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秀吉の遺言  作者: 鳥越 暁
徳川家の衰退
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秀吉の右腕の復活

 徳川方が出羽、信濃で勝ちを収める少し前。九州では…。


 九州の肥前を治める鍋島家は豊臣秀頼と毛利輝元が結んだ豊臣家と周肥同盟との休戦条約により筑前を頒図に加えることができた。

 しかし、九州の地が、鍋島以外の地はすべて豊臣勢力下となり、これ以上頒図を広げることができなくなってしまった。当初、徳川・豊臣の両勢力により抑え込まれる形であった鍋島家を救ったのは毛利家であった。

 この先、休戦条約が反故になった時、鍋島家の存続が危ぶまれる。


 鍋島直茂もやはり戦国の世の武将であった。頒図を広げたいのである。鍋島家では貿易港である福岡を抑えており、財の蓄えも進んでいる。


 直茂は行く末を悩んでいた。

 [ふむ。今の鍋島家があるのは、確かに毛利のお陰じゃ。したが、今は毛利が邪魔じゃのぅ。周肥同盟などとうたってはおるが、毛利は徳川領を攻めれば頒図は広げられる。しかしじゃ、我が鍋島家はどうにもならぬではないか。

 はてさて、いかがしたものか。

 …あの御仁に話してみるのも良いかもしれぬな。]


 1616年4月、鍋島直茂は軟禁状態にしているある男を尋ねたのである。


 「ご隠居、お元気そうですなぁ。」

 「おお、これは直茂殿、いつまで我をここに囲んでおくつもりじゃ。もう我に野心な

 どないわい。いいかげん解き放て。」

 「お、ご隠居。もう野心はないと申されるか。」

 「そうじゃ。信長、秀吉、家康と天下人に仕えたものの。我自身にはとうとう日は当

 たらんかったわい。かかかかっ。」


 そう言ってご隠居と呼ばれる男は笑った。


 ご隠居と呼ばれる男、かつて秀吉の右腕・黒田官兵衛孝高である。現在は黒田如水と名乗っている。黒田家は鍋島家が攻めて滅ぼしたのであるが、鍋島は官兵衛の才が惜しく生かしておいたのであった。

 黒田官兵衛は1604年に伏見で死去したと巷では言われている。

 しかし、それは政の世界に疲れ果て、静かに余生を送りたかったために、死んで見せたのである。実際に、その頃は家康より知恵を貸せと軍師待遇で迎える旨の誘いを強く受けていたのだ。

 官兵衛は一旦死んで見せ、家を継いだ倅・長政の元で過ごしていた。


 直茂が長政を攻めた折に、やたらと元気のよい老武将に十数人の兵を討たれた。その老武将が官兵衛であった。

 それから、直茂は長政を落ちのびさせるという約定で、官兵衛を囲ったのである。


 「で、直茂殿。今日は何用じゃ?」

 「ふむ、実はな。領内の仕置も一段落し暇になってもうたのよ。」


 「ほう・・・。」

 官兵衛は鋭い眼を細めて鍋島をじっと眺めた。


 「ほうか。ならば我を軍師に迎えよ。されば退屈はさせぬぞ。」

 「ん?なぜご隠居を?暇なのだぞ、儂は。」

 「ははは。お主は領内の仕置がひと段落ついた。そして暇になった。ということは、

 そろそろどこぞを攻めようか?ということじゃろうて。じゃから我を訪ねてまいった

 のであろう。知恵を盗みに。」


 「ふふふ、ご隠居には敵わぬなぁ。よし、ご隠居。軍師にお迎えいたす。」


 こうして鍋島直茂は、黒田官兵衛を軍師として迎え入れた。


 【やはり、儂は戦国の世で生きてきたのじゃな。世が徳川に纏まりかけたと思うた時、全てがむなしくなった。しかし、また世が乱れると、血が騒いでしょうが無いわい】

 官兵衛は70を超えた体の中で血が騒ぐのを感じていた。


 「さて、直茂殿、頒図を広げるとする。広げるのはどこぞを攻めて落とせばよいのじ

 ゃから簡単といえば簡単じゃ。

 しかし先を考えねばならぬ。広げたはよいが、すぐに攻め込まれ取られては意味がな

 い。また次に繋がるような場所でなくてはならぬ。」

 「そうじゃな。して、そのような場所はどこじゃ?」


 しばらくの沈黙の後、官兵衛はぼそりと呟いた。



 「…山口城。」

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