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片倉トーリの日常なる非日常  作者: 十ノ口八幸
24/49

非日常・報復絶炎

はぁ。と一息着きたい気持ちを尾首にも出さず戸張の降りた空を上目遣いでチラリと見ながら進む道。その隣には見知った顔。

鼻唄を奏でながら随伴していた。そう随伴である。

賑やかな街中を歩いてるが端からみたなら陽気な兄さんと陰鬱な兄さんの対照的な二人である。

「赤のエンドレス。」

「んん。なにかな。」

「いや昔の小説にそんな設定があったんだよな。」

「へぇ、でそれがなに。」

「別に意味は無いんだけど、その設定がな不思議なんだよな。」

「どうなのかね。」

「大雑把に言うとな、赤を冠するキャラが一つの世界を無限にやり直すんだけど実は何度も繰り返しを体験したその先に膨大な世界線が存在していてそれらの一個の問題を終り無く解決していくていう風呂敷を拡げすぎて納まりようのない話なんだけどな。どうやって作者は畳むんだろうなと。ふと思い出したんだよな。」

「へえ、で君はどう考えるんだい。」

「しらね。」

躓いた。

「で話は戻すけど本当に手に入るんだよな。例の。」

「そうだけど。不満、でなく不安なのか。」

「当前だ。いいか、今回は内容も内容の上に慎重に行動しないとだ。」

「知ってるよ。で理解はしている。」

「なら良いけど本当に会えるんだろうな。絶対にだろうな。」

「しつこいよ。と着いたね。」

二人がたどり着いた建物は。

闇夜に紛れるように闇が包む気配なき建物。

気を配らなければ見落としてしまうように存在が希薄な建物。

だが見るものには圧倒する存在感。

「なんてのが誰かの理想なんだよな。現実は甘くないよな。」

「て、何を独り言を。」

「さてさて、入りますか。」

「て、おい先に。」

遠慮も気概もなく入っていく一人後を追うように入っていく1人。

その建物の前には小さな立て看板が掛けられており、こう書かれていた。

《堂堂店》と。


中には賑わいが溢れており繁盛していることが伺えるのだが、入ってきた瞬間に全てが停まってしまった。

「ふあっふうぅ。さて、あ其処の人、奥、居ますかね。」

「いえ、現在あの方はご不在です。」

「そうなの、なら戻ってくるまで暇を潰そうかね。どうする。ん、どうしたそんな面白おかしい表情をして。」

振り返れば同伴していた者は血の気を引かせ全身を小刻みに震わせ動けないでいた。

「ん、もしもーし。しゃあない、ほっとこ。んでだ、てなんで睨まれてんのよ。」

「心当たりがあるだろう。」

「ん、心当たり。ないなうん。この店に来たのは随分と前だったしな。その時はまだ小さな子供だったし。て。」

突如全体が揺れるが直ぐに治まる。

誰1人として動揺しなかったが1人は。

「うおぉおビックリした。なんだよ今のは。」

「ほう着いておったのか。意外に速いのぅ。」

「先程着いたところです翁。」

「ふむ、しかしこの場での話はなんじゃ、奥で話そうか。」

「ええ、そのつもりです翁。」

「で、では私はこの場で待って」

「何をいうている、貴様も来なければ意味なかろう。」

「ひっ、それだけは。」

「これは命令だぞ、貴様に拒否はない。」

「ぐ、解りました。行かせていただきます。」

「なあ、早くしてくれよ、ほら。」

いつの間にか奥の扉まで行っていた。

「そう、急かすでない。逃げはせんよ。」

翁と呼ばれる者の背後で小さな悲鳴が挙がった。


扉の向こう側には雑然と並べられた数種類の箱。

天井まで積まれた箱の間を三人が通り、目的の場所へ着くと翁が懐から鍵の束を取り出し1つに触れたと同時に現れた鍵穴に差し込み回す。

すると澱む空気が流れ三人を包み込むとその空間から三人が消失した。


その場所は幾つもの言葉にすることも恐ろしい数々の道具が安置されていた。その中で腕を固着され頭を鉄の仮面で隠された1人の人間。呼吸をしているのでまずは生きているだろうが、その体には幾つもの傷が刻まれていた。

