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秀吉の遺言  作者: 鳥越 暁
徳川家の衰退
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宮本一真の策

 家康の三日間に及ぶ葬儀が終わり、参列した徳川方大名達は帰途についた。しかし、豊臣方大名達は息をひそめるようにして、江戸に居残っていた。幸村が密かに戦支度をして待機しておくようにと触れていたからだ。


 「さてと。幸村よ。秀忠殿は間違いなく来るぞ。手筈はよいか? 」


 八王子龍光寺に居る秀頼は幸村に問う。


 「はい。父上にも先程繋ぎを取りましてございます。」


 幸村は答える。父とは隠居した真田昌幸である。秀頼は昌幸を使い何やら策を講じているようである。


 真夏の八王子は暑い、夜だというのに秀頼の体からは汗が滝のように滴り落ちている。秀頼は小姓に冷たい茶を持ってくるように命じた。

 やがて一人の男が甕と柄杓を持ってやってきた。


 「お! お師匠! なぜここに? ははぁ、戦になると聞き、大阪を抜けて参ったな!? 」


 秀頼は驚いて声を上げた。甕を持ってきたのが大阪城を前田利長と共に守っているはずの前田慶次郎だったからである。


 「御名答! 」


 と笑顔で答える慶次郎であった。


 「それで、いつ攻めてくるので?」


 慶次郎の問いに甕の茶を柄杓で掬い、啜りながら秀頼は答えた。


 「明日じゃろう。昼前にはここに来るじゃろうて。」


 「今ならば、大阪に向けて逃げるという手もあるのでは? 」


 秀頼が逃げる気などない事を知りながら、敢えて聞く慶次郎である。


 「いや、面倒じゃ。ここで雌雄を決するのもいいと思うてな。」


 そう答える秀頼を見て慶次郎は気負いのない自然体の秀頼を見た。そこに秀頼の成長を見て嬉しく思っていた。


 「長引くとやっかいになりますぞ。駿府からも寄せてくる。」


 「その前に終わればいいではないか。それにお師匠も来た。負けぬ。」


 秀頼は自信過剰になっているのではない。負けぬと言いきることで自らを奮い立たせているのである。龍光寺に詰めているのは四万、秀忠は六万程度で寄せて来るだろう。それに龍光寺は、横浜茂勝が要塞のように仕立てたとはいえ、所詮城では無い。城壁などに守られているわけでは無く、防戦一方では分が悪い。江戸内で待機させている豊臣方大名は合力しないのかという疑問が湧くが、その大名達へは別の策を命じていた。


 「さて、軍議を開こうか。」


 秀頼は呟き「ぽんっ」と膝を叩くと龍光寺境内の庭に設けられた本陣に向かった。龍光寺は小高い丘のような所にあり、周囲は鬱蒼とした森林に囲まれている。境内へと続く道はある程度の広さはあるが、大人が三十人ほど横並びできる程度だ。門は参内門と正門の二つ。境内の裏はやはり森林で、茂勝が万が一のために人一人が通れるほどの道を造ってあった。




 「さて、皆の者。明日、いよいよ秀忠は攻めてこよう。ここは引くことなく打ちのめす。」


 秀頼の言葉で軍議がはじまる。その後は軍師の真田幸村が話を進める。


 「まずは参内門、ここには横浜茂勝殿五千、うち鉄砲千。そこから登り正門手前右に前田正虎殿五千、うち鉄砲千。左に慶次郎殿五千、慶次郎殿は鉄砲はいらぬと申されております故、すべて騎馬。残りの二万は正門内に控えます。境内には大筒六台を既に据え付けてあります。要は正門外は茂勝殿、正虎殿、慶次郎殿の御三方合わせて一万五千で当たります。ここまでで御異存あられますか? 」


 幸村は一同を見渡す。


 すると慶次郎が


 「儂は宮本一真を連れて参った。一真に槍隊千を率いさせ、参内門前の茂勝殿のさらに先に伏せさせたい。その兵は儂が連れてきたので本陣周りの兵を割く必要はない。」


 と伏兵を提案した。


 「なるほど。ではお願いたしましょう。一真殿をここへ。」


 幸村は宮本一真を連れて来てくれと言った。やがて宮本一真も軍議に加わった。


 「一真殿。先程、慶次郎殿から伏兵の話は伺いました。辺りは森に挟まれており伏兵には良いでしょう。何か策がおありか? 」

 

 「は。今の戦ではまずは鉄砲隊が寄せてくるでしょう。その鉄砲隊に横から槍がつけられればと思っております。千兵は五百ずつ左右に分けます。左右の五百は更に二百五十づつ二つに分けます。」


 と一真は説明する。


 「ほう。なぜ二百五十づつに分けるのでござるか? 五百で一気にあたった方がいいのではござらぬか? 」


 茂勝が尋ねた。


 「一時は五百で総当たりした方が良いとも思いますが、徳川勢は雌雄を決しようと意気込んで来るでしょう。一時は敵を乱す事も出来ましょうが、いずれ我が隊は飲み込まれます。兵を左右に分けたのは、まず片方から槍をつければ、その方に敵の目が向き対抗するでしょう。その時にもう片方が敵の背後をつきます。多分、それで鉄砲隊は大きく崩す事が出来ると思います。鉄砲隊は近間での戦は不利ですからな、左右合わせて五百でいけるでしょう。すると徳川方はいかがするでしょうか?」


 「ふむ。鉄砲隊を纏めるために引かせて、槍隊を投入するでしょうな。」


 「はい。私めもそう考えたのです。その場合、当方の数を見て槍隊を差し向けるでしょう。当然、当方は押されます。そこで改めて残りの兵で横槍を付けます。いわば横槍の二段構えです。この策、いかがでしょうか? 」


 一真が説明を終えると、一同は各々、策の善し悪しを考えたため少しの間が開く。

 やがて幸村が口を開いた。


 「なるほど、横槍の二段構えとは面白いですな。上様、どうですか? 」


 秀頼はじっと一真を見ていた。


 「確かに面白いな。じゃが一真。その方死ぬつもりではあるまいな。だとしたら認められぬぞ。」


 秀頼は一真に向けて言う。


 「いいえ。私は死にませぬ。兵達も頃合いを見て引かせます。その後は茂勝殿にお任せいたす所存。」


 「そうか。ならば、任せる。茂勝と良く申し合わせよ。」




 こうして宮本一真の伏兵戦術『横槍二段構え』は採用された。果たして上手くいくのであろうか。



 

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