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片倉トーリの日常なる非日常  作者: 十ノ口八幸
25/49

これは一つのエピローグ

帰路についていた。

頭が重く両目に走る軽い日射の刺激。

たった7日短期の仕事であるはずなのに。

内容は深く濃く。

それよりも先ずは。

「家に帰って眠りたい。身体はボロボロ。眠いしまだ残ってるあれやこれ。何時になったら平凡な道を行けるのか。」

腕に巻きついた紐が応えるようにきつく絞る。

「はは、簡単には生けないのか。」

空しさを吐き出し空を見る。

「今日は学校は使えないだろうから休みなんだろうな。まあ、今日は行けないよな。これまでの疲れが、もう。限界。」

力なくともなんとか歩いて駅まで向かう。


駅に到着した。時間的には疎らな人通りなのだが。

一帯が人で溢れていた。

見たところ持っている荷物で理解した。

「まだファンが談義に花を咲かせてたのかよ。」

だが混乱してしまっていた。

捻ってみても納得できなかったが、睡魔と空腹で考えはまとまらず。諦め駅へと入る。

構内は外ほどに人は居らず、ひと安心だがファンらしき人達が昨日のライブの話で盛り上がっていた。

定刻に到着した電車に乗って目的の駅まで起きているつもりだった。

眠気に抗えず夢へと落ちてしまう。


意識していても身体は動かせず、言葉も出しているのに理解できていないけど感情的には認識していた。

自分の認識した意識とは関係なく身体が動く。眠りたくないのに目を閉じて空腹でないのに腹を満たし動きたくないのに動いてしまう。

混乱していると誰かの声が遠くから聞こえてくる。


目を覚ますと車掌が声を掛けてくれていた。

頭が呆けて認識と思考の一致に少々時間を要してしまった。

「うえ、此処は、どこ。」

「お兄さん。終点ですよ。」

思考は未だに追い付かず。

「えと、終、点。ですか。」

「ええ。そうです。大丈夫ですかお兄さん。」

「はあ、それじゃ降ります。次の電車は何時ですか。」

「直ぐに出発ですよ反対の三番ホームからです。」

「これは折り返しじゃないんですね。」

「ええ。車庫に入りますから。」

「そうですか。」

少しの間をもって電車を降りた。

ホームに人はいない。

反対ホームに三の看板が掲げられていて確かに電車が停車していた。

走っても間に合わないだろう。

時間も何も今日は学校が休みなのだし、のんびりと次の電車を待つことにする。


ベンチに座りながら頭を空にして時間を無駄に消費していく。

久方ぶりの時間だ。

「ふうぅ面白いことなんて無くていい。願っているのは平穏な変化ない平坦で何もない日々とか最っ高。て1人で何をいってんだろう。あ、次の電車て何時だったかな。」

立ち上がらない。気温も寒くなく暑くなく温暖な気候に思考を放棄していた。

調べる気が全くないのだ。

「はふうぅっ。」

頬に痛みを感じ、同じくして体まで吹き飛んだ。

地面を転がり驚きながら体勢を正して吹き飛ばされた原因を探る必要もなく、その位置に鎮座していた。

「呆れたいが。」

冷視線を向ける。

「何故に付いてきてる。存在価値なき俺に意味はないだろう。好きに。て言ったら《 》よ歓喜に咽び哭くのか。」

応えるその両眼には揺らぐことない確定した思考が表れていた。

「そうだな。んじゃ帰りたいと願って、素直に帰ることが出来るのか。」

否定される。

何故かを示したなら。

背後から前触れなく殺意を向けられた。

憶えはなかったのだが器たる肉体は憶えていた。

振り返るは愚行。

振り返らねど愚考。

これは。

存在消失による。

在りし日の再現。

故に振り返る。

短い言葉が漏れ出た。

納得もした。

怒りと呆れも出た。

片手で鳴らし眉間を押さえて抑えた。

「はっあああああああああ。」

溜め息しか出ない。

塞がる存在は。

完全にと殺意隠す気もなく剥き出しに振るえて震えて奮えていた。

振り向いた。

離れた場所に存在していたそれは。

所々捻れ一つの眼球は異常に大きく一つの眼球は白濁し一つの眼球は一個体を確実に見定めていた。髪は疎らだが意思を持っているのか乱雑に動いていた。何かを探し求めているかのようである。

