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「Shift the earth」10円小説家で検索

掲載日:2014/05/21

「Shift the earth」10円


人類の発展の末、地球温暖化が深刻な状況となっている。世界の平均気温は四十五度を超えていた。

連日の猛暑は、多くの植物を枯らす。

さらに、海水温の上昇で、海の生き物は壊滅状態となっていた。

海からも陸からも、人類の食料確保は限界を迎えていた。

しかし、人類も指を加えて見ていたわけではない。

バイオ科学者は、高い気温で成長する作物を生み出すため、遺伝子組み換えの努力を重ねた。

気候学者は、日夜気温を下げるための研究に没頭する。人類は、自然に抗っていた。


 ある街に、A氏という少年がいた。A氏は、星を観察するのが趣味で、宇宙が好きだった。

A氏の父は、気候学者である。A氏は父の背中を見て、同じ気候学者になりたいとは思わなかった。

それは、父が休日も研究に没頭するためだ。

A氏が父を誘おうものなら。

「遊びに連れて行ってよ」

「今日も仕事だ」

「新しい遊園地ができたって」

「次は行くから」

「この本読んで欲しいな」

「出掛けてくる」

何かしら言い訳をするのが、父の返事だった。

A氏の行事である、運動会、参観日、入学式、卒業式には来た試しがない。

「どうせ、来ないんでしょ」

「すまんな」

父にも事情があった。公の危機管理委員会から、気候学者に圧力がかかっていたのだ。父は、人類のために休む暇などなかった。

そんな父を見て、A氏は母に愚痴を言う。

「どうして、父さんは僕のことを一番に考えてくれないの?」

A氏の母は、いたって普通の専業主婦。A氏のことを不憫に思い、父の分も愛してくれた。

「父さんは、一生懸命働いて、私たち家族を守ってくれているのよ」

「ふーん」

「だから、父さんのことを悪く思わないでね」

「わかった」

「うふ、良い子ね」

A氏は母の愛によって道を踏み外さず、真っすぐに進むことができた。将来の夢は、父とは違う天文学者だ。

子供時代の思い出が、よほど堪えたらしい。気候学者という仕事が憎くてしょうがなかった。

夜になると、A氏は望遠鏡を覗いた。

「僕は、父さんとは違う道を歩む」

両手を重ね宇宙に誓う。

「父さんと地球温暖化の戦いを終わらせてやる」

人類が移り住める星を探し出して、父の仕事を奪うつもりだった。


時は過ぎ、A氏は横品大学の卒業論文で、興味深い文章を書いていた。

現在、人類の住める星は、探査機による調査では見当たらない。遠く未開の地に存在したとしても、移動できない。ここに、移動するための条件を三つ提示する。

一つ目、人類は、宇宙で子孫を繁栄できない。無重力での男女の結合は、難易度が高い。さらに、宇宙線と放射線による影響で、母親が受胎できたとしても、正常な人間が生まれる可能性は低い。

二つ目、コールドスリープの技術革新により、人間を仮死状態にすることは可能となったが、長時間の仮死状態により、起き上がるための筋肉と骨の喪失。宇宙では、老人の十倍の速度で骨密度が低下する。寝たら最後、起き上がれない。

三つ目、宇宙ゴミと隕石の存在。直径二十センチの大きさであっても、高速でぶつかるゴミたちは、ミサイルに等しい。宇宙船の壁に、穴を空けることは容易いだろう。もちろん穴が空けば、酸素は宇宙に放出され、人類は死にいたる。

