Cry-Cry Crystal
童話って言えるのかな…?
特に文体が…。
ちょっとシュール?
ロコの村は深い雪に覆われ、静寂だけが降りつのっていた。
雪が多く冬が長い地域であっても、この年の雪は特に多くて、辺りはすっかり白一色になっていた。
掻き出せども掻き出せども夜、後から後から音もなく激しく降る雪が、次の朝には壁となって陽光の下美しくそびえ立っていた。
いつしか雪の壁は村を囲むようにできていて、掌に包むように外の者を寄せつけることはない。
そんな厳しい土地柄であるから、住む者も少ない。村から離れる若者は後を絶たなかった。
雪しかない寂れた村などと苦い顔で言ったものだが、確かに雪は多かれど朝焼けと共に一つ一つが銀の粒となってきらめく様は息を飲むほどに美しかったし、さらさらと流れる雪は質も良くて雪遊びにはもってこいだった。半円のガラスの中で舞い躍る雪片に、ちょこんと建った特徴的な赤屋根の家、この愛らしいスノードームはロコの村がモデルになっている。
見たり楽しんだりするには申し分ない。それでもここは住むには適しないのだ。
それだから、雪のやんだ時分にシャベル片手に細々と出てくるのは住み慣れた年寄りばかりであった。
真綿が散るような雪が、静かに静かに降り重なっていく。
顔に頬にそれを受けながら、白に埋まるまいとする小さい体が石の上にうずくまっている。
濃い褐色の髪にも褪せた緑のコートの肩口にもすでに雪の跡があり、もうかなり前からそこにずっといることを物語っていた。
少女は空を見上げていた。
湿った手袋の手で膝を抱き、睫や目にかかる雪を時おりしかめ面で払いながら、少女はいつまでも空を見上げている。
少女以外は辺り一面、真白に覆われたかのようでいて、しかし少女の近くには何やら木片や椅子の足のようなものが散乱しているのが見受けられた。
そして不自然に盛り上がった雪山が少女を見下ろすようにある。
時々思い出したように傍の小枝を拾って雪をほじくり返す。しかしそれも惰性の動きで、しばらくすると手を離してうずくまってしまう。
声もない。
白い雪が何もかも吸い込んでしまうから。
少女の濡れていた頬はとうに乾いて凍っている。
雪は優しく舞い続けてやむ気配はなかった。
少女はまた枝を拾い雪を弄る。
体を縮ませても固く握った手をコートの奥に押し込んでも、冷えた体は温もりを覚えない。
湿って重くなった手袋はとうに指先を凍らせ感覚を奪っている。
その時ふいに声が聞こえたように思い、少女は顔を上げた。見回してもそこに人の気配はない。
すぐに興味を失って雪に穿たれたただの線に視線を戻す。
「ねえ、ねえってば」
耳をかすめる声は風のささめきよりも微かではっきり聞こえるわけがない。もちろん振り返っても誰もいない。
それなのに少女は声が確かに自分を呼びとめていると感じたのだった。
「え?誰?」
「ここにいるわ。あなたの傍に」
「どこにいるの?見えないよ」
「あなたの頬に」
少女が頬に触れると、指に付いていたのはひとひらの雪粒だった。
「え?」
「そうよ。あなたの手に乗っているわ」
顔を近づけて見てみると、雪粒は羊歯の葉のような形をして六つに開き、さらにその間は細く枝分かれしていて、とても小さいが輪郭がはっきりした結晶なのだった。
「わあ、きれい!」
少女が思わず声をあげると、くすぐったそうに結晶は笑った。
「ありがとう。でも私たちはいっぱいいるのよ」
「え?どこに?」
「あら。あなたの目の前にも足元にも、今降ってくる雪も、みんな私たちなのよ。私たちをよく見てごらんなさいな。私たちと同じ結晶よ」
地面を覗き込みじっと目を凝らしていると、やがて雪は一つ一つが細かく枝分かれた六角形となった。
「ほんとだ!」
