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片倉トーリの日常なる非日常  作者: 十ノ口八幸
21/50

日常・幼なじみの仕事〜7日目〜

赦さない。そう言っている。

足下から這い上がるように血に濡れ染まった影達が引きずり落とそうと昇ってくる。

助けて。そう言っている。ように見えている。

何もない空間から無数の手が伸び僅かな戸惑いと恐れを懐きながら触れてくる。


どうにかこうにか事務所での説明を終わらせ学校へ向かう途中に。

乾いた笑いが漏れた。

現在進行形の事態が目の前で繰り広げられていたのだ。


会場から離れた場所での罵詈雑言の嵐が飛び交う乱闘騒ぎ。

距離もありスタッフもいない。ので止まる事がなく拡大の一途を辿っていた。

「はあぁ。たくっ。相当離れてるのにどんな影響力だよ。」

この根元である原因は判明している。

「あのお嬢さんは意識しなくても影響させる。はは。普通に考えたら世界を如何様にもできる驚異の存在。でも本人にしてみれば望んで手に入れた負の力。はっ。胸糞。」

悪態をつきながら乱闘の中へと入って対処する。同時に事務所で渡された物を腕に着ける。

「おう。全てが全部。もう戻っても理解できないな。」

言葉にして再び認識する。彼女の影響力。

拡声器を携え口にあてる。

「あああ。ファンの皆様。派閥闘争は結構なの、ですが。君達の崇める方はそれを望んでおりません。さあ。納めなさい。醜態を晒し嫌悪を懐かせるが目的か。それはこの祭壇を汚す行為にしかならず。我々、祭歌の盾が全てを無情に断絶する。」

