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秀吉の遺言  作者: 鳥越 暁
秀頼飛翔
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正則、秀康と遊ぶ

 福島正則は越前・結城秀康の所にいた。秀頼に命じられやってきたのだ。

 しかし秀頼は調略しろとも、動向を探れとも言わなかった。ただ兄である秀康の所に遊びに行ってくれとだけ言われていた。


 正則は自分なりに考えていた。なぜ秀頼が儂を秀康の所へ差し向けたのかを。元々深く考えることが苦手な正則であるが、正則なりによく考えたのである。考えた結果、答えは出なかった。ただ秀康が秀吉の養子となった頃、正則はよく秀康の面倒を見ていたし、当時は良く可愛がっていたのは事実である。


 「正則殿、お久しゅうございます。お元気そうですなあ。大阪城の皆さんもお元気でございますか? 」


 「秀康殿、ほんにお久しぶりでござる。関白様をはじめみなすこぶる元気でござるよ。」


 二人とも、何ともぎこちない挨拶や取りとめのない会話が続く。


 「で、正則殿は本日はいかなる用で参られたのでございますか? 」


 「いや、取り立てて用などないのでござるよ。ただ上様から義兄上の秀康殿の所へ遊びに行ってくれとだけ申されて、参ったのでござる。」


 「ほう、関白様は私の事を義兄と呼んで下さるか。それで手前の所に正則殿を遊びに寄こされたと……。 なんとも不思議な話でございますなぁ。」


 「そうなのでござるよ。誤解せずにお聞きいただきたいのであるが、秀康殿を我が豊臣家にお迎えするようにとか、合力をお願いせよとかのお話ならば猪武者の手前には役不足でござろう? 」


 本来ならばこのような事を口にするべきではない。秀康が裏を勘繰り構えてしまう危険性があるからだ。しかし正則はあえて腹を晒すことにしたのである。どうせ儂には腹芸などできはせぬと開き直っていたのだ。秀康も正則の心根を正しく見抜いていた。


 「はははっ。正則殿、ほんに正則殿がただの猪武者であらば、お家がそこまで大きくなってはございませぬよ。私が大阪におります時に殿下を除いていちばん優しく接していただいておりましたのは正則殿でござった。関白様が、遊びに寄こされたのなら、是非に遊んでいかれてくだされ。実は手前は少々世の中から離れておりました故、退屈でおり申した。」


 「はあ、ならばしばらく御厄介になり申す。」


 正則は客将として屋敷まであてがわれて当面越前に留まることになった。


 秀頼は秀康の寂しさをよく理解していた。徳川方からも警戒され、豊臣方からも警戒され、ゆえに世の中の動きから取り残される感覚であろうと。秀康の心を優しく解きほぐすのは表裏のない、ある意味純粋な心根の正則がうってつけと送りだしたのであった。今はただ豊家は秀康を気にかけているということだけ分かってもらえば良いと思っていたのであった。


 正則と秀康は二人が立場を違えてからの長い時間と、秀康の複雑な立場から、最初はぎこちなかったが、お互いに秀吉の事が好きであったために、秀吉の話題で直に会話も弾み親密になっていった。秀吉の話では話題が尽きることはなかった。秀康は、秀康の知らない織田家の重臣になったばかりの秀吉の事を聞きたがり、正則も懐かしそうに話をしたのだ。正則にとっては青春時代である。

 そのうち秀吉の主であった信長の話や、朝鮮出兵の話など話は尽きなかった。もっぱら秀康が聞き役である。自然と今の豊臣家の話になることもあったが、正則の話には裏はなく、秀康も自然と聞くことができた。


 正則が秀康の元を訪れてからひと月が経った頃、加藤清正らが徳川の近江領へ進撃した知らせがもたらされた。


 「正則殿、清正殿が動かれておりますが、よろしいので? 」


 「なに、虎之介は虎之介、上様も手前が必要ならば何か言ってくるでしょう。何も言ってこないならばよろしいのですよ。秀康殿はよろしいので? 」


 「ふふふ、手前も正則殿と同じでござる。もっとも父上や秀忠が何か言ってきても手前は動くつもりはございませぬがな。」


 「そうですか。ならば、今日は鷹狩りにでも行きませぬか? 」


 「いいですな、すぐに用意させましょう。負けませぬぞ。はははっ。」


 二人にとっては、豊家と徳川の戦など別の世界の出来事のようであった。



 秀康は正則との会話の中で、豊臣の治める地が皆、活気に溢れているのを感じ取った。徳川方の治世の地はと言うと、締め付けが厳しく徳川本家や大御所である家康に利が吸い上げるようになっており、大名自身も疲弊している様がうかがえた。鷹狩りでも家康や秀忠は純粋に狩りを楽しむのではない。鷹狩りと称し談合し策略をめぐらす。何処か暗さが感じられるのだ。


 今はまだどちらの勢力による治世が今後の日の本にとって良いのかは分からないが、豊臣の治世の方が明るいような気がしていた。



 楽しい時間は過ぎるのが早いものである。正則が越前に来てはや三ヶ月が過ぎた。ようやく秀頼から正則に使いの者が現れたのである。


 「上様の仰るには、そろそろ爺の顔が見たくなったと申されております。」


 「はははっ。正則殿は関白様に爺と呼ばれておるのでございますか。」


 「そうなのでござるよ。儂と虎之介は爺でござる。はははっ。したが上様がさびしがっておられるようですので、そろそろお暇するときが来たようでございます。秀康殿には随分とお世話になり申した。」


 「そうですか。さびしくなりますなあ…

  ……………。

 正則殿、手前も関白様の顔を見とうなり申した。大阪に御一緒させて下され。」


 「えッ! それはよろしいが…。大丈夫でござるか? 」


 正則は秀康の立場を心配したのである。

 秀康は笑顔で頷いた。

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