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片倉トーリの日常なる非日常  作者: 十ノ口八幸
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非日常・依頼ー要請と受諾ー

近くの河川へと足を運び、夕空に照らされる河面を眺めて黙っている。

トーリは居心地の悪い感覚を覚えながらも見ていた。

沈み行く太陽を眺めて闇夜が世界を塗り潰していく。

同時に周囲が動いた。

草の陰、河の淀み、鉄橋を支える柱の陰から乱雑な気配がする。

「はあ、これは君の。」

「いや、いやいやいや。俺は関係ないぞ。一体なんだ。」

「それはないだろ。此方はに関係ないしこの地域は管理外だ。」

「ならこの状況をどう説明する。」

二人が何かを察して納得とため息を吐きだす。

「これは妨害か。だとしても大半の組織は君が。」

「おう、潰したな痕腐れないように完膚無いように。そのはずだぞ。」

「そうだ。ならこの先はコイツ等を調伏してからで。」

「いや、それはお前がしろ。疲弊させることは手伝うけど。」

「んな、そん」

「反論は終わってからだ。じゃあ行くぞ。」

この世界から多数の異常が伏された。


夜が支配する時間。

光源も1つ、二つとしかなく、遠い。

二人を直接照らす外灯はなく、周囲は闇に包まれていた。

この闇が一般的な意味以外を含めるが。

静寂を破るのは、優しくもない風を原因とした草花の擦れる音と、河の流れる音。

「ふ、ふうぅ。疲れ、た。」

「こんな所か。あとは任せる。疲れたから続きは今度と云うことで。」

帰ろうとして止められた。

振り返らなくてもわかっている。

今、この場で可能な限りを話せ。ということだろう。

「そうだな、先に言っとくと、組み伏した全てを俺の下に敷いているとな、間違いなく短時間も持たずに消化されるな。だからお前に任せる事にした。」

この言葉の意味を彼はすぐに納得する。

「ああそうか。たしかにコイツ等をお前の下に含めたら間違いなく、逃避という選択肢を与えられる隙もなく消化されるだろうな。なら仕方がないか。なら次は。」

「おう、時間も時間だしな早く帰りたいというのが本音だ。それに対処の途中から組織とかの繋がりは一切ないと判っていた。それなら続きは。てことだ。納得したか。」

「はは。そうか。まあ、納得できない部分もあるが、ここは引こう。では契約だ。」

そして伏した者達に対して縛りの印を与える。

二人の前にひれ伏す多様な小さき存在達。

「感服しました。これより我ら一同『フェスティバル』はあなた様に付き従います。何卒お願い致します。して手始めにその無礼な者を。」

「ああ。うん。そう言うことになるだろうが、止めておけ。こいつに何かをしたならこいつの主の怒りより早くお前達という存在消されるはだろう。これは脅しでなく、警告としてその魂に刻んでおいてもらいたい。」

