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秀吉の遺言  作者: 鳥越 暁
新たな日本の形
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この国を豊かに

 大岡左馬介は従者を連れず単独で市橋長勝を訪ねていたが、長勝の屋敷に泊ることになり旗本の真田信正を呼び寄せた。


 次の日、左馬介と長勝は日の本の行く末などについての話を再開する。


「左馬介殿。昨夜一晩思案しましたがな。やはりよう分からんのです。豊臣や左馬介殿の織田家がこの国を何処に導こうとされておるのかが。もちろんこのまま戦が続く世が良い訳はございませぬ。それは分かっておるのです。戦のない世ということであらば世を纏めるのが徳川ではいけなかったので? そして騒いでおる黒田ではいけないので? 」


「ふむ。戦を終わらせる、すなわち世を纏めるというのは天下を取るということです。徳川の世になっていたとしましょう。家康殿は外の国との関わりを狭めようとされておられた。異教はもとより異国からもたらされる様々な物資や技術に関してもでござる。」


「ええ。それはこの国を守るためとお聞きした事がございますが? 」


「守るため? ものはいいようでござる。今、交易で財をもたらしてくれておる鉄砲などは元々は外の国よりの物。しかし今では外の国へ売っているのですぞ。それらを介するのは異教徒の宣教師どもです。異教を封じ込めればそれらの道は閉ざされます。」


「………。」


「分かりやすい例を申しましょう。」


 左馬介は『ぱんっ』と手を一つはたいた。

 しばらくすると左馬介たちのいる部屋の表で声がする。


「殿。お持ちしました。」


 そう言って戸が開き、一人の男が膳を運んできた。


「長勝殿。腹が減りませぬか? 儂は手の者に言いつけ用意させました故、召し上がって下され。」


 膳を左馬介と長勝の前にそれぞれ並べたのだった。膳に並ぶ物は見た事もない物であった。


「ささ、どうぞ。」


 左馬介が進める。左馬介も箸を伸ばして食べはじめた。長勝もそれに続く。


「美味い! ははあ、これらは南蛮の食い物ですな!? 国が開かれればこれらを食することができるとおっしゃりたいか? 」


「ふふふ。確かに南蛮より渡来した物でござる。なかなかでございましょう? ですがな、これは全てこの国で獲れた物なのですぞ。」


「ん!! 」


「南蛮よりもたらされた物を種から育てあげて獲った物です。この黄色いものは南瓜(かぼちゃ)、葉野菜は唐菜(からな)、いっけん石の様な面持ちのは馬鈴薯(ばれいしょ)と言う物です。」


「ほう。」


「これらの育て方を学び百姓どもに作らせたのでござるよ。我が国の百姓は米を作るのみでござった。米に適さない所では粟や稗でござる。そのような米に適さない所でこれらの物を育てさせたのです。

 どうですかな? このように色々な物が獲れるようになれば民達は豊になるとは思いませぬか? 米の不作な年でもこれらが豊富に獲れれば飢える事は少なくなります。」


「うむ。確かに……。」


「これらに目をつけたのは実は前田慶次郎殿でござる。慶次郎殿の治めておられる越前頸木は豊かになっております。豊かになれば一揆など起こるはずもございませぬ。一揆などに悩まされる事が減れば役人は余計な事を考える事もなく政務に精進できまする。…… これはほんの一例でござる。」


「なるほど。他の例えも聞きとうござる。」


「では。かつて我が織田が治めておりました播磨では商いに力をいれさせました。そこでは算盤を作らせて売りに出しました。商いには計算は欠かせませぬからな。この国の多くの商人たちは算盤をはじいております。これも見方を変えれば商人たちを助くることでございましょう。」


「ほう。面白い。民のために外の物を取り入れる。なるほどのう。」


「ええ、その通りです。そして民を守らねばなりませぬ。徳川は大型船の建造を禁じ、大筒の製造もやめるようとの事でござった。豊かになったこの国を外の国が欲するでしょう。そうなった時に、船は小さい、大筒は無いでは守れますかな? 答えは考えるまでもないでしょう。」


「……。」


「今お話ししたのは私めの理解できる範囲の事でござる。外の国との関わりについてはもっと深き事柄があるのでしょうがな。どうでござろう? 今までのままよりも良い世が見えては来ませぬか? 」


「…… そうでござるなぁ。じゃが、儂の様な戦しかしてこなかった者に何かができましょうか? 」


「戦が得意な者は、それを活かせばよろしいのです。今しばらくは国内を纏めるために戦が続きます。国が纏まった時は、外の国から民を守るために働く場はあるはずです。」





 左馬介の話しに引き込まれた長勝は織田国に仕官することを決めていた。


 同じ頃、同じような話が江戸城でもされていたのだった。豊臣秀頼と伊達政宗の面会である。彼らの話はもっと具体的にこの国が外の国と肩を並べていくための事柄につても話されていたのだ。



 政宗も市橋長勝同様に、面会が終わった頃には秀頼の器量が己よりも大きい事を悟り、共に歩んで行こうと決意していたのであった。

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