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金髪碧眼ジト目毒舌悪魔美少年が変態ドMの家に召喚された  作者: 上野衣谷
第一章「逆転シチュはドMにとって最大の敵」
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第4話

「なぁ、おへそが見たい、あわよくば、なめたい」


 そんな俺の一言は、ずきゅんとヤンの胸を貫き、


「いいよ……ちょっと、だけね」


 なんて言葉を引きだすのに成功する訳もなく、ヤンのおへそではなく、俺のおへそへとヤンの拳がめり込む。めりめり、ぐりぐり。

 その拳は俺の腹を貫くドリルのごとくぐりんぐりんと回転して俺の内臓を潰すことを目標とするかのようにじりじりとダメージを与えてくる。こいつ──分かってるぜ、苦痛、痛み、それらの正しい(?)与え方っていうものをよぉ……。


「あの、痛いです、ありがとうございます」

「…………」


 無言のヤンが怖いようなゾクゾクするような。その両方の感情に包まれて幸せになっている俺がいるのは大学の食堂である。

 講義を終えて、サークルなどに属していないぼっちな俺にとって、食堂と図書館は至高の場所なのだ。本来は図書館の方が余程居心地は良いのだが、今日はヤンと会話をしなければいけないため、食堂に居場所を構えることにしてみた。


「それで、さっきのことはどういうことなのか、説明してもらおう」


 さっきのこと、というのは、ヤンが姫野さんに話しかけて、その取り巻きも含めて仲良くなっていたということである。


「はぁ~……そんなことも説明しないと分からないのォ?」


 どでかいため息をつきつけてくる。もう少しで息が俺の顔にかかるのではないかというほどのどでかいため息だ。キングオブため息。

 いや、待てよ。しかし、今ここで思いっきり息を吸うことにより、ヤンが吐いた大量の空気を俺の身体に取り入れることができるのではないか!? つまり、関節呼吸の偉業を成し遂げることが出来るのではないか、そう考えた愚かな俺は大きく深呼吸をしてみる。


「いやぁ、そういう関節呼吸とか気持ち悪いこと、いいから……」


 ヤンは何かを察したのか額を抑えて実に面倒くさそうな表情をしている。これもまた良い。


「なんでボクがゆいゆいに接触したかってこと、わかんない? 冷静に考えてみなよォゴミ~」

「いいだろう、冷静に考えてやる、しかし、仮にも主に向かってなんだそのゴミっていうのは!」

「ゆいゆいが言ってたよ」


 なんてことを言われているんだ、俺は。そこまで言われるようになってしまっていたとは、憎悪とは増大するものなのだ、恐ろしい世の中である。もう誰も信じられない。

 なんてことは、実のところうっすら分かっていたため、そんなに絶望の底に叩き落されることもなく、ドM万歳の精神でむしろご褒美ですとばかりに受け止め、ヤンが何故姫野さんと接触していたかという理由を考えてみることにする。


「まぁ、単純に考えれば、俺と姫野さんの間に入って取り持ってくれる、とかそんなんか? さらに言えば、恋のキューピット──!」

「さっすが!」

「あってたか!」

「いや、馬鹿の考えることはすごいなァって! そんなの無理に決まってるジャン!」


 えぇ、と言いたい。抗議の声をあげたい。しかし、抗議の声をあげたところでその百倍の暴言で返されるのは目に見えているので、必要以上の言葉は投げないことにしておこうと思い直す。


「そ、そっかぁ、さすが、ヤン様……して、どのようなお考えが?」

「いや~、敵情視察、みたいな?」

「あ、つまるところ、様子見しただけ、と」

「なんかね~、ゆいゆいには同族感を感じてね」


 はぁ、つまり、それは、姫野さんが悪魔のような人だということだろう。彼は間違いなく人間なのだが、正確が悪魔的というのはあながち間違っていないだろうけれども。


「──てことは! 何も! 俺のハーレム計画は! 発展していない! じゃないか!」


 ダァン!と机を叩いてみて格好つけようと思ったが、食堂には昼時でないとはいえ、数人の人間が座しているのでそれは止めておくことにする。


「うっさ! なんかつばとかとんだし……きったな」

「あ、すみません」


 めちゃくちゃ不機嫌そうな顔になるヤン。どれだけ嫌われても悪魔の契約を結んだ以上逃げることは出来ないのだ。

 この実に脅迫じみた関係性、嫌いではない。何せ、どれだけ負の感情を向けられようとも、愛想をつかすことが出来ないのである。


「そう、俺はお前に嫌われれば嫌われるほどご褒美の表情を与えられることができるのだ!」


 おっと、しまった、つい言葉に出てしまった。ヤンは、目を細めて、あ? とでも言いたげな表情をしている。これはまたいつもとは違う、いや、さらに上を行くジト目攻撃である。新表情ゲットだぜ。


