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秀吉の遺言  作者: 鳥越 暁
徳川家の衰退
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官兵衛の策

○八王子・龍光寺


 「上様、見事でございました。あの時の、秀忠殿の悔しそうな顔は見ものでございましたな。」


 真田幸村は笑いながら言う。


 「ふふふ、秀忠殿も、めいいっぱいの褒美を与えて、器量を見せたかったのであろうよ。」


 秀頼も笑っていた。


 「さて、茂勝殿、警備に不備はございませぬか? 」


 真面目な顔に戻った幸村は、横浜茂勝に問う。


 「お任せ下され。それぞれ兵の配置も済ませ、柵を設け、さながら要塞のようにしてあります。」


 「そうですか。明日、何かあれば、戦になるやもしれませぬ。その時はここが拠点と致します故、よろしくお願いいたしまする。」


 「心得てございます。」


 真田幸村に命じられた横浜茂勝は、龍光寺を城に見立て兵を配備した。

 幸村は、家康の葬儀の席で、秀忠が難癖をつけて、高い確率で何か仕掛けてくるやもしれぬと見ていた。成り行きで戦に発展することも視野に入れる。


 「で、いつだ? 」


 言葉短く、秀頼が幸村に問う。時に秀頼は信長のように短く問う事がある。従う者は、その言葉の真意を見抜かねばならない。見当違いの返答をすれば、信長であれば換気をこうむることもあった。秀頼の場合は、そんなことはなかったが、やはり場は張り詰める。


 「はい、やはり控えの間でございましょう。」


 幸村は秀頼が、秀忠が仕掛けてくるのはいつかと問うたのだと理解し、諸大名の居並ぶ控えの間で仕掛けられるのではないかと返答した。


 「そうか。で、策は? 」


 「ございませぬ。」


 「ん!? ないと申すか。」


 秀忠は怪訝そうな顔をして幸村を見たが、問いただすことはせずに一言もらした。


 「そうか。ならば仕方ないの。明日は幸村、その方だけを供とする。茂勝はいざという時に備えよ。幸昌、正虎を寄騎とする。」


 「はっ。」


 幸村は、どのように難癖をつけてくるか分からない以上、その場で対応するしかないと思っていた。また秀頼であれば上手く対応できるであろうと。もちろん、幸村は色々な事を想定し、それに対する策を考えてはいた。

 談合はお開きとなり、幸村が秀頼の前から去ろうとしていると、ちょいちょいと秀頼に手招きされた。

 何かあるのかと幸村が不思議そうに秀頼の近くにいくと、秀頼は幸村に何やら耳打ちした。

 幸村は一瞬、驚いたような顔をして秀頼を見返したが、にっと微笑むと去って行った。


○江戸城


 黒田官兵衛は夜半過ぎに江戸城に着いた。すぐさま本多正信と談合する。

 まず、切り出したのは本多正信であった。


 「これは黒田殿、遠路はるばる御苦労でござる。積もる話もございますが、時がございませぬ。

  黒田殿、我が将軍家に与していただきたい。」


 「やはり、そのお話しでしたか。で儂の利は? 」


 「本領安堵。」


 「ははは。これは笑止。徳川に本領安堵されずとも、黒田家は我が力量で守れますぞ。」


 「ふふふ、それこそ笑止ですな。黒田殿は鍋島殿のたかが家臣ではござらぬか。」


 「ほう、御存じございませぬか。我が黒田家は、毛利、鍋島を飲み込みましたぞ。」


 「な、何! 毛利を!? 」


 本多正信は驚いた。器量のない鍋島直茂はともかく毛利輝元まで配下に治めたとは信じられなかった。と同時にこの官兵衛ならできるかもしれぬと思った。


 「清州を下され。して儂を軍監にしていただこうかの。」


 黒田官兵衛は清州の領土を求め、徳川将軍家の軍監にせよと言っていた。


 「うむ。さすがに儂の一存では決められませぬな。上様に伺っておきましょう。」


 「そうでしょうな。この件は正信殿にお預けしましょう。」


 「しかし、葬儀は明日、時がございませぬ。何か知恵はございませぬか。」


 本多正信は頭を下げた。


【やはり儂では、この黒田官兵衛に及ばぬ。ならば官兵衛の智を借りねばならぬ。たとえ獅子身中の虫になろうとて飼いならさねばならぬ。】


 「そうですな。まずは席次。聞くところによると秀頼は前右大臣の葬儀としておる様子。こちらは前将軍としての葬儀としている…… ということですな。ということは葬儀の控えの間での席次ですが、あくまで徳川将軍家としての席次を貫かねばなりますまい。徳川政権の元では秀頼など無役。あくまで無役の者として扱われよ。」


 「秀頼はおとなしく従うとは思えませぬが? 」


 「でしょうな。席を空けておかねばよろしい。徳川に従う者達が先に座し、後から秀頼を含めた豊臣方を案内する。」


 「それでも、その席次に従わずとすれば? 」


 「さすれば、施主である秀忠殿が無礼討ちする格好の機会となり申す。」


 「ならぬ、そのような事が起きれば、豊臣方の大名でなくても、外様の者達が黙っておらぬ。」


 「その者は具体的にはどなたかな? 」


 「伊達、佐竹。」


 「ならばその両名を捉えておけばよい。」


 「うぬ~っ。危険が過ぎやしまいか? 」


 「このままではじり貧ではござらぬか。徳川は。一気に事を治めるにはいい手と自負するが? 」


 「上手く事が運ばなかった時はいかがする? 」


 「戦場で雌雄を決するのみ。今、秀頼は八王子に4万ほど。大阪に帰る前に叩ける。」


 本多正信は腕を組み、黙して考え込む。

 やがて正信は立ち上がると、官兵衛に言う。


 「しばし待たれよ。上様に言上してくる。」


 「待ちましょう。したが清州の件、よろしく頼みましたぞ。」


 黒田官兵衛は薄く笑っていた。

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