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秀吉の遺言  作者: 鳥越 暁
新たな日本の形
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石見攻め その四

 結城秀康は石見城正面に対する塙直之隊は据え置き、左手に回り込ませるように明石全登隊と前田利長隊を進軍させる。後方の黒田官兵衛軍を叩ければよし、そうでなくても石見城を孤立させる事が出来ればとの策である。


挿絵(By みてみん)


 「秀康殿。いい策ではござらんか。」


 慶次郎は秀康に笑いかけた。秀康は褒められて嬉しいのか、頭を掻きながら照れ笑いしている。


 「さて、儂も一つ策をよろしいか? 」


 慶次郎は秀康に言う。秀康は大きく肯いている。


 「金十郎。大助を呼んでくれ。」


 慶次郎は真田幸昌を呼び寄せた。


 「大助。鉄砲の腕の立つ者を選りすぐって欲しいのだが、五百ほどはいるか? 」


 「はい。手の者は皆、腕は確かです。その中でも特に優れた者と言うと二百ほどです。」


 「そうか、では大助の方から、その二百を出してくれ。後は儂の方から百を出そう。」


 慶次郎は何をしようと言うのか、わくわくした面持ちで聞いている秀康が、耐えきれずに聞いた。


 「慶次郎殿は腕の立つ鉄砲兵をどうされるので? 」


 「ん? はははっ。これは済まぬ。説明せなんだな。いや何、官兵衛は釣り野伏せを企んでいたとすれば、あの中には兵がおるはず。」


 慶次郎は塙直之の前方の森を指差した。


 「今まで官兵衛は鉄砲を用いておらぬ。おそらく、あの森に伏せておる兵は鉄砲兵であろう。その兵を蹴散らそうと思うのだ。」


 「なるほど。そう言う事でしたら、あと百ほどは出せますよ。」


 「お、そうか。ならば合わせて四百だな。ならば明石殿の援護の意味も含めて左手の森に向かわせよう。どうでござるか? 秀康殿。」


 「なるほど。そう言う事でしたら、私の所からも五十ほど連れて行って下され。腕は分かりませぬが、経験を積ませたい。」


 慶次郎は頷いた。

 幸昌、慶次郎、秀康の鉄砲隊選抜組は左手の森に入って行った。森の中では段打ちなど組織だった鉄砲戦術は使えない。鉄砲を扱う技量の戦いになるのである。加えて豊臣方の鉄砲は精度が高い。


 『たんっ! たたんっ! 』


 しばらくすると森の中から銃声が聞こえるようになる。半刻ほどの間、銃声が聞こえた。

 慶次郎達が森を眺めていると一人の兵が肩に鉄砲を担ぎ出てきた。その男は近くに繋いであった馬に騎乗するとこちらに向かってきた。


 「や、あいつは金十郎! 」


 「殿! 毛利鉄砲隊の左手の者どもは城内に逃げ込みましたぞ。」


 駆け寄って下馬すると金十郎は慶次郎に言上した。


 「そうか。でかした。しかし、金十郎も中におったのか? 」


 「へへへ。暇なもんで、たまにはようございましょう? 」


 「こやつめ。まあ、よい。ならば、その方に改めて鉄砲選抜隊を任せる故、続いて右手の森も同様にいたせ。」


 「はは。では、御免。」


 また、嬉々として向井金十郎は前方に走り去って行った。


 「ふふふ。はっはっは、ははははっ。」


 堪え切れないというように秀康が笑いだした。

 驚いた慶次郎が秀康に聞く。


 「ひ、秀康殿? どうされた? 何がおかしいので? 」


 「はははっ。いや、先だって、あの金十郎殿が佐分利殿の戦の様を見て、無茶は慶次郎殿譲りと申しておりました。その金十郎殿も、慶次郎殿と変わりませぬから。結局、慶次郎殿の所の御家臣は、みな慶次郎殿のようでござるなと。そう思ったら可笑しくてたまりませぬ。ははっは。」


 「ふふふ。た、確かにそうですね。これは可笑しい。ふふふっ。」


 真田幸昌まで釣られて笑いだしたのだった。


 「な、なんだ。大助まで! 儂は奴等ほど無茶はせぬ……こともないか。はははっ。」


 最後は慶次郎本人も笑っていた。


 鉄砲選抜隊は正確な射撃で毛利兵を一人、また一人と撃ち抜いて行く。射撃の腕と鉄砲の精度で驚くほどの差があるのであった。周りの者が撃たれると、次は自分かと思い恐ろしくなる。そして耐えきれなくなり城へ逃げ込むのであった。



 こうして塙直之の前方の石見城へと続く道は開かれたのであった。

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