日常・幼なじみの仕事~3日目~
結局、家に帰り。風呂にも入らず着替えもせずベッドにそのまま寝てしまった。後悔はしていない。
朝の光がカーテン越しに差し込む前に目を覚ます。
着の身着のままで寝ていたので前日と変わらない服装に首を傾げてから、朧気に疲れが溜まっている。そう解りきった事を思いながら別の服に着替えるため、箪笥から適当な服を取り出し着替えると、足首を絞める痛みが軽く走る。
視線は向けず着替えを続けながらそれに返事をする。
「蛇。今日と明日は家を空ける。そうだな、飯は適当に用意する暇はないから何時ものように自己調達だ。好きに食べておけ。だが、食べ過ぎには気をけろよ。」
チロチロと舌を動かし頭を激しく振り尻尾を張り一鳴き。
「そんじゃ行ってくるから後は宜しく。土産は期待するな。」
蛇の返事を待たず扉を閉めて玄関へ。向かう前に。
「あ、そうだった。」
急いでダイニングへ行き適当な紙を見つけて殴り書く。テーブルの上に重し代わりの箸立てを置いてから玄関へ再び向かい靴を履いて外へ。
後ろ手に扉を閉めているその視線の先には、何時もの車が停車していた。
「やあ、眠れたかな。」
窓を半分下げ優しい笑みを浮かべ話しかけてくるその人物は、会いたくないし関わりたくもない。そんな人物だった。
仕事の契約的には仕方なしにトーリが折れるしかない。
運転している人。過去にトーリと一悶着有った。現在でも続いている。いい迷惑。 殆ど無視を決め込んでいたが。
「はあー。良く快諾したな。あれの頼みだからか。それとも他の理由かね。」
「ふふ。ぼくはね、これですよ。」
腕を見せられるとリストバンドを嵌めていた。
「一種の枷を模してるらしいよ。これを外したら大変な事になるらしい。」
「はあ相変わらずあれの回りは、過激だな。良くもまあ付き合える。」
「はっ。そっくりそのまま返しますよ。」
「なんで。」
「彼女の周りで、それもあれだけ近くにいてどうして狂わない。彼女の力を知ってるだろ。」
「ちか、ら。なあ。ああ俺にとっては、そうだな胸糞悪く。気分悪く。実際、関わりたくないな。と何時も考えて思ってるよ。」
「ふうん。それは本音ですか。」
「そうだ。本音で本心だぞ。色々とな。押し付けられてる。てのもある。お、そうだ何時かの何かに役立つだろうから、これをくれてやる。」
返答を聞かず出したものを背広のポケットに突っ込んだ。
「はあ、ぼくも胸糞悪いですよ、その人を何とも思わない態度と言動にはね。」
無造作に押し込まれた物を確認して助手席の荷物に入れる。
「そか。まあお前や他の存在に何と思われようと、考えられようと俺の生には関係ないだろ。」
「ふ。それが君の物事への考えか。相変わらず達観してるのか。それか世捨て人のような。」
「まあ、俺と会って生を終わらせた奴もいたしな。その後、関係者がどうなったか。知らんし知ろうと思わんし、考えることもないし。過ぎた事を引きずるのは馬鹿らしく愚かとしか思えない。」
「ふん。相変わらずの物言いだな。たく。なんでこんな奴に何時までも」
独り言を呟き、何かを思い出す。
「そうだ、副社長からですがね。昨日の彼女のファンの1人がという。」
「ちょい待てなんであれのファンが出てくる。関係ないだろう俺には。」
「おや、忘れているのか。それともわざとですか。まあ、良いでしょう。話を進めます。」
咳払いで空気を払う。
「昨日、ファンの1人がという情報が君にも行っているはずですがもしかして、忘れたのか。」
「ほうっ。昨日というとあれか。いや、あれも、それとあれとかか。うん昨日のあれの何を指してるのかねえ。」
「あのねえ。判ってて言ってるよね。」
「ん。なんだ。来た情報ね。すまんが、帰った後は何もせずに眠ってしまった。なので寄越された情報は見ていない。それでもあれかね。頭の逝っちゃった。て全員そうか。」
