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秀吉の遺言  作者: 鳥越 暁
秀頼飛翔
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直江兼続重傷を追う

1614年9月1日


 米沢は秋の気配である。短い夏の終わりを、涼やかな風と空になびく赤蜻蛉の群れが教えてくれる。

 直江兼続は館山城の一里ばかり北に陣を敷いていた。擁するは越後から呼び寄せた全ての兵三千である。

 最上義光が館山城に向けて進軍してきたのであった。向かってくるのは飯塚館にいた五千兵である。残りの五千兵を留めたのは、米沢城から景勝が兵を出し館山城との間に挟まれる事を恐れたためだ。それでも兵数で言えば義光の兵が勝っている。


 兼続は兵を五百づつの六つの隊に分けた。それを二隊づつ三列に配している。兼続の本陣は一番後方の一隊である。兼続の兵達は整然としており、精強ぶりが伺える。静かに戦意が高まっていくのを、肌で感じていた。

 兼続の兵達の内、前方と中陣の四隊は変わった鎧を身に着けていた。それは故・秀吉の命で前田利長がこしらえた新式の鎧だ。南蛮風で鉄砲の弾を通さないものであった。先日、秀頼から二千の鎧が送られてきたのであった。



 直江隊と最上隊の戦は激しいものであった。突っ込んでくる最上隊に対して、数の劣る直江隊は臆することなく対峙し、上杉家のお家芸『車懸りの陣』で迎え撃った。直江隊は被害を出しながらも最上隊を打ちのめしたのだ。最上隊は『車懸りの陣』に対抗することができずに、壊滅寸前であった。


 「ふう、この戦、なんとか勝てそうであるな」


 兼続は誰に言うことなく呟いた。


 その時である。

 

 『ダーンッ! 』


 乾いた音が響いた。銃声だ。次の瞬間、兼続は体を左に押されるような感覚を感じていた。

 兼続の視界では、ゆっくりと周りの景色が旋回する。空が見える……。

 

 『どん! 』


 背中に強い衝撃があった。


 【あ、儂は撃たれたのだな。そうか落馬したのか。どこだ? どこを撃たれた? 】

 

 兼続の意識が遠のいて行く。


 「と…の…との…殿! 殿! しかっりしてくださいませ! 殿ーッ! 」


 その声で兼続は現実の世界に引き戻された。


 「大丈夫である。生きておるわ。痛ッ!! 」


 左の肩に激痛が走る。左肩の付け根を撃たれたようである。


 「戦は? 戦はどうなった? 」


 兼続は痛みをこらえて立ち上がった。

 周りを見ると引いて行く最上兵が見える。


 「殿、戦には勝ちましたぞ! 最上は引いて行きます。殿! しっかりして下され! 」


 そう告げる兼続の重臣・上山又七は涙声である。

 兼続隊の兵は新式の鎧のせいであろうか思った程兵は減じていない。最上隊を打ち砕いたのだ。


 「うむ、大丈夫じゃ。勝鬨を上げよ! 」


 兵達の勝鬨が上がる!


 勝鬨を聞いた兼続は安心したのだろうか。


 「すまぬが、儂は眠くてかなわぬ、少しばかり横になる。」


 と言って再び気を失った。


 兼続は出血で気を失ったのだ。

 兼続はすぐに館山城に運び込まれた。兼続は三日間、目を覚ますことはなく、必死の手当が行われた。四日目にようやく目を覚ます。


 「戻って参ったぞ。大殿と太閤殿下と酒を飲んで参った。」


 そう言って笑ったのだ。大殿とは上杉謙信である。黄泉の国へ足を踏み入れたのであったのかもしれない。よく見ると米沢城にいるはずの景勝も座している。


 「兼続! よう戻って参った。ほんに良かった、良かった。」


 景勝の頬は濡れていた。


 兼続の傷は深く出血が激しかったこともあり、当面は床に伏せることになりそうである。

 上杉景勝は米沢城に戻っていった。




 大阪城に兼続が重い傷を負ったことの知らせがもたらされた。一番、驚いたのは前田慶次郎であった。兼続の盟友である前田慶次郎は秀頼に米沢に向かうことを強く直訴した。

 秀頼は二人の関係を羨ましく思いながら許可したのである。


 「お師匠。こうなれば一万の兵を率い、上杉殿の元に行ってくれ。余も行きたいが、それは無理であろう。余の分も暴れて来てくれ。」


 そう言って慶次郎を送りだしたのだ。


 前田慶次郎は北陸街道を通り、一万の兵を率い悠然と行軍して行った。


 「どこぞで徳川方から仕掛けられるやもしれぬが、全て打ち負かすぞ! 」


 前田慶次郎は兼続の元へ急いだ。その慶次郎の一行が向かうのを邪魔立てする徳川の者たちはいなかった。遠巻きに様子を伺ったりはしていたが、慶次郎隊の溢れんばかりの戦意に気押されて、眺めるだけであった。


 「重堅、一真! 両名とも存分に働け! したが死んではならぬ! これはきつく申し渡す! 」


 慶次郎は馬首を揃えて帯同する旗本の佐分利重堅と宮本一真に言った。

 戦に向かう時、家臣に『家のために死ね』という武将は多い。しかし慶次郎は死んではならぬというのだ。重堅も一真も感動していた。

 一真は横にいる重堅に慶次郎に聞こえぬような小声で言う。


 「重堅殿、手前は殿のために死ねまする。今、はっきりと感じ申した。」


 重堅も笑みを浮かべて頷く。


 「まさしく同意! 互いに殿をお守りいたそう。」


 慶次郎の軍勢は米沢へと向かう途中、慶次郎の本拠城・福島城に立ち寄り兵達に一日の休息を与え、再び米沢に向かった。



 その頃、能登の前田利政も利長の命を受け、一万の兵を率い米沢の援軍に向かっていた。

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