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片倉トーリの日常なる非日常  作者: 十ノ口八幸
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日常・幼なじみの仕事~5日目~

日が昇るにはまだまだ早く、大多数が夢の中。

乾いた靴音が心を写すかのように鳴り響く。

等間隔に設置されている外灯が暗い道を照らして、余計に虚しくなる。

「ふうあふう。眠い。はあ、今日で、何日目だったか。な。と、そうだ五日目か。あと、今日含めて三日。はあ、サボろうとしても。どうせ。」

「ん。ふふ。サボったら赦さないんだから。ね。」

「はあ。どうしてこんな面倒なのに。」

「ねえ。今日のスケジュール、把握してるよね。」

「んあ、そう言えば何か忘れてるような。お、そうだ。」

指笛を鳴らす。と近所迷惑なので。

指を鳴らした。

軽い音と同時に周囲にざわめきが溢れてくる。

「ちょ、な、なに。し、て、え。」

「さて食前酒は旨かったか。」

「シャシー」

「そうか、じゃあ行くぞ。」

「な、なに。一体。何をしたの。」

「ん。なんだ居たのか。時間がないのだろ。ほら、行くぞ。」

「え、ちょ、私の質問に」

「シャハーッ」

「ひあっ。もう。何なのよ。」

二人と一匹が駅へと向かう。


何時も通っている最寄り駅。

それでも毎日毎日同じ日常を満喫出来ている。のかどうかは正直疑問符が付くのだろう。が、それでもこの駅には何時もお世話になっているのだが。

この日は違っていた。

何がと聞かれたら百人が全員こう言うだろう。

『どうして駅が液状化しているの。』と。

言葉通り二人と一匹の前には駅舎、路線、柵。僅かな範囲の道路までが液状化しており。不可解な状態になっていた。

「これって。はっ。もしかして妨害。ううん。それは無いわ。だって私がこの道を通るかどうかも、それに。」

「なあ、蛇。一つ言いたいが。良いよな。」

「シアッ。」

「うん。そうか。じゃあ。まあ、俺の言わんとしていることも理解しているな。」

「シシシ。シアー」

独り言を呟き何かを納得しては否定するその子の腕を引っ張り、蛇の中へと押し入れる。

気がつけば蛇の腹のなか。

「心配するな。消化はされない。安全に現場まで送ってくれるだろう。じゃあ。現場で会おう。」

小さな振動の後には静かな時間。


蛇は振るえると小さな跳躍をしてトーリの視線の高さで消えた。

まるで自身の存在を見せつけるかのように。

「で、何のようだ。」

視線は上部。

空へと向けられている。

『ぐくくくくくっ。人間。我を関知するとは面白き子と見受けるが。』

「そうか。で、二度目だ。何のようだ。」

『そうだな。見たところ器も申し分ない。そして内に秘めし底も見えぬ。なれば。くく。』

「なら早く用件をいえ。三度めの正直だ。これ以上は。」

『そして報告にあった異界の存在も確認できた。まあ、我らには驚異とはならぬが。さて。ん。どうした」』

「さて、忠告はした。四度めはない。滅べ。」

『何を。グカッこ、これは。』

存在は霧散していこうとしていた。

「はあ、どうしてこうも人の話を聞こうとしないのだろうか。」

「ひぃ。な、なんで消滅の少食が。」

「ん。そんな名前なのか。まあ、戻った先での伝言をな。それで終わるかな。」

言っている意味を理解させるより早く近づいて、その中心を穿つ。

硝子の砕ける音が鈍く響くとそれは霧散していく。

「上手く逃げたかね。さて。現場まで何事もないと。祈りつつ。行きますかね。あ眠い。」

駅は周辺含めて戻っていた。


到着したら問答無用に殴り飛ばされた。

「さて、言い訳を聞こうかしら。」

「言ってどうにかなりますか。ならないなら言わない。」

そんな事を考えていたが口にはしない。

「そうですか。じゃあ。言いますけど。」

側頭を蹴り抜かれ、壁に当たる。

「ふひゅっ。は、反論、させて、下さい。」

「そう。なら言ってみなさい。」

「はあ、逃げ」

「逃がすなんて甘い考え捨てなさい。」

諦めて素直に来るまでの詳細を報告した。

何か納得しきらないが、納得してもらう。

「はあ。どうして。」

「行っても。」

手で示された。


最初の角で腹に強烈な一撃を浴びせられ、ふらつきながら犯人を見ると。

「般若か。」

正に般若としか形容しがたい萌香が何かを持って睨んでいた。

痛みが文字通り走る。

それは体でなく空間を。

なぜなら。放たれた一撃は頬を捉え、皮膚から内部。つまり口腔や筋肉骨へと衝撃が通過する。のだが、それらを無視し力は透過するように反対の壁に亀裂を走らせ、天井の一部が崩落した。