口は鼻の少し下でなく両目の下に一つずつ、両耳の穴からは手招きする腕が生えて赤く濃く次第に黒く変色していった。

体は頭の飾りのようでぶら下がっている状態であり反して腕の位置には犬と猿の頭が付いていたが眉間と顎まで大きく口が裂け太く毛に覆われた逞しい獣の腕が生えている。

足は潰れた男女の頭を後頭部同士を融解したような物が2つ連なっていて眼球は無いのに窪んだ眼孔から闇色のが涙を止めどなく流している。

その口からは怨念をぶつぶつとまるで赤子の声で念仏のように、この世の全てを破滅させるような呪詛を延々と繰り返し唱えている。


聞いてはいけないと。心の底から身体を動かした。

無理矢理なので骨と筋繊維が軋んだり切れたりしていたがかまわず動かした。

知っている。知らないとかでなく思い出したとかでなく。知っている。

「ああ、そうか、本来の転換点に座するはずの堕ちた存在。いや嵌められて堕された元は上位次元。それ故の名残か。あの時喰らったという結果さえ改変された影響でこの空間が存在しているという事でか。上の次元に存在していることで改変前の記憶を保有するという歪な感覚を持つこととなった。そして元凶たる俺を世界から切り離しているこの現状なら《 》も干渉できない。とそういうこと。これが今回、最後の面倒な結末か。さあて、どう処理したものかね。荒神というべきか、それとも業神というべきか。あの時の姿形からどうみても変異してるよな。」

全身が無意識に振るえた。

良く良く周囲を見てみれば、違うだろう。知っていて忘却していたのだ。

この辺鄙な駅を。

終点の駅を。そして先程降りた電車には行き先表示がなかった。

その表示する部分がなかったのだ。

あの車掌も制服の認識は摺れども首より上の認識は出来ていなかった。

完全に切り離された空間に閉じ込められた。

そうあの時の存在との二度目たる最悪の再会である。

《「うぉヴォろロひヒがガまデたあああぁ。」》

相変わらず混ざっている声だった。

「へえ。待ってたと。それで俺の命を奪うのか存在を奪うのか思考を奪うのかそれとも、別の行為かな。」

深く深く蔑んだ笑みを溢す。

正解だったようだ。

言った全てを実行しようということであろう。

「だが残念な、お知らせだ。」

攻撃は始まっていたが、この言葉で停止し反対のホーム屋根へと距離を取る。

「お、流石、堕とされても上の存在だけはある。理解できなくても渦巻く内側に流れる力で反射的に離れたか。」

(「な、なあニイをシ」)

「したのかでなくしようとした。が正解。なに、堕ちた高位の存在よ。理解して俺の前に姿を現し、そして奪うという事。それは大いに結構なことだと進言しよう。だが、高位たるお前の力は俺に掠めらず当たらず近づかず始まらない。なぜなら俺は世界から存在を認知されていない。即ち、この世に連なる上の次元に位置するお前の力はこの世界であれ何であれ永遠に届くことはない。俺は存在してないからな。無いものに何をしても結果は動かず停まらずそして始まらない。」