『ははっ。これよりその言葉を肝に刻みます。ではご用の時には此をお使いくだされば我らは馳せ参じましょう。』

そう言うと一つの品を渡して、暗闇に溶けるよう存在が世界に霧散していった。


異常な事に慣れるのは人の業の1つなのだろうと諦めている。

最初の感覚が懐かしく思うと同時に虚しさもある。

殺意も悪意も失意も害意として、心の何処かで留めておく。

そしてあの闇に染まった場所から離れて、寂しく点る自販機で二人は其々缶を傾けながら黙っている。

話の切り出しに二人は迷っていた。

迷う理由は無かったのだが、自然と二人の間から会話が消えていった。

そしてどちらかは分からないが溜め息をはいて、無言のままに解散となった。


自室にて適当に寛いでいると、スマホが鳴る。

「おお。なんだ、用があるなら手短に。」

『明日、今から送る場所まで来てもらいたい。すぐに済む。』

「了解。んじゃ確認しておく。でも断る。」

『ほほう、その理由は。』

「なに簡単な事だ。一週間だけ芸能関係の仕事依頼を受けた。なのであと3日してから行っても。」

『それは困る。時間がない。』

「そうか、なら時間を見つけて向かう」

『そうか、なら出きるだけ早くに頼む。』

「ウイウイ了解。」

『それでは。』

「おう。」

通話を切る。

「そう言えば聞いているはずだろエテレドから。知らないなんてのはないはずだし、まあ放置して問題があるならその時か。」

スマホを置いて部屋を出る。

廊下を通り階段を降りて玄関で靴を履き、ドアノブに手をかけたところで。

「何を、しているの。こんな時間に。何処かへお出かけ。ですか。」

振り返ることはせず短く返事だけする。

「ねえ。どうしてスマホ持っていかないの。心配するよ皆。」

短く返答。

「じゃあさ私も一緒に。」

「連れていくと最悪、この場所には戻れなくなるから却下。」

「っ。わかった。ならこれを持っていって。もしかしたら役にたつかも」

後ろ手で受け取り、前に持ってくるとそれは小さなリボン。

「これをどうしろと。」

「それはね心を込めて造ったお守りなの。だから絶対に無くさないでね。」

生暖かい視線をリボンに向けて、さらに生返事をして家を出る。

季節的には暑くなるものだが夜風が心地よい気分にさせる。

「で黄昏ているのは余裕の現れかい。」

「んや、正直な心からの感想だ。」

「それでは行くか。」

「何処へいくのかは。」

「着いてからだ。」

「そうか。で、」

「ん。」

「この状況はなんだ。最近、てか数時間前にも似た状況があったけど」

「ほう、群れに襲われたのか。」

「群れ。だろうかあれは。まあそうだな。」

「で、どう切り抜ける。」

「ん、大丈夫だろう。なあ。」

「なにが、な、あ。え。」

言葉の意味を問いただそうとしたが、該当するその群れは瞬時に周辺から消えてしまった。

「え、な、なんだ。」

「そうか、満たされないか、ん。それは知らん。各自でてのを忘れるなよ。」

「何をいって。ヒッッ。」

トーリの話し相手は自分だと思い、視線を向けると其処にはトーリを覆う長大な淡い色の何か。

「ん、なに、もっと喰わせないと妬け食いする。て。用意はしないぞ。お、どうした。なにか世界の終わりを見ているようなその顔は。」

「んな、なななな。なんだ。それ」

「まて、その先は言わない方が良いぞ、一応何処かの世界では神なんだと、言葉を間違えたら存在を潰されてしまうとか、何とか。だったか。」

「な、まさか、神の加護を。」

「それはない。これは勝手に着いてきただけだし、なんならお前の組織(ところ)が引き取ってくれるか。」

全力で拒否する。

「そうか、なら。」

淡い何かの一部に触れる。

「戻れ。お前の食いたいものはこの先にあるだろうから、それまで大人しくしておけ。」

高音が空間を震わす。

「鳴くな。」

可愛らしい音と煙を伴い現れたボロボロのロープ。

地面に音もなく落ちると足を伝い、体を這い、頭の上でを(とぐろ)を巻いて頭部分を中心に潜り込ませ寝息をたてる。

「な、なんなんだ一体。どうして」

「言いたいことはわかるが、このままだと何か、世界が壊れるんだと。」

言葉の意味を数分で理解して。

「着いてきてくれ。そんなに離れてはいない場所だ。」

見なかったことにして目的地へと案内する。

そうして深い闇に覆われた世界の中で、二つの存在が融けるように歩いていく。


本当に離れてはいない、廃れた建物の裏側に二人はいた。

いや正確には。

二人と。

一柱。

なのだろうか。

さてその周囲には数倍もの存在の影。

逃げる隙間はないだろう。

闇の一部が歪み一つの存在が姿を露にする。

大業に腕を開く。

「は。ははは。いやはや。これほど早くにお目にかかることが出きるとは。まさに幸運だろう。やはり祝福は確約されているな。」

腕を振る。

「ではでは、まごうことなき証を建ててくれまいか。偽を掴まされては沽券と威厳に関わるのでね。」

トーリは発言しようとするも制され、代わりに。

「お初ではありませんが、久方ぶりでしょうか。私は旧《万((よろず)の安寧》所属にして現在は〈クレイ・グレイ〉の職員をしております。社名〔リンスブルム〕と申します。以後お見知りおきを。では、早速ですが、本題へと移らさせてもらいます。

此方におわすは、かのご仁にして正真正銘の、ー有り得ない存在ー。そしてその主たる異界よりの上位者様でございます。これよりその証をたてましょ。」

と振り返りと同時に何の躊躇も動揺もなく両腕を切り落とし、屈んで膝の少し上を切り離した。

出来上がるのはダルマ。

「さて最後に。」

一撃で体の中心を穿つ。

「さてこれにて此方の証しは建てました。次はそちらを。」

「ははははは。いやいや。まさか、なあ。こうも簡単に処理するとはやはり。さて、もう良いぞ。お前達。好きに食らいつくし、凶悦集乱をして我が物とせよ。」

奇声を伴い、我先にと襲いかかっていく。

防ぐ術はなく反抗の余地も残さず蹂躙されていく。

「おお。悲鳴はまた最高の調味料たる。やはり旨きこと。さあ。全てを喰らい尽くさず寝屋に戻ってからぞ。」

凶音が一帯を狂わせ深い眠りへと落とす。


声が。響いている。

これは。誰の。声だろうか。

さて。一先ずは。ヤモチカ共の腹を満たせたことは満足だ。それに加え。あの忌まわしき驚嘆の欠片をも片付けてしまえた。これはあの方の祝福だろう。

これより先は課題が山積みよ。時間を掛けてでも。崩さねばいかんしな。

どれ。次の課題は。

ん。なんだ


到着早々に騒ぎ、満たされた腹を抱えるもの。仰向けになりながら手足を無造作に動かしているもの。直立で上向きに視線をさ迷わせているもの。多様なしかし、一貫していることは。

