僕らの仕事に必要なのは、正しい知識、丁寧な説明 4
4. 患者の家族 -key person2-
兄から娘に少し言い過ぎて喧嘩してしまったからフォローを頼む、と電話がかかって来たのは、父の病が思っている以上に楽観視できる状態ではないことを知ってしまったその日だった。
朝、私たちが主治医の先生から聞いて来たことをもとに、今の状況について色々と調べて確認をとっていた娘の話をまとめると、父の病は重く、いわゆる余命はあと一年程度ということになるらしい。
「それでも2割の人間は5年以上生きてるのだから、とにかくやれることをやろう」と言う通りだと思い、自分がしっかりサポートしなければと気を強くもってはいたが、それでもショックがないとは到底言えない。朝、話を聞いていこう、何も喉を通らなかった。
少しぼんやりしていただろうか、いつもなら昼食を食べてから選択をしている頃だったが、兄からの電話で時計がすでに13時近くを指していることに気がつかされた。
「はい、もしもし。カズ兄?何かあった?」
兄からの電話。用件は父のこと以外にはあり得ない。何か治療のことで進展があったのだろうかと思い電話にでると、意外なことに話は娘のことだった。
「さやかがどうかしたの?」
兄は少々ばつが悪そうにぶっきらぼうに「さやかと喧嘩した。俺も言い過ぎたと思う。」
と言った。聞けば娘のさやかが兄に父の体のことで電話をしたらしい。おそらく私に言ったことを直接兄にも伝えたのだろう。だが、それでどうして喧嘩になったのだろうか。
「でも、それでどうして喧嘩に…?」
「いや、あいつ、よく調べてたよ、ほんとに。でもあれじゃあ、親父に言い兼ねないんじゃないか。俺としては親父には余命は伏せておきたいと思ってるし、お前だってそうだろ?だから、治療のことは医者に任せておじいちゃんが心地よく過ごせるようにすることを頑張ってくれと言いたかったんだ。あいつ、怒って電話切ったんだよ。俺からの電話にはもうでないだろうから、お前からちょっと言っといてやってくれよ」
よくわからなかったが、とにかく兄と娘は喧嘩したようだ。たしかにさやかには頑固なところがあるし、言い出したら聞かないところもある。だけど、話がわからない子でもない。そんなに簡単に”電話にでないほど”カズ兄に怒ることなんてあるのかしら。
少々腑に落ちないところはあったが、とりあえず兄との電話を切って、娘に電話を入れた。