第1話 つるべ落としの桶子-6
この作品、エブリスタでも投稿中です。
内容自体はそちらの転載となっておりますので、よければそちらからも一読ください。
「桶から出ないの?」
古びた桶の中にいる女の子は自然体で、窮屈さを全く感じさせない。だが、いつまでも桶に入ったままである意味が分からなかった。
「外に出たくない」
女の子はそう言った。頭に変化する際に、必要になったりするのかな。
いくつか思考を巡らせていると、女の子はまた枝葉を見上げた。
「どうしたの?」
「眠たい」
あくびをしながら、そう答える。
「僕が起こしたようなもんだ。ごめん」
僕はそんな女の子に頭を軽く下げた。僕のスマホが、睡眠中の彼女を起こして、木から落としてしまったのだと思えば、申し訳ない気持ちにもなる。そもそも相手が妖怪であり、襲う側であるのなら、謝る必要すらないのかも知れないが。
「そうか、お前のせいか」
女の子は頷いて、両手を垂直に伸ばしてこういった。
「じゃあ、私を持ち上げろ」
ばんざいの姿勢のまま、女の子はこちらを見てくる。
これは、僕を近づけさせる作戦ではないか? そう思えてならない。近づいたところを、巨大化した口でがぶり、と噛みつかれ砕かれ飲み込もうとしてるんじゃないか。
かわいい見た目、小さな口、眠たいアピールが、その実は、おどろおどろしい形相と、大きな口を持ち、怒りではらわたが煮えくり返りそうになっているのではないのか?
近づいたら、殺される。
女の子は、僕の胸中を知ってか知らずか、さらに腕を大きく広げた。
「早くして」
女の子は眉を寄せながら、急かしてくる。段々、機嫌が悪くなっているようだ。
逃げ場もないなら、従うしかない。
「……分かった」
僕は観念して、彼女に歩み寄った。足がまた震えだしたのを、ぐっと力を込めて止める。近づくにつれ、いつ正体を現すのかと不安になってくる。大きな口の中へ、中へと、僕は誘われているような、そんな気がするのだ。
僕は女の子の目の前まで来ると、その桶の縁を掴んだ。手ががたがた震えている。もういつ食べられてもおかしくない。