「はあ、話が」
「そうだな。あれがそうだろ。他は問題ないと判断したから、サーバーを経由して潰した奴。あれしか俺は報告してないしな」
「やっとか。ええ。そうです。て、まさか聞いていた話以外にも有るのですか。」
「まあ、有る。といえば有るな。何せ、昨日は事務所を出てから終わるまでそれの処理が主な仕事だったかな。で、なんだ。その報告した奴は死んだか。もしくは、逃亡したか。」
「はあ。まったく。そうですね。答えは後者ですよ。間違いなくね。」
「そうか。じゃあ後は他の人にでも丸投げにするかな。」
ハンドルを無意識に叩く。
「あのね仕事内容には今回の件を含めた。そう聞いてますが。最後まで責任をもって完遂させなさい。」
悩むように額を押さえる。
「それじゃあ少しは警戒してもいいだろ。どうして俺がそうまでする必要がある。それに。」
「君には彼女に対して責任があるだろう。知らないとは言わせませんよ。」
視線を窓の向こう側に向ける。
「責任。と言われてもな。俺には迷惑しかないのよ。平穏無事にこの世を過ごす。それを」
自然と手が振るえる。
「君は本当に傍若無人で自己中だな。やはり相容れない」
「相容れないか。俺はお前が嫌いではないぞ。面白いし。からかいがいがある。」
無言の返答。
「どうした。耳が赤いぞ。そうだ。なあ、今日と明日一つ頼めないか無理にとは言わない。」
「ふ、ふん。言ってみろ。内容によっては受けてやらんでも」
「なら蛇を一日一回確認してほしい。」
唐突の言葉に反応しきれず、おかしな声と言葉が出てしまった。
「まあ、そうなるわな。なに危険なものでもないぞ。まあ、ある一定の人にとっては危険極まりないだろうが。」
「まてまてまて。な、なんだ、は、蛇、蛇てあの蛇だろ。君はそう類いを飼えないのでは無かったか。」
「ん、それは普通のだろ。それに考えてみろ俺がそんな普通の存在を養うと思うか。」
「なた、確かにそうだが。まて、それではその蛇とは隠語か。」
「ん、そんな訳ないだろ。読んでそして呼んで字の如く蛇だ。まあ、見た目はあれだが。」
「はあ、まあ君の事だし簡単にはいかないような物だろ。では警戒した方がいいだろうな。」
天井に視線を向ける。
「お、引き受けてくれるか。まあその辺りは心配無用だと思うけど。警戒しても逆に危険だぞ。中から少し下げたくらいで会った方が無難だろうな。もし何か仕出かしたら問答無用で潰す許可を出してやる。」
「相変わらず、君は容赦がないな。なんだ、その、蛇とは其ほど危険極まりないのか。」
「いんや、言ったろ。ある一定の人にと。まあ、正確には存在かね。それは兎も角、お前なら間違いなくオソワレテモ対処できると確信できる。なんせ初戦で俺を襤褸滓に負かしたからな。誇っていいぞ。」
「はん。その後、我々の組織を一つ残して壊滅させただろうが。何をぬけぬけと。」
「まあ、そんな訳でだ。」
「はあ、やはり長もあれから大仏のように成られた。それもこれも」
「言っておくがあれを最終的にしたのは俺じゃなく他の誰かだぞ、多少の助言めいた事はしたが直接手は出してない。」
「ああ、それは知っている。あの者達を鍛えるという此方としては迷惑千万な理由で当てられたのだからな。全く腹が立つよ。」
等と内容を聞いていた人がいれば頭の湧いた会話だと忌避するだろうし、ある特定の人達からすれば恐ろしく近寄ることも憚られる事だろう。
そんな車内の二人にとって過ぎた雑談は、ある場所で途切れる。
「さあ、着いたぞ。此処が2日あの子の合宿所だ。スタッフや出演者も全員揃っていると聞く。まあ、頑張れよ。」
車を降り、トランクから荷物一つを取り出すと別れの挨拶も無しに発車してしまった。
雑草が生い茂り、木々が所狭しと乱立し葉を揺らし、擦りさざめきを奏でている。