悪意は一斉に向けられる。

実際、祭歌の盾と言いながらこの闘争を納められるとは誰も思えなかったのだ。

「そうですか、もし向かってくるなら今日のライブは残念ながら見られなくなりますが宜しいので。ならそれを承知で掛かってきなさい。」

周囲を囲まれ逃げ道無し。

「ていうか正直、近所迷惑甚だしい。」

「ウるぜえぇぇ。知ったことかよおおぉ。」

「これは俺達の問題だぁ。よそ者がしャしゃり出てくるんじゃねえよ。」

「お前がきえろよなぁっ。」

「と、反省無し。」

暴動と化していた情況に油を注ぐ言葉。止める気が無いように誰でも思ってしまうだろう。

が、見てしまったものは仕方なし。

「うらあああぁぁっ。死ねやっあああぁ。芥子糞粒がぁ。」

「ははは。一人でこの群衆を抑えられると思っていたのかよ。浅はかすぎるぜええぇ。」

確かにトーリ一人に対して群衆であるファンは一帯を占拠するほどの規模。普通に考えても無理だろう。

でもそこはトーリである。

「忠告は一応しましたよ。なので。()()()。」

直後。彼らの目に映ったのは青く何処までも深い単色の空。軒連ねるはずの住宅。真っ直ぐに舗装された道は抉られ所々陥没し深い穴からは大量の水とガスが漏れている。

「あ、やっばっ。やり過ぎた。」

地面に転がる人の山々。

「この場合。絨毯かな。さて、」

スマホを取り出し連絡する。

「あ、すみません。重軽傷者が多数。場所は。」

事細かに話。

「あ、はい、ではお願いします。」

仕舞いながら。

「んじゃ数分で救急車が来ると思うから動かず、じっとしといて下さいね。下手な事をしたら一生ものの傷を負うかもよ。」

簡単に聞かないのが感情一つに支配された者達である。軽傷で済んでいた者が立ち上がり圧倒の理解まで及ばず向かっていく。そしてさらに傷つき地に伏す。

これを繰り返し残ったのは無惨な光景による重傷者の絨毯である。

「ぶふう。結局、一人として注告を聞いてくれねぇでやんの。あ、時間だ。行かないと。そんじゃ後は後悔しながら病院で残りの生涯を過ごしてね。」

と言い残しその現場を後にした。

意識のある者からの悔しさからくる言葉が響いた。


これまでの事を考えてみれば理解はできるだろう。

でも理解したくはなかった。

なぜなら。

「おらああぁ。それは俺のだろうが。勝手に取ってんじゃねえぇ。」

だの。

「は、はあ。殺れや歌枝や踊り狂えよ。最後に残った奴この限定品を贈呈してやろう。うぅぅん。美学だねえ。」

とか。

「むむ。君はその品で本当に後悔はしないのだね。これは君の人生を決めるかもしれない事柄かも知れないぞ。良く良く深く考えて購入を検討したらどうだい。もし不安なら一時的に預かってもいいが。どうする。」

さらに。

「へええっ。ほうっ。はっはぁ。ふふん。それはそれは。お、ふひひひっ。くかっ。別にどうでも。」

等々。物販区画では何やら蠢いて暗躍めいたことが横行していた。

仕方無しに。

『んん。ええ。本日はご来場くださいました皆々様、誠に有難う御座います。空も晴れ渡り絶好のライブ日和でさらにこの場に御越しくださいました皆々様はさぞ幸運な方々とお見受けいたします、がそれはそれとして、もし近隣への迷惑行為を見受けられた場合には特別権限の行使を執行させて頂きます。あの時の事をお忘れの方々はいらっしゃらないと思いますがな。』

空気は冷えきり、ピッタと停まった。スタッフもファンも視線を向ける。

『それと今から御呼びします方々は後で事務所まで御同行願いますので悪しからずでは、今日この日に幸いあれ。』

にこやかなお辞儀をして臨時事務所へと向かう。

でもだからこそ道を阻む者が塞いだ。

「あ、なんでしょう。急ぎの用事がありますので。」

「なあ。アンタ。あの娘のマネージャーか。」

「いえ、違いますよ。どうしてそう考えたのか知りませんけど、退いてくれますか。急いでいるので。」

「ならこの腕章はなんだ。知ってるぜ。これは特別なスタッフにしか配られない品だってな。アンタ。本当はマネージャーだろ。」

「ん。だから違うって言ってますよね。」

にこやかな笑顔を張り付けているが内心呆れていた。

「もし僕がそのマネージャー。として貴殿方に何の因果があるのですか。教えてくれますか。」

「へえ。知らばっくれるとか。それならさ。」

スマホを出して画面を見せてくる。

「これを見ても同じ事を。」

その画面には先程言っていた()()()が写っていた。

「なあこの時の事はナアナアで済まされたよな。俺達は知ってるぜ。」

「はあ、解りました。では何をしたら納得してもらえますか。」

「謝れ。」

「は。」

「地面に膝を着いて、頭を擦り付けるように俺達全員に詫びろ。それで俺達が納得したら通してやる。」

「ほうぅ。それは詰まるところ。永遠の謝罪要求。をご所望かな。」

「あ、何を言ってる。」

「俺達に謝って。ですか。それは一人でも納得しなかったらエスカレートしますよね。内容がそれで最後は全てをしゃぶりつくして尽くして尽くして悦に入って終わりですか。はは。下らなく滑稽だな。」

