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片倉トーリの日常なる非日常  作者: 十ノ口八幸
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非日常・短絡は身を滅ぼす

開けた扉。

足を踏み入れると単純な背後の空間とは一変して、色に溢れた空間だった。

が、普通のーこの場合の普通とは何かと問われると些か言葉に詰まってしまうがー空間とは異なり、多種多様。多岐に渡る言語が渦巻く色に乗り縦横無尽に飛び回っている。


そんなものが空間全体を埋め尽くしている。

では、この空間について考察してみよう。そんな事を思考すると足下が揺らいで、言語が数ヵ所に集約され一斉にトーリへ向かってきた。

「重い。重すぎてその想いは正直ヘドが出る。」

襲う言葉の塊はまさに個々人が善悪清濁合わせた想いが込められている。

が、行き過ぎた想いは他者を容易に殺す。

それは見えない刃物となって確実に蝕むだろう。

過去にもそして現在にも有限としてではなく、無限に表現される誹謗中傷の数々。中には根拠や元が無いことが多く、全てを鵜呑みにして流されるように相手を肉体的にでなく、精神的に追い詰め、そして死に追いやる。

大多数が他がやっているから乗っかっただけ。という短絡的な思考で答えるのが普通だろう。

だが、やられた当人はそうはいかない。

反論したら。調子に乗っているとか、滅茶苦茶な論理にもならない理論を正論のように捲し立て。

今度は無視を決め込めば、有ること無いことを書き込まれる始末である。


堂々巡り。いたちごっこ。現実には事務所が特定して法的に処理なりなんなりするのだろう。

だが、これはそれとは異なる呑み込まれたのか、無意識に入ってしまったのか。それはトーリは判らない。

だが好都合。

言葉の一つ一つを観察していくと、多方向から流れて襲っている羅列の出所が判明した。

適当に組んだプログラムを解凍して足下に落とすと吸い込まれるよう溶け込むように沈んでいく。

完全に沈むとトーリの周囲にプログラムデータが踊り、体に羽織るように纏うとオーラのような光に包まれていく。

「えと、たしか、こう。か。」

キー操作するように宙に指を踊らすと、オーラが足に集まり複数の光の筋が走っていく。

その筋の1つが他の筋と一線を画するほどに先から放たれる光が強く、当たりを引いたのだと理解する。

『はあ、これを処理しないと終われないんだろうな。絶対に。』

何時もの事と諦めて、誰の差し金かも想像つくと考えて光の筋を道標に辿っていく。


その光景と言おうか、風景と言おうか。とにかくも、熱心熱烈熱狂。

異状にして異常。

データという物質の中に存在しているからか、それは視界に入れることを拒絶するように嘔吐感が込み上げてくるのに我慢してその発端を探していると簡単に見つかった。

其所もまた、異常すぎる空間だった。

何が異常と言われると、そう膨大な量の言葉の羅列と言葉を付随させている画像と動画。

所畝ましビッシリ整然と隙間なく整理されているのである。

その画像と動画に写っているのは一人の少女。見知った少女。

そう、萌香だ。

どうやら発端のサイトは萌香の熱烈なファンで、病的なまでに執着していると思われ、それらの感情が画像と動画から溢れている。

「はあ、アレの歌に引かれたか。まあ、良いけど。」

と、背後から殺意が込められた何かがトーリを襲い、肩を掠める。

(うずくま)らず、踏ん張り、歯が軋む音を出す。

息を留めて、表示されていた画像の中の1つに向かって物を投げる動作をすると消去された。

悲鳴。絶望的な絶叫が空間を支配すると色が変わる。

白から青へ。青から黄。黄から紫。紫から灰。灰から黒。感情を表現するように変化し、変異すると上から濁り水が1滴トーリの前に落ちる。

表情を変えずにトーリは水滴を見ている。

背後から混沌を伴う存在が襲いかかり、トーリの近くを嘗める事に成った。

「さて、そうだな。嫉妬なんぞ生ぬるく。執念なんぞは軽いな。なあ、そう思うだろ。アレのファン。」

解りやすい黒一色な人と虫と獣と機械を混ぜ合わせたデータの集合体と云えるモノが見上げている。

『「《グルルルルッガッアアアアアアキイイイイイッ』」》

「まともに人語も話せなくなったか。それとも畏怖を植え付けるための演技か。」

「『ぐっきくか。ギャギャギャ』」

「そうか、早く戻れ。」

「ふうう。ふうううう。」

一色から多色になると無駄な2つを破棄して本当の姿に成ったと思われる者が現れた。

『ぐっくく。くはっ。彼女の取り巻きの一人かい。ふん。僕と彼女の邪魔をする奴は容赦しない。まあ、二人の間に障害は付き物だし、これを越えたら彼女は一層僕に惚れる。いや惚れ直す。ああ。考えただけで震えが。停まれないね。』