その中で土剥き出しとはいえ綺麗に舗装された小道をトランク片手に進んでいく。
何処から音が聞こえたが、気にせず目的地へと到着する。
出迎えもなく平屋の建物数棟の内の一つから人の気配を感じ、到着を知らせるために向かった。
主役である萌香が居ないにも係わらず集まっているスタッフや共演するダンサーの鬼気迫る雰囲気に軽く気圧される。
近くに居たスタッフに声を掛けると、嫌な顔をしてトーリの説明を聞かずに壁際に固まっている人達へと離れていった。
呼び止める時間は無かったかと誰かに云われれば、答えはNOと言えるだろう。
それをしなかったのは、そのスタッフの何かに対して躊躇してしまったからに他ならない。
という言い訳がましい事を宣うかもしれない。
トランクを何処かに置きたいのだが、勝手をすれば罵詈雑言を浴びせられることをトーリは理解していた。それ故に開け放たれた扉から一歩も動けないでいる。
外からの背を熱する気温に室内の涼しい空気。相反するその間に立っていて何もしないわけにはいかない。
室内には色々なチェックをするスタッフもいれば、人に指示をしているスタッフ。その中で異彩なのが一角で何事かを呟きながら一糸不乱に機械を組み上げている集団。
溜め息を吐き出して。一時的に居なかったことにする。
トランクを厳重に施錠し、簡単には移動できないように重量を上げておく。
トランクから離れ、この場の総指揮であるプロデューサーへと仕事の内容を話し合うために近づいたのだが、どうしてか阻まれた。
察しの良すぎるトーリは把握して嘆息する。
この時漏れた言葉は誰も聞こえていないが。
「メンド」
その言葉を紡ぐと身体を解し、さらに合宿所敷地外である公道を気を落ち着かせるために走りまくった。
気がつくともう3時近く、体も暖まり過ぎるように汗を掻いている。
なのでもう一本走ってから戻ることにし、最後なので流す程度の速度で走っていると視線が刺すように感じてくる。それも複数。
「はあ。」
溜め息がどういう意味合いを含んでいるのだろうか。
あの少女。萌香の到着が当初の時間より遅れている。
忙しいというのは知っていて、更に彼女には幾重にもトーリ謹製の仕掛けを施してある。危険は皆無。
その日の夕刻には息を切らせて合宿所に到着した。
なのに当のトーリはその場に居合わせず、ある場所で多人数に囲まれ、襲われていた。
「か、かひゅっ。」
衣服ズタボロ。切り傷、打撲、内出血。
口に溜まった血を地面に吐き出す。
「ひょひょひへふぐぶぁ」
無言のリンチ。
「ら、らひ、へ。」
最後には全員からの一撃。
横たわるただの肉塊。血溜まりが広がっていく。
「く、くひっふきひひ。」
と1人が笑い始めると釣られるように全てが笑い騒ぎだす。
その騒ぎが合宿所に届くことはない。
一頻り笑い騒ぐと、何処からか拝借してきたシャベルで茂み奥の地面を掘っていく。
その間にも肉塊に追加の暴力を。
深さ数十メートルは有ろう穴の中に原型も留めていないただの細切れの肉を感慨深く投げ捨てる。
止めとばかりに最後は穴の縁に立ち、用意していた汚物を入れたバケツを全て投げ入れた。
合宿所に戻る面々の表情は、穏やかで感慨に耽り皆が一体感を共有していた。
戻った時には憧れの、彼ら彼女らが崇拝して止まない1人の少女が稽古場で練習に励んでいた。
邪魔をせず影で見守るように外で眺めている。外まで聞こえる彼女自身の曲。
ファンなら誰もが知っている、いやファンでなくとも知っている曲をバックにダンスの練習。
険しいが光輝いている。
皆がその妥協しない姿勢に感動していると、奥の扉から1人入ってきた。
片手に白く長いものを持って、近付くと背後から優しく頭に被せる。
外にいた人達は何気に嫉妬していた。だが、その相手を視認し確定させると。
一人残らず絶叫した。
あと、悲鳴を上げていた。