「……それで、どうやって俺と姫野さんを結びつけるんだ」


 誰かに聞かれたら面倒なことになりそうなので、少し小さめの声で聞いてみる。


「今さら声を小さくしたところでもうお前の今までの発言がアレ過ぎて、アレだぞ、アレ」

「アレはいいから、早く」

「あ~、もう! それは、今、ほら、考えてるからァ~」


 絶対に何も考えていないに違いない。この悪魔、とりあえず学校に来てみたかっただけだとしか思えない。


「おいおい、しっかりしてくれよぉ、頼むよぉ」

「ボクがしっかりすると思ってンの? ウケる」


 ウケられた。

 やはり、悪魔は役所仕事、ここで俺が出来ることを考えれば、結論は一つしかない。そう、それは、自分の力で作戦を生み出すということだ。

 このままずるずるいけば、まず間違いなく、俺の学生生活は何もないまま終了し、この悪魔を携え、社会に繰り出し、日々の仕事の疲れをこの悪魔によって癒してもらうというまるで煩悩に生きる人間の最終目標地点である夢のような生活を送ることになってしまう。それはそれでいい気がしてきたが、それはもはや叶えたも同然な夢──そう、俺は大きく生きるのだ!

 ていうか、今、おいしい思いをしておかないといつ、どうやって騙されて魂を刈り取られるか分かった物じゃないし。


「よーし、という訳で、俺が完璧な作戦を今から考えるから、それが実行可能かどうかを教えて欲しい」

「無理」

「早いから! 聞いて! 俺が考えたさいきょうのさくせんを聞いて!」

「めんどくさいなぁ~」


 ヤンは、耳に小指を突っ込んで耳の中を掃除する──言い換えるならば、耳クソをほじるという美少年にあるまじき行為を取りながら実に面倒くさそうな様子が溢れ出る仕草で返答してくる。

 よかった、小指が突っ込まれているのが鼻じゃなくて、なんて安堵していると、次は鼻へ指を持っていこうとしていたため、映ってはいけない画になると判断した俺は、すんでのところでヤンの腕を掴み、美少年崩壊図の再現をなんとか止めることに成功しつつ、その指を目玉に突っ込まれそうになりあわてて回避する。


「もうちょっと、美少年らしい立ちふるまいをしてくれないと──いかんいかん、よし、考えるぞ、必勝法を!」

「はいはい~」


 ヤンは、俺が止めてくることを面倒くさいと感じたらしく、ふわぁと可愛らしく──あ、かわいい──あくびをして、寝そうになっている。大丈夫、寝顔は可愛い、そうよだれとか垂れても、まぁ、ギリギリ、とってもギリギリセーフなのだ、俺的には。

 そんなヤンの寝顔を見ながら考えてみる。

 さて、姫野さんと俺の間をなんとかする必勝の策……。


「あ、そうだ! 記憶の操作とかは!? 俺のくそみたいな第一印象を消し去って、あわよくば、俺が最高にいい人だっていう印象を刷りこむんだ!」


 しかし、ヤンは、俺の言葉を聞いて、呆れてものも言えないという様子でこう返答してくる。


「呆れてものも言えない」


 だが、俺も負けじと反論する。


「そのくらい悪魔の力あればできるだろ~? なぁ~?」


 反論というより、ダダを捏ねたみたいになってしまったが、まぁ、いい。


「むぅりっ。前に言ったでしょ、そういうのは、管轄が違うの~。あー、それはー、アレよ、アレ。なんとか課のとこいってくれないと~」


 うぅむ、どうやら無理らしい。仕方がないので別の方法を考えることにしようとしたが、それにしたって何かしらのアドバイスは欲しい。


「じゃあ、どういうのなら行けるんだよ。お前が出来るのはさぁ、ほら、悪魔なんでしょ? トラウマを植え付けるとか……?」

「あー、それなら、まぁ、出来なくはないけど。例えばゴキブリ百匹捕まえてゴキブリ爆弾を作ってそれをお前の部屋に投げ込む、とか」

「んなあほな!」

「んー、確かに、お前もゴキブリも大して変わんないしトラウマは作れないかもなぁ」

「そういうことじゃなくて!」


 なんなんだ、一体。つまり、物理的な方法しか無理、ということか? それは実に厄介だ。ていうか、正直、それならヤンが悪魔である必要がなくなってくるような気がしないでもない。