一人で喋って一人で笑っている。

その者は姿が物語っている。

仮想肉体でありながら人の部分が殆ど無く、混沌を表現しているようだ。

『ふひゅひゅ。具日ゅっ。どうだい、僕の仮想肉体は凄いだろ。時間を掛けて作り上げた彼女の理想さ。』

ダメだと正直に思うトーリだが、哀れと思う感情は湧かなかった。

それに対しては納得している。

「一応言っておきます。警告します。彼女に危害を加える気なら此方は君に対して、それ相当の権力を行使します。一ファンとしてならば排除はしません。ですが、一定ラインを越えた場合は、君を排除させてもらいます。」

『ヒャハッ。この姿に臆したかい。仕方ないねえ。だって偉大な僕の技術を全て詰め込んだからね。ちっぽけなお前のその仮想肉体なんて僕の一息で消え去るね。』

「そうか、なら早く終わらせよう。」

もう、話がまともに通じる線は越えていたらしい。

『平静を装っても分かるぞ、本当は逃げたいんだろ。だが、逃げられないぞ。』

「ああそれはもう理解してるから説明はカットで。」

『理解、だと。何を理解していると。』

「入った瞬間にこの空間、いや、このサーバーはネットから切り離したんだろ。なら問題ない。ほら早く終わらすぞ」

『ギリギリギリ。忙しいんだ。一瞬で終わらせてあげるよ。』

「そうだ、な。なら早く済まそう。」

ゴングが何処からか鳴り響いた。

誰が鳴らした。

最初に動いたのはこの空間の主。ファンの一人。

奇声を発し、向かってくる。

「ははは。知ってるよ。あの子は本当は。ふふ、ふふふ。ふうひゃはははは。」

気が触れたのかと思うが、一発をかわすと、反転させた勢いで脇腹があるだろう位置に一撃を加えるも後ろに下がるだけで大したダメージは見当たらない。

グフッと気味の悪い笑いめいた声を出すと、目が動き、あり得ない場所で見開かれる。

「堕ちて人形に成れえええぇぇぇ」

開かれた眼から光を放ち個人サイトである空間を覆い尽くしていく。

受けたと同時に肩の力は抜け、視線も何処を見ているのか。

「ひゃひゃっ。僕に歯向かうムカつくや奴は現実でもこの世界でも、ひひ、玩具にするよ。この力でどんな奴でも操って罪を被せてやってるのさ。あひゃ、あひゃひゃひゃ。」

「・・」

嘆息を吐く間もなくトーリは一歩を踏み出した。

痛覚を感じないはずの痛みが足に走る。

それでも、視線を反らさず、相手を見ながら歩む。

驚くは相手。

当然だ。

これまでこの空間で相手をした下等な者共はこれをした瞬間に痛みの原因箇所を確め、その惨状を目の当たりにしてしまう。すると痛みは認知され、確定される。固定された状態は意識に潜り込み痛覚を何倍にも増幅させ通常より痛みの感覚が全身を駆け巡る。

これにより抗う力も意思も消えてしまう。

その筈なのにだ。

胸くそ悪い彼女の取り巻き風情が喚かず泣かずのた打ち廻らず醜態を晒さず痛みなど感じない。それどころか初めから無かったかのように歩いてきている。


トーリは正直、しんどかった。二日目にして前半に有ったあの不愉快なイカれたような人物。そして、今のこの相手も頭が何処かしら捻り切れている節が在るようにも思われ。

どうしてアレのファンとやらはまともな者が居ないのか。

もしかしてアレが狂わせているのか。それとも切っ掛けとして潜在的に狂うような意識の持ち主だったのか。

そんな事を近づきながら何となく考え、相手の横を過ぎて何もない、そう何もない空間に対して手刀を放った。

直後、背後で更に狂った声を出し、恨み言のような物を残してそのままデータの海に消えていった。


残ったトーリはどうしたのか。

その閉ざされた空間内で動かず眠っていた。

何故なら空間に亀裂が走り、大きな穴が穿たれると大きな牙を携えた大口がトーリを呑み込む。

只単に精神的疲労で眠っていただけなのだが。

意識は一旦途切れる。


意識消失と仮想肉体が消えていく感覚を覚えながら耳に聞こえる軋みと崩落と消去の音と共に現実へと帰還する。

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