「それより、あなたはどうしてそこに座っているの?私たちは太陽が中天に昇る頃に降りてきたのだけれど、ずっとそうして座っていたわ。もしかしてそれよりも前からいたの?」
笑顔は瞬時に凍りつき、強張った頬は石のようになった。
少女は無言のまま目の前の雪山を指差す。
血の気を失った唇は小刻みに震えていた。
「……あのね。ここ、あたしのおうち……。あたしと、お母さんが住んでいたおうち……。お母さん、病気だったの。あたし、今日、お店にいったの。パンを買わなくちゃいけなくて。それでね、パンを買って帰ってきたの。そしたらね、そしたら……」
少女の声はあっという間に雪の中へ溶けてしまう。
「あたし、あたし、すぐにお母さんって呼んで探したの。いっぱい雪掘って、お母さん探したんだけど、どこにもいないの。あたし、疲れちゃって……でも探さなきゃ……でも、でも……」
すでに途切れ途切れの涙声なのに少女の頬は乾いたままだった。
「それで、そこにずっといたの?」
「誰か呼んでこようと思ったんだけど、くたくたになって動けなくなっちゃった」
肩を落とした少女はそれっきり語ろうとはしなかった。
そうしている間にも雪は少しずつ降り続き少女を覆っている。
「ねえ、雪の下には何があるの?」
「え?」
唐突に発せられた結晶の問いに少女は目を丸くした。
「お母さんってなあに?おうちってなあに?雪の下にそれがあるの?あなたはどうしてそこにいて、雪の下にいないの?」
少女は驚いて口を開け、結晶は本当に何も知らないのだということがわかると、困ったように眉を顰めた。
「お母さんっていうのはあたしを産んでくれた人で、優しくて、元気な時はおいしいお料理作ってくれて、髪を梳かしてくれて、お歌を歌ってくれて……でも前から具合が悪くなって、ずっと眠っててお料理作れなくなっちゃったの。あ、でもお歌は歌ってくれるよ。え?おうち?えっと、おうちはお母さんとあたしが住んでたの。あったかくて、明るくて、お母さんがいて、ときどきお料理作ってくれて、あったかいおふとんがあって、それで、んーと、えーと……」
「それが雪の下にあったの?」
「雪の下じゃなくて雪の上にあったんだけど、あ、でも屋根に雪が降ってきたから下にあるんだ。あたしの好きな菜の花がいっぱい咲いてた所があったんだけど、それも雪の下に埋もれちゃった」
「菜の花ってなあに?雪の下にあるものって他にもある?どこにあるの?」
「そんなのいっぱいあるよ。あ、じゃあ菜の花畑を案内したあげる。こっち」
雪は深く、少女の腰はすっぽり埋もれ、苦心しながら進む。菜の花畑は少女の家から近かった。辺りはむろん一面白く、分厚い雪を被って平らに広がっていた。
「菜の花っていうのはね、黄色いこれくらいのお花で、あたしよりも背が高いの。それがここにいっぱい咲いているんだよ。風が吹くとみんな同じようにざわざわ揺れるの。お日様が沈んでいくと金色に光るんだよ。春になったら咲くの。この雪が溶けたらね。お母さんとあたしはよくお花を摘んできて飾ったり、お料理に使うの。最初はとっても苦いんだけど、お母さんが作るとおいしくなるんだよ」
片手は結晶を乗せ、もう片方で一面に広がる菜の花を示す。滑らかな雪は曇り空の下であっても純白であった。
「菜の花は今はどうしているの?」
「今は眠っているの。秋になると茶色く小さくなって枯れていくの。冬はずっと土の下で眠っているんだってお母さんが言ってた。春になったら目を覚ましていっせいに土から出てくるの。そしてお花が咲くのよ」
「眠ってる?あなたのお母さんも眠ってるって言ってたわ。春になったらお母さんも目を覚まして雪の下から出てくるんじゃない?」
「うーん、よくわかんない……。お母さんはお花じゃないし……でも雪がなくなったら起きてきてくれるかなあ?でもそれはずっと先だからずっとお母さんに会えないよ」
少女は立ち止まり、戸惑って振り返った。