A氏は、子供の頃から宇宙旅行の問題に悩み、答えを考え続けた。その結果が、人類の移り住める星の該当なし。人類の長期における、宇宙旅行不可能の事実だった。

A氏は卒業論文を持ち帰り、父に見せた。それは、A氏なりの敗北宣言だった。

父は、卒業論文を読むと小馬鹿にして笑った。

「それみたことか、気候を研究するのが一番だ」

「ちくしょう……」

「今からでも気候学を勉強するべきじゃないか」

「やめておきます」

側にいた母も、卒業論文が気になった。

「見せてもらっていいかしら?」

「どうぞ」

卒業論文に目を通すと、とてもがっかりした。

「なんだか残念ね」

「母さん、期待はずれでごめんなさい」

「あんなにも、広大な宇宙に無いなんて」

「そうなんだ……」

A氏は自信を失い、二階へあがった。

リビングに残された父は、つぶやいた。

「少しでも、考え直してくれればいいが」

A氏は、自室に籠った。ベッドで仰向けに寝転がる。

人類はこのまま、暑い地球と共に絶滅するのだろうか。

天井のプラネタリウムが、涙でぼやけて見えた。

「僕はどうすれば」

答えが見つからないまま時を過ごし、横品大学を首席で卒業する。やがて、天文学者となった。


A氏は天文学者として、スタートする。来る日も来る日も、宇宙を探求した。小さな小惑星から千億個の銀河のことまで、果てしなく広がる宇宙は興味がつきない。

ペテルギウスについて、このままいけば超新星爆発で、中性子星になるな……。爆発のエネルギーは、地球の電磁波を狂わせる可能性がある。電子機器に、注意が必要だ。

月について、少しずつ地球から離れているな。地球の自転がわずかに遅くなっているのが証拠だ。やがて、潮の干満にも、多少の影響がでる。

太陽系について、惑星間の距離を測るのも、天文学者の仕事だった。300年以内に、M583小惑星が地球にぶつかる確率は7パーセント。もしぶつかるとしても、どの辺りかを特定せねば、被害は最小限に抑えないと。

基本は、宇宙災害を予測し人類に発信していた。


休日、A氏は王国図書館で本を探していた。

王国図書館には、数えきれない本があり、あらゆるジャンルが揃っていた。

図書館の南東に位置する科学コーナーで、宇宙に関わりがありそうな本を探す。

三段目のタイトルを見ていると、地動説が目に入った。

ガリレオが唱えた地動説なんてあったなー。

「ん、地動説?」

頭から地動説が離れない。

待てよ。

地動説の本を、棚から抜き取る。パラパラとめくった。

地動説と言えば、ガリレオが手作り望遠鏡を使って、土星を観察。衛星の動きから、地球が自転していることを証明したんだよな。

地球が動いている?