「へぇ、これが例の。」

「ほほ、そうじゃ、苦労したわ、何度も画策したが全てが徒労に終り、それでようやっとこうして手元に招いたわ。」

「どれ程の日数で。」

「ふむ、かれこれ一月は近いかのぅ。」

「で、存在の処理は。」

「無論、抜かりなく消えておるよ。その証拠に調べをしたのだろう。抜かりは無いわい。」

「ふむ、それは一安心、でこれを幾らで譲ってくれますか。良い値で引き取りますよ、此方も上から額に上限無しとお墨付きを貰ってますのでね。」

「ふむ二億、と思ったが満足したからの。ここは此だけで手を打とう。」

「ほぅっ。それはまた気前の良いことですね翁。では交渉成立です。後日、入金手続きのために窺いますが宜しいですか。」

「かまわん。それで此を二度と世の下に出さないのならな。」

「そうですか。ではこの品の引き取りを一時間後に。いえ、こうも素直に交渉が進むとは思ってなかったもので、運搬の手配ができてないのです。」

「ふほほ。かまわんよ、今は気分がいいのでな、数日だけなら待ってもよいぞ。」

「そうですか、では念のためにこれの確認をさせて貰います。」

「ふむ、そうじゃな。仮面はほれこの鍵で簡単に取れるぞ。」

「では預かります。」

鼓動が早鐘を打っている。逸る気持ちを抑えることはない。なぜなら、これまで厄介だとしていたあの忌々しいカスたれが居なくなるのだから。それにこの存在は消えている世界的に。なので何の心配もいらない。