しかめっ面のような今にも泣きそうな眉のような、よくわからない感情に胸を押さえる。そのときまた結晶の声が聞こえ、少女は気をとられて視線を戻した。
「他にも眠っているものがあるの?」
「うん。いっぱいあるよ。冬はみんな眠っているんだよ。ここからちょっと行くとね、池があるの。お母さんはあまりそっちは行っちゃだめって言うんだけど、とても面白いのよ。あたしこっそり行っちゃうんだ。あ、でもいつもじゃないよ。ちょっとだけ、ちょっとだけ見るだけなんだからね」
少女は再び雪の積もった道を歩き出した。
今度は先程よりもさらに雪が深く、片手で雪を掻き分けながら不安定な体勢で前進すると息が弾んできて寒いはずなのに汗が出た。
疲れたと言っても結晶にはそれがわからない。それでも何も知らない者に色々と教えてあげたいという幼心に駆られて、転びそうになるのを必死にこらえて歩く。池は菜の花畑のすぐ傍にあるのになかなか着かない。
池は半分雪に埋もれ、残りは凍りついて曇りガラスのように空を映していた。
少女は雪に埋まった池を歩き、覗き込み、つま先を突き出して氷をそっとつついた。
「私たちはこれを知っているわ」
結晶は言った。
「湿った雲の中で私たちは生まれ、落ちていくの。落ちてくる途中で私たちは水や塵を取り込んで少しずつ大きくなっていく。下に辿り着く頃には目が見えてきて、下は私たちでいっぱいだということに気づくの。これは私たちに近い。これは私たちと雨の仲間ね。雨は氷にも変わるし、私たちは氷の一部なのよ」
少女には結晶の言っていることがわからなかった。だから少女は自分が知っていることを話した。
「雨はお空が流した涙だってお母さんが言ってたわ。お空は悲しいから、暗くなって涙を流すんだって。雪は雨のおともだちなの?ねえ、雪もお空が泣いているから降ってくるの?でも雪はお水じゃないし、雨じゃないわ」
「雨は雪の仲間よ。寒くなると雨は雪に変わる。雲の中で、たぶん私たちは小さな雨の粒だった。少しでも暖かいとそのまま落ちていく。でも寒いから私たちの体は変わるんでしょう。この氷は池だとあなたは言ったわ。これは水が凍ったものなのでしょう?」
「そう……あっ、雪って食べるとすぐ溶けて水になっちゃう!そうなんだ!雨と雪はおともだちなのね!」
少女は嬉しそうに笑い、しゃがみ込んで池に張られた氷に触れた。
「やっぱりお空が悲しいから雪が降るのかな?」
固い氷面にも、そこに置かれた手袋の手の上にもちらちらと降っては消え、あるいはそのまま残り、見上げれば冷たい青白い空からは相変わらずかすむような雪の粒が視界いっぱいに散っている。羽毛のように軽く柔らかいのにどこまでも冷たい。
少女に語りかけてくる結晶の声はどこか温かいのに不思議だと少女は思った。優しく澄んだ声はどことなく母親を思わせる。
「どうしてお空は泣いているの?」
「私たちが降りてきたとき、あなたの頬は濡れていた。でもそのうち乾いて氷になった。涙というのは雨なの?ならあなたは雨を流していたのね。そして寒くて氷になった」
「……うん。お母さんがいなくなっちゃって、お母さんに会えなくなるかもしれないと思って、そしたら涙が止まらなくなっちゃったの。なんだかわかんないけど拭いても拭いても涙が出てきて。でも途中から涙が出なくなっちゃった。そうだね、雨もやむものね。お空は……そうか。お日様がいなくなっちゃったから泣いてたのね。お日様を探してて見つからなかったから泣いてたんだわ」
「なら雨がやんだときはお日様を見つけたのね」
「そうよ。だからお日様が見つかって、あんなに明るくなって笑うんだわ」
雪が目にかかり、しきりと瞬きしながら少女は呟いた。
「でも今はずっと泣いてるね。お日様、見つからないんだね」
突然少女はまじまじと結晶を見た。
「お母さん、見つかるかな?」