幸いにも周囲に生物はおらず、負傷死者は居なかった。

「あのな俺じゃなかったら今の死んでたぞ。」

そっぽをむいて頬を膨らませる。

「はあ。もう少し自重てのは無理だろけどな。抑えようか。」

ふん。と続ける無視。

「言い訳にもならないが。そうだな。許可するなら云うけど。」

事のあらましを偽りなくいう。

「これで納得出来ないなら証明。それも物理的な証拠を提示するが、良いのか。実質時間が無くなるが。」

「ううぅっ。そうね時間は無いから。じゃあおわった」

「はっはは。アホか。終わったら契約で以降は関係無視。でどうする。」

睨み。考えて。妥協する。

「じゃあ今。証明してよ。」

何も考えることなくスマホを差し出して受け取らせ確認させる。

スマホにはどうやって取ったのか来るまでのあらましが詳細に記録されていた。


二日前としても完成度は高く。これ以上の必要は無いだろう。そう思いながら一番後ろの一番端に立って見ていた。

ズボンを引かれる感覚がして視線を移さず返答の意味を込めて足をずらす。

「うああ。メンドクセ」

しゃがんで視線が明後日を向いている。

「すみませんが。少しの間席を外しますので。」

返答はない。

勢い着けて立ち上がり天井にむけて足下のボロボロなロープを投げ上げる。

上手く鉄骨に乗ったのを確認して外へと出ていく。


「お待ちしておりました。では。」

「ああ。待て待て誰もが行くと思うなよ。猶予をくれてやる。伝えてくれ。もし拒絶なら使いを出す。」

「いき、え。ま、待って。」

「あ、後なそちらの設備をどうするとかは決まってないなら俺が勝手に決めるという事で。返答は今日中に。じゃ。」

戻ろうとして、止められた。

「んあ、そうだ行くときは菓子折りを持っていくから。というのも、付け足して。」

止められた手を振りほどいて戻る。


何か不穏な雰囲気を背後に感じながら戻ると休憩に入っていた。

天井にはロープが乗っている。

「はあ。さて、と。」

向かうは体育準備室。

その隣にある倉庫の扉を蹴破る。

「う、うあああ。」

「な、なに。一体。」

「えええ。」

驚きを隠せない面々に奥で呆然としている少女。

「はあ。自重が出来ないのか。たく。」

「き、貴様がぶぁ」

「ああ。はいはい。良いから引っ込んでろ。」

その一撃で相手の力量を推し量り黙って動かずにいる。

「さて、と。お、なんだねも少しましな方法があるだろうに、どうしてこういう過激な行動に移ろうとするのかね。なあ、アンタは判るか。」

激しく首を振り、トーリとの距離を開ける。

過度な期待などしていなかったが、(ささ)やかな返答に満足して軽く少女の頬を叩いてみる。

「反応なしか。強く。も無駄か。なら。」

反動なしに立つ。

「おい。蛇。喰らって戻せ。後、其処の者達も同様だ。」

反論は無駄だった。 いや反論以前に全てが終わっていた。

強風が背後から吹きすさぶが不思議と道具は吹き飛ばず。

次には意識を飛ばされた面々と疲れた態度のトーリ。

「もう少し強めを用意するか。日に日に増してるよなはあ。」

ヘッドバンキングよろしく頭をシェイクしている蛇は止まると吐き出しその場から全員の意識を半覚醒状態にし外へと向かわせる。

残った一人を見るとあの時と同様に意識がない。

「はあ。少し強めを持たせるか。いや、もういっそあの手もありかね。一考するにしてもなんとかなるなら良し。ならないならか。」

肩が自然と落ちてしまう。

「生まれ持った因果というかそういうのは信じないが、それでもまあ顔見知りだし手を打たないで死なれても寝覚めが悪いしな。さて」

頬に触れて内側の力を流す。

「ふ、ふぇ。あお早うございます。はえ。どうしてこんなところに。」

「寝ぼけるのは良いから速く出てくれないか。片付けをするから。」

「・・うん。そうだね。じゃあ・・お願いね。」

フラフラとしながら出ていく。

「では。片付けますか。」


「一丁上がり。てか。まあこんなものかな。」

倉庫は元以上に整頓され器具も種類毎に分けられしまわれている。

汗を軽く拭い出ると冷たさが全身を襲う。

「ほ、ほほ。まだ続きがあるとは予想外。」

終わったと考えて一歩を踏み出せば。

幽鬼と形容して差し支えないその風貌にため息を飲み込む。

反対側には()()()()いる萌香。

「影響も此処までいくと清々しさすら思える。で戻って伝えろと言っていたが、どうしていまだに居るのか、その理由を問うてもいいかね。」

「しししっ。知れたこと。何も得ずに帰れば、自身の首が飛ぶことは必定。それ故に、手柄を持っていかねばならないのだっ。」

「それでこの状況か。」

遠目でも萠香は思考を放棄したと見てとれた。

しゃがんで項垂れる。

「ああああああああ。率直にいうなら。」

「んん。」

「はよ終れ。」

「む、な。」

主観による視界には一つの終わる事象が認識された。