とそんな事を考えて仮面が外れる瞬間を見ていたが、早鐘は嬉々を吹き飛ばし全身にあり得ない重圧を掛けてきた。

「んな、馬鹿な。そんな事があって。」

「おおいぃ。これはどういうことだ。」

「え、なん、で、こんな。事が。」

三人の反応は一致していた。

「おい、爺さん。一体これは何の冗談だ。この空間に引き込んで一月といってたよな。」

「む、無論。」

「ほう、そうか、でその間にこの仮面を取ったのか。」

「当たり前であろう。苦痛に苦悶に絶望に染まる表情を見て楽しんだのだぞウソなどついてなんになる。」

「翁。確認ですが、一度もこの空間からの。」

「出すわけなかろう。楽しみと実験を兼ねているのだぞ無駄な時間なぞ不要であろう。ほれ、其処に結果を記した書類を用意しているであろう。」

示した場所には鉄の棚が幾つも壁づたいに設置されていたのだが、一つの扉を開けると中には何もなく、その他の棚も空だった

「バカな。そんなはずは。ん、んん。どうなっておる。」

「ほほう、これは契約違反ですよ翁。違約金を支払ってもらおますが。」

「ま、待て待て、少し待て。そ、そうだ、おらん時の時間も逃げぬように幾つもの監視を附けておる、それを調べれば。」

三人は数々の監視の映像を全て調べた。

だが一月の間に録られていたであろう全てが物語るのは一度も動くことなき縛られた商品である。

混乱して困惑し狂っていたのかと考えてしまうのだった。


結論から言ってしまえば、この三人の目標とする商品となるはずの人物は目の前に居なかったのである。


それであり次の行動へ移すことが遅れた。

致命的に。


たった一瞬で三人は拘束されていた。手首と親指を縛られ足には重りが。首にも何かの器具が装着させられていた。

「むお、いつの間に。」

「くそっなんだよ。」

「ひ、ひひ。なんだよこれぇ、なんなんだよ。いったいよう。」

三人の質問に対する答えは直後に反ってくる。

「なんだ、まだ諦めてなかったのか。あの時、徹底的に潰したのよな。本当に懲りないねえ。残党とはいやはや、ゴキと同じでしぶといな。」

また気がつくと1人が別人の横で胡座をかいて呆れた表情を向けていた。

「よう、二人はたぶん、あの組織の生き残りだろ、んでそのじじぃは誰だよ。知ってるようで知らないな、漂う雰囲気は知ってるんだけどな。」

驚く二人と怪訝な老体。

「んん。二人には後で然る手続きで償いを科そうかね。」

「ふぐっ。」

「ひっ。」

視線を老体へと向ける。

「貴様、何者じゃ。」

「ん、記録が混乱してるのか。あいかわず雑な。」

二人の視界から姿が消えると同時に横で同じように拘束されていた翁が消え、上から埃が落ちてきた。

理解した。

「よっと、やり過ぎた。悪いねぇ。壊れた。」

片足を掴んで引き抜き床と叩きつける。

「あ、勢いつけすぎた。」

翁の体はボロボロで頭部は原型留めず腕も足も複雑に変形していた。

ただ変形していただけなのだ。

「ふむ、思ったより脆いな。判ってて用意したのか。それとも見下している感覚もあらぁな。でこれを見てどう思うよ。」

二人はあまりの惨状から現実逃避していた。

「むむ。小さいねぇ。でだ。おい現れろ。」

応えるように答えが顕現した。

薄く淡い泡のように触れたなら溶ける何処までも深い黒色。段々を形成し元ある壁を侵食していく。

「ん、やたら大仰に現れるな。」

短い音が頭に響く前に叩き落とした。

「んじゃそこの二人は内部に納めておけ後で送るように手配するから。残りはそうだな、入り口で留めて遊んでろ原型は留めとけ。」

激しい風が空間を疾走する。

「嬉しいのはかまわないが、速くしろ。」

短い悲鳴のような威嚇が反乱するが無視して。

「この部屋も使い物にならないな。うん壊そ。それがこの土地にも有用だしな、想像だけど。」

抗議があがっていたが黙らせて崩壊と消滅と消失と融解を設置して空間を去った。最後に。


夜。深い寝静まりの時刻、考えたいことがありすぎて纏まらない頭で歩いているとスマホが振動した。

画面を見て直ぐにしまう。

呆れた顔をして速度を上げる。


時刻は早朝に近く、彼方の空が白んでいた。

質素な造りである門の前に1人の老齢なる女性が静かに佇んでいたが醸す雰囲気は尋常でなく、事実、近辺に生息しているであろう命の息吹が全て逃げていた。

彼を認めると醸す雰囲気を一層鋭敏化させる。

「お早うございます。この時間までご苦労様ですね。さて、雑談をしたいとは思いませんので、速いとこ通してくれますか。ね。」

澄ました姿勢であろうが彼は見なかったことにして話を進める。

「それでは、此方へどうぞ。主が御待ちしておりますので。」

「うん。ヨラロシク。」

門が開かれ、ず。地面に大きな穴が開き地下へと続く階段が現れた。

「おや、どうなさいましたか。」

「え、いや面白い仕掛けだなと。」

「そうですか、ではどうぞ、降りた先の更に先にある部屋で御待ちであられます。」

小さく頭を下げ、手で指し示す。

「ん、行きますか。」

階段を降りていき見届ける彼女の視線は冷徹に冷淡に冷酷な感情が居座ってた。

小さく口角を釣り上げ姿勢を戻すと地面の穴を戻し何処かへと去っていく。

残る静けさは次第にか細い賑わいを戻していった。

乾いた音を響かせながら。


階段を暫く降りていると確かに長い道が続いていた。じっくりと堪能しながら進んでいき、やはり教えられた通りに部屋があった。

一息しながら扉を軽く押すと抵抗もなく内側へ開いた。

と流れ放出される空気は重く首を握り掴まれる感覚を覚えたが意を決して入室する。

誘われるように引き込まれるように吸い寄せられるように。


身体が完全に部屋に入ると同時に扉は固く閉ざされ室内の明かりが点される。

思っていたより狭い造りになっており三人の護衛と一番奥に鎮座するご老人。

前当主にして現役たる老人。

現当主の父にして様々な世界への影響力を保有する絶大なる存在。

そして巫たる彼女の親。

目の前にして初めてその異質が理解できた。

だからこそこの場面は僥倖と云わざるえない。

「何をもって呼ばれたのか理解しているか。」

口を開くも音として言葉はでない。

「む、許可を出してなかったか。良かろう許可する。」

「て思った、てあれ言葉が出てなかったのか。ふむ現当主を尻目にその保有権力は健在ですね。では先程の続きですが、理解してませんよ。ただ来たかっただけですからね。それに、先程からお出しされている空気を引っ込めてくれませんか気分が悪いので。」