そうだ。

仮に、地球を動かせるとしたら。地球移動説の可能性。

頭をフル回転させる。

考えてみれば、単純なことだった。地球を動かせばいい。

地球を動かせば、地球の気温は冷えるだろう。

ペンでメモをとり始めた。

メモ紙に、一般人に理解できない数式が並ぶ。

「地球が冷えれば、父を超えられる」

A氏の胸は鼓動を打ち、興奮してきた。

「太陽と地球は、一億五千万キロメートルの距離を離れている。その距離から、気温変動の影響を考えて、約三十八万キロ動かせば、地球は救われる」

次から次に、ペン先が自然とはしった。

「すごい発見だ」

A氏は、食事を忘れ没頭した。


今後の地球をどうやって冷やすか、各業界の代表を集めた会談が開かれた。幸運なことに、A氏も選ばれた。

地球がテーマのわりには、狭い会議室だった。テーブルに、四つの椅子が備え付けられている。各席、お茶も置かれていた。

メンバーは、天文学者のA氏、宇宙開発研究機構の研究員B氏、気候学者のC氏、バイオ科学者D氏が集まる。

B氏が進行役となっていた。

「それでは、みなさん発言してください」

C氏が発言した。

「二酸化炭素を減らすべきだ」

D氏の意見も飛ぶ。

「いいや、人間の遺伝子を組み替えて、進化を早めることが先決だ」

B氏は別の意見を言った。

「それよりも、オゾン層を人の手で作ればいいのでは」

D氏は、猛反対する。

「もう一度、太古の自然に地球を戻されるおつもりで?現実的なのは、高い気温で成長する作物を作ることですよ」

会議は平行線をたどる。

そんな中、A氏はとんでもない一言を発言した。

「地球そのものを動かしましょう」

こいつは、何を言い出すのか、全員が黙りこんだ。

誰もが、A氏は正気じゃないと口にした。

「無理でしょう」

だが、A氏は本気だった。

「あなたたちのやろうとしていることでは、根本的な解決にはいたらない。二世紀前のエコだの省エネだと、先人たちの延命処置が教訓となってないじゃないか」

C氏が怒鳴る。

「延命処置だ?」

D氏が机を叩いた。お茶のしずくがこぼれる。

「先人たちの研究を、無駄だとおっしゃる?」

B氏が二人をなだめた。

「まあまあお二人とも、詳細を聞いてみようではありませんか。A氏、地球をどうやって動かすと?」

「すでに、イメージは出来ております」

A氏は、パソコンとプロジェクターを繋ぎ、スクリーンに映した。自動的に、部屋の明かりが調整される。

「スクリーンをご覧下さい」

熱を帯びた地球が映し出される。地球の中心にエンジンが取り付けられ、火を吹く。同時に、地球が動いた。

熱を失った地球が残り、映像は切れた。

C氏は反対する。

「こんな巨大な火を吹けば、地球の気温がさらに上昇しそうじゃないですか?」

A氏も反論する。

「例え、気温が数度上昇しても、移動後は大きく低下しますので、たいした問題ではありません」

「……」

D氏の反対もあった。

「一ついいですか、こんな大きなエンジンを誰が作れるのですか?」

A氏は反論した。

「宇宙開発研究機構には、火星へ片道飛行したワッセルMVAエンジンがあると聞きましたが」

B氏は答えた。

「ありますね。しかし、到底地球を動かす力なんて」

A氏も引きさがらない。

「これを小惑星規模の大きさにしてください。それならば、可能です」

B氏は、思わず席を立つ。

「A氏、無茶ですよ」

「あなたなら作れますよ。いや、作って頂かなくては」

「他の選択肢はないのでしょうか」

「延命処置を、このまま続けていくのであれば」

B氏は、しばらく沈黙した。

再び開いた唇は震えていた。

「挑戦するしか道はないのですね。みなさん、異論はありませんか?」

「……」

他の二人は、不満を腹に溜めこんだ。

「以上で、解散といたします」

会議が終り解散となった。C氏とD氏は、納得してない表情のまま退席した。

B氏がA氏に握手を求める。

「A氏、また後日お会いしましょう」

「はい」

A氏とB氏は握手を交わす。お互い強力なパートナーとなった。


後日、A氏は宇宙開発研究機構の研究員、B氏の元を訪れた。宇宙開発研究機構の建物は、ロケットをモチーフにしたデザインだった。

真下で見ると、立派な建物だな。

正面の自動ドアから入り、受付を済ませる。

「いらっしゃいませ」

「天文学者のAです」

「確認いたします。少々お待ち下さい」

受付の女性が、B氏と連絡を取る。

「A氏が来られました」

「ええ、はい」

女性の表情から読み取れる問題なさそうだ。

「確認が取れました。A氏こちらへどうぞ」

受付の女性が、壁の地図を指し、開発スペースの行き方を説明してくれた。

「ここから、突当たりが開発スペースになります」

「どうもありがとう」

A氏は説明を頼りに、開発スペースへ向かった。問題なく辿り着き、横にスライドする頑丈な扉を動かす。

