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秀吉の遺言  作者: 鳥越 暁
徳川家の衰退
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家康の葬儀

 徳川家康の葬儀は増上寺で行われた。午前中は家康の近親者と譜代の者たちにより、先祖の供養を合わせて行われ、午後から各地の大名達の焼香である。さすがに家康の葬儀だけあり、大名達やその名代の参列者だけでも数百人を数えた。焼香の場では、順番はなく来た者が来た順に焼香して行く。焼香を終えた者たちは、溜りに集まり、順次、控えの間に案内される。そこで膳が出され、みなで会食するのだ。


 秀頼は溜りで、上杉景勝、真田昌幸、結城秀康、織田秀則など、豊臣方大名達と話をしていた。秀頼の周りには数十人が集っている。里見義康の名代として家老の池引内匠助の姿も見える。頸木前田家からは宮本一真が名代である。頸木前田の当主・前田慶次郎は前田利長と共に大阪城の留守を預かっている。九州の島津家、加藤家は、海が荒れているのか、まだ来ていない。


 「祭りのようでございますな。」


 人の多さに驚いた昌幸が言う。


 「ほんに、敵味方の顔ぶれがこの様に集う事など今後ないかもしれませぬな。」


 景勝が、相槌を打つ。

 秀康は秀頼に小声で囁いた。


 「この後、愚弟はなんぞ仕掛けて参りましょう。お気をつけを。」


 秀頼は黙って頷く。今度は供として連れてきた真田幸村が、秀頼の耳元に口を寄せた。


 「伊達政宗殿、佐竹義宣殿のお姿が見えませぬ。それにその両家の名代の様子がおかしゅうございます。」


 真田幸村は配下の真田忍びを三十人も放ち、各大名の動きなどを探らせていた。


 「いつからじゃ? 」


 「昨夜、御両者が江戸城に入りました。その後の行方はたんと……。」


 それから秀頼は式を仕切っている本多正純を呼んだ。


 「これ、正純殿、まだ時はかかるじゃろう? 」


 「は、未だ焼香も終えておりませぬゆえ、後、数刻はお待ちいただくことになろうかと。」


 「そうか、ならば余はここにいても退屈じゃから。頃合いを見て戻って参るわ。」


 「そ、それは主に聞きませねば、何ともお答えする事ができませぬ。伺って参りますのでしばらくお待ちを。」


 そう言って秀忠の元に向かおうとした正純を秀頼は止める。


 「いや正純殿、それには及ばぬ。秀忠殿は喪主じゃ。色々と忙しかろう。それに今頃は公家達の相手をしておるのであろう。なに、すぐに戻るわ。上杉殿の屋敷におる。なんぞあったら知らせてくれればよい。」


 「は、さすれば。こちらが整いましたら使者を遣わしましょう。」


 参列した者たちを長時間待たせるようなことになっているのは、正純の不始末であった。本多正信が仕切らねばならない所である。正純に任せた正信の不始末でもある。

 ともあれ、豊臣方大名はこぞってその場を引いて、景勝の屋敷に入った。


 上杉景勝の屋敷に入った秀頼は、すぐに談合をはじめた。


 「幸村。その方から先程の話をしてくれ。」


 促された幸村は諸将に説明をはじめた。


 昨夜、黒田官兵衛が江戸城に入ったこと。伊達政宗、佐竹義宣がその後に入ったこと。3名ともその後の消息がつかめないこと。駿府で密かに軍備が整えられていること。己の主観を入れず淡々と知っている事実だけを述べた。


 「その御三方がなにやら策を講じているやもしれないという事ですかな? 」


 景勝が問う。


 「いや、違うであろう。伊達、佐竹の江戸屋敷は昨夜、ざわついておったようじゃ。それに今日も名代が落ち着いておらぬ様子。官兵衛は、江戸屋敷は持っていないが、名代は落ち着いておった。」


 そう秀頼が言うのを待って秀康が口を開く。


 「たぶん、政宗殿、義宣殿は捉えられたのでしょう。両者は秀忠を軽く見ておりますからな。」


 「なぜでございましょう? なぜ両者を捉える必要が? 」


 織田秀則が疑問を口にする。


 「おそらく、秀忠殿はこの後、何か仕掛けて来るでしょう。その際に両者が邪魔だったのではと思います。」


 「何を仕掛けてくると御思いですか? 」


 景勝が秀頼の顔を見やった。


 「難癖じゃろう。この後できることといえば限られておる。」


 秀頼はゆっくりと呟く。


 「席次だと思われます。秀忠殿が、上様より格が上であることを示すには、席次が分かりやすいと。」


 「そんなものでござろうか。では幸村殿はすでに対する策を? 」


 秀則が興味深げに幸村を見る。集いし者たちも一斉に幸村を見やった。


 「譲らぬ事ですな。

 官兵衛殿が策を練るでしょうが、かの御仁は秀頼様のご成長を知りませぬ。席次に従わせ『関白など意味がない』と思わせたいのでしょう。己の地位を見せつけておいて、我が方に調略の手を伸ばすと思います。我らにその心配はありませぬが、徳川領に接している小大名の方たちは、分かりませぬ。

 ならば、その席次に従わぬ事です。」


 「そんな事ができますのか? 」


 「会食にでるのならば、無理にでもやるのです。でないという手もありますが、向こうの思うつぼでしょう。いない者をどの様に言うか想像できましょう。」


 「危険ではござらぬか? こちらが強引に席次を無視していけば、向こうも荒っぽい手を講じるやもしれませぬ。」


 景勝が危険性を指摘する。秀頼の身に何が起こるか分からないと。今、秀頼の身に何か起きれば、豊臣方はばらばらになる。こころなしか景勝の声は強張ってるようだ。


 「上様の身は某が守りまする。また戦になる可能性もあります。今、上様は八王子・龍光寺に四万の軍勢を待機させております。皆様も手勢を準備させておいてくださいませ。」


 豊臣方の大名は、敵地に来ているので、表向きは分からぬように、それなりの手勢を連れて来ている。その手口は、家康に供えるために持参した供物の警護と言う名目が多かった。なかでも織田秀則は供物の警護としての兵三百の他に、江戸の二十の寺社に二十名づつに分けて兵を待機させていた。あからさまに手勢を引き連れてくれば、秀忠に難癖をつけられるのは目に見えていた。実際に、僅かな共周りだけで参列するようにと秀忠に言われている。


 「幸村、大丈夫じゃ。己の身は己で守る。余は慶次郎殿の一番弟子じゃぞ。それに景勝殿、なるようにしかならぬ事もある。あまり御心配されるな。」


 秀頼は毅然としていた。談合の結果、秀頼は多少強引でも、向こうの提示した席次に従うことなく座すとした。他の者たちは一応、向こうの席次に従うことにもなった。




 そうこうしているうちに本多正純から使者が来て、会食の用意が整ったとの伝言を受けた。すでに日は沈み、夜になっていた。




 「さて、参ろうか、皆の者……」



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