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片倉トーリの日常なる非日常  作者: 十ノ口八幸
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日常・幼なじみの仕事~4日目~

翌朝霧に囲まれた公道を軽く走っている人影が二つ。

一定のリズムで流すように走る一人。

それに対してオーバーフローとしかいえないもう一人。

鼻歌のような声が静寂に近い公道に響く。

「ふうう。と。そろそろ休憩とするか。」

「は、はあ。は、はあ。はい。はあ、分かり、ました。」

体力が尽きたのか大の字で道の端で寝転がる。

「もう少し行くつもりだがどうする。戻るか。」

道にはみ出す木々を眺めながら質問する。

反応は無いようだが。答えられないのだろう。

「は、かはっ。かはかはかはっ。」

全身の痛みと疲労で動けない上に空腹も飢餓状態。

「一歩も動け、ない。」

胸が上下し、疲労が見て解る。

「さて、休憩終わり。行くかね。」

「・・・。」

全身の虚脱感により意思に反して起き上がれない。

見れば体を解すための準備運動をしている。

彼女も無尽蔵とまで行かないまでも、常人より遥かな体力は有していると自負しているし、気力も在る。周りもそれを認めている。

が、その見ている人物は本当に無尽蔵とでも云うべきもので、平然としている。恐ろしいのは同じ時間同じ速度で同じ距離を走っているにも関わらず汗一滴流さず。息も乱していない。

「と、君、ねぇ。も、もう少し、合わせるとか、落とすとかしなさい、よ。はあ。」

「んん。え、これでも落としているのですが。どうやらもう少し、違うか。大きく落とした方が良いですかね。」

もう、言葉も出ない。

「はあ、もう構わない。はあ。まさか日課のトレーニングでここまでバテるなんていつ以来かな。」

ふう。と軽く前髪を揺らし、汗で肌に張り付く服越しに感じる心地よい風。

「そうですか、なら先に行ってるんで、皆さんと戻ってきて下さいね。」

振り返ることも反論を聞くこともせず先に行ってしまう。

もう喋る気力すら湧いてこない。上げていた頭を冷たく心地よい道路に下ろし暫く休憩とする。


早朝5時を過ぎて、全員が死屍累々と施設の広場で晒していた。

皆が例外なく思うだろう。

そう、

―どうして同じ距離を走っているのに―

「さあ、これを飲んで下さい。」

「あ、着替えは脱衣所にお願いします。」

「はあ、少し危ないですね。点滴をしますので後で運びます。」

「そうですね。では、三十ほど持ってきてくれますか。」

―ああも涼しげ、当たり前のように全員介抱している。―

倒れている人達を率先して介抱しているのはトーリ。

深夜。太陽も昇らないとかという話のレベルでなく。あの会議の皆が寝た数時間もしない時間、強制的に起こして広場に集められた。

ダンサーは当然に居たのだが。それ以外のスタッフが集められ、理解できぬままに長距離ランニングが開始されたのだ。

プロデューサーは諦めていたのか肩を落とすだけで何もせず、古参も理解したのか。同じように黙って準備を整えていた。

新参は訳も分からず突然起こされ。理解しないままに集合を掛けられた。

で、始まったのが合宿所近くの公道。長距離ランニング。

余裕や何やと関係なく、休みなしに走り続けて現在に至るのだろう。

「それでは、今は休んでてください。ですけど朝の七時に朝食ですので。着替えは各々の部屋に用意してます。終われば食堂にて各班へ必要な作業を指示します。」

涼しい顔でこれまた涼しげにスケジュールを言って、汚れた衣服や使い終わった道具を二つの篭に納めて建屋の一つへと姿を消していった。

残されたスタッフと彼女は、反論を云うべき時間が逸したことを悔やむ気さえ起こさず、黙ってその場で少しの回復に努めるしかなかったのである。


レッスン所での猛練習を外から眺めながら連絡先と内容を積めていくトーリ。

耳元で喚き散らす声を受け流し、調整していく。


漏れでる音を聴き、不快に思いもすれど表に出さず、それから続きを片すためスケジュールの調整を進めていく。


昼近くになり、用意した料理も着々と出来上がりつつある。

食堂から立ち上る心地よい香りはスタッフ演者全員の食欲を刺激するものだった。


食事半ば。

配膳や給仕に徹していたトーリは談笑を切り裂いた。

「ええ。では、これからのスケジュールなのですが、ライブまであと、何日だっけかな。まあ、そう長くないでしょうけど。」

自ら入れたコップを取り、茶を啜り、喉を潤す。

「はぁ。スタッフの皆さんは会場の設営をといっても後は設備の調整等ですね。ダンサーの皆さんや振り付け師には彼女と同行してもらって、一層の練習を。プロデューサーには上との調整やらを。と、こんな感じですけど、質問あれば、可能な範囲でお答えします。ではどうぞ。」

複数が手を挙げる。

適当に指して。

「じゃ、じゃあ良いですか、ね。」

「どうぞ。」

「では、始めに断っておきますけど、この場の総意と受け取ってくれて構わない。非難は甘んじて受けます。」

咳払いを数回。

「君はどうして仕切っているのだ。昨日今日姿を見せたのみで、僕達にそういった事を指示を出す権限は無いだろう。それとどうして彼女のスケジュールの管理をしているのかな。聞くところによると、何時も同行している女性が居ますよね。なんで彼女でなく、知らない者なんだ。」

