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秀吉の遺言  作者: 鳥越 暁
秀頼飛翔
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大阪冬の陣8~大阪城西側の戦い2~

 翌日、宇喜多秀家の陣に大筒2台が密かに運び込まれた。

 秀家は一台を徳川方の森忠正の陣に向け、板塀で囲みその存在を秘匿した。もう一台は池田利隆の陣に向けて据え置かれた。


 南条元続、片桐且元の陣でも、戦準備が着々と進められていた。前田正虎は南条隊の後ろに控えている。


 昼過ぎに平野川の北側に陣を構える加藤清正の陣の中から、加藤正方率いる三千兵が平野川を渡河し、川を挟んで池田利隆の陣に剥き合うように陣を敷いた。



 対する徳川方の諸将も、豊臣方の動きを察知しており、戦の気配を感じていた。


 翌朝、戦は片桐且元によって開かれた。且元は天神橋口から粛々と出陣し、小栗勢に鉄砲を撃ちかけたのである。ほぼ同時に、隣りの南条元続も森忠正勢に向けて発砲を開始した。

 片桐、南条隊の鉄砲隊による攻撃は、激しいものであったが、板塀や竹束などで固く守られていた小栗、森勢にさしたる被害はなかった。

 且元は間断なく鉄砲による銃撃を続け、小栗勢に反撃の隙を与えず、敵兵の顔が識別できるほど陣に近づいた。小栗勢は板塀などの後ろに首をすくめていたが、あまりに激しい銃撃にさらされ、板塀もぼろぼろになってきた。少しずつ兵の被害が出てきた。


 「それ! ここまでくれば、騎馬隊の出番じゃ! 柵に取り付き、引き倒してしまえ! 」


 且元は激しく命じた。


 『どどどどどッ…! 』


 騎馬隊の地をける音がこだまする。


 「これ! いつまでも隠れていないで、あの騎馬武者どもを撃ち取らぬか! 」


 小栗勢の大将が叫んでいる。


 『ダダーンッ! 』

 『ブヒヒヒーンッ! 』


 辺りは小栗勢の発砲音と且元勢の騎馬隊の馬のいななきが聞こえている。


 「鉄砲隊は騎馬隊を援護せよ! 」


 且元に命じられた鉄砲足軽たちは、柵に取り付いている騎馬隊を援護し、小栗勢の鉄砲隊に激しく撃ちかける。やがて小栗陣の柵は打ち倒されてしまった。

 小栗政信は陣に固執することなく、すばやく兵達を纏めると、一町ばかり後方に下がった。陣に固執しすぎると多大な被害が出るからである。


 「うぬ、これはいかんな。片桐兵は思った以上の鉄砲を持っておる。」


 政信は自軍の鉄砲兵を再編成し、前面に折り敷いた。その数は八百ほどである。

 対する且元の鉄砲兵は二千。倍以上の差がある。また鉄砲兵の個々の熟練度にも差があった。銃器の取り扱いにかけては豊臣方の兵の方が精度が高い。このままでは小栗勢はじり貧である。

 政信は、鉄砲隊の戦いでは叶わぬであろうと悟った。ならば白兵戦に持ち込むしかない。政信は三千の兵を率いているのであるが、そのうち五百兵を選抜し、自陣の後方から密かに兵を送りだし、後方脇に伏せさせた。


 且元勢は、見事なまでの隊列を組み、政信の新たな陣に迫りくる。

 且元の鉄砲兵が激しく撃ちかける。今度は小栗勢も激しく撃ち返してきた。小栗勢も必死である。

 しかし数に勝る且元の鉄砲兵の方が有利で徐々に、小栗勢の鉄砲兵は数を減らしていったのである。


 「よし! 騎馬隊! 先程のように敵陣に乗り込めーッ! 」


 頃合いよしと見た且元は騎馬隊に突撃を命じた。

 激しい戦闘が展開される。『がしッ』という鎧同士のぶつかる音。『キンッ』という刃の交わる音、馬のいななき、様々な音が先頭の激しさを物語る。

 数に劣る小栗兵は徐々に押されていった。

 

「よし、押せや、押せーッ! 一気に小栗勢など潰してしまえ! 」


 ここが戦の山場とばかりに且元は督戦を促す。兵達もそれにこたえ小栗勢を押してゆく。

 気がつくと先程の陣から一町も押してきている。敵兵はもう千もいない。

 小栗政信の旗もよく見えるほどである。


 「よし、一気に寄せて、敵将・小栗政信を討ち取れ! 」


 且元の命で、一丸となった兵達が小栗政信の旗を目指して突進を始めた。

 もう政信を打ち取れると思った頃である。

 且元の本陣に敵勢が突っ込んできたのだ。


 「やや、伏兵か! 」


 本陣には僅かに二百ほどの兵しか残していなかった。しかし且元は兵のほとんどを前線に送り込んでしまっていたのだ。且元本陣の兵は横から現れた小栗の伏兵に次々と討ち取られていく。

 いわゆる『釣り野伏せ』に引っかかってしまったのだ。

 且元自身が槍を手に敵に対峙しなければならぬほどであり、且元の周りは、敵兵の方が多くなった。

気付いた時には、周りには旗本二十余名あまりになってしまっていた。その中で真田幸昌が槍を振りまわし必死で敵兵を突いている。幸昌の槍さばきは素晴らしく、もう十数人を手にかけている。しかし多勢に無勢であり、それ以外の旗本たちは数を減らしていった。


 「うぬ、もはやこれまでか。」


 且元は死を覚悟した。

 その時である。


 「小栗政信殿! 討ち取ったりーッ! 」


 遠くで小栗政信の討ち死にを知らせる声が響いた。

 その声を聞いた且元の周りの兵は息を吹き返した。対して大将を討ち取られた小栗勢は愕然とし、逃げ始める。且元は命拾いしたのである。



 「ふう、助かったわ。」


 かつて賤ヶ岳の七本槍の一人として名を馳せた片桐且元も、心底安堵し地べたに座り込んで熱い息を吐いたのであった。その前立ては折れている。


 「大助! そちがいなかったら儂も殿下の元へ参じておったわ。」


 と真田幸昌に笑って言った。


 「いいえ、且元様をまだ殿下はお呼びいたしませぬ。」


 幸昌も笑って答えた。幸昌は水の入った竹筒を且元に手渡した。


 水をたらふく飲み落ち着いた且元が、隣りの森忠正の陣の方を見ると、そこには南条元続の旗がはためいていた。そういえば大筒の音も聞こえたので、宇喜多勢からも大筒が撃ち込まれたのであろうか。





 大阪城西側の森忠正、小栗政信は討ち取られた。徳川方の大阪城西側の勢力は池田利隆勢だけとなったのである。


 片桐且元と南条元続は、早速、小栗・森の旧陣後を出丸として陣を構築することにした。城内に籠っているよりも行動が広がるからであり、秀頼も許可を与えた。

 ここで且元は秀頼の元に戦の報告に訪れた際、家臣にとりたてていた南条元続を直参にとりたててくれるように頼んだのである。

 秀頼はこれを快諾し、南条元続は秀頼の直参となった。所領は未定とされ、後に差配することになり、当面は且元の与力とされた。


 


 

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