「《いびいィィィィィィィィ》」

「結論は永遠の停滞なんだろうが、一つの世界で確定した道筋はどの様に道を外そうとしても逃れようがなく、この世界で俺が居なかったとしても。そう、だっ」

終わる前に背後で停まっていた柱たる存在が結果を残して目の前にいた。

「舌打ちしても良いのならしたいが、んで、この後は、て揺れて歪んで遠の、く。」


頬に軽く痒みがあり掻いていると鳴き声と頬を襲う痛み。

「んぅえ。はえ。」

起きた場所は揺れる電車の中。

心地よい揺れと流れていく車窓の景色。眠気を振り払うよう目端を押さえる。

車窓の先には流れていく恐怖する景色。

「はは。」

と笑っていた。

頬を流れる無意味な涙を払いながら溜め息を深く吐いた。

と窓から複数の襲撃者。

其々が異なる装備をしていた。

統一してほしいと心底思ったが次の行動でそれは吹き飛び体勢を正しながら全ての殺意を受け、払う。

襲撃者達は驚きから続くたじろぎもなく次の行動へ。

狩りとりの行動だと判っていた。

だが何もせず次の行動を受けた。

だがその行動は当たらなかった。というと語弊があるだろうか。

正確には全ての行動は肉体を透過した。

何かを彷彿とさせるが無視して目を閉じる。

次に目を開けると賑わいと本当の車窓の景色。

見慣れた景色だった。

アナウンスが流れると慌てて開かれる扉に同時に出る。

慌てる必要はないのだが目覚めた直後のアナウンスは心情的に急いでしまう。

空しさが。

構内で流れるアナウンスに二度目かの空しさ。

「出よ。」


長い時間でなく断絶されていた空間は理解しているのに、もう一つの知らない向こう側。一度目の攻撃は防いでしまったが次の攻撃は幻に近い現実だと理解して動かなかった。

だから透過した。

「んで今は中途半端な時間だけど。目的は帰るだけで単純に簡単に簡潔に直に帰えれないのかな。」

何かの力かと思索したが無意味ととらえ家へと向かう。

空は、雲が。


歩いていると周囲の視線が痛かった。

自分の格好が変なのだと思って近くのカーブミラーを見ても普通だった。

改変の影響で不審者扱とも思ったが違った。

悩みながら歩いてたらいつの間にか来ていた。

「なに。」

ぶっきらぼうな態度だったが何か深刻な態度。

聞きたいことがあるのに喉から的確な言葉が出てこない。そんな態度で後ろへ行ったり横へ行ったりと忙しない。

何を聞いたとしても黙ってる。ちょっかいをしても俯いて思い詰めたように返してこないし横顔には戸惑いという困惑を全開にした表情。

此処までして何も返さないことに違和感しかなく家に着いて理解したし否定の言葉を世界に放った。


家に到着してどうしてか妹の困惑という理由に納得した。

微笑みを予想して逃げたい思惑を煮凝りのように固めたのだが逃げを選んでも止められた上に諦めて認識した。

扉を開けるとその場に居たのは普通に考えてもあり得ないが()()()()()()()その人物は出迎えてくれた。

此方も戸惑いと混乱が混ざって疲れている。


こう、改変されたか。いや、改竄かよ。


身を焼くように目の前は赤や青黄緑紫に変色して意識が途切れて目を覚まして混乱して。そんな状況の中でもすがってしまう好きな人の顔が浮かんで消えて。失くしたくないという思いと一緒に思い出が溢れて二度と消えることはなく。

混乱の中で気配を感じて玄関を開けると。本当なら血の繋がりのない人が此方を認めて当たり前のように居るよ。と主張する態度で酷く困惑を含めて笑って吼えた。

戸惑ってその横に居る妹は迎えに行った時の表情と違って何か納得したようだったけどどうしてか頬を小さく膨らませてた。


夕食の匂いがそこかしこから漂ってきている時間であるが小さな広場の街灯から離れた雑木林の中に人影。

所在なさげな態度でもどかしげに指を玩んだり地面を弄ったりと戸惑いを隠せないでいた。

正面からややずれた位置に立って上を見続けている一人。

枝葉の間から望み見る夜空。

光源より遠くに位置していることで星が見えている。

「聞きたいこと。たくさんあるんだけど。」

返事は期待していない。

「これだけはハッキリさせときたいな。て。」

暗く表情は見えない。

「ねえ。」

静寂が支配していく。

「短時間だけど。調べたの。」

答えない。

「君と家族に成ってるんだけど。どういうこと。」

反応無し。

「今日、家に戻ってくる前の記憶がないの。最初は靄のように考えが纏まらなかった。確りとしてきて部屋に居ることに気づいてでも知らない部屋。なのに不自然に知ってる。最初は怖かったけど部屋の外に出たら、やっぱり知っていて。余計に混乱した。両親と会って、当たり前の様に家族のように接してくれて更に混乱したよ。だってあの二人となんて有り得ないから。直ぐに君の部屋に行ったけど居なくて。すごく怖くて寂しくて。でもだからこそ色々出きる限りで調べたの。それと調べものの途中であの娘が帰ってきて、私を見るなり衝撃を受けたようによろめいて何も聞かないで家を飛び出したの。」