「答えは簡単で、一週間だけの臨時マネですよ。何時も同行していた女性は別件です。それ以上は絶対に有り得ない。」

プロデューサーは何も喋らない。

下手に口出しして事が捻れても後が面倒だからだ。

「そうですね。もし疑われるのなら彼女の事務所にでも連絡を。もし、何もなければ、素直に認めてくれますよ。」

急いで依頼主である事務所に連絡を入れ、事の詳細を訪ねる。

最初は怒号に近い語気、次第に弱まり最後に肩を落として納得したように通話を終える。

「で、どうでしたか。」

「ふ、ふん。どうやら本当と言うのが解った。それでも。」

と更に食って掛かろうとしたのだが、プロデューサーがそれを窘めた。

「ありがとうございます。プロデューサー。では、本番含めて3日でしたか。宜しくお願いします。ね、皆さん。」

誰も何も発言しなかったが、その笑顔は何処までも不愉快極まりない。その場繋ぎと理解できるモノであった。

食事が終わり後を片付けていると誰かが入ってきた。

黙って手近な椅子に座ると足を組み持参したであろう水筒を傾け喉を湿らす。

メモ帳を出して何かを書き連ねていくが不意に水筒を軽く弾き、傾き、元に静止して又弾くを繰り返し。飽きたのか突如唸りだして。かと思うと声を出してから再びメモ帳に何かを書いていく。

食堂には洗い物の音と書き続ける音が奏でられる。


納得したのかメモ帳を閉じ食堂を出ていった。

「ふううう。終わったか。何なんだろうな。他ですれば良いものをわざわざこんな場所でしなくても。」

そんな独り言を誰かに聞かせる訳でもないが、ひりつく感覚は首筋に嫌な物を宛がわれたものと同等の緊張感が纏わりついていたのだ。

「本当に此方に来なくて正解だったな。あの人は。」

来ていれば大事に、それだけでは済まなかったろうと考え、背中に気持ち悪い感覚が突き刺した。

頭を振り、気持ちを切り替えて流し続けていた水を止め、食堂を掃除してから用意していたトランクを持って外へと向かう。


姿を見せて楽しげな空気が一変して不快な溜め息が此処彼処で吐き出される。

食事時の一件で納得できない部分もありトーリに対する不信感は増大していた。

これは食事以前のトーリがとった行動も起因しており、特に新参のスタッフはあの夜の出来事がありそれからのトーリの行動が更なる不信感を抱かせていた。

「そんなに僕が嫌ですか皆さん。しかしですね、そんな空気は彼女が一番嫌いなんですよ。知っているでしょ。」

ヒリヒリする張りつめた空気が覆っていく。

逃げたいがこのまま放り出せば後々必ず大変な事態には確実になるだろう。

そう思いトランクからハリセンを出して数回空気を祓うようにフルスイングして振り抜く。

すると場を張り積めていた空気が晴れ、それまでの空気が嘘のように清々しい空気が流れていた。

「あ、」

気付くと太陽が大分傾いていて、自身のスマホを見ると時間は四時を過ぎていた。

慌てる皆を宥めて急ぎ帰路への準備を指示してトーリも加わり片付けていく。

早く終わり五時前には終わり合宿所を後にした。


駅での解散後、トーリの姿は、とある喫茶店の隅に在った。

テーブルにはミルクシェーキとピラフ。

見たものが見たならその組み合わせに疑問符間違いないだろう。

それらを物ともせず食べ進めていく。

来店を告げる音が店内に響くとホールスタッフが対応するため出入り口に向かう。

案内された客は何処かで座り、頼んでから鞄からタバコを一本取り出し、指で弄ぶと口に含み、火を着ける。

カチカチとなり火を着ける。煙を口内に含み喉に流し肺に送り軽く吐き出す。

繰り返して、まだまだ余裕があるにも関わらず灰皿に押し潰し水を一気に煽り飲む。


そんな事は関係なく入り口から客が入ってくる。

先程と同じようにスタッフが対応するが手で制して周囲を見る。

すると、当該を発見してその席まで足早に向かう。


着いて最初にしたことは座っていた相手を殴ったこと。

その痛みは相当なのだろう。証拠に殴られた方は頭部をテーブルに打ち付け同時に砕け散った。テーブルの上に置かれていたコップやらも飛散する。

突如の暴挙に呆然としていたスタッフは停めに入るが、その一撃を貰ってそのまま気絶してしまう。

悲鳴が挙がるが別段気にせず腹に流し込む。

「ふう。食った。さて、来るまでまだあるかね。」

スマホの時間を確認すると約束まで時間が有る。

「え、すいません。注文、良いですか。」

追加の注文をするため、慌てるスタッフを呼び止めるが聞き入れられず。

仕方無しにセルフの水を入れるため席を移動する。辛くもこれが契機なのだろう。

件のテーブルから近くというのも有るのだろうが。

鼻歌をしながら水を注ぎいれていると背中から衝撃が。

振り返るとまだ続いているケンカ。飛び火したのだ。

鼻歌を切り上げて溢した水も拭き取ってから続いているケンカへと向かう。


双方の手首を掴む。

「二人ともそれまで。」

驚くその表情はトーリになんら(もたら)さない。

「で、確認だけど。あんたはこの人に無言の鉄槌を下した。そしてアンタはそれに力という反論で応戦。まあ、それには異を唱える気はない。でもなTPOを考えてくれないかな。」

冷静さを取り戻した二人は、周囲から注がれる視線で自分達の状況を把握した。

少しずつ込み上げる恥ずかしさ。顔を赤らめて回りに謝罪していく。

その後二人は店長にこっぴどく絞られ、賠償を約束して店を後にした。

その入れ替わりに電話をしながら入ってきたのはあの人物。

それを認めると場所を移動することを提案して店を出る。

出て直後に対岸の店が吹き飛んだ。

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