「な、おま。」

「おっと振り上げた拳で僕を殴ったらもう取り返しがつかなくなりますよ。それで宜しいのなら。」

「ぐっ。」

と騒ぎが大きくなる前にスタッフが慌てて止めに入ってきた。

その場は納めたがファンの怒りは当然おさまる事はない。

これが燻り、一つの更なる事件を起こしてしまう。

トーリは一応として手を正面に制止の姿勢を示した。

「言いたいことは。ひとつ。」

止まるファン。

「へっ。」

言葉は本当に一言。

相手を侮辱する言葉。

止めていたスタッフは顔面蒼白。

対してファンは怒りが頂点を越え黒くなっていた。

「お、越えたか。ならおい。蛇俺を喰らって終わらせろ。」

何処に潜んでいたのか。一鳴きと共にトーリを頭からその腹に納める。

悲鳴はあがるが、ファンは全員が高揚していた。

「んじゃ噴射して後は適当に回収。んで医務室で放置かな。あそうだ連鎖の因果でベッドに磔で。」

答えは鬼気とした鳴り響きだった。


時間は迫っていた。なのに好転することなく定速で推移していった。移ろわず異ならず変わらず停滞していた。

焦燥に似た不釣り合いな何かが汚染するように蔓延していた。

表での騒動の数々。

裏ではスタッフ達が慌てていた。

その理由は。

部屋の前で数人が何かを言っている。

扉を叩き焦った言葉を投げ掛けている。

「どうしました。」

「ん、ああ。君か。萌香さんが。」

「出てこない。返事は。」

首を横に振る。

「そうですか。で、この部屋の鍵は誰が。」

「今、取りに行ってもらってます。」

「そうですか。失礼。」

取っ手に触れるとビリっと電気が走る。

静電気などという生易しいものでなく指先から殺すような電流が走った。

慌てる周囲を無視して再度握るとさっきより強い痛みが全身へと走った。

「んとに、いい加減に、しろ。」

力ずくでノブを引き壊してドアを開けた。

スタッフ達が動揺するが無視して入ると。

ため息を出してしまう。

案の定というべきだろう。

目の前に展開されていたのは。

1人の少女を囲み事をなそうとしていた。

「はあっあああ。捻りがああ足りない。足りなさすぎて吐きたい気分だよ全く。」

蛇を呼んだが応じなかった。と直後に背後と右と左と頭上と足元からの悲鳴が物語っていた。

排除前提の強襲である。

「お、パターンを変えてきたか。」

驚くような言葉とは裏腹にその対処は的確に一方へと強引に体を重ね合わせ回避し接地面を起点として1人を投げ飛ばす。

飛ばした先には1人が攻撃の直後と回避された事による硬直に更なることに間に合わず向かってくる1人に打つかり小さな可愛らしい悲鳴を挙げて二人で気絶した。

気絶し床へ着地するまえに二人を足場に跳躍し天井へ。正確には天井に張り付いていた1人の頭部を蹴り抜いた天井もろともに。

床を見ると残っていた表情が笑っていた。

蔑みを込めて。が、関係なく落下速度の常識を越え残りを処理した。

「さて、何をもってこの様な犯罪をしたのか聞こうにも聞く状況にない。なれば、だ。」

無理矢理に気絶した1人の目蓋を開き目を合わせる。数瞬。納得してスタッフに指示を出してその場を後にした。

不適にして不穏に不気味な表情を残して。


夢を見ていました。それは懐かしいけど悲しい夢を。

私に手を差しのべたのはあの人。でも裏切りの烙印を押されて追放と処刑。その意志を継いだのがあの人。全く関係ないのに一族の運命に付き合ってくれていた。でも、時折、悲しさを、携えていた。でもそれを見えないように隠していた。だから、余計に、私の心は。


