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短編

てふてふ

作者: 382

 雨の日って動きたくない。

 だけど、近くのスーパーに行こうと思ったのは、ほんの気まぐれ。近くだから歩いていこう。なんて、自転車の鍵を置いて、代わりに傘を持った。


 トイレットペーパーやらジュースやら、やっぱり自転車にすればよかった。なんて後悔しながらの帰り道。

それを見つけた。

「んん?」

 最初はゴミかと思った。だけど、よくよく見ればそれは黒揚羽。

 蝶々だ。

「えー?」

 蝶ってのは、雨の日は大抵葉の裏とかにいるもんじゃないのか。だけど、その蝶は道のど真ん中で雨に濡れていた。

「おいおい……何考えてんだこの蝶は…」

 虫って苦手だし、もう死んでるかな。なんて放ってこうとした。だけど、風に揺れてか自分で動かしてなのか、羽は動いている。

「………あ~」

 気になる。

 このまま放っておいたら、車に轢かれてバラバラになるだろう。この道はよく通るし、まあ、気まぐれだ。気まぐれ。

 そーっと蝶の羽を摘まんで、雨に当たらない場所を探す。適当な場所が無かったので、他所様の塀にある排水の為の入口を見つけた。雨の日なのに水も流れてないみたいだからとそこに置けば、僅かな動きを見せる蝶。

「まあ、これで一応は大丈夫かな?」

 ズボンで指についたりんぷんを拭い、買い物袋を持ちなおしてそのまま帰路に着いた。



 ◇◇◇◇



「あっちィー」

 梅雨のこの時期は湿気が高く、鬱陶しい。

 夜になって雨は止んだが、ジメジメした空気は苛立ちしか湧かない。


 ピンポーン…


「こんな時間に誰だよ……」

 玄関ののぞき窓から見れば、外に立つのはどうもその筋の方に見える男。

「……」

 隣の部屋か下の階の人だろうか?静かに暮らしてたんだが。と、思いながら無視しようとすれば、また鳴らされるインターホン。

 無視する方が怖いかもなあ。と、仕方なしに開ける。


「……何ですか?ひッ!」

 扉を開けた途端に手を掴まれ、思わず悲鳴が漏れた。

「なっ、え?ちょ、だ、誰ですか!」

「アンタに恩返ししにきた」

「はあ?!」

 黒いスーツを身にまとった強面のお兄さんを助けた覚えはない。

「ひ、人違いです!」

「いいや、アンタで間違いねえ。俺のりんぷんがついてる筈だ」

「りんぷん?」

 何を言っているのかこの人は。

「放してくださいッ、警察呼びますよ!」

「ケイサツ?何だそれは?」

「何って……」

 騒いでいれば、いつの間にか中に入り込んでいる男。

 やばい。早く追い出そう。

「あの、いつどこで会いました?」

「今日、道で」

 アバウトすぎる。

「私何かしました?」

「俺の命を救ってくれた」

 チャカからですか?ドスからですか?いずれにせよ、覚えがありません。


「……あの、すいません。どこの人ですか?」

「おっと、そうだな。自己紹介が先だな」

 扉を開けはなし、男は一歩後退する。

 おい、虫が入る。虫が。なんて思っていれば、目の前の光景に思考がストップした。

いかにもな方の背から、黒い蝶の羽が出てきたのだ。


「…は?」

「俺の名はクロアゲ。お前に救われたこの命、燃え尽きるまで、お前に尽くそう」


 鶴ならぬ蝶の恩返し…?


「何かして欲しいことはないか?」なんて聞かれ、真っ先に「羽をしまえ」と言った彼女の判断は間違っていない。



(大きくなった分、りんぷんがすごい)

登場人物

【女性】

その時その時で行動を決めるタイプ。

聖人というほどの善人ではないが、大抵の事をハッキリ拒否できないお人好し。


【クロアゲ】

元は黒揚羽。

雨の日に濡れて死にそうだったところを助けてもらい、恩返しを決意。

見た目がアレなのは、元々がこういった性格を見た目に表した結果。

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