気付いたその者は彼女を休むよう諭すと外へ出てくる。
腰が抜けて立てないもの。現実が受け入れられないもの。何処かへと走っていくもの。
と幾つかのパターンをしていた襲撃者達。
開けられた硝子扉。開口一番には。
「酷いですねアナタ達は。あれだけ懇願して助けてとか。止めてとか。あと、酷い。とか言ってたのかな。ふふ。見ていて狂気ですよ本当に。」
何も履かず地面に降りくる。その顔には笑顔が貼り付けられていた。
「まさかあれ程までするとは予想外でしたよ。はは、最後はミンチで汚物まみれですか。グロすぎ。」
耐えられず誰かが悲鳴を上げ、逃げていく。そしてその方向には戻ってくる人影。当然ぶつかり少しお互いが吹き飛ぶ。
悲鳴を上げて逃げた方は頭に地面を強打して気絶。
一方は最初に逃げ出した数人の一人だった。
どうしてか震えている。
涙が止めどなく地面へと落ちていく。
「は、は、はは。ヴあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
精神が耐えられず壊れたようだ。
「壊れたか。まあ、あれを見ればそうなるよな。」
いつの間にか足に靴を履いていて、片手に大きな針。片手に太い糸を持って壊れた者に近づいていく。
「さて壊れたなら縫い繋がないと。」
周りが止めるとか、静止するとか、そんなものがないかのように、当然のように太い針を戸惑いも躊躇もなく壊れた人の頭に突き刺した。
「お、意外と柔らかい。なら。」
一気に針を反対まで貫いて押し抜く。
さらに同じ事を繰り返し、完成したのが、太い糸をぐるぐる巻きにされた人の形をした塊。
それは動けないのか、どうやら動かないのだろう、壊れたときと同じ姿勢で息はしている。
糸の口の部分が動いている。
「ふう。まあ少しすれば戻るでしょう。さて、皆さん。お分かりの通り僕はこのように五体満足ですよ。何なら触れてみますか。ちゃんと生きていると理解できますし。」
無防備に腕を広げ、笑みを造って驚愕する人達に向かって歩いていく。
「さて、惨いことをしますね。仲間であるあの人の静止の言葉を無視して、狂乱の如くになぶり殺す。見ていて気分の良いものではありませんよ。」
肩を落とし、「まあ、命は助けましたけどね。お、戻ってきましたか。」
トーリの視線に誘導させるように全員が向いた先には、辛うじて繋がっている布を付着させた人物。その表情は悲しみか怒りか。
暗がりで判別できない。
近づいてくる人物は正面を見ていた。
咄嗟に動いたのはトーリ一人。
戻ってきた者に対して、正面にいた人物に掌底を打つけて飛ばし、自身は姿勢を少し落として後方に引いた。
その結果、襲い来る眼球を動かさず一点を見ている人物と接触、突き出され虚空を掻き毟ように動かす腕を掴んで、下半身を使って地面に叩きつけた。
眼を見開き背中から伝わる地面への強打と痛み。
これで自我を取り戻した。
「さて、これで戻りましたね。では着替えたら明日へのミーティングがありますので、皆さんは一時間後に離れの食堂へ集まっていて下さい。では。」
施術する道具を回収、小脇に抱え戻っていく。
誰も止めようとは思わない。
思えないのだろう。殺した対象が普通に生きていて、逃げた者は壊れたかと思えば対象が何かをして意識を戻し、最後に現れた者は衣服が布切れしかなく、さらに襲ってきて、それも治された。
一体何が何だか理解できないでいた。
一時間を過ぎた頃、指定された食堂にはトーリを除いた、襲った人達とそれ以外のスタッフが集まっていた。
「ええ、時間も遅いですが、急な案件が挙がりまして。」
「何か問題でも。」
「いや、機材等には問題はない。だが、彼女の、提案がな。」
「もしかして、何時もの無理難題ですか。は、はは。はあぁ。」
無理難題という言葉に古参のスタッフ達の表情は一様に暗くなった。