「Aです失礼します」

中に入ると、筒状の部品やら、太いケーブルが乱雑に置いてあった。

「これは、すごいですね」

B氏は忙しそうに、複数のモニターをチェックしていた。

「迷わずこられましたか?」

「はい、受付の方から親切に教えていただきました。どうですか、新しいワッセルMVAエンジンは?」

「これはほんの一部です。人間で言えば、脳みそでしょうか」

「なるほど、巨大な作りになりそうですね」

「小惑星ほどの大きさですから、全身なんていうのはもう」

「いやー、想像できませんね」

さっきまでのB氏の笑顔が、急に曇った。

「A氏、実は問題がありまして」

「どうされました?」

「資金が足りません」

「資金ですか」

「そうです」

資金が足りないのは当然だ。これだけ大規模なプロジェクト、今まで無しでできていたのが不思議なくらいで。

「知り合いを、あたってみましょうか」

「よろしくお願いします」

「また後日」

A氏は、開発スペースを後にした。


A氏は、国や企業を駆けずり回った。特に、地球が冷えることで得をする発展途上国、国営の発電所、鉄工所、石油会社から支持された。石油会社の社長の話。

「我々も地球温暖化には、手を焼いていた。A氏の地球移動の話、期待しています」

A氏は一礼し、頭を下げた。

「ご協力感謝します」

これだけの資金があれば、B氏の開発もすすむだろう。

多額の資金が集まった。


再び、B氏を訪れた。

「A氏、資金はかなり難航したんじゃないですか?」

「そうですね。反対する人も、結構いましたから」

A氏は、B氏に誓約書と小切手を渡す。

「B氏、サインをもらっていいですか?」

「構いません」

B氏は誓約書にサインした。

「A氏、もう一つお願いしていいですか」

「何でしょうか」

「地球を動かすには、莫大なエネルギーを必要とします」

「今度はエネルギーですか?」

「今までとは次元の違うエンジンですので、エネルギーの必要量も半端じゃないんです」

「わかりました」

「ありがとうございます」

「B氏、しばらくお待ちください」

A氏は、開発スペースを後にした。


A氏は、会社へ戻り、バイオ科学者のD氏に電話をかけた。

三コール目で電話がつながる。

「もしもし」

「Aです」

「ああ、この前地球を動かすと、大口叩いた人ですね」

「この前は、失礼なことを言って申し訳ありませんでした」

「ほー、突然の開き直りはなんでしょうか」

「実は、ワッセルMVAエンジンのエネルギー確保の問題が起きまして」

「そうでしょうね」

「何か心当たりはありませんか」

「あったような気もするが、思い出せませんね」

「確かD氏、国産のウナギがお好きだとか、今日送ります」

「これはこれは、ご丁寧に。そういえば、月の隕石に、秘められたパワーがあると聞いています」

「なんと月の隕石が?」

「二千年前、月の隕石が虎大陸に落ちたそうです」

「その虎大陸がわかりますか?」

「FAXで資料を送りましょう」

「助かります」

A氏は、電話を切る。早速、FAXから資料が送られてきた。

資料に目を通す。

「なるほど、使えそうだ」

読み進める。

「調べてみよう。虎大陸へは、飛行機が望ましい」

A氏は車を飛ばし、空港へ移動した。飛行機に乗り、虎大陸を目指す。


長距離を飛び終え、虎大陸の空港に着いた。

「使えるエネルギーだといいが……」

レンタカーを借りる。月の隕石の手がかりを求め、資料に書かれてあった村へ走らせた。

原住民が住んでいる村だった。

「どうも」

「?」

村人と話すが、言葉が分からず会話にならなかった。たまらず村人が、村長を連れてくる。

村長が、A氏に話しかけた。

「ワタシガ、バレバレゾクソンチョウ」

村長は教養があるのか、なんとなく意味が伝わる。

「初めましてAです」

「ドウシテココヘ?」

「月の隕石を探しています」

「ツキノイシ、ボクラノカミサマ」

「え、月の隕石は、この部族の神様なのですか?」

「ソウデス」

「これが無いと地球は、滅びてしまいます」

「カミサマイナクナル、バレバレゾクオシマイ」

「そんなことは絶対にありません、僕が守ります」

「アナタマモル?ドウヤッテ?」

「僕にできることがあれば」

「ソウカ。コマッタコトアル、アメフラナイ」

「雨ですか」

「イネカレル」

「わかりました。少々お待ちを」

鞄から、衛星電話を取り出し、気候学者C氏に電話を掛ける。

「もしもし」

「どなたですか?」

「Aです」

「この前の人?」

「はい」

「何か御用で?」

「雨を降らせてくれませんか」

「何を突然言いだすのですか!」

「実は、ワッセルMVAエンジンのエネルギーの調達に来ていまして、雨を降らせないと、そのエネルギーが手に入らないのです」