一呼吸。

「結論からいうと私は君と血の繋がった家族になったのね。」

見上げながら答えず動かず。代わりに答えたのはもう一人。

「そうですよ。姉様。」

ずっと見ないようにしていたもう一人。

あの家の娘たるたった一人の子。

「あの一族が自ら踏み込んだ呪いのような願望。そのために数代に一度、贄を差し出して長らえてきた。でも限界だったのです。だからこそ有り得ない存在であるお兄ちゃんが選ばれた。あの人の予測を越えて望まない形に治めた。だからと言って、姉様に掛けられた運命からは逃れられなかったの。あのままだと。」

その娘の表情は見えなかったが声から察するに相当な悲壮感を覚える。

「そう思っていないだろう好華。お前はこれを予測してあれを渡したんだろ。なんでか手元に無かったから。」

「あれ。て。何か渡したかな。」

「何日か前に出掛けに渡しただろ。渡したことを忘れるとかないよな。好華。」

「んん。あ、あれかな。うん。渡したけど違うよ。あれはお兄ちゃんを護るためにに渡したものだから。」

「ほう、ならなんで今は無いのかな。」

「ふふ。だってあれはお兄ちゃんのために組んだ物だから役目を終えたら消えるよ。」

「え、話が見えないけど、どういうこと。」

「本当にそうなのか。なら彼女の立ち位置がなんで変わってる。どう考えても。」

「ねえ。」

「うん。全部、お兄ちゃんの仕業だよ。あの異世界の上位を使って姉様の運命だけじゃなくて人生の一部を改変して改竄しちゃったんだから。」

「ねえ。聞いて。話が見えないんだけど。何が。」

「萌香。家に帰る前ていってたけど、一番直近の憶えている記憶は。」

「え、えとライブが終わって。何でか不安に駈られて、あれその先が。」

「へえ、姉様、ライブの事は憶えてるんですね。可笑しいな。その辺りを改竄に含めてたのに。」

「ほう、好華。」

「なあにお兄ちゃん。」

「何がなんだか。判らないわ。」

「はあ、暫く萌香と会わないなと思ってたら、これのために仕掛けてたのか。」

「うん。そうだよ。知ってたでしょ。お兄ちゃんもそうなんだから。ふふ。」

誰かが見たなら惚れてしまうだろう笑み。幸いか、暗いこともあってその表情は見えなかったが。

「はあ、そうかそう改竄させてたな。」

「え。」

「もう終わったし、後はあの家を元に戻すだけで済んだはずだったのにな、いや恐れ入った。捻り切れさせようと思ってたのにな。」

「お、お兄ちゃん。なにを言ってるの。」

「はははは。いやぁ簡単に事は終わらないよな。うん。人生とはかくも楽しき遊戯の世界だ。さてこれにてこの世の謳歌を閉めようか。」

何も出来なかった。

その一回の行動で全てが戻っていた。


そう彼が入り込む前の世界へと。


日常とは何を指すのだろう。

平和な場所では些細ない争いだけでも日常と掛け離れているように見える

対して。周囲に日頃から際限ない争いが起こっていたとすれば、それはもうその物にとっての当たり前であり、日常なんだろう。

そう、視点を変えるだけで日常は非日常に。

非日常は日常に様変わりする。

主観だ客観的観測より主観的な見方がやはり納得する。

だから世界を見守るという正直、拷問としか考えられない傍観者にはなりたくなかった。だから世界の一部を改竄して潜り込んだ。そうして世界の一部を契機に崩壊へと進む道を閉じさせた。そのはずだった。


なんて夢物語を語ったとしてもこれは予想してなかったな。

溜め息もで出ない。

世界に差し込んだ異物とか救済するための装置たりえる何かとかそんな畏まったものじゃない。

平坦で平凡な人生を送りたいと願うことは罪なのか。違うだろう。主観でならそれは小さく烏滸がましい夢にも満たない考え方。それでも平凡に焦がれるのがそれ故の所以だ。


「ホントにどうするよ。この状況と状態を。」


声に出したからとして再認識しただけであった。

悩みを抱えて進むしかないだろう。

目の前に存在する事柄をどう処理したものかと考えあぐねながら一つの結論を出して明日の準備を始める。

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