「あなたは雪がなくなったらお母さんは起きてくるって言った。春になったらこの雪は溶けるのでしょう?」
「うん。春になったらお日様がいっぱい顔を出して、それであったかくなって……」
少女は口をつぐんだ。
それから再び歩き出した。
先程よりも足早に、懸命に雪の中を進む。
少女の家は村から少し離れた所にあった。
精一杯雪かきされて道は確保されていたものの、やまない雪にあっという間に全て埋まってしまい、もはや村の中を自由に行き来することは困難になっていた。
家だった場所に戻ってそこに留まろうかどうしようか迷った挙句、少女はとにかく誰かを呼んでこようと思って歩いた。
少女の足はそれこそ大量の雪が詰まっているかのように重く、すでに感覚もない。歩みは遅々として一向に進まない。少女の片手は疲れで悲鳴をあげ、少女は最初のときのように結晶に頬に付いてくれるように頼んだ。
両手で腰以上の深さになった雪を掻き分けながら、ぼやけた目で空を見た。太陽のない空はしかし確実に暗くなり、それにつれて雪は激しさを増している。
「ねえ」
息を切らせながら、少女はようやく声を絞り出した。
「春がきたら、あなたはどうなるの?」
「どうなるって?」
「溶けてしまうの?」
「そうね。そうなるようね」
「恐くない?」
「恐いってなあに?」
「恐いって……その、体が震えちゃうこと。恐くてぶるぶる、震えがとまらないの。胸が苦しくなって、どうしようって思うの」
「あなたは今、震えている」
「これは寒くて震えているのよ」
「寒いのは、恐い?」
「ううん。寒いのと、恐いのは違うの。寒いのは……。あ、でも……」
「あなたはお母さんを探していたとき震えていた。ぶるぶるしていて、雨をたくさん流していた。寒くてやがて雨は氷になり、あなたは今も震えている」
「でも……。うー、なんだかよくわかんなくなってきちゃった……」
早まる少女の呼吸はやがて切れ切れとなり、頻繁に立ち止まらなければ歩くことはもちろん、話すこともままならなくなっていた。
「溶けてしまったら……」
少女は膝に手を付き、咳き込みながら言った。
「あなたは水に、なるの?水になったら、あなたはどこへいくの?あなたは、まだいるの?それとも、消えてしまうの?」
「それはわからない。私たちはまだ水になったことがない。私たちの一部はあなたの口の中に入ったりして溶けて水になっているけど、水は水なの。私たちは雪という存在で、私たちにはそれしかわからないわ」
「でもあなた、さっき水は雪になって、えっと雪は氷になって……それはあなたじゃないの?それとも別のあなたになるということ?」
「私たちは全て同じで、それでいて私たちは別々の存在よ」
「そんなの、わかんないよ……」
もはや一歩も進めなくなった少女はその場に座り込んだ。尻は一瞬寒さに凍えたが、すぐに馴染んで感じなくなった。
やっぱり雪は柔らかくておふとんのようだと少女は思う。雨と雪とは違う。雨も冷たいけれど柔らかくはない。でもどこか清々しくて気持ちが良い。
少し休もうと少女は思った。
「あなたは雪で、あたしは人。あっ、あたしの名前はアンナっていうの。あなたは?」
「名前ってなあに?」
「名前っていうのは、何かを呼ぶものよ」
「あなたは人じゃないの?」
「人だけど、人はたくさんいるから、誰が誰だかわかんなくなっちゃうじゃない。だからあたしは人で、それで名前はアンナっていうの。お母さんはプリムラっていうの。みんな、名前があるのよ。ねえ、あなたは何ていうの?名前ないの?雪はたくさんあるから、誰だかわかんなくなっちゃわない?」
「私たちは雪よ」
「そうじゃなくって……雪は雪だけど、あなたは違うの。だって雪は今も降っているけど、あたしにしゃべってくれるのはあなただけだもの。ね?みんな黙ってるけど、あなたはあたしとしゃべってる」
「私たちは雪以外の存在にはなれないのよ」