言ってしまえば足下にいた蛇が本来の姿の一割程の大きさで大口を開けると全ての事象をその腹に飲み下した。

結果、世界は戻っていく。


瞬時の予想外な終局に思考と肉体が擦れ気がつけば顔のスレスレに足が置かれていた。

「でだ伝えてほしいが。次お前を含めた連なる存在の姿、気配を感じるか観たなら、組織そのものを崩壊させる。」

足を捻る。

「確実に向こうへ伝えろよ。判ったな。」

小さな、確実な頷きをもって返された答え。

「一言一句間違えたなら。理解してるよな。」

起き上がり出ていこうとするその背には恐怖と後悔が共存していた。


一部が膨らんだ蛇を回収し切り離した空間を現実へと同調させる。

ザワザワと喧騒が戻ってくる。

萠香は変わらず最終調整をしていた。

「はあ。あと2日と半分か。頼み事はこれ切り。にしてもらいたいな。」

巻いた蛇を軽く掻く。


夕方には機材全ての調整が大体終わり、会議室でのタイムテーブルの調整が始まった。

が、この時にもすんなりと事が運ばない。

「しかしね、この曲は盛り上がりに欠けるよ。それなら此方のウイザーズが良いと。」

「そうね。でも今回はそれより此方の彼方からの宣戦布告が盛り上がると思うけど。」

「うーん。確かにそうだけどね、2日公演なら解るけど、今回は小さくても大規模な箱だよ。多分、いや絶対に溢れるよ。それならウイザーズから入っていくのも手だと思うけどな。」

「ええ。でも私は聴いてほしいの。新曲をそれもこの場所で。」

「はあ、曲げられないかい。」

「ええ、曲げないわ。どんな理不尽でも絶対に。」

「そうか、なら仕方な」

「そんじゃあテーブルはこれで後は中盤で一休めの曲を、そんで最後には即興を絡めれば埋まるだろ。じゃ、解散。」

一方的な物言いで即座に出ていくトーリ。

呆気にとられ皆が反論することもなく残された紙を凝視していた。


長い物を指に絡めて遊んでいると。

「ん、なんだ蛇。」

先端が一点を示していたので離してやる。

着地という物理法則を無視し、目標へと一直線に躍りかかる。

小さな悲鳴と共に振り抜かれたその者は。

「ほうっ。小さいな。」

「ちょ、ちょっと離しなさい、よ。このアタシをなんだと。」

落ち込む。

蛇を手元に戻すと視線は闇夜の空へと向けられる。

「何がしたいか知れないが。姿を見せろ。猶予はない。」

「ギシャー」

「ひっ。まっえください。」

「噛むなよ。」

「うあっ。」

狼狽しながら現れたのは小さな一つ。

してその場から現れたのは妖精というのもの。

「歪みすぎだろ。」

一人と一柱。その視界の前には一つ妖精が怯え目尻に涙を溜めて振るえながらも姿を見せた。

「妖精て。何処のファンタジーだよ。」

羽を必死に羽ばたかせ茂みより見えたのは怯えた妖精。

「素直に答えてもらおうか。偽りならそこの蛇がお前の存在を。言葉通りに消し去る。そう考えろ。」

ユルリと出てくる妖精は怯えの表情をしていが、その瞳には力強い何かが感じられる。

「おおあぉお初に御目にかかります。わ、わわわ私はフィトゥエルと申します。」

「ほう。続けろ。」

「は、はい。そ、それではこ、此方を」

出したものは小さな微小と言っても差し支えない何か。

視線で説明を求める。

「そ、それは跳躍するための、物、です。ふうぅ。服用すれば指定の場所へと強制移動さえ、まます。」

「ほう。で。」

「時が来ましたら、合図を出しますので。おねがいしま」

「ん。おい。」

スマホを弄りながら聞いていたのだが切れた言葉に妖精を見れば足をバタつかせどうにか脱出しようとしている光景。

「おい蛇。そんなもの食ったら異常に囚われるぞ吐き出せ。」

何が良いのか。

「もしかして気に入ったのか。」

頭を振る。

「ああ。それでも吐き出せ。話が進まん。」

不服の一泣き。

吐き出すと怯えた唾液にまみれた妖精が見ていた。

「はは。どうやら気に入ったとかでな、まあ後で潰しとくから話の続き頼めるか。」

振るえながら頷く。

「ひっ。殆ど終わってますけど。あ。あああああああああ。」

「近づいて妖精の羽の付け根に力を流す。て、聞いたけど。で狂いは回避できたかな。て。」

確かに狂いは回避できた。だがその瞳には恨みが込められていた。

「はは。まあ、そうだな。ならこの馬鹿をお前達の世界で使役しても良いぞ。無期限でだ。」

「え。本当に良いの。なら」

「素が出てるぞ。」

「うぐっ。」

「返却は何時でも受け付けるぞ。何、此方の、そのバカの失態だからな。」

二度目に頷いて。

「で、ででででは。時が来たら。」

「おう。いくぞ」

トーリの返答に納得して消えた。不穏な笑みを残して。

「で、蛇。そんなに気に入ったか。」

返答の鳴きが響き五日目が更けていく。

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