松本城の戦い、再び3
1616年7月24日
徳川秀忠は松本城を目の前にしていた。
物見の者がやってくる。
「敵は、松本城大手左右にそれぞれ1万。旗印は六文銭。
左右の軍勢は、3隊に分かれております。
大手門左右に櫓があり、大筒が据え付けられております。」
【なんと大筒の櫓とな!うむ、うかつには攻められぬか。】
軍師として本多正信を連れてきたものの、正信は内政手腕、謀計は得意であるが、
実戦は不得手である。今更ながら軍師が欲しいと秀忠は思っていた。
しかし、今、それを嘆いても仕方あるまい。と秀忠は思いなおし、控えていた伝令
の者に告げた。
「敵、右手の仙石秀範勢には、石川康長、植村泰勝、牧野忠成、蒲生秀行で当た
れ、大将は秀行。
左手は土井利勝、日根野吉明、柳生宗矩、保科正光、大将は正光。兵はそれぞれ
1万、うち鉄砲は2千づつ。 大友義親、酒井家次は兵7千でそれぞれ左右の
後詰。他の者は、余と共におれと伝えよ。」
「はっ!」
伝令が走っていく。
しばらく後、再び伝令が走り込んできた。
「準備が整いましてございます。」
「よし、出陣せよ!」
秀忠の号令と共に、軍太鼓が打ち鳴らされ、それぞれの軍が動き出す。
戦の先陣を切ったのは、巧妙心の強い石川康長であった。石川康長は鉄砲隊2000兵
を率いている。
激しく、秀範の鉄砲隊に討ちかけた。
ダダダーンッッ ダダンッ ダダンッ
辺りが紫煙に包まれる。
仙石秀範の1番陣、前面にいるのは、やはり鉄砲隊である。薄い鉄を張った板盾で防
御されており、被害はない。
「敵は二段打ちできたの。次に康長めが二段打ちを終えたら、打ち返せ!同じく二段
打ちじゃ!」
仙石秀範が叫ぶ。
鉄砲隊同士の戦は、防御されている間や弾が尽きるまでは、なかなか戦果に現れない
のである。
半刻の間、激しい撃ち合いが行われた。
蒲生秀行
【うむ、さすがは真田の軍勢よ。したが、このままでは埒が明かぬ。】
秀行は秀範の鉄砲隊の脇を突こうと決めた。
「牧野殿、長槍兵2千を後方より出して、脇を突いてもらいたい。」
「なるほど。分かり申した。」
牧野忠成率いる長槍隊が、大きく迂回し秀範鉄砲隊の脇に横槍を入れるべく動き出す。
秀範はこちらの動きに気付いてないようである。
しかし、この動きをいち早く察した者がいた。
大手門より左手に2町ほど下がり伏せていた森川隼人である。
隼人は、後藤基次に真田忍びを一人借り受けて、戦況を報告させていたのである。
「よし!我らはこれより更に1町引き、回り込む。
横槍を入れようとしておる長槍隊を撃つ。」
隼人は牧野長槍隊を撃つべく動き出した。
「秀範様、敵勢が左手より迫っております!」
秀範の旗本が慌てて飛び込んでくる。
「何っ!よし、弓隊は小癪に横槍をつけようとする輩に向け射かけよ!」
すぐに弓隊頭に命を出した。
弓隊が射かけようとしたときである。
ダダダーンッ とあらぬ方向から銃声が聞こえる。
「やや、康長めは、鉄砲隊まで脇に寄こしたか?」
「いえ、殿!敵の長槍隊が崩れております。どうやらお味方!」
旗本の一人が告げた。
「そういえば、森川殿が伏せていると聞いておったわ。森川殿じゃな。」
牧野長槍隊は大崩れした。
「しもうた!気付かれておったぞ。したが引くわけにはいかぬ。
者ども、留まりしは某が討ち取る。
命を賭して、あの鉄砲隊に進め~っ!」
牧野忠成は叫び、長槍隊に突撃を命じた。
牧野長槍隊は必死に進み、2千の内、約半数が討ち取られたが、秀範の鉄砲隊に槍を
つけることに成功した。
「いかん!」
秀範は近衆の者に命じて騎馬隊を繰り出させた。
「おお、功を奏したか、よし我が方も鉄砲隊は引き、植村殿、出番でござる!
騎馬隊2千を率い討ちかけて下れ!」
蒲生秀行は植村泰勝に命じた。
大手左手では徳川方の蒲生隊が押し込み始めている。
一方、右手では鉄砲隊同士の膠着状態が続いている。
森川隼人は一旦戦線から引き、改めて戦況を眺めていた。
くんずほぐれつの、団子状態では鉄砲隊は討てない、味方にも当たるからだ。
「よし!後詰の大友義親に命じ蒲生隊の後押しをさせよ!一気に押すのじゃ!」
本陣の徳川秀忠は命を出した。
仙石秀範隊はこのまま崩れてしまうのだろうか…。




