたぞ。さあさあこっちへ来てくれ。」

有無を云わさず案内された部屋はひどい有り様だった。

「ふはっこれは思っていた以上に。」

横に並んだ男は惨状に悲観するどころか感嘆していた。

「この状況を見てそれをいうのですか。」

「ふははは。さあ、あの子が儂の孫だ。鑑定してもらおう。」

「貰おうとおっしゃいますが大丈夫ですかね。これは。」

「何を言っている。ほれ早よせんか。」

「はぁ、大丈夫かな。ホント。」

決意し部屋へ入ると風が暴れ吹き荒れる。

体が浮き弾かれるように飛ばされるが力を全身に行き渡らせ風を阻害する。

「ふう。これで産まれて1日にも満たないとは。いや将来が楽しそうですね。では、鑑定しましょうか。」

と風が前触れなく止まりその中心にいた子は些細な動作すら出来ず、苦い表情のままに元凶である鑑定師を睨み付けた。

「おお、確かに凄いですね。」

「であろう。」

「だからといって貴方がその様な態度をしても無意味ですよ。」

「ふははは気にするな、これ程の力だ。さぞや将来が期待できるではないか。」

「ふっう終わりました。で説明は貴方の部屋で行いたいのですが。」

「なんだ、この場で云わんのか。」

「そうしたいのですが僕を彼方がどうも気にくわないようなので。」

「そうか。では儂の部屋へ来るがよい。」

「ええ。」

扉を閉めると内側から激しい音が響いていた。


通された部屋は数々の調度品が鎮座し目を見張るほどの細工は心を掴むに値する。

それらが調和するように配置されていた。

豪奢な椅子に腰を下ろし手を組み合わせ睨み付ける。

「で、どうなのだ。」

「ええ。簡潔に申し上げますと。」

「うむ。」

「有り得ないとだけ。そしてレベルは10です。」

瞬間に笑っていた。

歓喜か悲観か判別できない。

「お望み通りですか。」

「くく。それ以上よ。そうか。産まれて1日もせず10か。面白い。そう実に面白い。」

「楽しみですね。先が。」

「ああ。」

祖父の顔には一層のシワを刻み口端を上げつつ紙切れを一枚取り出し記入すると鑑定師に差し出す。

額面に書き込まれた字を見て驚くが、納得したようなしないような表情のままに部屋を出て玄関へと向かう途中で男女が困惑しながら依ってくると何事かを言って今しがた出てきた部屋へと入っていった。


何事もなく屋敷を後にしながら一本の枝を出して言葉を纏わせ力を増幅し風と共に姿を消したのだった。


それにしても面白い。あれはもう産まれてきた時点で運命が詰んでる。そうもはや逃れようのない外れることも不可能な人生の決まった道程。

もし、外れるのならそれは。

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