日常・幼なじみの仕事~2日目~ソノ2
起き上がると頬の痛みを無視して見回す。
「あの何れだけ寝てました。」
「ん。寝てたのかい。一分も経ってないよ」
スタッフの返答を聞いてパソコンの画面時間を見れば確かに。
耳に届く収録も途中だ。
データ内での時間的には随分と経っていたように感じた。それでも安堵してトーリは空いていた席に座って萌香の収録を見守っていた。
スタジオを出ると車が玄関先に停まっていた。
反論とかはせずに素直に乗り込む二人。
反論するのは決まって萌香なのだが。
仕事内容を報告して次の現場まで向かった。
時刻は予定より少し遅れていた。
「少し急ぎますよ。」
頷く前には車のスピードは上がっていた。
この日最後に到着したのは前日の学校。その裏門。萌香を先に下ろし、トーリが仮面を付けて下りる。
そうしないとファンからの野次が凄いのだ。
「あ、そうだ。社長からの報告。先程警察から連絡があって、萌香さんのファンらしき人が意識不明で病院に搬送されたとの事です。」
『そうですか。ありがとうな。それなら後で僕のケイタイにそれに関する情報を送ってください。見ておきますから。』
納得して扉を閉める。
トーリは萌香を先導するため門の向こうへと消えていく。
前日に失敗した事を踏まえ萌香の後に着いていく。
ドアが閉まると出ていった。
校舎の中は忙しなく騒々しく駆け回る人達。一人が萌香に気づいて寄ってくる。
「待ってましたよ。祭林さん。これから幾つか見て確認してもらいたいのですが、大丈夫てしょうか」
「大丈夫です。」
意気込んでスタッフに連れられていく。
トーリは何となくで、見えないように蛇の脱け殻を萌香のポケットに忍ばせた。
萌香と離れて他のスタッフとこの日の確認を行い、少し疲れたので休憩所として設けられたスペースで缶を片手に一服していた。
「はあ、痛い。スタッフの中にもアレのファンが紛れてるんだろうな。はあ、正直疲れた。やつまぱ安易に引き受けるものじゃないな」
項垂れぶつくさと一人ごちていると人が入ってきて、トーリの近くに座る。
缶を開けて一気に呷ると何も云わず座っている。
終始無言の二人の間には時間だけが過ぎていく事を備え付けの時計が教えてくれる。
目を閉じて少しだけ意識を夢へと落とそうとしていると、前触れなく立ち上がりトーリに近づき耳元で何かを囁く。
突然で全てを聞きとれなかったが、最後だけは一応心に留めておこうとした。
「気をつけて下さい。狙われてますから。」
意識は夢の中へ。
夢の中のことは目を覚ますと忘れていた。気にすることはないので、気にした所で無意味だと知っていたから放置したことが大半だろう。
原因は揺り起こされたこと。
目を覚ますと萌香が心配そうな顔をして見ていた。
大丈夫と答えてから伸びを軽くして、その日の仕事が終わったことを確認して事務所へと帰路に着いた。
校門前にあの車が停まっていたのには驚いていた。
その後萌香を自宅まで送り、誘われたが何とか断り、事務所での報告を終わらせ自分の部屋へと帰ることにした。時刻は日を跨いでいた。
「はあ、学校を休んでなかったら確実に遅刻常習犯か連日欠席だろうな。」
そんな誰も聞きたくもない独白を口にしながら静まり返る夜の町を歩いていく。