悲鳴を挙げていることだろう。

余すことなく。残すことなく。全てが苦しみを抱いて自傷している。

「あ、あ、あいぎっ・・・。」

「なんなんだ本当に。」

「あ、あれ。開かない。フンッ。ええ。もういっちょ。」

ガタンと大きな音がして。

「はあああ。もういい。ふっ。」

鈍く響く音を反響させ。両扉の片側が内側に倒れる。

「ふう。開いたな。ん。」

逆光により人影は要と知れないが。なんの躊躇もなく入ってくる。

「おぉいぃ。最低でも一時間位は待てと言ったろうが。はあ。それほどに空腹だったのかね。なあ、どう思うかね、生き残りさん。」

中へ入り、見上げるその顔を認めてしまうと、自分の何かが否定されるように感じてしまい、無意識に視線を反らしてしまう。

だが、反らした先には生きたものなどなく。

冷たく硬い存在の塊と化している。

「さて膨れたろ、なら早く帰るぞ。正直、明日も忙しいんだよ。これきりにしてほしいな。聞いてるか。」

見ていると肉の間を移動するように七つの長いロープが連なっている。

その連なりがトーリの方へ近づいてくる。

溜め息を吐いて少し引き、勢い付けて長い一つを蹴り上げる。

「食べるなら残しはするな。最後まできちんと食べきりなさい。保存は許しません。」

高音が響き可愛らしい打つかる音と床に重く沈むような音。

その後には何か淡いものが床を覆い着くし、少し動くと瞬時に消えた。

「お、食い終わったな。それじゃあ帰るかね。」

建物を後にしようとする者を呼び止めようとしたが、気付いて諦めた。いや留めたのだ。

なぜなら。

あれだけいた量のヤモチカ共の屍が全て消えていたのだから。

そんな諦めムードの中で。

「お、そうだった。ここで疑問を解いておいた方が生き残りであるアンタとその後ろの方々には有益でしょう。それは簡単ですよ。ここに転がっていた何だっけ。まあいいや、それが食べたのは此処にいる奴の表皮。脱皮したものを人形と判らないように加工した物だ。

まあ加工といっても殆ど処理をしてないから生みたいなもんで。なので全身に、たしか《神気》だったかを直接取り込んで、普通の存在とかなら無事に済まない。とか何とか。で、最終的にはどう成るのかというと」

「もう良いっ。」

「おう。そうか。それじゃ、二度と会いたくは無いな。」

笑みを浮かべるでも、不服とするでもなく、冷めた表情でもなく感情が死んだように変わり、今度こそ本当に外へと向かい。姿を消して気配も消えていった。

あの不可解な一本の襤褸ロープを伴って。

響く機械の音の中で、崩れるように手刷りを掴みながら項垂れ、憎しみを込めた言葉が虚しく、しかし機械の音に紛れて消えた。


工場地帯から時間を掛けて出てくると、もう動いているのはトーリのみだった。

「なあ静観しようとするのは結構だが、あれは依頼前の確認か。まさかとは考えたくないが。」

「ばれていたのか。ふふ。なあに、これはイレギュラーにもなり得ない些細な事さ。さて、時間は無いな。手短に済ませよう。

来る時間指定にある場所に来てほしい。そこで幾つかの品を受け取ってから別の場所への指示が出る。その先はそれに従ってほしいのだが、可能かい。」

「まあ、出来なくはないが、それによる対価はなんだ。」

「さあ、上に問い合わせてみないとなんとも。としか。まあ君への依頼だからそれ相応のものを用意しているだろう。」

「ふうん。まあ期待はしないでおこう。じゃあ返事は帰ってからで。」

「なんだい。珍しく即答しないのだな。」

「いやしてもいいけど、時間がな無いんだわ。」

「ん。そう言えば何かの途中だと聞いていたが、何かね。」

「あ、そこまで話す理由はないだろ。」

顎に手を当て、短く笑いのような声を漏らす。

「全く、その通りかね。それでは良い返答を期待しているよ。」

消えて完全に周辺で起きているのは、トーリのみとなっていた。

ヘビはトーリの腕に巻き付いて眠っている。


早朝。

鳴り響く目覚ましを停め時間を確認する。

「4時か。うえ、1時間も寝てない。」

ハッキリした思考の中で昨日送られたスケジュールを反芻する。

「あ゛あ゛。へこむ。」

スマホを机から取り、起動させている合間に着替える。

終わるタイミングで再び取り、幾つかをして終わらせる。

鞄にしまってから。一呼吸して部屋を出て、そして家を出る。

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