松本城の戦い、再び2
1616年6月21日
≪松本城・大広間での後藤家の軍議≫
「さて、徳川秀忠率いる軍勢、物見の話ではおよそ5万。我が方は3千と500。信幸殿
が2万強を連れて来てくれるじゃろうが。どうする?みなのもの存念を述べよ。」
後藤基次が集まりし将にいう。
「では、それがしの意見をば。先ほども殿には言上つかまつりましたが、はじめは籠
城。援軍が来たら、合流し野戦がよろしいかと…。」
森川隼人が、先ほどと同じように同じ意見を述べた。
他の者は、ただ頷いている。
「皆の者も、隼人と同じ意見か?」
基次が問う。
集いし将達は、沈黙している。もっとも将の内、2名は初陣である。
「者ども、遠慮するな。明日には戦になるのだぞ。」
基次が再度意見を促す。
「されば、数に劣る我が方は籠城が得策かと。ただし援軍・真田信幸殿の軍勢を全て
中に入れるのも勿体のう気がいたしまする。」
家老の渡辺勘兵衛が述べる。
「確かにな。他の者は?」
「……。」
「ふう。これその方ども、これからは己の意と言うものを持っておれ。よいか!」
基次はこれ以上は意見が出ないであろうとあきらめた。
「それでは儂の存念を申そう。基本は籠城じゃ。
なぜか、それはこの城は固いからじゃ。かの石川康長が縄張りし建て、我らがより
堅固に手を入れた。ちっとやそっとでは落ちぬ。」
「なれど殿。籠城では敵に囲まれ日干しにされるのではございませぬか?」
森川隼人が問う。
「いや、徳川はそれほど悠長に事は構えられぬと見た。」
「なるほど、大殿の意はこう言う事でございましょうか。
徳川は時をかければ、我が方に援軍が来る可能性が大きいと。
例えば前田利政殿の能登勢、それに結城様などが来てくれるやもしれませぬな。」
と隼人の旗本・坂井直義が述べた。基次にとっては陪臣である。
「うむ。坂井のいう通りじゃ。だいたい、なぜ、この松本を攻めてくるのか?
ここをもぎ取ったとて、信幸殿や頸木前田勢、能登前田勢、結城秀康様らがいずれ
攻めたてよう。
それは普通に考えれば分かろうものだ。
落としたとて、城を保つには結構な兵をここに留めねばならぬ。
では、なぜか? それは勝ち戦が欲しいのではないか? と思うのだ。
先日、少しばかりの勝ち戦は徳川にあったものの、
徳川の家は家康と秀忠に割れておるというもっぱらの噂じゃ。
今回の戦では秀忠が来るという。
ならば将軍家を継いだ秀忠にとって巧が欲しいのではないかと。」
基次がまとめて述べた。
一同は頷いている。
「されど、つまらない戦ですなぁ。」
後藤平助がぼそっと呟いた。
「ははは。平助、その方、初陣のくせになぁ。」
勘兵衛がからかうと、平助が顔を赤らめて俯いてしまった。
「これ、勘兵衛殿、からかうでない。平助どもは初陣じゃからこそ手柄を立てたい
のじゃろうて。」
基次がたしなめた。
「これは平助、すまぬ。」
渡辺勘兵衛は素直に頭を下げた。
「されど確かにつまらぬな。したがこの戦では大筒を使おうと思うておる。大筒櫓
より平助、その方が指揮をとれ。2門しかないから兵は100で良かろう。」
「ははっ。」
「隼人。その方には大手門左手に鉄砲隊500を預ける。伏兵せよ。」
「ははっ。」
「3の丸に勘兵衛殿に長槍500と弓隊500。治助は鉄砲狭間の200兵を指揮せよ。
福原勘三郎は治助を介添えせよ。」
「御意にっ。」
「我は本丸にて1700で詰める。」
「信幸様はいかように?」
隼人が尋ねた。
「信幸殿には信幸殿の戦の仕様があろう。到着次第、我と話を詰める。」
「ははっ。」
こうしてやってくる5万6千もの徳川軍に対し、僅か3500の後藤隊の軍議が終わっ
た。
その日の夜、秀忠軍より早く、真田信幸の軍勢が援軍にやってきた。
「基次殿、馳走しに2万2千連れて参った。」
「忝い。早速じゃが、信幸殿はどうされる?」
「うむ、城内にはいかほどで?」
「3千。大手左に鉄砲隊の伏兵500でござる。」
「なるほど。でしたら2千を城内に入れましょう。
残りの2万は1万づつの2つに分け、大手を包むように配します。
それぞれ宮ノ下、仙石秀範が采を振るいます。
儂は基次殿と共におりましょう。」
「忝い。よろしくお願いいたす。」
2日おいた7月24日早朝、徳川秀忠の軍勢が現れた。
物見によると先鋒は蒲生秀行が大将、かの石川康長が先陣で鉄砲隊2000を率いて
いるらしい。
いよいよ松本城の戦いが火ぶたを切る…。