「そう、そうじゃなくって……」
少女は眠くてたまらず、起きているのが段々辛くなってくる。あれほどの疲れも寒さも嘘のように消えうせ、言いようもない心地良さしかない。
まるで夢の中みたいだと少女は思った。今まだおふとんの中にくるまって夢を見ているのかもしれない。
だって夜だもの。あたしとおしゃべりしているのは、やっぱりお母さんじゃない?女の人の声だもの。
「あなたは雪だけど、他の雪とは違う雪。お母さんみたいに、しゃべる雪。雪は、しゃべらない。雪は、あたしといると、すぐいなくなっちゃう。でも、あなたは、ずっと、あたしの傍にいて、こうやって、しゃべっ、てるもの。あなた、誰?お母さん、なの……?お母、さんだと、いいなあ……お、母さんに会い、たい……行かなく……ちゃ……で、も……ちょっ、と……っとだけ………」
辺りは群青の闇に落ち、雪だけが飽きることなく延々と降りしきり、少女の小さな体を瞬く間に包み込む。動くものはなく、音もしない。
結晶は少女が動かなくなった理由がわからない。少女が黙ってしまったので、結晶も口を閉じた。でも名前というものを聞いたら今までにないほどむずがゆくてどうしようもなく、苦しくなって何か言いたくてたまらなかった。
でも何を言葉にしたらいいかわからなかった。
「私たちは……。いえ、私は……」
そのとき、何かの音がした。低くとどろくような吠え声と、その声に重なる話し声。くぐもっていたそれらの音がぱっと解き放たれ、暗い雪に光の筋を作った。
その途端、何かが雪しぶきを上げて近づき、あっという間に少女に駆け寄ってきた。鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ、温かい舌で舐めている。雪に染みができたかと思うほど大きな真っ黒い犬だった。
遅れて先程の声が続く。二つの声が聞こえ、一つが近づいてくる。その声が何かを呼んでいる。すると犬はすぐに駆け戻り、でもまた少女の許へ走り寄った。結晶はベックという言葉がその生物の名前であることがわかった。
やがてその低めの声も少女に近づき、雪を払い、少女を抱き上げ、足早に戻る。ベックが後に続く。温かくて明るい空間、それがおうちであることを結晶は知っている。そしてその中にいるのは人であることも。
「あらあら、まあ大変。こんなひどい雪の晩に、こんな小さな女の子が。あらまあなんてかわいそうに。こんなに冷えきっちゃって」
家にいたもう一つの声、しわがれて温かく優しい声はゆっくりと少女に近寄り、手袋を外してその小さな手を握り涙ぐんでいる。
雨だ。結晶は思った。悲しいから、この人も雨を流している。
「すぐに温めよう。お湯を沸かしてくるよ。温かい飲み物か、スープでも……。僕の寝室を使ってもいいよ、母さん」
母さん、お母さん。この人はお母さん。名前を知りたい。あなたは何て、いうの……?
不意に結晶は自分の声が出なくなっていることに気がついた。そして一際明るく輝く赤いものがぱちぱちと爆ぜながら揺らめいて、同時に自分の体が溶けかかっていくことも。
なのに、なぜか安堵していた。あれほど苦しく詰まっていたものはもう無くなっている。どうしてなのかわからない。わからなくてもいいとさえ思えた。
アンナは眠っている。春になったら目を覚ますだろう。
春というのはこんなにも温かいものなのだ。
私やアンナに付いていた他の雪たちは、みるみるうちに溶けて消えゆく。
雪は消えて水になる。
だから私も消えるだろう。
水になるけど、それは私とは違う。
私は、雪の、結晶で、アンナとしゃべっ、て……プリムラの、よう、に……
「さようなら……」
結晶は眠る少女の頬にキスを落とした。
…やっぱり大人の童話ということにしておいて下さいm(_ _)m
というか、童話じゃないんジャマイカ?