「ふほほ、私に命令するか。」

「いえ、そのような事は。」

「話が進まぬな、ではどうかね。」

「ん、有難うございます。楽になりました。では地に伏して自身の傲りを反省しなさい。」

「む、お前は、くおっ。」

「効きますね。では幾つかの条約を呑んでください。そうすれば私は引き上げますよ。」

「狙い、はなんだ。」

「話を理解してますね。なぁに多くないですよ。」

紙を広げ示す。

その内容は看過できるはずもなく対話での交渉は元からない。

「やはり老いぼれ、現状を完全に理解できてないのか。」

「ふ、ふん。言葉の交渉決裂を予想していたのだろうが、」

「お、判るか。」

「ふん、その、表情を見れば誰でも判る。」

「ん、お、すまないね。何分、こうも考えられていた通りに事が運ぶとは思ってなかったので。な。」

「何者だ。」

「へえ冷静だね。」

「ふん、老齢だろうと無駄に重ねておらん。」

「ならこれはどうかな。」

視線を動かなかった三人に向けると老人の四肢を穿つ。

「っ。」

「お、無駄に重ねてないというのは伊達じゃないな。普通なら悲鳴なり絶叫なり挙げるものなんだけも。」

「三人に、何をしたのだ。」

「何もしてないぞ、約束をさせてたけど。」

「簡単に結べるようには。」

「そうだな、でもな簡単にこれを見せたら約束をしてくれたぞ。」

示したのは三枚の写真。家。山。人。

これで老人は理解した。

「速くて本当に助かるねえ。さて理解したならこれに貴方の血で印をしてくれますか。それで今回は引きますので、そしてこれからよろしくです。」

思いやりある穏やかな表面的な表情は老人の心を簡単に折った。

「ぐっ。」

口内を噛みきり指に付着させ指を紙にサインする。

「ふはっ、ふはははは。これ程の幸先よい日はない。さて、では貴方にはこれを飲んでもらいましょう。そしてこの先全てを受け入れて貰いますね。」

色違いの粒を三つ渡す。

「これを、飲めというのか。」

冷たい視線。

「ぬぬぬ。」

選択の余地はない。

くやしさを隠せず手に取り一気に含み飲み下す。

「ひひひひひ。これにて二つの契約と制約が結ばれました。我ら組織の隠れ蓑として今後は働いて貰います。」

「ぐ、貴様はなにものだ。」

「ふふ。さあ、何者でもありませんよ。私は個にして一。全にして世界。それが我らの統一思想です。」

「むむ、それは、その昔1人の子供に壊滅された宗教集団の思想。」

「ええ、そうです。そしてその後にその子供は殺され。遺体も我々の組織と他の組織によって無限に近い数に分解され所有しています。」

「ぬぬぅ。まさかあの残党とはの。目的は。」

「云わずもがなですよ。そうです。彼女の力を所有するためです。我らの女神のために。」

「ぬな。生きておった、のか。」

「ええ、あの方こそ選ばれしかた。どの様な害をもってしても奪うことはできない。なのであの時も簡単に逃れましたよ。私を含めてね。」

睨む視線に涼やかな表情。全てが上手くいったこととこれより先の世界が確実なものだと確信できる。この様な快楽はない。

「くく。やはりあの糞が。」

「おや、おやおやおや。なんですか。その言葉は。いけません。いけませんねえ。」

老人の穿たれた部分に執拗な拷問を加える。

「くひひ。心配しないでください。貴方はここで命を尽き果てるかもしれませんが。しかしその器は我々が有効活用して差し上げますよ。」

攻撃は強くなる完全に奪う行為である。

意識は遠退く命が終える。

この最後に見た光景は。

「ん。ひげっ。」

という声と染まる赤。

途切れた。


空が明るくなっていた。

鳥の鬱陶しい囀ずりに辟易しながら遠目に見える人影に呆れ果て小石を拾って投擲する。

当たる直前に角を曲がり姿を消した。

「はあ自分では手を汚さずか。相変わらず欲する思考のためなら厭わないか。気持ち悪い。」

何かの儀式のように事を終えたように追いかけずに目的地へとたどり着いた。

門前である。

「ん、そうかこの辺りか。なら潜るか。」

姿が霞のように消える。

次に現れたのは階段の途中。

「クサっ。」

階段。現在位置より下から漏れ出すような鼻を突き抉る臭い。

蔵腑を犯す臭い。

「なんだ簡単に見えてるな。」

臭いを気にすることなく前方数メートルに明かりの点った扉が複数を視認する。

完全に呆れていた。

「現れろ。」

黒に染まっていた部分から三角の形を交互にした何かが変異し長く先を割ったものになる。

直後に複数の一つを指し示し再び変異し大口径砲筒に整形する。

同時に放たれる炎の塊を放ち焦毒する。

だがその威力調節を失敗したのか勢いは扉の破壊だけでなくその奥にまで至り何かに当たり吹き飛ばしてしまった。

「あ、このバカ。遣りすぎだ。」

階段を降りて長い道を進み大穴の空いた部屋に入ると転げ回る1人と倒れている4人。

内1人は手足を酷く損傷している。

「ああ、やりすぎだよまったく加減というものを知らないのか。あの組織の者は。」

転げ悲鳴をあげる者。

「うるさいっ。」

「ぐヴぇ。」

「さて、これは、処置しようか。炎よ消し意識を半分覚醒状態維持。あ全身の制御権利は剥奪で。ん、これは焼き焦げた、契約書か。」

全身を焼いていた炎は瞬間に消滅し残った肉体は不可解なほど火傷はなく衣服も焼かれていない。

だが側に落ちていた紙は判別不能なほどに炭化していた。

「不要だと思ったのを焼いたのか。お、起きた。目を泳がせてみ、ん。出来てるな、おあ、許可してなかったか、なら許可する。でだお前には楽しい楽しい贈り物がある。喜んで受けとれ。ても言葉と状況の説明だけなんだが。」

