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秀吉の遺言  作者: 鳥越 暁
秀頼飛翔
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大坂冬の陣7~大阪城西側の戦い1~

1614年2月28日 

 備前島 昼過ぎ


 真田昌幸は舟で備前島に渡り、昨夜夜襲を受けた宇喜多陣を見ていた。

 備前島の兵舎は半分ほど焼け落ちている。森忠政・池田利隆の兵に討たれた宇喜多兵の骸は一か所に集められていた。陣内を見まわっていると、兵の士気は落ちていないのが感じられる。いや、むしろ夜襲を受けたことで戦意が高くなっているようである。

 さすがに宇喜多兵だなと思っていると、宇喜多秀家が昌幸に気付き、声をかけてきた。


 「これは昌幸殿、お恥ずかしい所をお見せいたしましたな。」


 「いやいや、今回ばかりは敵勢を褒めるといたしましょう。したが、さすがに宇喜多殿の兵達ですな。落ち着かずにおるであろうと思っておりましたが、みな戦意が高いようですなあ。」


 「まあ、これで戦意が乏しくなるような兵であれば、九州からやってきた意味がございませぬからなぁ。」


 秀家もわりとさばさばしている。

 陣内の柵は改めて結い直され、北面、南面とも堅固にされるようである。


 「昌幸殿、昨夜の森・池田の兵達を見る限り戦意が高く油断はできませぬが、やられっぱなしでは私の面子が立たぬゆえ、今度はこちらから仕掛けようと思っておる所です。」


 「ほう、秀家殿はなにか策がおありのようですな。詳しく教えて下され。」


 せっつく昌幸を笑って抑えて、秀家の陣屋敷に連れて行った。




「さて、大阪城の西側ですが、池田利隆殿、森忠正殿、小栗政信の三隊があり申す。ちとばかり大きな戦を仕掛けて、南側の徳川勢を打ちのめしましょうや。もちろん、我が隊だけでは無理でござるが……。 平野川西の加藤清正殿や前田慶次郎殿、片桐且元殿らと示し合わせて、打って出れば十分にいけると思いまする。いかがでござろう? 」


 昌幸は腕を組んでじっと考えている。

 昌幸も西側の徳川の戦力がさほどではなく、また孤立気味であることも分かっていた。

 しかし、昌幸はその西側の一隊の中に池田利隆がいることで積極的にはなれないでいたのだ。池田利隆は池田輝政の子であり、後々の事を考えていた。先年の池田輝政との約定もある。その約定で苦も無く織田秀則は版図を広げられた。輝政も大阪城を囲む徳川の兵の中にいるが率いてきた兵は僅かに三千で積極的に攻めてくる気配はないのである。宇喜多秀家の言うことはもっともな策ではあるが……。


 宇喜多秀家としても家康に改易され、九州で復活を遂げ、大阪に馳せ参じてきた。秀家の顔も立ててあげたい。これは一度大きな軍議を開いて事を決めた方がよさそうである。


 「秀家殿。よく分かり申した。秀家殿の策はお味方の他の将の方とも話さねばなりませぬゆえ、一度主だった者で集い、軍議を開きましょう。」


 昌幸は秀家に言ったのだった。


 こうして急遽、大阪城天守に於いて軍議が開かれることになった。その軍議には各口を守るすべての武将が集められ、六輝隊からは大将の長野豊業だけが呼ばれた。六輝隊の他の五将は軍議の間、南側を守る将達の代わりに兵を見ることになった。



 早速、軍議が開かれる。


 「さて、皆様、お集まりいただき早速軍議を開きたいと存じまする。」


 昌幸が軍議の口火を切った。


 「昨日、秀家殿の守る備前島が夜襲にあったと聞き及んでおりますが、大丈夫であったのでしょうや? 」


 加藤清正が疑問を口にした。これに対し宇喜多秀家が答える。


 「皆様にはお恥ずかしい所をお見せし、御心配をおかけし申し訳ございませぬ。少々やられてしまい七百ほどの兵を減じてしまいましたが、大丈夫でございまする。」


 「そうですか、それはなによりです。」


 加藤清正は大阪城でも陣が近い上に、領土も九州で近いので気にしていたのだ。


 「その昨夜の夜襲でござる。まずはこの地図をご覧下され。」


 昌幸は大阪城周辺の地図を広げた。諸将はにじり寄り地図を囲み、眺めた。


 「徳川方の大阪城西側を囲む軍勢ですが、ここに池田利隆殿が一万、宇喜多殿の備前島を挟んでこちら側に森忠正殿の三千、その隣りに小栗政信殿の三千がおります。昨夜は池田勢と森勢が備前島を挟むように夜襲を仕掛けて来たそうでござる。」


