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秀吉の遺言  作者: 鳥越 暁
徳川家の衰退
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龍光寺攻め前夜

 徳川秀忠は八王子龍光寺に向けて進軍を開始した。従うは井伊直勝、井伊直孝、金地院崇伝、大久保忠隣、徳川義直、土井利勝、大久保忠教、蒲生秀行らである。黒田官兵衛、本多正信らは江戸城留守居として置いて行く。江戸城は堅固であるため、僅かに三千の兵しか置いていかない。

 秀忠は官兵衛が嫌いであった。確かに頭は切れるのであろうが、どことなく陰湿であり、馴染めなかった。官兵衛の持つ根の暗さは家康と通ずる物の様な気がしていた。


 今回、龍光寺攻めに動員した武将は秀忠が信頼する者達に限定した。家康の葬儀の席で、豊臣秀頼と接し、将軍としての重みや家康の嫡男としての仮面を脱ぎ棄てて、秀頼に対したかったのだ。


 進軍の途中、金地院崇伝が馬を並べてきた。


 「上様、戦などした事のない儂を何故連れてゆかれる? 」


 崇伝は秀忠に訪ねた。金地院崇伝は家康に請われ、政務を執り行っていた者である。一色家という武門の出ながら若くして僧籍に入り戦の経験はない。当然の疑問であった。


 「これから、そなたには徳川家の政務全般を取り仕切ってもらう。その中で戦を知るのと知らないのとでは違うと思うてな。それに城におっては毒気に当てられる事もあろうて。」


 と秀忠は崇伝の疑問に答えた。現在、徳川家の政務は南光坊天海が中心となり行われている。天海と崇伝は意見の食い違う事も多く、家康存命中は天海の意見が取り上げられることが多かった。天海は家康好みの策を持ち出し正信らに根回しをして言上する。一方の崇伝は家康が好みに左右されずに一番効果的と思われる策を示していた。

 また、「毒気に……」などど秀忠が言ったのは、天海とも崇伝とも違う色の官兵衛の事を暗に言っているのであった。


 「さようで。御家の御政務の事などは戦の後にお話しいたしましょう。」


 そう言って崇伝は己の列に戻っていった。




 秀忠率いる徳川勢は昼過ぎに龍光寺手前の平原に着く。秀忠は、すぐに物見を出し龍光寺の様子や地形を探らせた。その結果、龍光寺は攻めづらい地形の上にある事が分かった。龍光寺に軍勢を進めるための道は大手の一本しかなく、周りは藪深い森林だ。大手の道の左右は斜面で、丘を削り道を敷いたのであろう事が判る。どの様な布陣で攻めるか秀忠は思案したが、妙案が浮かばずにいた。

 やがて、あっさりと考える事をやめて、本日は攻める事をせずに陣を敷いた。葬儀の後の急な出陣で、兵達も疲れているだろうと考えたのである。秀忠は夜になるのを待ち、諸将を呼び寄せ軍議を開いた。


 「さて、秀頼の籠る龍光寺攻めだが、物見の話を総括すると中々攻めづらい。こちらはこの大手の道一本からしか攻め込めぬ。数の利が活かせぬ地形じゃ。誰ぞこれはと思う策はあるか? 」


 秀忠は問い掛ける。それに答えたのは蒲生秀行である。


 「なるほど、攻めづろうございますな。小谷城の小さきごとしと考えてよろしいですかな。」


 秀行は浅井氏滅亡の地、天下の堅城と呼ばれていた小谷城を引き合いに出した。それに秀忠はすぐに反応した。


 「小谷城とは規模が違うわ。それに小谷城の周りには支える城が数多くあった。まあ、しかし、要害には違いはないな。確か、小谷城攻めでは結局数で押したのだったか。」


 秀忠は凡将と見られがちであり、本人もそう思っている節があるが、過去の戦などは良く勉強していた。その勤勉さは将の素養があるといえる。それに家康が亡くなり重荷が取れたのだろうか、いつもの気負いは感じられない。


 「仕方ないの。かつての信長公のように城下を焼き払うことなどできぬ。徳川領じゃからな。」


 「周りの森を焼き払うと言うのはいかがで? 」


 土井利勝が尋ねる。


 「いかん、大火になり街に燃え移るやもしれぬ。」


 秀忠は即座に否定した。


 「よしっ! ここは力攻めじゃ。先鋒は土井利勝、その方に鉄砲隊二千を預ける。利勝を大久保忠教が支えよ。大手門に通ずる道の入り口、いわば虎口に後の者は控えよ。蒲生秀行は丘を大きく周り裏手に出よ。どこぞに抜け道があるであろう。表からの攻めが上手くいけば必ず裏から逃げる。秀行はそれを逃がさずに討て。明朝、夜明けとともに出撃する。」


 こうして各布陣が言い渡された。明朝、いよいよ戦の火蓋が開かれる。


◆       ◆       ◆        ◆


 その頃、江戸城では……。


 宛がわれた居室で独り黒田官兵衛は黙考していた。


【秀忠は儂を煙たがったと見える。数々の戦を乗り越えた儂を留守居にまわすとはな。秀頼めの器量は誤算じゃったの。このままでは儂の立場は弱いの。ならば、この江戸城を乗っ取れぬか? 邪魔な者は? 正信、天海か。江戸城での実権を儂が握る事ができれば良いのだがな。】


 官兵衛は秀忠が留守の間に、江戸城を掌握できないかと思考を巡らせていた。明日には息子・長政もやってくる手筈になっている。それまでの間に策を練っておきたかった。


【秀忠は戦に勝つか? 否。勝てはすまい。それを秀忠自身も分かっている節がある。ではなぜ、なぜ戦に出たのか。ひょっとして負けたいのか? 負けたらどうなる、徳川の家は。まず将軍家としての権威は弱くなる。外様の者は離れよう。良い事はないように見えるがな……。】


 官兵衛は秀忠の真意を計りかねていた。



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