説明していく。この者のこれまでと途中経過と完了を話した。

最初は状況が飲み込めずだが目覚めた直後に視認した相手を見たときの感覚は当然という驚きに、いやこの場合は許可をしていなかったから驚きという表情は出来ないのだが肉体の内側から露出する感情がありありと見えていた。途中で呼吸の許可を出してなかったので許可したが言葉の発生を許可したことでなく、説明を聞くことに終始するしかない。

だがその過程を聞いていて呼吸が荒くなり目は戦慄いていた。

「うんうん。そうなるよな。くく。あぁ本当に下らないことで人生を無駄にするとか、うん、笑いたいな。まあ嘲笑いだけども。お、そうだ協力関係の組織はコッチで処分したから安心して終わろうか。」

手に力を流し頭部に一撃を落とす。

何か云いたそうであったが時既に遅く。地面へと衝撃が走る。

「頭部破壊までしなかったことを感謝するように。あのバカメガネは正直、相手したくないし。んで。」

負傷し気絶した1人。老人に中腰で見下げる。

頬を軽く叩き軽く肩を揺する。

傷口から僅かな血が流れ出る。

「ん、んん。ぐ。」

「お、起きた。よ、じじいあれ以来か。ははその顔は笑えないぞ、さて雑談したいが手土産を持ってきた。おい顕現しろ。」

影より現れるは単色にして絶望降りまく存在。

「む、うおお。そ、れ、は。」

「ん、息切れしてんじゃん。老体を労れよじじい。」

「むお、死に直結していたはずだ。」

「ん、ああだからその説明をするとな。」

何かが落ちる。

引き寄せ見せるように持ち上げる。

「そ、それは。」

「ん、処分してもな、良かったんだが、まあ秘密裏に、俺を、交渉材料に、仕立て上げていたのか、なぁ。」

言葉の所々に嫌な聞きたくもない音が挿入される。

落ちていった残骸の山。

「これが証拠に引き取り手を連れてるが見るか。」

蠢くもの。

「あえてこの場で見せる必要ないんだけど。ほら見てみろ中腹部分、二人が苦しんでるだろ。後で残りかすの所へ押し付けるんだけどな。どうよこれ、ふふ、楽しいだろ。なぁじじい、昔言ったよな。俺にあれを預けたなら諦めようか。もし諦めないなら全てを、剥奪の、上、強制執行を始動させる、とな。」

応えられない。

「あ、しまった、腹がたった拍子に殴りすぎた。いっかこのまま放置という方向で。」

「おい少しは労れよ。」

「ん、いたのか。」

「いたよ、なんで来てないんだよ。」

「来てない。てああ昨日のライブのことか、いや護衛とマネを頼まれただけで本番を見守る義務はない。なのでやることをやってから、てなのを考えてたらなははは。」

「うお、どうした。」

「いや、理解してないのか。」

「んん。なにがだよ。」

「いや、あの空間を出たら。」

「そっか、消えてたな君の存在が世界に無理ない範囲で。誰のとは聞かないほうが」

「ん、全ての元凶はこのじじいだぞ。」

「んお、きさ。まは。」

「お、早いねえ。まあ、ああも行く先々で妨害というか壊れたような取り憑かれたファンのような、いやファンかあれは、まあそれは置いといて、そんな奴らが襲ってきた、それも普通ならあり得ない方法まで紛れてる。仕事でなかったら。」

「どうした。」

「どう転んでも排除してたな。うん。どんな世界を渡ったとしても結果は世界の強制力を無視して動いてたな。」

「くく、なんだよ、それ。」

「ん、どうしたよ。」

「いや、素直に助けると言わない辺りがなんとも。」

「とにかくだ。じじいの妨害は悉くを潰した。そんでだ痺れを切らした諸々が勝手に動こうとしたんだろうな。ほらお前の所に送りつけた何人かあれもそうだろ。」

「確かにあれは昔、俺が取り逃がした者達だった。どうして。」

「知ってたと思うか知らんよ。面倒だから押し付けただけだ。当日に近辺を彷徨いてたから面倒で一辺に捕縛してな。抵抗しようとした場合は苦痛と共にだけど。」

「かふ、ワシの妨害だとなぜ、言える。」

「じじい。あれをさ全て近づかせることはできないのだよ普通はな。だが全部が全員近づいて事を起していたのはいただけない。普通に考えたら不可能だよな。ならスタッフにも内通者がいたと見た方が自然だ。んでその情報は全てがじじいの下へ届けられている。事が大きくなくても小さくなくても。そうだよな。否定はできないぞ。あの事務所の経営権利は本家だし、いまだに固執し続けてる老いぼれの障害へ届けられるという仕組みは変わってない。なら簡単だじじいの一声で仕事先への道までを指定できるし第三者やその他にも売り付けられるよな。結果は妨害工作のやりたい放題だ。言い訳をしたいならすればいいけど、ズブズブと沼に填まり抜け出せなくなり。ますよ。なあじいさん」