 昌幸の言葉に当事者の宇喜多秀家は頷き、こう加えて申した。


 「池田勢、小栗勢の戦意は分かりませんでしたが、森勢の戦意は高うございました。」


 一同は頷いた。


 「本日、手前は秀家殿の陣を見舞いがてら見に伺ったのですが、その際に秀家殿が、今度はこちらから仕掛けようと申されましてな。皆様にお集まりいただいたのでございますよ。」


 「ほう、で秀家殿のお考えはどの様なもので? 」


 福島正則が興味深々と言った面持ちで尋ねた。

 尋ねられた秀家は、自分の考えを言ってもよいのかと昌幸を伺い見た。昌幸は小さく肯いた。

 昌幸の賛意を得た秀家はそれではと地図を指差しながら口を開いた。


 「では手前の考えを申しましょう。南側の徳川勢に対している我が豊臣勢はと申しますと、慶次郎殿、南条殿、片桐殿と備前島のそれがしでございます。また平野川を挟んで北側に清正殿がおられます。御覧の通り大阪城の守りは東側に厚くなっております。その東側はそのまま秀忠殿等の徳川勢に対するとして、西側の皆様と時を合わせ打って出れば、この西側の徳川勢は一掃できるのではないでしょうか? 」


 ここで一旦言葉を切った。皆の反応を見たのである。


 「なるほど、したがそれがしは千五百兵ほど、隣りの南条殿も同じ千五百、慶次郎殿が五千、秀家殿が四千強でございますな。秀家殿の策をなすには兵が足りませぬな。六輝隊の兵をお借りするのでしょうか? 」


 片桐且元が疑問を口にした。且元の言う通り、大阪城西側の攻城軍は一万六千弱、守る豊臣側は一万二千である。

 

「はい且元殿の仰る通り、少々兵は足りませぬ。しかし兵の差配はそれがしにはできませぬゆえ、手前の策の善し悪しを見極めていただいたうえで、上様にお決めいただきたいのですが……。」


 秀家は秀頼を伺い見た。それを受けて、今までじっと皆の話を聞いていた秀頼が口を開く。


 「秀家の策は分かった。しかし且元の言う六輝隊の兵はいわば後詰め。ここからは兵は割きとうはない。本丸から且元と元続に三千五百づつを預ける。秀家の策では西側の徳川勢の一掃を狙っておるが、ここはもう少し慎重に事にあたらねばならぬ。この地図をよく見れば、この川があり西側の徳川勢も三隊が一つではない。さて軍師殿、いかがする? 」


 秀頼はそう言って、昌幸に投げかけた。

 昌幸はにやりとすると答える。


 「さすがは上様、手前も同じように考えておりました。まずは、この川より南の森・小栗隊を潰しましょう。」

 

 秀家は改めて地図を見て、頷いた。


 「なるほど、となると我が隊は備前島で池田勢を抑えると言うことになりますかな? 」


 秀家は少し残念そうである。昨夜の借りを返すこともあり、敵陣に攻め込みたかったのである。


 「秀家殿の戦意が高いのはよく存じ上げております。まずは手前の策をお聞き下され。上様のおっしゃる通りに、まずは森・小栗隊を壊滅させるのには皆様御同意でございますか? 」


 昌幸の投げかけに一同は頷いた。


 「されば、この口を守る片桐殿、南条殿が出張っていただくことになります。

 合わせて一万、十分に事はなりましょうが、ここは慶次郎殿から二千の兵を後詰めに出していただきたい。慶次郎殿には池田勢を抑えても頂かなくてはなりませぬから、二千の兵を率いるのは正虎殿ではいかがでしょう。となると、今度は池田勢に対する抑えですが、平野川の北におられる清正殿から三千兵あまりを平野川を渡河していただき、川を挟んで池田勢に対していただきたい。ここまでは皆様よろしいか? 」


 一同は再び頷いた。


 「さて、池田勢と森勢に挟まれる形の宇喜多勢ですが、大筒を預けましょう。池田勢を睨みながら、大筒の一隊から森勢に大筒を撃ち込むのでございます。お預けする大筒は二門、森勢を叩く以外の差配は秀家殿に一任いたしまする。

  もちろん池田勢の動きによっては、慶次郎殿、清正殿の別働隊には激しい戦の可能性もあります。その際は六輝隊が駆けつけるようにいたします。」


 昌幸の策が示され、西側の守将達は頷き賛意を示した。


 「なるほど、西側は楽しい戦になりそうですなぁ。羨ましい限りでござる。」


 ぼそっと島津家久が言った。


 「ほんに、手前も暴れたいですなぁ。」


 と正則が大きく頷いた。


 「ははは、さすがに勇猛で知られるお二人ですな。」


 昌幸が笑うと、その場にいた面々も笑った。

 

 秀頼は且元に副将として真田幸昌を付けることにした。


 「且元、大助を付けるによって、使ってやってくれ。」


 「おお、これはありがたきことでござる。」


 且元も若い将と戦をすることが嬉しかったのであった。

 こうして軍議が終わり、その世は酒宴が催され、豊臣方は戦意が溢れていた。

 

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