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立刃

作者: 水ようかん

 刀VS剣!

 どうぞお手柔らかに。

 西洋の剣と東洋の刀、両者の間には、本来の用途という明確な違いが生ずる。

 前者はその重量と使用者の腕力で以て対象を叩き斬る、剛の武器。

 後者はその鋭利と使用者の技巧で以て対象を膾斬る、柔の武器。

 柔能く剛を制す、とあるように、刀が優勢かと思われたが、剣も一筋縄ではなかった。

 大鋸おおが実忠さねただは苛立っていた。逸る血気を抑え込み、疼く衝動を唾棄するのに数刻を要した。握られた太刀が血を吸わずして久しい。高く波打った刃紋が血を欲して猛っていた。実忠は幾度となく鮮血をその刀身に染み込ませ、紅く彩り恍惚した。ところが期せずして現れた難敵に思いの外苦闘を強いられていた。

 斯様に厄介な奴も滅多といまい、この畜生め、と内心で毒づく。実忠と彼奴は間合の一歩外を維持し、互いに牽制して膠着していた。

 しかしそれにしても、彼奴の得物には益々瞠目するものがあった。直刃である上に諸刃、刀身は太く短い。柄は片手で持ち、余った手には円盾が構えられている。乱れ刃にして片刃、刀身が細く長く滑らかな曲線を描く実忠の得物とは全く以て対照的だった。

 実忠が敵の得物(後で聞くところによると、西洋の剣らしい)を注視していると、一瞬の虚を衝いて彼奴が間合を一気に詰めてきた。半歩引く暇さえもあらず、実忠は逆に一歩踏み出して斬り結ぶ。焦眉の急というやつだろうか、それこそ互いの眉と眉が触れ合わんばかりの至近距離においては、太刀の方が圧倒的に不利なのは明らかだった。刀身が長い分、その太刀遣いの難度も比例する。しかしこちらは両手で相手は片手、力で押せばこの鍔迫り合いはこちらに分がある。その証左に、相手はこちらが力を加える度見る見る押し負けている。奴の顔に苦悶の表情が浮かび、実忠は更に力を込めた。

 しかしどうしたことだろうか。実忠の右頬に強い衝撃が走り、思わぬ方向からの力に面食らった。当惑しつつも敵の眼前、毅然と太刀を構えて、そして先程自身に何が起こったかを理解した。盾だ。奴は盾で実忠の顔を殴打したのだ。激情が滾った。剣尖煌めき、太刀風を遅らせながら猛然と斬りかかった。相手はそれを受けようと今度は円盾を構える。しかし澄んだ太刀音は耳に聞こえず、盾の直前で太刀影閃いて、袈裟懸けに斬ろうとした剣鋩は急激に反転、盾の無い箇所に切先が回り込み、無防備となっていた脇腹を逆袈裟に捉える。だが相手も然る者、咄嗟に剣を用いて再び斬り結び、零距離での剣戟に持ち込まんとする。居合の剣技、燕返しを防がれた実忠は同じ轍を二度踏まない。再度相手が同じ謀略を巡らせていると知るや、太刀の鎬を剣の物打に触れさせ、文字通り鎬を削って刀身を上方に逸らす。彼奴は片手で太刀を抑え込む必要があったため、その太刀が鍔迫り合いから脱した直後力が余って前のめりになった。実忠は愛刀を斬り上げた後、返し刀で大上段に構え、遂に難敵を斬り伏せたのであった。


 暇潰しに殺陣を書きたかったというかなんというか。

 燕返しってなんかカッコいいよね。

 ご読了頂き、恐悦至極に存じます。

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