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秀吉の遺言  作者: 鳥越 暁
徳川家の衰退
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松本城の戦い、再び6

松本城大手前での戦い2日目……



 松本城大手門前、深夜の城方・森川隼人の夜襲から、夜が明けつつある。

 漆黒だった辺りは、濃い靄に包まれた白い世界へと変わっている。その白い世界も日が昇る時刻になると、薄まり視界が開けてきた。


 だいぶ視界が開けてきたとき、松本城の真田信幸は驚いて、後藤基次のところにやってきた。


 「援軍が! 基次殿はご存じだったので? 」


 基次は笑いながら、答えた。


 「すいませぬ。実は昨日の宵の口頃に、繋ぎの者が知らせてまいりました。実は信幸殿の驚く顔が見たかったので黙っており申した。」


 基次の顔は悪戯小僧のようであった。


 「なんと、そうでござったか。基次殿の思惑どおり驚き申したわい。」


 信幸も笑っていた。





 真田信幸以上に驚いたのは、松本城と対峙している徳川秀忠である。



 「援軍が……。しかも兄上……。そして、能登前田か。」


 そう呟く秀忠の顔は険しい。


 松本城の援軍に現れたのは、結城秀康勢1万兵、前田利政率いる能登前田勢1万兵であった。

 結城秀康は秀忠の兄でありながら、養子に出され徳川の家を継ぐことはできなかった。前田利政は徳川に改易させられた。どちらも徳川に対して思うところのある者たちだ。


 

 大手左側、昨日の仙石秀範の陣と入れ替わるように前田利政勢が、右手の宮ノ下勢と入れ替わるように結城秀康勢が陣を構えた。そして大手門を背にして中央に森川隼人率いる一万の兵が、同じく陣を構える。


 攻める方の秀忠軍というと、昨夜、夜襲を受け煙硝が塵と消えたため、鉄砲隊は使えない。そのため鉄砲隊に代えて弓隊を配する形となっている。各将の配置は変えずにおいたが、左右に分かれての布陣は、正面に対する事ができないため、左右の間隔を詰めた。



 秀忠は蒲生秀行を呼び策を練る。本多正信は戦の仕様では宛にならないからだ。


 「秀行よ、いかがする? 」


 「は、この戦、正信殿の話では短期に雌雄を決するとのことでしたが? 」


 「うむ、長引けば、里見や大坂が五月蠅くなる。その前に駿府に帰らねばならぬ。」


 それを聞いた蒲生秀行は、目を閉じ、しばし黙考した。

 やがて眼を開くとこう述べた。


 「上様、時をかけてよいのであれば、煙硝を補充し、徐々に相手を削ってゆく事もできましょう。

  しかし、時をかけられないのであれば……。

  時をかけられないのであれば、個別の戦果のみで引くのがよろしいかと…… 。」


 「ん? どうゆう意味じゃ? 」


 「はい、このまま松本城を落とすことは無理でございましょう。

  ならば野戦にて敵の一角を叩き潰し、引くのがよろしいかと存じます。」


 蒲生秀行は、攻城戦での勝ち戦をあきらめ、野戦での勝利を目指すべきと提案した。


 「我らは5万、出張っている敵勢は3万、勝機はございます。されど、これだけの軍勢がぶつかれば乱れた戦になるでしょう。ここは敵の一点に絞り、総力で持って当たり、押し勝ち、引くのです。」


 「うむ、それで良いのか? 」


 秀忠は脇に控えている本多正信を見やり、呟く。


 「戦の仕様は、上様の言う通り私目には分かりませぬ。しかし秀行殿の仰ること、良いと思います。ただ、引き時を間違えるといけませぬな。秀行殿の言う乱れた戦になりましょう。」


 本多正信がそう言った。


 


 「ならば。前田利政か。」


 そう言って利政の陣を指差した秀忠であった。


 本多正信、蒲生秀行は頷いた。





 日が山の稜線から顔を出したとき、徳川秀忠は軍配を振り下ろした。


 「者ども! 出陣せよ! 」

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