理解できないのは。
「あ、あのプロデューサー。どうしたんですか。一体。その無理難題とは。」
「ん、ああ。そうだな。君達は臨時だし初参加の者が大半だろう。いや、なに。君達は彼女のこれまでのライブを知っているだろう。その内容を。」
「ええ、それは勿論です。なあ。」
皆が頷く。
「それはもう数々の伝説を造ってきた全ライブ。圧巻のパフォーマンスと舞台装置の壮大さ。ああ。映像でしか見ていない人が悔しがるのも頷けると言うものの。あれは、絶対に、生に限りますよね。」
「すまないが、話が進まなくなるんで、良いかな。その。」
「え、はい。そうですね。今から数々の伝説を熱弁したら時間なんて幾らでも足りないですからね。」
軽く興奮しているのか、鼻息が荒い。
「熱弁を奮ってくれるのは構わないが、済まないね。では、その内の一つ。歩行装置。」
「あ、知ってます。あれはセカンドライブたったかと。ステージからまるで見えないステージを歩くようなあの演出。今でもあれの謎は解明されていないですよね。」
「ふふ。そうだな。解明か。まあ、あれには我々を含めて当時のスタッフ全員が驚愕したもんさ。」
その言葉の意味が理解出来ないのは当たり前だ。
それではまるで、あの歩行装置はプロデューサーも当時のスタッフも把握していないように聞こえる。
「それはまた改めて。で、今回の難題はなんでしょうか。プロデューサー」
「そ、そうだな。今回はこれだ。」
一方は綺麗な字面で工程を書き出され。一方は何を表現したいのか、ホラーもかくやと思われるが、子供が見たら百人が百人泣き叫び糞尿を撒き散らし、心に一生もののトラウマを植え付けること間違いなし。
現に何人かはそれを認識して卒倒してしまったのだから。
「はあぁ。今回も卒倒者が。仕方ない。おい、部屋に運んでおけ。説明は後でするから。」
スタッフ数人が倒れた人達を運んでいく。
「で、だ。この絵は無視して構わん。これは心を蝕むからな。」
視線を工程文書へ。
「これを読むにあの歩行より難度は高い。しかも期日が無いのに明日の前半までにと。」
落胆の空気が漂う。
「はいはいはい。その空気。重いので却下。それと」
「そうか。今回は君が参加していたのだったな。と言うことはこの仕掛けは彼女の折り込み済み。これまで同様、仕掛けには君が関与するのだろう。専門家も招いて。」
「その専門家て、あれですか。」
指で示されたのは機械を弄っている集団。
かれこれ数時間は作業に没頭していただろう。
こうやって会議をしている間も、機械の一部を持ち出してパソコンからプログラムを組み込んでいた。
「でだ、今回も彼らが参加しているが、例が如く此方の質問には答えず。明確な指示も出さない。さらに見えない境界線で近寄れない。」
プロデューサーは集まっている面々の顔を眺めてその中に目的の人物が居ないことに気づくと。名前を呼んでスタッフが答えた。
肩を落として探すように指示する。
その間にも黙々と機械を組み上げプログラムを淡々と組んでいく。
探せと指示されたスタッフは検討もつかなく。適当に探すしかなない。
されどご都合主義。向こうから現れた。
全身に木の葉や枝を着けて。
「お、スタッフさん。何か用か。」
「あ、いや、プロデューサーが呼んでます。」
「あ、そうか。なんだろうね。」
その顔は暗くて見えないがニヤケているように感じられた。
が、時間を掛けていられない上に、当のプロデューサーも怒りを滲ませていた。
「い、急いで戻ってください。」
「分かった。行こうか。」
戻って開口一番を塞ぎ、プロデューサーを静止させるとずっと機械弄りをしている集団。
ー核も美しき世界ーへと近寄る。
何も喋らない。
見ているだけ。
助言も格言もない。
その必要がないと分かっているし知っている。