場所は会場から離れた遠いホテル、その側にあるコンビニへと入っていく。

中は何処にでもある、ありふれた内装のコンビニである。

適当に周り適当に商品をカゴに入れ清算を済ませるとホテルへと入っていく。

ロビーにて待っていると二人がエレベーターから出て見つけると小走りに寄ってくる。

小さな会釈と用意された袋を受け取り幾つか中身のない話をして別れた。

ホテルを出てタクシーに乗り込むと行き先を指定して発車した。

他方。

別れて部屋へと入るとカーテンを閉め、持っていた袋を逆さにしベッドの上にばら蒔いた。

何の変わりばえもない菓子類やインスタント類である。

その中に紙が丸められていた。

少し見てゴミ箱へ投入した。

椅子を出して菓子類の袋を全て開け、テレビを点けて画面を見ないで食べることに没頭する。


少し別の場所にて後処理し戻ってくると知らない間に。

「なんだろうか、これは一体。あ、其処の人。聞きたいんだけど。なしてこんな状況に。何があったのですか。」

呼び止められたスタッフは驚いたがどうにかして抑えぎみに答えた。

「いえ、その部屋に関しては此方も関与せずです。」

「そうかい。ならアナタに付いてきてくれないですか。なに時間はそう取らせませんよ。あ、ねえ。」

目を細める。

「ええかまいません。」

「では入ってください。僕の後で。」

頷いた。

先に部屋へと入るが一歩目で躓いてしまう。

体勢を保ちながら奥へ入るが目端に反射する光が走り服を裂いた。

「お、とと。いてっ」

保とうとした矢先の強襲に姿勢の制御が追いつかず勢いのままに奥の壁へと激突してしまった。

体勢は少し危険度はあるが。

「しねええぁええ。」

「その剣先は心臓を目掛けていたが残念。無駄だ。」

確かに狂いなく向かっていたが硬い音と共に弾かれた。

心臓の部分には柔い人としての皮膚でないその上、爬虫類のような硬くそして歪んだモノが胸ポケットに納められていた。

「んなっ。とかいう事をいうなよ。」

くぐもる言葉を出すが何とも言えない表情を向けてくる。

「そうだな俺も知らない事がある。なんで終わらせるか。」

同時に潰れた音が聞こえ軽く反響した。

「お、簡単に行くんだな。少しは抵抗するかと思ってたけど。ん。見てみろよ自分の腕から先を。」

「ギッ。」

「悲鳴は挙げないのか。面白くない。」

「どうして気づいた。」

「この状況で、やめやめ。暴論しか生まない無駄な時間だ。」

「ぐ。」

「1つだけだ。あの愚行の塊をとこへうおっ。」

「きさっまはあああ。」

「動けるのか。足の片方とはいえ痛みは普通にするだろうに。何が突き動かす原動力なんだろうね。知りたくもない。」

突き出された全てを止めと同じに潰し最後は中心を撃ち抜き完全に動かなくした。

「ふう。さて。時間もないし。行くか。面倒だけど仕事だしな。これでなにかあったら、ああ、しんどいな。」

諦めたようにその場を後にして敷地を出ていった。向かうは。


住宅街。いや、ありきたりか。なら倉庫街。というのもあるが使い古されているし、距離も相当にある。なら近場でというと近くの森林だろうか。しかし身を隠せる場所などないに等しくあっても1人がやっとか。それは無理矢理に押し込めて。という前提条件があるのだが。

「さてさて、本当に在るのかねいんやこの時は居てもらわないと困る。」

とぶつくさと言いながらも目的の場所。学校側の森林奥に鎮座まします祠まで足を運んで来たのだが。

「変化も変哲もない。困った。正直、手の打ちようが無くなったようなもんだが。どうしようかね。」

悩むように祠へと近づき。

「ん。なんだ。いたのか。」

これから先はどうしようかと祠の周囲を回る積もりだったのだが、裏手に蛇が舌を地面へ向けてチロチロしていた。

「おいおい。まさか。」

頭を掴んで目を合わせると。

深く不快なため息を1つ吐き出す。

「たくっ。」

「ヒシャッ」

地面へ投げ捨てて周囲を見回す。

視線があるが時間も時間である。

何とかしてどうにか成ることを祈って。

その場で目を瞑り屈んでみた。

「う。」

眩むような感覚的な揺れと吐き気。二つの声が遠くなっていく。


目を開けるとそこは。広大な場所。ではなく狭く、苦しく、箱のような部屋。出入り口らしき扉。

「簡単に事を運ばせないか。」

さてこれより先は今回最終事態収拾である。

面倒ごとに巻き込まれ日々に起こる事々も最後だと考えると感慨深くは。

「ないな。正直、あの馬鹿に巻き込まれて嫌になる。これを最後に縁を切れないかね。」

諦めるような言葉とは裏腹にでもなく正真正銘なことばである。

「んじゃ、行きますか。迎えに。」

扉へと近づく。

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