「ぐ、くく。」

「怖いな。相変わらず。知っていて先代の妨害を全て潰したのか。」

「いや直ぐには判らなかったよ。でも諦めてくれたなら俺もこうまでしなかったよ。存分思ったよりしつこかったんで暇な時間で調べたら出るわ出るわ巧妙に隠蔽された妨害準備の数々。なんで捕獲した何人かの思考を読み取って統合したら全部、このじじいへと行き着いた。で最後には。」

瓦礫と成り果てた中から棒を拾い腕を軽く振り上げ天井を貫く。

「ぐあっ。」

崩落と同時に1人と一匹が落ちてきた。

「やあ現くそ当主でありあれの親父。更に一族とかいう他色々張り付け満載の九十九紙。」

若い男と横に六つの足と7つの羽をもち頭を複数存在していた奇怪な生物。

「少しは削れよ一族の作品とか言ってたけどな。おっさん。それとその葛紙はどれだけ付加させてんだよ不可解すぎて不可能なんだっけか。だから速く処分しろと忠告したのに聞かなかったからその状態になってんだろうが。」

「ふん、それがお前の最後になる言葉だと思え。」

「んあなにを。」

「喰らい狂わせ百拍子(びゃくびょうか)

瞬き一つで肩を掠めた。

「あ、おい。」

「大丈夫だよ。これは」

「馬っ鹿。お前の心配しても徒労だろうが。違くて。当主、その方を引かせてください。さもないとこの地に巨大な禍が発現してしまいます。」

「君は私を脅すのか。一介の存在が。」

「あ、いえ、貴殿方の心配をしているのでなく、この地に満たされるような事は避けなければならないので。そうこの土地が心配なだけです。」

「はっ、その心配はない知っているぞ、その後ろに存在しているのは模倣神体。皮を似せただけの模擬、いや模擬にも劣る。失敗作だろう。それがどうできる。それにそこのは存在自体を消されているのだ、なら心配ない。此処で消えようとも世界になんの影響もないのだからな。」

「ん、それは困る。」

「はっ、だがもう遅い。一撃目は外したがこれで終わりだ、殺れ百拍子。存在ごと下して消しされえええぇ。」

飛びかかるが途中であの模倣神体といわれたものが遮るも所詮は似せたものである。年月を重ね鍛え上げられた紙には敵わず掠めただけで力に当てられ霧散した。

「ぐくく。」

「親父様。動かないでください。傷が。」

「かまわん。これであの愚かが始末できる場を見れるのなら本望よ。さあ、喰らい滅ぼせ。」

模倣神を霧散させた時間は僅かながら線上から避けられたためにその場で止まり大きな口を腹に出現させ解放する。

「あぁ、止めてください。」

「て、本当に止めたいなら行動しろよ。本気でないくせに。」

「あ、判ってたか。」

「はあ、だからこうなるから穏便に終わらせようとしてたんだがな。二度目かああ。やだやだ。」

「何を言っている。隙だらけだぞ。殺れ。」

《きぎ、その、命令には、従えません。自分を捨てて、お逃げください。》

「な、何を。」

「ああ、じじいは仕方ないとしておっさん。その辺り気を付けなよ危ないから。て遅いか。」

返答するより速く事態は動く、天井に開けられた穴から細い、だが先端が二つに分かたれた管のような半透明の存在が丁度真下にいた現当主を喰らおうと落下していた。

「な、ま、護れぎっ。」

命令は最後まで言えなかった、とっさに避けたが僅かに掠めただけで血を盛大に吹き出させていく。

「な、と、どうして動かないで。動け、私を護れ。どうした、何故、いやどうした何を振るえている。何を怯えている。何に恐れている。」

「く、お、これが聞いていた異なる世界の、神。だと。」

「な、これが。」

「知ってるなら話が早いな。んじゃ、これあんたんとこで引き取ってくんね。邪魔だから。」

二つが更に分かたれ襲うが。

「あ、正直、お前は俺に対して何をした。」

「いや君のために働いただろう。」

「あ、働いた。て何を。」

「いやいや、昨日までの七日間だけでもあの子の近辺を君の代わりに護っていただろう。それを知らないことは。」

「んん、ても現在、世界は俺という存在が存在してないことになってるよな。なら改編された世界でのこれの行動は全部あれの為だろ。俺の余地はない。ほら俺の為に働いてない。なら俺の邪魔でしかない。な。」