「それで?」

「ですので、力を貸して頂けませんか」

「お断りです。敵に塩を送るほど馬鹿ではありません」

ガチャ、電話は一方的に切れた。

切られるのも、当たり前だった。地球を動かせば、気候学者の温暖化を阻止する仕事が奪われるのである。

A氏は、動揺した。

「村長、すぐには無理です。時間を下さい」

「ムリナノデスネ」

「あ……」

村長は冷たい反応を見せた。

「オカエリクダサイ」

「また来ます」

A氏は一旦諦め、空港近くのホテルに泊まった。


A氏は、シャワーを浴びる。

なんということだ。

気候学者C氏の協力は難しい。

ここに来て、大きな壁にぶつかった。

「こんなことなら、敵対するべきじゃなかった」

頭を抱える。部屋のテレビが、虚しく点いていた。

期待せず、衛星電話の電話帳を眺めていた。

誰かいないだろうか。

ア行、カ行、サ行。

タ行、武田、田中、チカ、父。

「父さん……」

父は、気候学者のOB。頼るのは大きな抵抗があった。しかし、他に良い方法も見当たらなかった。

抵抗を打ち消し、父に電話を掛けた。

「はい」

電話を握る手に、緊張が走る。

「Aです」

「久しぶりだな」

「お久しぶりです」

「どうした?」

何を話せばいい。父は、長電話が好きじゃないはず。

そうだ。

「飲みませんか?」

「いいぞ」

父は、A氏の思いを感じていた。

「では、明後日そちらへ伺います」

「わかった」

相手から通話が切れた。

しばらく、A氏の手が震えていた。


早朝の飛行機に乗り込む。公共交通機関を乗り継ぎ、長年顔を出さなかった実家へ向かった。

家の呼び鈴を鳴らす。

「はい」

懐かしい声だった。

「Aです」

「お帰り」

「ただいま」

母は、A氏を迎え入れた。最後にあった時より、腰が曲がり、白髪としわが増えていた。

会わない間に、月日が流れたのだと感じた。

父は、テーブルで待っていた。A氏も向かいの椅子に座る。

母が父のグラスにビールを注ぐ。A氏のグラスは空のままだった。

父のほうが先に口を開いた。

「地球を動かすそうだな?」

「そうです」

「気候学者の仕事を奪い、さぞ嬉しかろう」

「……」

「今日は、父を笑いに来たのか?」

「いえ」

「見事じゃないか。地球を動かして、地球を冷やすなんて考えもしなかった」

「その話じゃないのです」

「ならば何を?」

「一つだけお願いしていいですか」

「何だ言ってみろ」

「バレバレ族のために、雨を降らせてはくれませんか?」

「それはできない」

「どうしてです」

「気候学者としての私が許さないのだ」

「父さん……」

父は、グラスのビールを一気に飲み干した。

「だが、私はお前に何もしてやれなかった。行事の参加や、遊びにも連れて行ってやれていない。今は、後悔している」

「昔のことはもういいよ。ほらこの通り、父さんのお陰で大きくなれたんだ」

A氏は、父のグラスにビールを注いだ。

「すまんな」

父はグラスに口をつける。飲むと、グラスをテーブルに置いた。

「お前も飲め」

父からビールを注がれ、A氏はビールをいただいた。

「気候学者ではなく、お前の父として協力させてくれ」

「父さんありがとう」

二人の世界に、母の明るい声が割って入った。

「お寿司もあるわよ」

翌日、父がC氏に話をつけてくれた。


 A氏は、C氏気候学者たちと、現地の村に着いた。

「こんにちは、Cです」

「ワタシガ、バレバレゾクソンチョウ」

「お困りでしたよね?」

「コマッタコトアル、アメフラナイ」

「任せてください」

大きな煙突のある機械をセットする。電源を入れると、煙突から水蒸気が発生した。水蒸気が、雲に育っていく。やがて、カラカラに乾いた大地に雨が降った。

「アメダアメダアメダ」

「良かった」

バレバレ族の村長からお礼を言われる。

「アナタハ、イノチノオンジン」

「私の力ではありません。気候学者の人たちのおかげです」

C氏は、自らの胸を右手で叩く。

「プロですから」

「ナルホド」

「ところで石の件ですが」

「カミサマ、アノヤマニアリマス、チキュウスクウタメニツカエ」

「いただきますね」

A氏は、山に登り。月の隕石を発見した。

「よし、お願いするとしよう」

衛星電話で、石油会社の社長と話す。

「月の隕石を動かしたいのですが」

「了解した」

一ヵ月後、石油会社から重機が運びこまれ。月の隕石の採掘を始めた。


六年の歳月を費やし、B氏は巨大な小惑星規模のエンジンを作り上げた。その名も、シフトジアース。

使われる新エネルギーは、月の隕石から抽出したヘリウム3。プルトニウムよりも、強力な核エネルギーだ。人類にとって、何度も滅亡の危機にさらされた原子力こそが最後の切り札だった。