何度もこの者達の仕事ぶりを見てきたのだから。
機械の構造を把握しても実際動かすのはレクチャーを受けたスタッフ。では何故、トーリが呼ばれたのか。
簡単だ。
「進捗度合いはどう。」
「ん、ああ。順調だ。怖いと考えるほどに。」
「そうか。なら完成は何時。」
「そうだな。明日の昼には完成に近づける。後の調整は意見等を取り入れてからかな。あと参考も含めて。」
「そうか。それじゃあ任せた。」
短く返事をして作業に戻った。
振り返ると。
「で、その人達はなんと。」
「結論から申し上げるならば、一応の完成は明日の昼。それでも完全にするなら皆さんの意見等を参考にしたいとの事なのでそうですね。明日の夜くらいですかね。正直、微妙でしょう。」
この微妙が何を指しているのか一同理解できてない。
「何時も思うのですが、どうして突如の思い付きに付き合っているのでしょう。普通なら止めて然るべき事柄が多数あるようですが。」
と、場の空気が冷ややかに。
「そうか。自覚なし、か。」
「はい。自覚て、あの娘の事ですか。まあ、自覚が無いとは云えないですね。」
否定される。
「ほうっ。それなら周囲の近しい人達かな。」
否定。
「なら一体。誰の。」
一斉に指し示されたのは一人。
トーリだった。
「え、僕ですか。なんで。」
「はあ。自覚なしだな。本当に。」
古参のスタッフは皆が頷き、新参は困惑している。
新参を置き去りにして話が展開していく。
「あのな。普通なは部外者を毎度加えるなど有ってはならない。それも一高校生をだ。彼女の我が儘は今に始まった事ではないがそれでも一存で一人の無関係の未成年者を長期間拘束するなど本来、不可能だ。」
「へえ、そうですか。それじゃあ、僕は明日、帰ります。どうもプロデューサーの帰郷許可が出たようなので。」
「ま、待て待て待て。そうは言っていない。」
「ええ、だって、ねえ。」
「今、君に帰られでもしたら我々が彼女に何をされるのか。考えたくもない。」
震える一部のスタッフ。
昔の事を思いだし恐怖しているのだろう。
「あれは結局僕の方で無かった事に出来ないまでも、手打ちにして終わらせたはずですが。」
「そ、そうだが、あれを経験した者達にはトラウマだ。」
「へえ、その割にはあの時のメンバーが欠けずに居ますね。」
「はは。それはほら、な。解るだろ。」
んん。と考えるように声にして。
「そうですね。まあ、良いですけど。ん。」
肩を叩かれ背後にはあのプログラム等を組み立てていた集団の一人。
「終わったぞ一応は。まだ、基本だが。これから依頼主の要望に沿ったプログラムに改造させる。まあ平行させていたから予定通りなら昼には完成させられる。その後に意見等を聴きたいので場を設けてもらいたい。頼めるか。」
「ええ。良いですよ。まあ、何時ものようにすんなりと行けるとは思わないですが。」
「それは心得ている。何時もの事だ。」
「なら頼みますよ。」
頷いて作業に戻った。
「彼はなんと。」
「ええ。一応は基本的な部分が完成、それと平行させていた改良部分も概ね終わっています。予定通りなら先程も申しましたように、昼には終了。ということに、その後に意見等を聴きたいというので場を設けてほしいとの事ですが。可能ですか。」
「ああ、それは出来なくもない。調整しよう。おい。」
スタッフ一人を呼び出し何かを相談する。
「では、彼らには引き続きお願いして皆さんは休んでください。もう時間も天辺を越えてますので。休みましょうか。」
長い夜の食堂会議は終わりを向かえスタッフが重い足取りで寝室へと向かっていく。
だがプロデューサーだけは食堂に残り、見送ってからトーリと話し合った。
さて。これにて3日目の萌香の仕事は終わった。
そういうことになるが。
トーリに休まる気配は六得もない。
この後には懸案事項が控えているのだから。