「な、て、今現在はそうではないだろう。現に君を助けたのは。」

「ん。違う違うこれはそこの捻くれた餌を喰らい尽くしたいだけだ。んで邪魔な契約を先に消した方が効率いいしな。自神のためだよ。」

「じじゃあ、あの穴から入ってきたのは。」

「どう考えても効率だろ、この地点がどうなってんのか知らんけど、わざわざ壊して無駄に消費するより穴を通った方が楽だろ。ほら効率優先だ。」

「でも君に懐いてかの世界から付いてきたんだろ。」

「いや、俺に懐くとかでなくな勝手に着いてきただけだ。もし俺でなかったら今頃は世界中の聖地を蹂躙してこの世界の只一つの存在にすげ替わってるよ。」

「そんな、では今は。」

「完全に俺という一個の存在から示される言葉も届かず制御を離れて放たれて好きなだけ満たそうとしてんじゃねえの。穿つ鎖は世界からの消滅と同時に砕けて粉塵となってるだろうし。」

「ぐぉ、なぜだっ。このような存在が我らの下に来ることなど先読みにはなかったこと。やはりこの神の存在が世界の歪みか。ぐ。」

「ああ、それは、違う。」

「なんだと。くっう。」

「な、何を考えておる。」

「え、そうだ、来たならその壊れた人形も捧げてあげましょう。」

応えるように震える。

「話を反らすな。」

「ん、ああ、でだな。違うと言ったのはじじい含めたこの土地を治める一族の未来を視る。という力は十割十全個人視点が含まれていて欲する未来を絶対に引き寄せるていう強引な確定能力なんだよ。まあだから長い間に貯まったうねりがあの時に弾け飛ぶ寸前だったんだろ。それであの品を作成し贄として1人を差し出そうとした。本来ならあの行方不明となっている長兄にという直前で何者にも何物にも縛られることない俺を替え玉に仕立てたんだろ。なあ、そうだよな。イクサ。」

「ん、ああ、そうだっけか。あの時は切羽詰まってたから手近な人材をと考えて彼を選出したんだけど君がいたんだよね。ふふまさか此処まで食い込むとは予想してなかったけど。まあ学校での君の立ち位置が面白いからね。これは予想できたかな。」

「な、貴方さ、ま。は。」

「んで邪魔になったから俺を意識ごと肉体を飛ばしてあわよく異世界で命を散らせようと考えたのか。うわっ怖いねえ。」

「ん。本当はその世界で英雄なりになって残りの人生を謳歌してほしい。という切なる願いも在ったんだけどね。まさか彼方の世界から戻ってくるだけでなく、上位たる地神まで連れて帰るなんて誰が予想できるかな。」

「言ってろよ。さて、説明はこれくらいか。んじゃ本題だ。」

「な、なに、何をする。」

「なにを、て決まってるだろ。報復だよ。一回さ、この土地ごと消し去った方が良くね。」

「え、ちょ。」

「んで、過去までぶち抜いてやり直させる。そうすればこの下らない日常も少しはましになるかもな。」

「ま、まて、それは」

「てのを実際してしまうと歪みを越えすぎて次元に何が起きるのか予想できないよな。お前でも。それで今後の事を話し合おうか、むろん上でな。」

放つ言葉と裏腹に表情は憤怒である。

誰も話せない動けない応えられない。従うしかないのだ。

「あそうだ萌香の先も変えといたから、今は贄としての役目は消滅してるだろうし運命の歯車も掛け換えたから。うん。そんじゃ行くかね。」

部屋を出ても誰も着いてきていないことに呆れ果て、振り返らず一つの指示を出す。

背後で悲鳴がするが途中で途切れ静かになった。

「ん、じゃあ行こうか。上にそんで今現在、屋敷にいる全員を残さず集めようか。」

着いてくる一つの存在が一鳴き声を発する。


地上一階。大広間に集められ人達は困惑していた。

二つ在る。

一つは広間の舞台に処理され存在していないはずの者。

一つはその横に鎮座する大きな袋のような透明な物体。中には現当主と前当主。そして何時も横暴な態度で周囲の反感を買っている三人に知らない二人。何時も笑顔を絶さない者が必死の形相で訴えていた。

「やあやあ、何時ぶりかね、最近この場で謝罪をしたものだけど、今回は別件だよ。長ったらしい前置きしないので悪しからず。では単刀直入に言おうか。今後一切。俺。片倉トーリとの縁を断縁させてもらう。これにより俺という一個人という存在は君達一族含めた繋がる者達には一切の認識を剥奪するものとし関係も切れます。そして、これですが現時点を持って無用の長物となりましたのでこの場で壊させて貰います。おい、食べていいぞ。あ、その前に腹に貯めたものは全部吐き出してな。わ。そんじゃこれで一つの一族の業から始まった罪と呼べることなき何かは解消されたんで過去に消えた1人も時機を待って戻って来るだろう。これで安泰ですね。これより先に本当の安泰があるかもな。それとそこに転がった奴も二度とできないように処置したから。分かったかなイクサ。」