シフトジアースは、地球の自転を阻害しないように、地球のへそと呼ばれる熱帯地域へ設置された。そこは、地球の中心である。


いよいよ、準備が整いシフトジアースを動かす日がやって来た。

世界中の人々が、衛星からのテレビ中継に釘付けとなった。

B氏は、小惑星エンジンを始動させた。

「シフトジアース始動!」

A氏は、その姿を鳥に例えた。

「地球に、翼が生えたようだ」

シフトジアースは、爆音をたてて太陽の重力と戦う。

「がんばれ!」

世界中がシフトジアースを応援する。

「がんばれ!」

懸命に出力をあげ、太陽の重力に抗う。

「がんばれ!」

煙がエンジンからあふれる。ここまで来たら、やり遂げてほしい。人類は願った。

「がんばれ!がんばれ!がんばれ!」

地球が揺れた。

「動いた」

地球が、太陽から離れていく。

太陽の呪縛から地球が解放されたのは、何億光年ぶりだろうか。

気温を下げ過ぎないよう、慎重に距離を稼いだ。

「そろそろ目標地点だ」

目標通り、三十八万キロで停止させた。

太陽と離れたことで、世界の平均気温は十六度下がり、三十度となった。

世界中が歓喜の渦に包まれた。

「地球は救われた」

「ありがとうA氏、B氏」

地球移動説は成功した。

各新聞社は号外を刷り、街角で配る。

一面のタイトルは、天文学者のエリート、ガリレオ越えを果たす。

祝賀パーティーが開かれ、A氏とB氏は英雄と称えられた。

「A氏、地球の移動を成功させた。今のお気持ちは?」

「私一人では、不可能でした。仲間のおかげです」

「仲間ですか?」

「B氏、C氏、D氏、関係者の皆様のことです」

「なるほどですね。ところで、お父様が気候学者とお聞きしましたが?」

「子供の頃の僕は、遊んでくれない父を憎んでいました。父の仕事を奪うつもりで、天文学者となり」

「親不孝なことをしてしまったのですね」

「親不孝の僕を、父は助けてくれました」

A氏の両目から涙があふれ出てきた。

「父の……」

言葉につまる。

「僕が憎んでいた分だけ、父から愛されていたのだと思います」

「お父様は、あなたを誰よりも愛していたのですね」

「はい……」

B氏が、A氏の肩を叩いた。

「カメラの前だからって、我慢することないさ。嬉し涙なのだから」

「おぉ……」

A氏は、ハンカチで涙を拭った。

新聞記者が、A氏とB氏と会場の関係者で、写真を撮りたいと言ってきた。

「はい、それでは並んで下さい」

A氏とB氏が中央に座る。

写真を一枚撮った。

「みなさん表情が硬いですね。もう一度」

写真をもう一枚撮った。

「A氏、少し笑って下さい」

「すぐには、笑えないよ」

記念写真は、A氏だけ泣き笑いしていた。


A氏は、程よく酔っていた。会場に車を残し、タクシーに乗った。

運転手は、興奮気味に話しかけてくる。

「A氏じゃないですか?テレビ見ました。僕らのヒーローじゃないですか」

「はぁ……」

「もしよかったら、娘がファンなんです。サインを下さい」

「あ、はい」

私みたいな者にも、ファンができるとは。

運転手に手帳を渡され、余白にサインを書いた。

A氏は、タクシー運転手の話を適当に相槌していた。

「ここで降ります」

「運賃まけとくよ」

「ははは……」

A氏は、タクシーから降りて家に入った。

寝室の窓から、大好きな空を見上げた。その日の夜は、いつもと違っていた。曇りでもないのに、星がまったく見えなかった。

「星が無い?」

それどころか、月も見当たらない。

「月も無い?」

何やらでこぼこが。近過ぎて、月が見えていなかった。視界全てに、月の表面が映る。

見慣れた美しい月は、表情を変え迫ってきた。

「そんな」

A氏の顔色は、青白くなった。

月の肌まで、肉眼ではっきり見える。

A氏は、月に告白した。

「僕は地球のことばかりを気にかけ、あなたを忘れていた」

月が地球の重力に引き寄せられる。距離がゼロとなり。

月は地球に衝突した。

まるで兄弟のような懐かしい風を感じた。





あらすじ


地球温暖化が進んだ未来。


地球温暖化を解決するために、


天文学者のA氏は、


地球を太陽から遠ざけようと奮闘するが……。




以上


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