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秀吉の遺言  作者: 鳥越 暁
秀頼飛翔
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大阪冬の陣4~地味に支える者達~

閑話休題的な一話です。一息ついてお楽しみください。

 徳川勢が大阪城に寄せる少し前……


1613年12月 

 但馬国城崎郡を治める杉原長房の元を一人の武将が訪れていた。

 その男の名は木下勝俊、秀吉の正妻ねねの甥にあたる。関ヶ原の戦い以後改易されている。その後、真田昌幸に声をかけられ、秀頼の元に領土なしの500石を与えられ帰参していた。

 木下勝俊が尋ねた杉原長房も正妻がねねの従姉妹にあたる。


 「長房殿、世の流れは関東を向いてはおりませぬ。これは私怨が言わせておるのではございませぬぞ。私は上様・秀頼様に才を見ました。長房殿、このまま徳川に与しておられても行く末は見えぬのではござらんか? 」


 木下勝俊は杉原長房に豊臣への帰参を促しに来ているのであった。もう十日ほど説得を続けている。


 「そうでござるな。勝俊殿のお話しを伺ううちに、ご成長あそばされた秀頼様にお会いしとうなり申したわ。したがなぜでございますか? 手前などは僅か2万石の小身の者。手前などが帰参したとて何のお役にも立てますまいに。」


 「それは違いますぞ。太閤殿下はもともと血縁の薄いお方でござった。少ない血縁の中でも、浅野家のように徳川についておる方もおられます。遠き血でも血の関わりを欲っしておられるでござるよ。」


 「ふむ、そういうものでござろうか。…… 分かり申した。帰参いたしましょう。よろしくお願いいたしまする。」


 長房は頭を下げた。僅か二万石の小さな大名であるが豊臣家に帰参した。


 木下勝俊はこのように地道に諸国の小さな大名を回り、豊臣への帰参を促していた。焦ることなく、実直に粘り強く説いて回る勝俊に、すこしづつ帰参する小大名が少なからず出て来ていた。


 杉原長房は年が明けた1614年大阪城に徳川方が寄せた際は、二条城の塙直之に繋ぎをとり、兵糧の手配や物資の運搬などの後方支援を受け持つことになる。このような働きは地味ではあるが、重要な役割である。彼のような働きのおかげで、前線で兵たちが槍を振るえるのである。


 高台院ことねねもまたそうして支えるものの一人であった。はじめは自分が成しえなかった子を産むということを成し遂げた淀への嫉妬から徳川家康に肩入れしていた。しかし、秀吉の遺書を直江兼続が持参し、それを読んでから、改めて秀吉の愛情を感じ、それに報いようとしていた。

 ねねは前線で戦う諸将の妻子や負傷兵などを高台寺で受け入れた。かつては怪我をした片桐且元もここで二年を過ごした。今ではあの淀の姿もあった。高台寺は木下勝俊の弟・木下利房が秀頼より三千の兵を預けられ守っていた。


 「ここにこうしておりますと、戦が起こっているとは思えぬほどやすらかな時が流れますなあ。」


 「ほんに、淀殿もけんがとれましたな。以前はいつも肩に力が入っておられました。」


 「そうやもしれません。肩に力を入れて生きてきたのやもしれませぬ。秀頼も乳離れし、ようやく一息つけた気がいたします。」


 「ほほほ、あなた様とこうして語ろう日が来るとは、長生きするのもよいですなあ。」


 「ほんに。ほほほほッ」


 二人は高台寺の縁側で茶を啜りながら笑いあい語るのであった。


 地味とは少し感じが違うが、真田忍びもまた裏で支えていた。

 彼らは諸国を走り、情報を集め、繋ぎの役目をし、大忙しであったが、やりがいのある仕事で生き生きとしていた。豊臣の諸将は忍びを侮蔑することなく接してくれるのも心地よかった。例え歴史に名が残らなくても自分たちの支える真田家や豊臣家の名は歴史に名を残すであろう。それで充分であった。



 いくつもの小さな力が豊臣家を支えていた……。


  


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