噎せていたがなんとか答えて納得仕切れてなかったが肯定した。

「それならもうこの場所に用はないな。帰るか。もう、太陽も昇りきってしまったし眠い。」

「まて、ぐ、」

「何ですかおっさん。二度と俺に関わらないようになった上に元の鞘に戻るんですよ。あんたにとっては安泰だろ、全てが戻るんだから。」

「おま、えは。ど。ぐ。」

「言えることは一つか二つか」

「む。」

「三つも四つも在ったら楽しいのにな。」

「お前は、このような時にでもっ。」

「そうだな。最後に。」

舞台を降り、近場の出口から体を外へと出し反転。

「では、これにてさようなら。」

皆がその物静かな別れの姿勢をただ見送った。

見送ることしかできなかった。


あの時からそれ程の期間を経てないにしても、蹂躙された森林が大部分元に戻っていた。

冷めた表情で裏門へと向かっていると人影が走ってきていた。

慌てているのだろうか息づかいは荒れており、見ているだけでもその顔には悲壮が見てとれた。

近づいてくる。息づかいも大きくなってきた。

そして。

何事もないように横を走っていった。

足音は止まることなく遠ざかって暫くのちに虫の鳴り響きだけが聞こえていた。

「し、シシャッ」

無意識に止まっていた。遠ざかる背後を見ながら。

「そうだな行くかこの場所に用はない。二度とこの場を踏むこともないだろうな。」

進んでいく太陽に照らされた森を出口へと向かって。


静寂が支配していた。誰も彼も言葉を出せないでいた。

一族の悲願。それはこの血に廻る絶望のような力を根元とする世界への反乱。だが、力なくして一族の繁栄はなく、停めることもできないでいた。だから過去に一度、一つの装置を造り直系の最も優れた力を有する者を贄として一時しのぎにでも捧げるつもりであったが、捻れは一つの代品を用意し、一族は安寧の時を向かえることができた。だが、それは結局、本来の者の存在自体を歪める結果となり世界の修復機能により家族が見ている前で何も残さず消されたのだ。

だが、あの物は言った。

全てが元の鞘に戻るのだと。そしてこの先は本当の安寧だと。が誰もが理解していた。我々は自分達の願望のために一つの存在を捻り曲げ壊してしまったのではないのかと。その様な考えが堂々巡りしていくが。

「こんなところに居たんだ。」

と汗を滴らせた少女が大広間に駆け込んできた。

急いでいたのだろう。拭うも後から後から汗が吹き出てくる。

みっともないと思ったのか荒い呼吸を整える。

「あ、れ。お父様と、じい様それに貴方は。」

少女が呼んだ三人は交互に目配せし小さく頷く。

「お、おお戻ったか。どうじゃったかのう。楽しんだか。」

「え、うんん。楽しかったわ。あんな近くでファンの声援を受けてのライブだもの最後まで不思議とテンションが上がってたわ。そ」

「おお、そうか。今日は疲れただろう部屋で休みなさい。明日は学校が休校になるのだ身体を労るために早く。な。」

「うん。そうなんだけどね。ねぇ。」

「そうだ。お嬢さん。えと、ええ。」

「うん。貴方の話は後で聞くけどそれよりねえ。」

駄目だと皆が考えていた。

否定の言葉を口にしようともできない。喉の奥に引っ掛かり小さな呟きとしても出ない。

止めようとも体は固定されているように動かせない。

止めろ止めてくれ止めさせろ止めてください。誰か。とめて。

「あの人は。トーリ君は。ど」

悲鳴と絶叫が挙がった。

皆が皆の前で最愛の。

二人にとっての。

最愛の子。

萌香が一瞬で炎に包まれ言葉も遺せず世界から排除された。

二人は慟哭し萌香のいた場所まで駆け寄るが何も残っておらず、現実から逃げ出すかのように大広間を飛び出した。

呆然としていた1人は直後に。どうしてか。不思議と。有り得ないのに。この場に似つかわしくないと理解しているのに。

「はっはああぁははははははははははははは…」

意味もなく笑ってしまっていた。

意識と離れた心の何処かで両頬を濡らす涙も止められなかった。

壊れてしまったかのよう。

祭林家に何時までも笑い続ける者と探し続ける者が無意味に。

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