 所詮役立たずの性処理悪魔ということか……。


「お前、今、ボクに役立たずっていう目線送ってるね?」

「い、いえ、とんでもありません」


 ヤンから殺気立った目線が送られてきたため、失礼なことを考えるのはやめてあげることにする。

 心とか読めるのかな? 怖い。びくびくする、だが、それはそれで──。


「よくねぇよ」


 ヤンがまるで心を読んでいるかのように俺の心の声にあわせて言葉を放ってくる。


「えっ」

「あ、気にしないで~」


 ヤンがごめぇんと笑って見せてくる。多分、心読めてるんだな。それだけ読めているにも関わらず、俺の作戦を立てることを手伝わない辺り、実に賢しい。


「そんなに正確には読めないからね~。なんとなーく分かるだけだよん」

「……ぬぐぐ」


 この悪魔め、けしからん。

 さて、どうしたものか。後は、なんとなく適当に思い付いた案をヤンにぶつけていくしかないだろうか──と考え、思い付きで案を出そうとした時だった。


「……ねぇ、クズ。何、あいつ?」


 いつの間にか二人称がクズになっていることが非常に気になるところだが、それ以上に、ヤンの目つきが実に険しいものになっているということの方が気になる。

 この険しすぎる眼付きは、俺を見下す時のようなものでもなければ、汚いもの(※俺を指す)を見る時の眼付きでもない、全く違ったものだった。表するならば、苦悶の表情とでも言うべきだろうか、実に険しい表情をしているのが良く分かる。

 そんな表情でも、ビバ美少年っ!感が出ているヤンだが、フードの中に隠れるようにして睨む視線の先は気になるところであった。

 俺は、意を決して、ヤンの視線の先にあるものを見る。

 しかし、そこにいたのは、悪魔祓いでもなければ、殺人鬼でもなく、ロリコンの変態という訳でもない、一人の男。


「ん? あぁ~、あの人はね、天城(あまぎ)光霞(みか)。すごい名前だよね、光に(かすみ)でみかって読むんだからね。しかも男。さらににくいことに、あの容姿よ」


 天城は一言で言うなら容姿端麗な美青年。ヤンが可愛い小悪魔系美少年で、姫野さんがこれまた可愛い男の娘っぽい美少年であると評するならば、天城は正統派美青年と言えよう。

 その容姿は決して幼くない。どちらかといえば凛々しい。しかし、一方で、線は細い。髪の毛の一本一本はスラリと軽く、その長さは男にしては少し長めであるものの、小汚さなどは一切ないうえに、地毛であるものの黒といよりは茶に近い明るい髪色である。

 当然、女子どもに人気は高い。

 俺は美少年が好きなのであり、決して成人男性に興味があるという訳ではないため、天城に関して言えば、完全にストライク外である。


「……へぇ、後は?」


 ヤンがさらに聞いてくる。姫野さんについてはこちらからずーっと話さなければ何も聞いてこなかったのに、この熱心さは一体なんなんだろうか? もしかして惚れたとかだろうか。


「惚れてないから早く言えグズノロマ」

「あー、うん、はい。結構な優等生だよ。噂によると飛び級してるとか、なんとか、俺もほとんど話したことはあんまりないから詳しくは知らんのだけども、優等生である一方で、人との交流は少ないみたいだぞ。一匹狼──俺みたいなだな」

「それは失礼過ぎるだろ……」


 ぐぐ、正論である。奴は好んでの一人、俺は自然と一人。一人。一人。


「たまーに良くない噂聞くけどな、女遊びがどうだーとか、怪しい宗教がどうこう、とか……。彼には闇があるのかもしれんな、俺の知らないところで……」

「…………」


 ヤンは俺の話を聞きながらも、天城を観察するように見ている。対する天城は、食堂の隅の方へと座って、手にしていた紙コップを机に置いて、鞄から本か何かを取り出そうとしている。

 ヤンが黙っているので、俺は、俺なりの最大限の天城に対する解釈を述べておくことにした。


「でもな、俺は思うんだよ。彼はきっと五年くらい前までは完璧なる美少年に分類されていただろうということをな。そう、俺は出来ることなら五年前の彼に会いたい! 会いたいぞ!」

「よし、分かった、黙って」


 俺の心の叫びは、ヤンの一言に弾圧される。

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